力学編 第14章

3次元の密度積分

この章では、線密度の積分公式(9)、面密度の積分公式(19)、体積密度の積分公式(29)を導く。

密度分布 𝜌⁡(𝑥) が分かっている曲線・曲面・立体の全質量を求めたい。

全体の質量=微小要素の質量の和

3次元空間中に曲線(の形をしたひもや針金)がおかれているとする。この曲線の全質量を求める方法を考えてみる。もしも曲線の線密度が一定であればこれは簡単で、全質量 𝑚 は、線密度 𝜌 に「曲線の長さ 𝑙 」を掛けたものになる: 𝑚=𝜌⁢𝑙(1) 𝑚 は 𝑙 に比例することは直感的に明らかだろう。 𝜌 はその係数として定義されるものであり、予め分かっているとする。

線密度 𝜌 が場所によって異なる場合であっても、右図のように、曲線を多数の微小な線要素に仮想的に分割すればよい。全質量 𝑚 は、それぞれの線要素の質量 𝛿⁢𝑚𝑖 を足し合わせたものである(=区分求積法): 𝑚=∑𝑖𝛿⁢𝑚𝑖 線要素を十分小さくとっておけば、各々の線要素内では密度が一定になっていると見なせるので、 𝛿⁢𝑚𝑖 は、式(1)と同様に「線要素の密度 𝜌𝑖 」と「線要素の長さ 𝛿⁢𝑙𝑖 」の積で近似できる: 𝛿⁢𝑚𝑖≐𝜌𝑖⁢𝛿⁢𝑙𝑖 両式を合わせることにより、 𝑚 は 𝑚≃∑𝑖𝜌𝑖⁢𝛿⁢𝑙𝑖 と近似できる。

等式にするには、分割を非常に細かくしていった極限( 𝛿→0 と書くことにする)を取ればよい: 𝑚=lim𝛿→0⁡∑𝑖𝜌𝑖⁢𝛿⁢𝑙𝑖(2) これは、区分求積法の形をしているので、通常の積分 ∫𝑏𝑎𝑓⁡(𝑥)𝑑𝑥 の形に帰着させる公式が存在しそうである。

この章では、そのような積分公式を求める。線密度・面密度・体積密度の場合それぞれについて、以下の3つの節に分けて議論を行う:14.1線密度の積分14.2面密度の積分14.3体積密度の積分

なお、見やすくするため、通常の積分表記 ∫𝑏𝑎𝑓⁡(𝑥)𝑑𝑥 の代わりに、 𝑑⁢𝑥 を省略した以下の表記を使う(標準的ではない): ∫𝑏𝑥=𝑎𝑓⁡(𝑥)≡∫𝑏𝑎𝑓⁡(𝑥)𝑑𝑥

14.1線密度の積分

この節では、曲線の形状を適当なパラメータ 𝜃 で表すことにより、曲線上での積分を、通常の積分 ∫𝑏𝜃=𝑎𝑓⁡(𝜃) に帰着させる公式(9)を導く。

14.1.1全質量を微小線要素の和で表す:式(3)

質量を求めたい曲線を 𝐶 とおく。冒頭で述べたように、 𝐶 を微小な線要素に分割する。右図のように、 𝑖 番目の線要素の始点を 𝒙𝑖 とし、線要素の始点と終点を結ぶベクトルを 𝛿⁢𝒙𝑖 とおく。1つの線要素の質量は 𝛿⁢𝑚𝑖≐𝜌⁡(𝒙𝑖)⁢|𝛿⁢𝒙𝑖| なので、全質量 𝑚 は、式(2)と同様に定式化できる: 𝑚=lim𝛿→0⁡∑𝑖𝛿⁢𝑚𝑖=lim𝛿→0⁡∑𝑖⁢𝜌⁡(𝒙𝑖)⁢|𝛿⁢𝒙𝑖|≡∫𝐶𝜌⁡(𝒙)⁢|𝑑⁢𝒙|(3)(4) 式(3)の lim𝛿→0⁡∑𝑖 を形式的に ∫𝐶 に置き換えた形になっているのは、通常の区分求積法と同様である。 ∫𝐶 は曲線 𝐶 上で積分を行うことを表す。通常の積分と違って絶対値 |𝑑⁢𝒙| をかけており、積分の方向が意味を持たないので、この表記で十分である。

