力学編 第7章

振り子

振り子のように、拘束された物体の運動は、拘束条件 𝐺=0 を満たさなければならない。この時、運動方程式には未知の力である拘束力 𝒇c が現れる。 𝒇c は、公式(9)によって 𝐺 を用いて書き下せるので、運動方程式(13)が確定する。運動方程式を実際に解くために必要な初期位置 𝒙0 と初期速度 ˙𝒙0 については、拘束条件(6)を満たすようにとればよい。

任意の時刻 𝑡 における振り子の位置 𝒙𝑡 を計算したい。

拘束力 𝒇𝑐 と、初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件が知りたい

振り子のおもりの運動 𝒙𝑡 を計算するには、運動方程式: 𝑚¨𝒙=𝒇+𝒇c(1) を具体的に書き下せばよい。 𝒇 は重力 𝑚𝒈𝒇c は振り子のひもからおもりが受ける拘束力(右図)。

拘束力 𝒇c が分かれば、運動方程式が決まる

そのためには、唯一の未知数である拘束力 𝒇c を導出すればよい。そうすれば、運動方程式が確定し、第3章の3.1節で述べたように、初期位置 𝒙0 および初期速度 ˙𝒙0 のもとで、 𝒙𝑡 が計算できる。

初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する条件も必要

ただし、初期値 𝒙0,˙𝒙0 は、(これまでのように)自由な値を取れるわけではない。実際、振り子の場合、拘束条件として、「原点からの距離がひもの長さ 𝑙 に一致する」(右図)𝐺(𝒙)|𝒙|𝑙=0(2) という条件がかかるので、おもりの初期位置 𝒙0 も、この拘束条件 𝐺(𝒙0)=0 を満たさなければならない。では、初期速度 ˙𝒙0 についてはどうだろうか。式(2)には速度は含まれてい。しかし、だからといって ˙𝒙0 を自由にとれるわけではない。実際、ひもが伸びたり縮んだりしてはならないので、直感的に、速度 ˙𝒙0 はひもと垂直になることが分かるだろう。この条件を理論的に導く方法を考えたい。以下の7.1.1節で議論するが、結論だけ言うと ˙𝐺=0 である。

この章の方針

よって、おもりの運動 𝒙𝑡 を実際に計算するために必要となるのは、「初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件の導出」と「拘束力 𝒇c の導出」である。この章では、これらを踏まえて以下の3つの節に分けて議論を行う:7.1初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件7.2拘束力 𝒇c の導出7.3おもりの運動 𝒙𝑡 の計算7.4参考拘束が時間に依存する場合第9章の予告なお、拘束条件を表現する方法として、式(2)のように 𝐺=0 と表す以外に、極座標などの別の座標系を用いる方法も考えられる。それについては、第9章で扱う。

7.1初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件

この節では、初期値 𝒙0,˙𝒙0 が満たすべき拘束条件(6)を導出する。

7.1.1初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件:式(6)

拘束条件: 𝐺(𝒙)=0(3) は、位置 𝒙 に対する条件である。

速度 ˙𝒙 に対する拘束条件が知りたい

一方、速度 ˙𝒙 についても、冒頭でも述べたように、自由な値をとれるわけではなく、拘束がかかっている。よって、 ˙𝒙 に対する拘束条件を書き下す必要がある。

𝛿𝑡 秒後の拘束条件(3)を考えればよい

もともと速度 ˙𝒙 は、 𝛿𝑡 秒後の位置 𝒙𝑡+𝛿𝑡 の1次近似(右図)𝒙𝑡+𝛿𝑡𝒙𝑡+˙𝒙𝑡𝛿𝑡 から出てきた量であった(第1章の1.1節。よって、「 𝛿𝑡 秒後の位置 𝒙𝑡+𝛿𝑡 でも拘束条件(3)が破れないこと」を要求すれば、それは ˙𝒙 に対する拘束条件にもなっているはずである。

