5.ボール同士の衝突

2つのボールが弾性衝突した時の速度変化は、作用・反作用の法則による衝突公式(13)で与えられる。
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ボール同士の衝突を扱うには、ダランベールの原理と弾性衝突条件を考え直す必要がある

2つのボール同士の衝突を考える。右図のように、2つのボールの半径をそれぞれ R1,R2 とし、中心座標を x1,x2 とおく。また、両方のボールの物理量をまとめて大文字で書くことにする: X=[x1x2],˙X=[˙x1˙x2] 知りたいのは、2つのボールの運動 X(t) を計算する方法である。衝突する瞬間以外は、第2章で述べた様に運動方程式から計算できる。よって新たに考える必要があるのは、前章と同様、「衝突直後の速度 ˙Xout を衝突直前の速度 ˙Xin から導く衝突公式」である。今回も、最もよく跳ねかえる極限である弾性衝突を考える。
前章で考えた「壁とボールの衝突」の場合、衝突公式を導くには、速度が変化する方向を決める「ダランベールの原理」(=拘束力は拘束面に垂直)と、弾性衝突を表す「弾性衝突条件」(=衝突前後の壁との相対速度の大きさが変化しない)を連立すればよかった。しかし、今回の問題に前章の結果がそのまま使えるかというと、そうではない。
まず、ダランベールの原理は、各ボールの速度の方向を与えるので、各ボールに対して2つずつ、合わせて4つの条件を与える(3次元の場合)。一方、弾性衝突条件は1つだけなので、合わせて5つの条件しかない。そのため、 ˙Xout の6成分すべてを決めるには1つ足りない。よって、ダランベールの原理を拡張する必要がある。また、弾性衝突条件についても、どのような形で表されるかは今の段階ではわからない。
以上により、 X(t) を求めるには、今の問題で成り立つダランベールの原理と弾性衝突条件を求める必要がある。そこで、以下の3つの節に分けて考えることにする: 5.1:25.2:25.3:X(t) 最初の2つの節は衝突公式を導出し、最後の節でそれを用いて実際の運動の計算を行う。なお、ボールは球対称なものを考える(一般の形状の物体の衝突では、物体の回転を考える必要があり、第10章以降で扱う剛体の理論が必要となる)。

5.1 2体衝突でのダランベールの原理

この節では、ダランベールの原理の拡張を考え、式(5)のようになることを見る。
第3章で与えたダランベールの原理は、拘束力 fc が拘束面と垂直、即ち、拘束条件 G(x)0 のもとで fc=λG(1) となるというものであったλ は未定乗数)。式(5)はこれと、形式的に同じ形になっている。

拘束条件(2)から拘束力 Fc の向きを求めたい

ダランベールの原理を考えるには、拘束条件 G(X)0 を書き下しておく必要がある。これは、 x1,x2 間の距離が R1+R2 以上、即ち G(X)|x1x2|(R1+R2)0(2) とすればよい。
また、運動方程式は、2つのボールがあるので2本になるが、これらもまとめて以下の形になる: [m100m2]M[¨x1¨x2]¨X=[f1f2]F+[fc1fc2]FcM¨X=F+Fc(3) Fc は衝突時に働く拘束力、 F はそれ以外の重力などの力(外力)である。 M のサイズは、2次元の場合 4×4 であり、3次元の場合 6×6 である。
知りたいのは、 G(X) から Fc の向きを求める式(=ダランベールの原理)である。衝突による M˙X の変化の方向は、 Fc の方向と同じである:Λ は未定乗数) M˙XoutM˙Xin=ΛFc よって、弾性衝突条件(次節)と連立すれば Λ が求まり、衝突公式が得られるというわけである。 M˙X を運動量という。

各々のボールに対するダランベールの原理(4)→だが条件が足りない

まず、一方のボールのみに着目してダランベールの原理を用いてみる。まず、ボール1が受ける拘束力 fc1 は、衝突面に垂直になるので、拘束条件 G(x1,x2)x1 で偏微分したものに比例することになる:λ1 は未定乗数、 ˆx12x12=x1x2 を正規化したもの) fc1=λ11G1G(Gx1)T=(|x1x2|x1)T=ˆx12 第2式の最後の変形は、第3章の【3.3-注1】の公式を使った。
同様に、ボール2についてダランベールの原理を適用すると、未定乗数を λ2 として fc2=λ22G=λ2ˆx12 となる。これらの fc1,fc2 をまとめて書くと、以下のようになる: Fc=[fc1fc2]=[λ11Gλ22G]=[λ1ˆx12λ2ˆx12](4)
上式の未知数は λ1,λ2 の2つである。ということは、弾性衝突条件と合わせても、両方を決めることはできない。従って、これら λ1,λ2 に対する関係式を追加する必要がありそうである。