ただし、以降では、さらに積分表記を簡略化して、 |𝑑⁢𝒙| を省略したものを使う(一般的ではない): 𝑚=∫𝒙∈𝐶𝜌⁡(𝒙)(5) 𝒙∈𝐶 は、 𝒙 が 𝐶 上の点をとることを表す。式(5)を見たら、頭の中で式(3)(= 𝐶 を細かい線要素に分割して「線要素の長さと 𝜌 をかけたもの」の総和をとる)をイメージする。

14.1.2積分(5)を数直線上の積分に引き戻す:式(9)

式(5)の値は、曲線の形状 𝐶 と密度 𝜌 を与えることで決まる。問題は、これをどう計算するかである。冒頭でも述べたように、曲線 𝐶 は1次元なので、3次元空間内の積分(5)を、1次元の数直線 𝜃 上の積分 ∫𝑏𝜃=𝑎𝑓⁡(𝜃) の形に変換したい。この変換のことを、積分を(3次元空間から数直線上に)「引き戻す(pullback)」という。引き戻しを行うには、式(3)の各項を 𝜃 で表せばよい。

まず、右図のように針金の曲線 𝐶 に適当なパラメータ 𝜃 を入れ、 𝜃 が取り得る範囲を 𝐶𝜃 とおく。 𝜃 を与えれば、対応する 𝒙⁡(𝜃) が決まる。これにより、密度分布 𝜌⁡(𝒙) も、 𝐶𝜃 上に引き戻される(= 𝜃 の関数として表される): 𝜌⁡(𝒙⁡(𝜃)) 。

ここで、 𝐶𝜃 の分割を決めれば、曲線 𝐶 の分割も決まることに着目する。実際、右図のように、 𝐶𝜃 を微小な線要素 𝛿⁢𝜃𝑖 に分割してやれば、 𝛿⁢𝒙𝑖 は、微分の連鎖律から決まる: 𝛿⁢𝒙𝑖≐𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜃⁢𝛿⁢𝜃𝑖(6) このことを、 𝐶𝜃 の分割を 𝐶 に「押し出す(pushforward)」という。これにより、式(3)の |𝛿⁢𝒙𝑖| を、 𝛿⁢𝜃𝑖 で表すことができる: |𝛿⁢𝒙𝑖|=√𝛿⁢𝒙T𝑖⁢𝛿⁢𝒙𝑖≐√(𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜃⁢𝛿⁢𝜃𝑖)T⁢(𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜃⁢𝛿⁢𝜃𝑖)=(𝑑𝒙𝑑𝜃)T⏟≡𝑔⁢√(𝑑𝒙𝑑𝜃)T(𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜃)T⁢𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜃⏟__⏟__⏟≡𝑔⁢(𝛿⁢𝜃𝑖)2=√𝑔⁢⁢𝛿⁢𝜃𝑖(7) 𝛿⁢𝜃𝑖 部分は本来、絶対値を付けて |𝛿⁢𝜃𝑖| とすべきだが、 0<𝛿⁢𝜃𝑖 となるように分割することにして絶対値を外した。 𝑔 は計量と呼ばれる。計量という名前は、式(7)のように、 𝛿⁢𝜃 から、 𝛿⁢𝒙 の大きさ |𝛿⁢𝒙| を「計量」するために必要な量であることに由来する。

後は、式(7)を式(3)に代入すれば、 𝐶𝜃 での積分になる。即ち、 𝐶𝜃 の範囲を [𝜃0,𝜃1] として以下のようになる: 𝑚=lim𝛿→0⁡∑𝑖𝜌⁡(𝒙⁡(𝜃𝑖))⁢√𝑔⁢𝛿⁢𝜃𝑖=∫𝜃1𝜃=𝜃0𝜌⁡√𝑔(8) 得られた結果をまとめると、以下の【14.1-注1】のようになる。

【14.1-注1】線積分の引き戻し公式:式(9)

曲線 𝐶 上で与えられた線密度 𝜌⁡(𝒙) を、 𝐶 上で積分したもの 𝑚 は 𝑚=∫𝒙∈𝐶𝜌 で与えられる。この積分を数直線上の区間 𝐶𝜃=[𝜃0,𝜃1] に引き戻す公式は、以下のようになる:( 𝜌=𝜌⁡(𝒙⁡(𝜃)) ) 𝑚=∫𝜃1𝜃=𝜃0𝜌⁢√𝑔𝑔⁡(𝜃)≡∣𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜃∣2(9)(10) あえてルート記号を残しているのは、後述の面積分(19)や体積積分(29)と合わせるためである。