拘束条件(3)の時間微分を計算すればよい

拘束条件 𝐺(𝒙) は、位置 𝒙 の関数である。しかし、おもりの位置 𝒙𝑡 は時間 𝑡 の関数であるため、 𝐺(𝒙𝑡) は、 𝒙𝑡 経由で、 𝑡 に依存しているとも見なせる。これを 𝐺𝑡 で表すことにする: 𝐺𝑡𝐺(𝒙𝑡) すると拘束条件は、時刻 𝑡+𝛿𝑡 においても成り立たなければならないので、 𝐺𝑡=𝐺𝑡+𝛿𝑡=0 となる(右図)𝐺𝑡+𝛿𝑡=0 については、1次近似により 0=𝐺𝑡+𝛿𝑡𝐺𝑡+˙𝐺𝑡𝛿𝑡 と書ける。よって ˙𝐺𝑡=0(4) となる。これが、速度 ˙𝒙 に対する拘束条件になっているはずである。

速度 ˙𝒙 に対する拘束条件:式(5)

式(4)の左辺の微分を計算すると、微分の連鎖律(第5章の【5.1-注3】において 𝒙𝑡 としたもの)により、 ˙𝒙 を括り出すことができる: ˙𝐺𝑑𝐺𝑑𝒙𝑑𝒙𝑑𝑡(𝐺)T˙𝒙=0(5) これは確かに速度 ˙𝒙 に対する拘束条件になっている。 𝐺 は拘束面に垂直なベクトル(右図)なので、この式(5)は、 ˙𝒙 が拘束面上にあることを意味しておりもっともらしい(振り子の場合は ˙𝒙 がひもと直交していることを意味している)。なお、第4章の4.2節でも述べたように、 𝐺𝟎 となるように 𝐺 をとっているものとする。

初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件:式(6)

以上をまとめると、 𝒙,˙𝒙 は以下の拘束条件を満たさなければならない: 𝐺=0˙𝐺(𝐺)T˙𝒙=0}(6) 従って、初期値 𝒙0,˙𝒙0 もこの式を満たすようにとっておく必要がある。もう一度微分した ¨𝐺=0 も新しい条件を与えそうな気がするが、次節ですぐ見るように、これには加速度が含まれ、初期値ではなく拘束力 𝒇c に対する条件になる。

7.2拘束力 𝒇c の導出

この節では、拘束力 𝒇c の具体的な式(9)を導く。拘束力が決まることで、最終的な運動方程式(13)が得られる。

7.2.1拘束力 𝒇c を決定する式:拘束条件(7)とダランベールの原理(8)

拘束力 𝒇c を導出したい。 𝒇c はもちろん拘束条件(3)に依存する。また、拘束力以外の外力 𝒇 にも依存する。例えば、おもりを引っ張るような外力 𝒇 を与えれば、それに抵抗するように拘束力 𝒇c が働く。

拘束条件(7)が拘束力 𝒇c に課す条件:式(7)

拘束条件(7)が拘束力 𝒇c に課す条件を導こう。まず、初期値 𝒙0,˙𝒙0 が、式(6): 𝐺=˙𝐺=0 を満たしている時、その後も拘束条件 𝐺=0 を満たし続けるためには、任意の時刻で ¨𝐺=0(7) が成り立てばよい。分かりにくければ次のアナロジーを考えるとよい:初期位置・初期速度 𝑥0,˙𝑥00 で、それ以降の加速度 ¨𝑥0 であれば、位置 𝑥0 のままである。 𝑥𝐺 に置き換えればよい。

条件が足りない

式(7)は、式(6)の第2式をもう一度微分したものであり、加速度 ¨𝒙 を含む条件式になっている。その式に、運動方程式 𝑚¨𝒙=𝒇+𝒇c を代入して ¨𝒙 を消去すれば、拘束力 𝒇c に対する条件が得られる。しかし、 𝒇c はベクトルなので、式(7)の1条件だけでは完全には決まらない。しかも、式(7)さえ満たしていれば拘束条件は満たされるのだから、拘束条件からはこれ以上の条件は出ない。よって、 𝒇c を決めるためには、物理的な条件を加える必要がある。