14.1.3【例題】円の場合:式(11)

例題として、半径 𝑅 の円形の針金の質量 𝑚 を考える。線密度 𝜌 は定数とする。答えはもちろん 𝑚=2⁢𝜋⁢𝑅⋅𝜌 (=円周の長さ 2⁢𝜋⁢𝑅 に線密度 𝜌 をかけたもの)であるが、式(9)を用いて計算する。

2次元の極座標 𝒙⁡(𝜃)=[𝑅⁢cos⁡𝜃𝑅⁢sin⁡𝜃] を使って引き戻すのが自然である。式(10)より、 √𝑔 は √𝑔=∣𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜃∣=𝑅∵𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜃=[−𝑅⁢sin⁡𝜃𝑅⁢cos⁡𝜃] よって質量 𝑚 は、式(9)により、積分範囲が [𝜃0,𝜃1]=[0,2⁢𝜋] であることに注意して 𝑚=∫2⁢𝜋𝜃=0⏟2⁢𝜋𝜌⁢𝑅=2⁢𝜋⁢𝜌⁢𝑅⁢◼(11)

14.2面密度の積分

この節では、曲面の形状をパラメータ表示することで、曲面上での積分を通常の多重積分に帰着させる公式(19)を導く。

14.2.1全質量を微小面要素の和で表す:式(12)

曲面( 𝑆 とおく)の質量を計算したい。そのために、前節と同様に、 𝑆 を微小な面要素に分割する。右図のように、 𝑖 番目の微小要素上の1点を 𝒙𝑖 とし、要素の面積を 𝛿⁢𝑠𝑖 とおく。 𝑆 の全質量 𝑚 は、面要素の質量 𝛿⁢𝑚𝑖≐𝜌⁡(𝒙𝑖)⁢𝛿⁢𝑠𝑖 の和をとれば良いので、式(4)と同様に、以下のように書ける: 𝑚=lim𝛿→0⁡∑𝑖𝛿⁢𝑚𝑖=lim𝛿→0⁡∑𝑖𝜌⁡(𝒙𝑖)⁢𝛿⁢𝑠𝑖≡∫𝑆𝜌⁡(𝒙)⁢∣𝑑2⁢𝒙∣(12)(13) ∫𝑆 は曲面 𝑆 上の積分であることを表す。

前節の線積分の場合と揃えるために、微小な面積を ∣𝑑2⁢𝒙∣ という記号で表している。これは、2次元平面上の2つのベクトル 𝛿⁢𝒙,𝛿⁢𝒚 が作る平行四辺形の面積 𝛿⁢𝑠 が、 𝛿⁢𝑠=±|𝛿⁢𝒙𝛿⁢𝒚| ( |⋯| は行列式であり、符号は全体が正になるように選ぶ)と書けることを考えると自然だろう。なお、3次元空間でも成り立つ面積の公式は、以下の【14.2-注1】のようになる。

前節と同様に、以降では、式(13)を以下のように略記する(一般的な記法ではない): ∫𝒙∈𝑆𝜌⁡(𝒙)(14)

【14.2-注1】3次元空間での面積の公式

2つの3次元ベクトル 𝒂,𝒃 が作る平行四辺形の面積 𝑠 は、以下のようになる: 𝑠=√det⁡([𝒂𝒃]T⁢[𝒂𝒃])(15) det⁡(⋯) は行列式である( |⋯| と書くと見づらいため)。

導出

導出は、内積の公式 𝒂T⁢𝒃=|𝒂|⁢|𝒃|⁢cos⁡𝜃 を使うだけである。 𝜃 は 𝒂,𝒃 のなす角(右図)。実際、式(15)の右辺の2乗を計算していけば、左辺の2乗に一致する: (右辺)2=det⁡([𝒂T𝒃T]⁢[𝒂𝒃])=det⁡[𝒂T⁢𝒂𝒂T⁢𝒃𝒃T⁢𝒂𝒃T⁢𝒃]=|𝒂|2⁢|𝒃|2−(𝒂T⁢𝒃)2=|𝒂|2⁢|𝒃|2⁢sin2⁡𝜃=𝑠2◼

14.2.2式(12)を2次元平面上の積分に引き戻す:式(19)

曲面自体は2次元なので、積分(14)を2次元平面上の積分に引き戻すことを考える(右図)。まずは、曲面 𝑆 上に、適当なパラメータ 𝜽=(𝜃,𝜙) を入れてやればよい: 𝒙=𝒙⁡(𝜽) 。 𝜽 の取る平面領域を 𝑆𝜽 とおく。密度関数も、 𝜽 の関数に引き戻される: 𝜌⁡(𝒙⁡(𝜽)) 。

次に、前節の1次元の場合と同様に、 𝑆𝜽 を微小面要素に分割する。 𝑆𝜽 での分割を 𝑆 に押し出すことにより、 𝑆 の分割も決まる。実際、微小面要素を「 𝜃,𝜙 軸に沿った長方形」とすれば(右図緑色部分)、 𝛿⁢𝜃𝑖,𝛿⁢𝜙𝑖 を元の曲面 𝑆 に押し出したベクトル、それぞれ 𝛿⁢𝒙𝑖,𝛿⁢𝒚𝑖 は 𝛿⁢𝒙𝑖≐𝜕𝒙𝜕𝜃⁢𝛿⁢𝜃𝑖𝛿⁢𝒚𝑖≐𝜕𝒙𝜕𝜙⁢𝛿⁢𝜙𝑖⎫{ { {⎬{ { {⎭(16) となる(式(6)と同様)。

後は、式(12)の面積 𝛿⁢𝑠𝑖 を、 𝛿⁢𝜃𝑖,𝛿⁢𝜙𝑖 を用いて表せばよい。式(16)を面積公式(15)に代入するだけである: 𝛿⁢𝑠𝑖=√det⁡([右と同じ]T⁢[𝛿⁢𝒙𝑖𝛿⁢𝒚𝑖])≐√det⁡([⋯]T⁢[𝜕𝒙𝜕𝜃⁢𝛿⁢𝜃𝑖𝜕𝒙𝜕𝜙⁢𝛿⁢𝜙𝑖])⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣定義:𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽≡[𝜕𝒙𝜕𝜃𝜕𝒙𝜕𝜙]=√det⁡([⋯]T⁢𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽⁢[𝛿⁢𝜃𝑖00𝛿⁢𝜙𝑖])⁢⁢∣行列式の公式:|𝐴⁢𝐵⋯|=|𝐴|⁢|𝐵|⋯=∣(𝑑𝒙𝑑𝜽)T∣⏟≡𝑔⁢√∣∣(𝑑𝒙𝑑𝜽)T∣(𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽)T⁢𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽⏟__⏟__⏟≡𝑔∣⁢∣𝛿⁢𝜃𝑖00𝛿⁢𝜙𝑖∣2=√|𝑔|⁢⁢𝛿⁢𝜃𝑖⁢⁢𝛿⁢𝜙𝑖(17) なお、 𝛿⁢𝜃𝑖,𝛿⁢𝜙𝑖 には、本来、絶対値が必要だが、前節と同様に 0<𝛿⁢𝜃𝑖,𝛿⁢𝜙𝑖 と取ることにして絶対値を外した。この 𝑔 も計量と呼ばれる。 𝑆𝜽 上での微小ベクトル 𝛿⁢𝜽 を 𝑆 に押し出したベクトル 𝛿⁢𝒙 の大きさは、 𝑔 により、 |𝛿⁢𝒙|≐√𝛿⁢𝒙T⁢𝛿⁢𝒙≐√𝛿⁢𝜽T⁢𝑔⁡𝛿⁢𝜽 と書ける。

式(17)を区分求積の式(12)に代入すると、全質量 𝑚 が、2次元平面 𝑆𝜽 上の積分で表される: 𝑚=lim𝛿→0⁡∑𝑖𝜌⁡(𝒙𝑖)⁢𝛿⁢𝑠𝑖=lim𝛿→0⁡∑𝑖𝜌⁡(𝒙⁡(𝜽𝑖))⁢√|𝑔|𝛿⁢𝜃𝑖𝛿⁢𝜙𝑖≡∫𝑆𝜽𝜌⁡√|𝑔|𝑑⁢𝜃𝑑⁢𝜙(18) 𝑆𝜽 上での積分(18)を計算するには、 𝜃 積分と 𝜙 積分を順に行えばよい(累次積分): 𝑚=∫𝜃1𝜃=𝜃0∫𝜙1⁡(𝜃)𝜙=𝜙0⁡(𝜃)𝜌⁢√|𝑔| 詳細は以下の【14.2-注2】を参照のこと。