ダランベールの原理(8)を課せばよい

その条件は既に分かっている。即ち、第4章の4.1節で述べたダランベールの原理:拘束力 𝒇c は拘束面に垂直になるである(右図)。これにより、 𝒇c𝐺 は平行となるので、未知係数 𝜆 を用いて、 𝒇c は以下のように書ける: 𝒇c=𝜆𝐺(8) この式は、振り子の場合には、 𝒇𝑐 がひもと平行になることを意味しており、もっともらしい。

式(7), (8)から拘束力 𝒇c が決まる

以上で、必要な条件が出そろった。ダランベールの原理(8)の未知数は 𝜆 だけなので、拘束条件(7)(と運動方程式)を用いることで、 𝜆 が求まり 𝒇c が決まる。

7.2.2拘束力 𝒇c を与える公式:式(9)

実際に、拘束条件(7)とダランベールの原理(8)から、拘束力 𝒇c を求めると、以下の【7.2-注1】の式(9)のようになる。この結果は、一般的な拘束条件においても成り立つ(振り子に特有の性質は使っていない)

【7.2-注1】拘束力 𝒇c の公式(9)

拘束条件 𝐺(𝒙)=0 が課されている時、拘束力 𝒇c は以下のようになる: 𝒇c=𝜆𝐺𝜆𝑚(𝑑𝑑𝑡𝐺)T˙𝒙+(𝐺)T𝒇|𝐺|2(9) 𝒇 は重力などの外力(=拘束力以外の力)である。

導出

ダランベールの原理を適用した運動方程式:式(10)

まず、運動方程式(1)にダランベールの原理(8)を代入すると 𝑚¨𝒙=𝒇+𝜆𝐺(10) となる。後は、この式が拘束条件の2階微分(7)を満たすように 𝜆 を決めればよい。

拘束条件から 𝜆 を決める

式(7)を実際に計算するには、式(6)の第2式: ˙𝐺(𝐺)T˙𝒙=0 をもう一度微分すればよい: ¨𝐺(𝑑𝑑𝑡𝐺)T˙𝒙+(𝐺)T¨𝒙=0(11) 以下の積の微分公式【7.2-注2】を、 ˙𝐺(𝐺)T˙𝒙 に適用した。式(12)で 𝐴=(𝐺)T,𝐵=˙𝒙 とすればよい。式(10)の ¨𝒙 を式(11)に代入すれば、 𝜆 に対する方程式になる。これを解くと、式(9)の 𝜆 に一致する。

【7.2-注2】積の微分公式

時刻 𝑡 に依存する2つの行列 𝐴𝑡,𝐵𝑡 に対し、それらの積 𝐴𝐵 の微分は、以下のようになる: 𝑑𝑑𝑡𝐴𝐵=˙𝐴𝐵+𝐴˙𝐵(12)

導出

求める微分は、 𝛿(𝐴𝐵) を1次近似した時の 𝛿𝑡 の係数(以下の赤字部分)である:(時刻を省略した右辺の項は 𝑡 での値) 𝛿(𝐴𝐵)𝐴𝑡+𝛿𝑡𝐵𝑡+𝛿𝑡𝐴𝑡𝐵𝑡∣ ∣ ∣ ∣𝐴𝑡+𝛿𝑡𝐴+˙𝐴𝛿𝑡𝐵𝑡+𝛿𝑡𝐵+˙𝐵𝛿𝑡(𝐴+˙𝐴𝛿𝑡)(𝐵+˙𝐵𝛿𝑡)𝐴𝐵(˙𝐴𝐵+𝐴˙𝐵)𝛿𝑡

7.2.3最終的な運動方程式:式(13)

拘束力 𝒇c (式(9))が求まったので、運動方程式 𝑚¨𝒙=𝒇+𝒇c も確定する。具体的に書き下すと、外力 𝒇 を含む部分・含まない部分に分けて、以下のようになる: 𝑚¨𝒙=[1ˆ𝐺(ˆ𝐺)T]𝒇𝑚(𝑑𝑑𝑡𝐺)T˙𝒙|𝐺|ˆ𝐺(13) 記号 ˆ ˆ𝐺𝐺|𝐺| 運動方程式の解釈運動方程式(13)の右辺「第1項」は拘束面に平行な方向(=運動可能な方向)を向き、同「第2項」は垂直な方向を向いている。それでも分かりやすいとは言えないが、以下の【7.2-注3】のように、幾何学的に解釈しやすい形に変形できる。