【14.2-注2】面積分の引き戻し公式:式(19)

曲面 𝑆 上で与えられた線密度 𝜌⁡(𝒙) を、 𝑆 上で積分したもの 𝑚 : 𝑚=∫𝒙∈𝑆𝜌 を計算したい。この積分を、 𝜽=(𝜃,𝜙) を軸とする2次元平面上の領域 𝑆𝜽 上の積分に引き戻す公式は、以下のようになる:( 𝜌=𝜌⁡(𝒙⁡(𝜽)) ) 𝑚=∫𝜃1𝜃=𝜃0∫𝜙1⁡(𝜃)𝜙=𝜙0⁡(𝜃)𝜌⁢√|𝑔|𝑔⁡(𝜃)≡(𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽)T⁢𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽(19)(20) まず 𝜙 積分を行って、次に 𝜃 積分を行えばよい。

ただし、 𝜃 積分の範囲 𝜃0,𝜃1 は、 𝑆𝜽 における 𝜃 の最小値・最大値である(右図)。 𝜙 積分の範囲 𝜙0⁡(𝜃),𝜙1⁡(𝜃) は、 𝜃 を固定したときの 𝜙 の最小値・最大値である(同図)。式(19)の積分順序を変えて 𝜃 積分を先に行ってもよい: 𝑚=∫𝜙1𝜙=𝜙0∫𝜃1⁡(𝜙)𝜃=𝜃0⁡(𝜙)𝜌⁢√|𝑔| その場合、 𝑆𝜽 を横に刻む形になる:

14.2.3【例題】球面の場合:式(21)

半径 𝑅 の球面の質量 𝑚 を考える。面密度 𝜌 は定数とする。答えはもちろん、 𝑚=4⁢𝜋⁢𝑅2⋅𝜌 である。

極座標 𝜽=(𝜃,𝜙) : 𝒙⁡(𝜽)=⎡⎢ ⎢ ⎢⎣𝑅⁢sin⁡𝜃⁢cos⁡𝜙𝑅⁢sin⁡𝜃⁢sin⁡𝜙𝑅⁢cos⁡𝜃⎤⎥ ⎥ ⎥⎦ を用いて引き戻すことを考える。まず、 √|𝑔| は、計量 𝑔 の定義(20)により、以下のようになる: 𝑔=(𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽)T⁢𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽=[𝜕𝒙𝜕𝜃𝜕𝒙𝜕𝜙]=𝑅⁢⎡⎢ ⎢⎣cos⁡𝜃⁢cos⁡𝜙−sin⁡𝜃⁢sin⁡𝜙cos⁡𝜃⁢sin⁡𝜙sin⁡𝜃⁢cos⁡𝜙−sin⁡𝜃0⎤⎥ ⎥⎦=[𝑅200𝑅2⁢sin2⁡𝜃]∴√|𝑔|=𝑅2⁢sin⁡𝜃 𝑔 が上手く対角化されているのは、 𝜃 軸と 𝜙 軸が直交するためである。よって、式(19)から質量 𝑚 が求まる。実際、 𝑆𝜽 が、 0<𝜃<𝜋 と 0<𝜙<2⁢𝜋 で定義される直方体であることに注意して 𝑚=∫𝜋𝜃=0∫2⁢𝜋𝜙=0𝜌⋅𝑅2⁢sin⁡𝜃=∫𝜋𝜃=0sin⁡𝜃⏟2⋅∫2⁢𝜋𝜙=01⏟2⁢𝜋⋅𝜌⁢𝑅2=4⁢𝜋⁢𝑅2⁢𝜌◼(21)

14.3体積密度の積分

立体の場合、すでに通常の多重積分の形になっているので、引き戻しは、単なる変数変換となる。この節では、その変数変換の公式(29)を導く。

14.3.1全質量を微小体積要素の和で表す:式(22)