【7.2-注3】運動方程式(13)の別表現

運動方程式(13)を、解釈しやすいように1次近似の形で(差分方程式として)書くと、以下のようになる: ˙𝒙𝑡+𝛿𝑡𝑃𝑡+𝛿𝑡(˙𝒙+𝑚1𝒇𝛿𝑡)𝑃1ˆ𝐺(ˆ𝐺)T(14) ただし、時刻 𝑡+𝛿𝑡 を明記しているもの以外は、時刻 𝑡 での値である。 𝑃 は、拘束面(の接平面)への直交射影行列になっている。

運動方程式(14)の解釈

この式の意味を考えてみよう。 𝑚1𝒇 は、拘束が存在しない場合の加速度に等しい。従って、右辺の () 部分は、拘束がない場合の「時刻 𝑡+𝛿𝑡 での速度」である。これに直交射影 𝑃𝑡+𝛿𝑡 がかかっているので、「その速度」を、拘束面へ直交射影したものが、実際の速度 ˙𝒙𝑡+𝛿𝑡 になるわけである。拘束条件 𝐺 は、この 𝑃 の部分にのみ影響を与える。

導出

1運動方程式を、 𝑃 を使って表す

まず、運動方程式(13)が、拘束面への直交射影行列 𝑃 を用いて 𝑚¨𝒙=𝑃𝒇+˙𝑃𝑚˙𝒙(15) と書けることを示す。そのためには、自明な式 ˙𝒙=𝑃˙𝒙 (式(6)の第2式より明らか)の両辺を微分した後、運動方程式を使えばよい: ¨𝒙=𝑑𝑑𝑡(𝑃˙𝒙)=˙𝑃˙𝒙+𝑃¨𝒙運動方程式:𝑚¨𝒙=𝒇+𝒇c=˙𝑃˙𝒙+𝑃𝒇+𝒇c𝑚∣ ∣ ∣ ∣ダランベールの原理より、𝒇cは拘束面に垂直:𝑃𝒇c=𝟎=˙𝑃˙𝒙+𝑃𝒇𝑚

21次近似を代入

後は、1次近似の定義式 ˙𝒙𝑡+𝛿𝑡˙𝒙+¨𝒙𝛿𝑡𝑃𝑡+𝛿𝑡𝑃+˙𝑃𝛿𝑡 を式(14)に代入すれば、式(15)と1次近似の範囲で確かに等しくなることが分かる。

7.3おもりの運動 𝒙𝑡 の計算

以上で、必要な議論がそろった。この節では、拘束条件 𝐺(𝒙)=0 が課されたおもりの運動 𝒙𝑡 の計算方法についてまとめた後、具体的な例として、冒頭で述べた「振り子の運動」と「ゆがんだ床の上を滑る運動」を扱う。

7.3.1おもりの運動 𝒙𝑡 の計算手順

拘束条件 𝐺(𝒙)=0 によって拘束された物体の運動 𝒙𝑡 を計算するには、以下の手順を踏めばよい:

1初期条件を設定

時刻 𝑡=0 における初期値 𝒙0,˙𝒙0 を、拘束条件(6)が成り立つようにとる。

2運動方程式を解く

その後の時刻 𝑡 での位置 𝒙𝑡 は、運動方程式(13)から計算できる。ただし、外力 𝒇 は既知であるとする。運動方程式の解き方は、第3章の3.1節で述べた。

7.3.2例題1振り子の運動

振り子の運動を計算する(右図)。拘束条件 𝐺 およびその微分は以下のようになる: 𝐺|𝒙|𝑙𝐺=ˆ𝒙=𝒙𝑙𝑑𝑑𝑡𝐺=𝑑𝑑𝑡𝒙𝑙=˙𝒙𝑙{ { {{ { {(16) 𝐺=ˆ𝒙 の導出は、第4章の【4.3-注1】で行った。