立体 𝑉 の質量を求めたい。これまでと同様に、 𝑉 を微小な体積要素に分割する。 𝑖 番目の要素上の1点を 𝒙𝑖 、体積を 𝛿⁢𝑣𝑖 とおくと、 𝑉 の全質量 𝑚 は 𝑚=lim𝛿→0⁡∑𝑖𝜌⁡(𝒙𝑖)⁢𝛿⁢𝑣𝑖=∫𝑉𝜌⁡(𝒙)⁢∣𝑑3⁢𝒙∣(22)(23) となる。前節同様、式(22)は、以下のようにも表記する: ∫𝒙∈𝑉𝜌⁡(𝒙)(24)

3つのベクトル 𝛿⁢𝒙,𝛿⁢𝒚,𝛿⁢𝒛 が作る平行六面体の体積 𝛿⁢𝑣 は、平行四辺形の面積に場合(15)と同様に 𝛿⁢𝑣=√det⁡([𝛿⁢𝒙𝛿⁢𝒚𝛿⁢𝒛]T⁢[𝛿⁢𝒙𝛿⁢𝒚𝛿⁢𝒛])(25) となる。あるいは、公式 |𝐴⁢𝐵|=|𝐴|⁢|𝐵| が使えるので、以下のようにも書ける:(符号は全体が正になるようにとる) 𝛿⁢𝑣=±|𝛿⁢𝒙𝛿⁢𝒚𝛿⁢𝒛|

14.3.2そのまま計算する場合は式(26)、変数変換を行う場合は式(28)

3次元の場合は、引き戻し(変数変換)を行わなくても計算できる。実際、体積要素が「 𝑥,𝑦,𝑧 軸に沿った直方体」になるように分割を行えば、その体積 𝛿⁢𝑣𝑖 は、直方体の各辺の長さを 𝛿⁢𝑥𝑖,𝛿⁢𝑦𝑖,𝛿⁢𝑧𝑖 として、 𝛿⁢𝑣𝑖=𝛿⁢𝑥𝑖𝛿⁢𝑦𝑖𝛿⁢𝑧𝑖 となるので、式(23)は以下のようになる: 𝑚=∫𝑉𝜌⁡(𝒙)𝑑𝑥⁢⁢𝑑⁢𝑦⁡𝑑⁢𝑧=∫𝑥1𝑥=𝑥0∫𝑦1⁡(𝑥)𝑦=𝑦0⁡(𝑥)∫𝑧1⁡(𝑥,𝑦)𝑧=𝑧0⁡(𝑥,𝑦)𝜌⁡(𝒙)(26) 前節の式(19)と同様に、各変数について順に積分すれば計算できる。

とはいえ、変数変換を考えたほうがよい場合もある。例えば、球対称な物体の場合は、極座標を用いた方が計算しやすいだろう。変数変換を行うために、立体 𝑉 上に適当なパラメータ 𝜽=(𝑟,𝜃,𝜙) を入れる: 𝒙=𝒙⁡(𝜽) 。 𝜽 の取り得る領域を 𝑉𝜽 とする。 𝑉𝜽 上の微小体要素として、 𝑟,𝜃,𝜙 軸に沿った直方体 𝛿⁢𝑟𝛿⁢𝜃𝛿⁢𝜙 を考え、「この直方体を 𝑉 に押し出したもの」の体積 𝛿⁢𝑣𝑖 は、式(25)を用いて以下のようになる: 𝛿⁢𝑣𝑖=√det⁡([右と同じ]T⁢[𝛿⁢𝒙𝛿⁢𝒚𝛿⁢𝒛])≐√det⁡([⋯]T⁢[𝜕𝒙𝜕𝑟⁢𝛿⁢𝑟𝑖𝜕𝒙𝜕𝜃⁢𝛿⁢𝜃𝑖𝜕𝒙𝜕𝜙⁢𝛿⁢𝜙𝑖])⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣定義:𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽≡[𝜕𝒙𝜕𝑟𝜕𝒙𝜕𝜃𝜕𝒙𝜕𝜙]=√√ √ √ √ √⎷det⁡⎛⎜ ⎜ ⎜⎝[⋯]T⁢𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽⁢⎡⎢ ⎢⎣𝛿⁢𝑟𝑖𝛿⁢𝜃𝑖𝛿⁢𝜙𝑖⎤⎥ ⎥⎦⎞⎟ ⎟ ⎟⎠=∣ ∣ ∣ ∣(𝑑𝒙𝑑𝜽)T⏟≡𝑔∣ ∣ ∣ ∣⁢√√ √ √ √ √⎷∣(𝑑𝒙𝑑𝜽)T(𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽)T⁢𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽⏟__⏟__⏟≡𝑔∣⁢∣𝛿⁢𝑟𝑖𝛿⁢𝜃𝑖𝛿⁢𝜙𝑖∣2=√|𝑔|⁢⁢𝛿⁢𝑟𝑖⁢⁢𝛿⁢𝜃𝑖⁢⁢𝛿⁢𝜙𝑖(27) 𝛿⁢𝑟𝑖⁢⁢𝛿⁢𝜃𝑖⁢⁢𝛿⁢𝜙𝑖 には、本来、絶対値が必要だが、これまでと同様に 0<𝛿⁢𝑟𝑖,𝛿⁢𝜙𝑖,𝛿⁢𝜙𝑖 と取ることにして、絶対値を外した。