初期条件(17)、運動方程式(18)

これらを用いると、初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件(6)は |𝒙0|=𝑙𝒙T0˙𝒙0=0}(17) となる。運動方程式を得るには、公式(13)に、式(16)と重力 𝒇=𝑚𝒈 を代入すればよい: 𝑚¨𝒙=(1𝒙𝒙T𝑙2)𝑚𝒈𝑚|˙𝒙|2𝑙2𝒙(18) 質量 𝑚 に依存しない式(18)を見ると、全ての項に質量 𝑚 が現れているので、 𝑚 を消去できる(運動方程式っぽく見せるために上式では 𝑚 を残している)。よって、振り子の運動は、初期値さえ同じであれば、 𝑚 によらず同じになる。第9章の予告第9章の9.2.2節で、運動方程式(18)を極座標で書き直す。

シミュレーション

実際に数値計算を行うと、右図のようになる。2次元, 3次元ともに同じ運動方程式(18)である。

7.3.3例題2 𝑧=𝑓(𝑥,𝑦) のグラフ上の運動

次に、もう1つの例として、3次元空間内のグラフ 𝑧=𝑓(𝑥,𝑦) で表される曲面上におもりを拘束する場合を考える。拘束条件は 𝐺𝑓(𝑥,𝑦)𝑧=0 とすればよい。

拘束条件の微分

拘束条件 𝐺 の微分は以下のようになる:

𝐺=⎢ ⎢𝜕𝑥𝑓𝜕𝑦𝑓1⎥ ⎥𝑑𝑑𝑡𝐺=𝑑(𝐺)𝑑𝒙˙𝒙=⎢ ⎢ ⎢𝜕2𝑥𝑓𝜕𝑦𝜕𝑥𝑓0𝜕𝑥𝜕𝑦𝑓𝜕2𝑦𝑓0000⎥ ⎥ ⎥⎢ ⎢˙𝑥˙𝑦˙𝑧⎥ ⎥ 赤字部分はのベクトル値関数の連鎖律である(第5章の【5.1-注3】)。また、 𝜕𝑦𝜕𝑥𝑓𝜕𝑥𝜕𝑦𝑓 は、偏微分の可換性(以下の【7.3-注1】により等しくなるので、一方だけ計算すればよい。

初期条件と運動方程式

上式を、拘束条件(6)に代入すると、初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する条件が得られる。また、運動方程式も、式(13)から得られる。しかし、きれいな形になるわけでもないので、代入結果については割愛する。数値計算を行う場合、このような代入処理はプログラム内で行えばよいので、代入後の式を具体的に書き下しておく必要はない。

シミュレーション

適当な 𝑓 を決めて数値計算を行うと、右図のようになる。なお、重力が下向きに働いている。

【7.3-注1】偏微分は可換

偏微分は可換である。即ち、2階全微分可能な任意の多変数関数 𝑓(𝑥1,𝑥2,) について以下が成り立つ: 𝜕𝑖𝜕𝑗𝑓=𝜕𝑗𝜕𝑖𝑓 記号 𝜕𝑖 𝜕𝑖 は、 𝑥𝑖 による偏微分の略記である: 𝜕𝑖=𝜕𝜕𝑥𝑖

証明

第15章の15.1節で証明する。

7.4参考拘束が時間に依存する場合

ここでは、動く振り子の運動 𝒙𝑡 の計算方法を考える。これは、振り子の中心点 𝒂 が時間とともに動くようになったものである。拘束条件 𝐺𝐺(𝑡,𝒙)|𝒙𝒂𝑡|𝑙=0 となり、時刻 𝑡 に依存することになる。

これまでと同じ考え方で良さそう

おもりの運動 𝒙𝑡 を計算するには、ここでも「初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件」と「拘束力 𝒇c 」の2つが分かればよい。前節までの類推により、 𝒙0,˙𝒙0𝐺=˙𝐺=0 を満たせばよく、 𝒇c はダランベールの原理から導出できることが期待される。

7.4.1初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件:式(19)