上式(27)を、式(22)に代入すると、変数変換を行った場合の公式が得られる: 𝑚=lim𝛿→0⁡∑𝑖𝜌⁡(𝒙𝑖)⁢𝛿⁢𝑣𝑖=lim𝛿→0⁡∑𝑖𝜌⁡(𝒙⁡(𝜽𝑖))⁢√|𝑔|𝛿⁢𝑟𝑖𝛿⁢𝜃𝑖𝛿⁢𝜙𝑖=∫𝑉𝜽𝜌⁡√|𝑔|𝑑⁢𝑟𝑑⁢𝜃𝑑⁢𝜙(28) 以上をまとめると、【14.3-注1】のようになる。

【14.3-注1】体積積分の引き戻し公式:式(29)

体積 𝑉 上で与えられた密度 𝜌⁡(𝒙) を、 𝑉 上で積分したもの 𝑚 は 𝑚=∫𝒙∈𝑉𝜌 で与えられる。この積分を、 𝜽=(𝑟,𝜃,𝜙) を変数とする領域 𝑉𝜽 上の積分に引き戻す(=変数変換する)には、被積分関数に √|𝑔| をかければよい:( 𝜌=𝜌⁡(𝒙⁡(𝜽)) ) 𝑚=∫𝜽∈𝑉𝜽𝜌⁢√|𝑔|=∫𝑟1𝑟=𝑟0∫𝜃1⁡(𝑟)𝜃=𝜃0⁡(𝑟)∫𝜙1⁡(𝑟,𝜃)𝜙=𝜙0⁡(𝑟,𝜃)𝜌⁢√|𝑔|𝑔⁡(𝜃)≡(𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽)T⁢𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽(29)(30) なお、 √|𝑔| は以下のようにもかける:(符号は全体が正になるようにとる) √|𝑔|=±∣𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽∣

14.3.3【例題1】球の場合:式(31)

半径 𝑅 の球の質量 𝑚 を考える。密度 𝜌 は定数とする。答えはもちろん、 𝑚=4⁢𝜋3⁢𝑅3⋅𝜌 である。

極座標 𝜽=(𝑟,𝜃,𝜙) : 𝒙⁡(𝜽)=⎡⎢ ⎢⎣𝑟⁢sin⁡𝜃⁢cos⁡𝜙𝑟⁢sin⁡𝜃⁢sin⁡𝜙𝑟⁢cos⁡𝜃⎤⎥ ⎥⎦ を用いて変数変換することを考える。 √|𝑔| は、計量 𝑔 の定義(30)により 𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽=[𝜕𝒙𝜕𝑟𝜕𝒙𝜕𝜃𝜕𝒙𝜕𝜙]=⎡⎢ ⎢⎣sin⁡𝜃⁢cos⁡𝜙𝑟⁢cos⁡𝜃⁢cos⁡𝜙−𝑟⁢sin⁡𝜃⁢sin⁡𝜙sin⁡𝜃⁢sin⁡𝜙𝑟⁢cos⁡𝜃⁢sin⁡𝜙𝑟⁢sin⁡𝜃⁢cos⁡𝜙cos⁡𝜃−𝑟⁢sin⁡𝜃0⎤⎥ ⎥⎦∴𝑔=(𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽)T⁢𝑑⁢𝒙𝑑⁢𝜽=⎡⎢ ⎢ ⎢⎣1000𝑟2000𝑟2⁢sin2⁡𝜃⎤⎥ ⎥ ⎥⎦∴√|𝑔|=𝑟2⁢sin⁡𝜃 となる。今回も計量 𝑔 が対角行列になっているが、これも 𝑟,𝜃,𝜙 軸が互いに直交するからである。よって、式(29)から 𝑚 が計算できる: 𝑚=∫𝑅𝑟=0∫𝜋𝜃=0∫2⁢𝜋𝜙=0𝜌⋅𝑟2⁢sin⁡𝜃=∫2𝜋𝜙=0∫𝑅𝑟=0𝑟2⏟13⁢𝑅3⋅∫2𝜋𝜙=0∫𝜋𝜃=0sin⁡𝜃⏟2⋅∫2⁢𝜋𝜙=01⏟2⁢𝜋⋅𝜌=4⁢𝜋3⁢𝑅3⁢𝜌◼(31)

14.3.4【例題2】楕円体の慣性モーメント:式(32)

第13章では、密度 𝜌 が一定値の楕円体 𝐺⁡(𝒙)≡𝑥2𝑎2+𝑦2𝑏2+𝑧2𝑐2≤1 の慣性モーメント 𝐼 の値が以下の式(32)となることを、結果だけ示した。ここではその導出を行う。

まず、楕円体の積分を球の積分にするために、以下の変数変換を考える: 𝒙⁡(𝒙′)=⎡⎢ ⎢⎣𝑎⁢𝑥′𝑏⁢𝑦′𝑐⁢𝑧′⎤⎥ ⎥⎦ すると、積分領域は単位球になり、計量は √|𝑔|=𝑎⁢𝑏⁢𝑐 となる。これらを用いて、慣性モーメント 𝐼 は以下のように計算できる: 𝐼≡∫𝐺≤1𝜌⋅(|𝒙|2−𝒙⁢𝒙T)⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣非対角部分は、被積分関数が𝑥,𝑦,𝑧軸のいずれかに関して奇関数なので、積分すると0になる=𝜌⁡∫𝐺≤1⎡⎢ ⎢ ⎢⎣𝑦2+𝑧2𝑧2+𝑥2𝑥2+𝑦2⎤⎥ ⎥ ⎥⎦⁢⁢∣𝑥,𝑦,𝑧を𝑥′,𝑦′,𝑧′に変数変換=𝜌⁡∫|𝒙′|≤1⎡⎢ ⎢ ⎢⎣𝑏2⁢𝑦′2+𝑐2⁢𝑧′2𝑐2⁢𝑧′2+𝑎2⁢𝑥′⁢2𝑎2⁢𝑥′⁢2+𝑏2⁢𝑦′2⎤⎥ ⎥ ⎥⎦⁢𝑎⁢𝑏⁢𝑐⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣積分領域が球対称になっているので𝑦′2,𝑧′2を𝑥′⁢2で置き換えても値は変わらない=𝜌⁡(∫|𝒙′|≤1𝑥′⁢2)⁢⎡⎢ ⎢ ⎢⎣𝑏2+𝑐2𝑐2+𝑎2𝑎2+𝑏2⎤⎥ ⎥ ⎥⎦⁢𝑎⁢𝑏⁢𝑐⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣(⋯)=4⁢𝜋15(以下の【14.3-注2】)𝑚=4⁢𝜋3⁢𝑎⁢𝑏⁢𝑐⋅𝜌(楕円体の質量)=𝑚5⁢⎡⎢ ⎢ ⎢⎣𝑏2+𝑐2𝑐2+𝑎2𝑎2+𝑏2⎤⎥ ⎥ ⎥⎦⁢◼(32)

【14.3-注2】積分の公式

以下の積分公式が成り立つ: ∫|𝒙|≤1𝑥2=4⁢𝜋15

導出

導出は、極座標に変数変換すればよい: ∫|𝒙|≤1𝑥2=∫|𝒙|≤1𝑥2+𝑦2+𝑧23=∫1𝑟=0∫𝜋𝜃=0∫2⁢𝜋𝜙=0⁢𝑟23⋅𝑟2⁢sin⁡𝜃=∫1𝑟=0𝑟43⋅4⁢𝜋=115⋅4⁢𝜋◼