初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件は、前章と同様、 𝑡=0 において 𝐺=˙𝐺=0 を満たすことである: 𝐺=0˙𝐺𝜕𝑡𝐺+(𝐺)T˙𝒙=0}(19) 導出第2式は、以下の【7.4-注1】から得られる。ただし、以下のようにおいている: 𝜕𝑡𝐺=𝜕𝐺𝜕𝑡,𝐺=(𝜕𝐺𝜕𝒙)T=⎢ ⎢𝜕𝑥𝐺𝜕𝑦𝐺𝜕𝑧𝐺⎥ ⎥

【7.4-注1】合成関数の微分公式

任意の 𝑡,𝒙 の関数 𝐺(𝑡,𝒙) を考える。 𝒙𝑡 に依存するならば、 𝐺(𝑡,𝒙𝑡) は、 𝑡 に関する1変数関数とみなせる。これを 𝑡 で微分したものは、以下のようになる: ˙𝐺=𝑑𝑑𝑡𝐺(𝑡,𝒙𝑡)=𝜕𝐺𝜕𝑡+𝜕𝐺𝜕𝒙𝑑𝒙𝑑𝑡

導出

まず、 𝐺(𝑡,𝒙) に対し、通常の全微分を考えると 𝛿𝐺𝜕𝐺𝜕𝑡𝛿𝑡+𝜕𝐺𝜕𝒙𝛿𝒙(20) となる(第5章の【5.2-注1】。さらに、 𝒙𝑡 に依存するので、 𝒙 の全微分を考えることができる: 𝛿𝒙𝑑𝒙𝑑𝑡𝛿𝑡(21) 後は、式(20)に式(21)を代入して、 𝛿𝑡 を括り出せばよい:

𝛿𝐺(𝜕𝐺𝜕𝑡+𝜕𝐺𝜕𝒙𝑑𝒙𝑑𝑡)𝛿𝑡 微分 𝑑𝐺𝑑𝑡 は、 𝛿𝐺 を1次近似したときの 𝛿𝑡 の係数なので、 () 部分である。 この導出は、第5章の5.2.2節で、壁の速度を求めた時のものと同じである。

7.4.2拘束力 𝒇c と運動方程式:それぞれ式(25)と式(24)

拘束力 𝒇c の導出も、前章の議論をなぞればよい。

拘束力 𝒇c :式(25)

即ち、拘束条件の2階微分: ¨𝐺=0(22) とダランベールの原理:𝜆 は未知係数) 𝒇c=𝜆𝐺(23) を連立して 𝜆 を求めれば、 𝒇c が確定する。実際に解くと、以下の【7.4-注2】の式(25)のようになる。当然だが、 𝜕𝑡𝐺=0 の場合、時間依存しない場合の拘束力(9)に一致する。

運動方程式:式(24)

これにより、運動方程式 𝑚¨𝒙=𝒇+𝒇c は以下のようになる: 𝑚¨𝒙=[1ˆ𝐺(ˆ𝐺)T]𝒇𝑚[𝑑𝑑𝑡𝜕𝑡𝐺+(𝑑𝑑𝑡𝐺)T˙𝒙]|𝐺|ˆ𝐺(24)

【7.4-注2】時間変化する拘束条件による拘束力:式(25)

時間に依存する拘束条件 𝐺(𝑡,𝒙)=0 が課されている時、拘束力 𝒇c は以下のようになる: 𝒇c=𝜆𝐺𝜆𝑚[𝑑𝑑𝑡𝜕𝑡𝐺+(𝑑𝑑𝑡𝐺)T˙𝒙]+(𝐺)T𝒇|𝐺|2(25) 𝒇 は重力などの外力(=拘束力以外の力)である。

導出

拘束条件(22)の微分を実際に行うと、以下のようになる:() 部分は式(19)の第2式) 0=𝑑𝑑𝑡˙𝐺=𝑑𝑑𝑡(𝜕𝑡𝐺+(𝐺)T˙𝒙)=𝑑𝑑𝑡𝜕𝑡𝐺+(𝑑𝑑𝑡𝐺)T˙𝒙+(𝐺)T¨𝒙(26) この式から ¨𝒙 を消去するために、運動方程式 𝑚¨𝒙=𝒇+𝒇c にダランベールの原理(23)を代入したもの: 𝑚¨𝒙=𝒇+𝜆𝐺 を代入すれば、 𝜆 に対する方程式となる。これを解くと、 𝜆 が決まり、式(25)のものに一致する。

7.4.3物体の運動 𝒙𝑡 の計算

時間に依存する拘束条件 𝐺(𝑡,𝒙)=0 によって拘束された物体の運動 𝒙𝑡 は、以下のように計算できる:前節の「時間変化しない拘束の場合」とは、使う式が異なるだけである。

1初期条件を設定

時刻 𝑡=0 における初期値 𝒙0,˙𝒙0 を、拘束条件(19)が成り立つようにとる。

2運動方程式を解く

その後の時刻 𝑡 での位置 𝒙𝑡 は、運動方程式(24)から計算できる。

7.4.4例題1動く振り子:初期条件(27)、運動方程式(28)

節の冒頭で述べた通り、中心点 𝒂 が動くような振り子(右図)の拘束条件は 𝐺(𝑡,𝒙)|𝒙𝒂𝑡|𝑙=0 である。以下では、式を見やすくするため 𝒚𝒙𝒂𝑡 とおく。

拘束条件の微分

拘束条件 𝐺 の微分を計算すると、以下のようになる:𝜕𝑡𝒂 のみに作用し、 𝑑𝑑𝑡𝒙,𝒂 両方に作用することに注意) 𝜕𝑡𝐺=ˆ𝒚T˙𝒂=𝒚T˙𝒂𝑙𝑑𝑑𝑡𝜕𝑡𝐺=˙𝒚T˙𝒂+𝒚T¨𝒂𝑙𝐺=ˆ𝒚=𝒚𝑙𝑑𝑑𝑡𝐺=˙𝒚𝑙

初期条件と運動方程式

初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件は、上式を式(19)に代入すればよい: |𝒚0|=𝑙𝒚T0˙𝒚0=0}(27) ただし、 𝒚0=𝒙0𝒂0 である。運動方程式は、「上で計算した拘束条件 𝐺 の微分」と「 𝒇=𝑚𝒈 」を式(24)に代入すれば得られる: 𝑚¨𝒙=(1ˆ𝒚ˆ𝒚T)𝑚𝒈𝑚|˙𝒚|2𝒚T¨𝒂𝑙ˆ𝒚(28) 固定された振り子(7.3.2節)の場合と同様に、質量 𝑚 は削除できる。

シミュレーション

適当な 𝒂𝑡 を採用して数値計算を行うと、右図のようになる。

7.4.5例題2波打つ床

もう1つの例として、グラフ 𝑧=𝑓(𝑡,𝑥,𝑦) で表される曲面上に、おもりを拘束する場合を考える(右図)。重力が下方向に働いているとする。拘束条件 𝐺𝐺𝑓(𝑡,𝑥,𝑦)𝑧=0 となる。

拘束条件の微分

拘束条件 𝐺 の微分は以下のようになる: 𝜕𝑡𝐺=𝜕𝑡𝑓,𝑑𝑑𝑡𝜕𝑡𝐺=(𝜕𝑡+˙𝑥𝜕𝑥+˙𝑦𝜕𝑦)𝜕𝑡𝑓𝐺=⎢ ⎢𝜕𝑥𝑓𝜕𝑦𝑓1⎥ ⎥,𝑑𝑑𝑡𝐺=(𝜕𝑡+˙𝑥𝜕𝑥+˙𝑦𝜕𝑦)⎢ ⎢𝜕𝑥𝑓𝜕𝑦𝑓0⎥ ⎥

初期条件と運動方程式

初期値 𝒙0,˙𝒙0 に対する拘束条件は式(19)から決まり、運動方程式は式(24)から決まる。しかし、きれいな形になるわけでもないので、結果については省略する。

シミュレーション

3次元の場合に、適当な 𝑓(𝑡,𝑥,𝑦) を採用して数値計算を行ってみると、右図のようになる。