全体のダランベールの原理:式(5)

2つの未定乗数 λ1,λ2 の間に条件を課すためには、拘束力 fc1,fc2 を関係づける新しい法則が必要である。そのような法則として使えそうなのが、作用・反作用の法則、即ち、「接触する2つの物体が互いに作用しあう力は、大きさは等しく向きは逆である」という法則である(以下の【5.1-注1】)。これにより、拘束力は fc1+fc2=0 を満たすことになる。従って、式(4)より λ1=λ2 とならなければならない。
よって結局、拘束力 Fc は、1つの未定乗数 λ を用いて書けることになる: Fc=λ[ˆx12ˆx12]=λ[1G2G]=λGG(dGdX)T(5) これが、ボール同士の衝突におけるダランベールの原理である。拘束力が、拘束条件の微分 G に比例する形になっているが、これは、ボールが1つだけの場合のダランベールの原理(1)と全く同じ形である。
ダランベールの原理(5)が得られたので、衝突前後の速度 ˙Xin,˙Xout に対する関係式の形にしたい。まず、衝突は一瞬なので、外力 F の影響は無視できる。そのため、運動量 M˙X が変化する方向は、拘束力 Fc の方向に一致する。即ち、衝突の前後での速度の関係式は、以下のように書ける: M˙XoutM˙Xin=ΛG(6) あと1つ条件があれば、未知数 Λ が決まり、衝突後の速度 ˙Xout が求まる。その条件とは、弾性衝突条件となるはずである。なお、作用・反作用の法則は、弾性衝突かどうかとは無関係に常に成り立つので、式(6)も弾性衝突でなくても成り立つ。ただし、摩擦力が無視できない場合には、第3章の場合と同様に、成り立たない。

【5.1-注1】作用・反作用の法則:式(7)

2つの物体 A,B が互いに接触しているとする(右図)。この時、「 AB から受ける接触力 fcA 」と「 BA から受ける接触力 fcB 」は、大きさが同じで向きが逆になる: fcA+fcB=0(7) これを作用・反作用の法則という。

補足

作用・反作用の法則により、複合物体の運動方程式から拘束力を消すことができる。例えば右図のように、物体 A,B が、くっついたまま外力 fA,fB を受けながら運動するとする。この時、 A,B の運動方程式:a は共通の加速度) mAa=fA+fcAmBa=fB+fcB について辺々和をとると、以下のようになる: (mA+mB)a=fA+fB+(fcA+fcB)=0 作用・反作用の法則(7)により、赤字部分が消える。この式は、質量 mA+mB を持つ1つの物体に、力 fA+fB がかかっている場合の運動方程式とみなせる。よって、拘束力を考えなくてもよい。もし、作用・反作用の法則が成り立っていないと、物体の運動を考える際、物体の内部でどのような力がかかっているのかを考えなければならず、面倒なことになる。

5.2 2体衝突での弾性衝突条件

この節では、弾性衝突条件(12)を導出する。これと、前節で求めた速度の変化方向(6)を連立すれば、求めたかった衝突公式(13)が得られる。

重心系 K から見ると、速度の大きさの変化は等しい:式(9)

弾性衝突は、最もよく跳ね返るという状況を表すわけであるが、この時、衝突の前後で「運動の勢い」は変化しないはずである(=衝突を繰り返すたびに、両方のボールがどんどん加速していったり減速していったりすることはない)。ボールが1つだけの場合であれば、「運動の勢い」とは速度の大きさであるが、2つのボールがある場合、「運動の勢い」とはどのように定量化されるのだろうか。
まず、作用・反作用の法則が成り立つ系の特徴として、重心 xg の移動速度 ˙xg˙xgm1˙x1+m2˙x2m1+m2(8) が、一定となる(以下の【5.2-注1】の式(10))。従って、衝突の前後で ˙xg は変わらない。よって、重心が静止したままとなるような慣性系 K (=重心系)が存在する。
重心系 K から見た重心の速度 ˙xg は、衝突の前後で変化せず 0 のままとなる:(添え字 inout はそれぞれ衝突の前と後の量であることを表す) ˙xg,inm1˙x1,in+m2˙x2,inm1+m2=0˙xg,outm1˙x1,out+m2˙x2,outm1+m2=0 これらの式の分母を払い、ボール2に対する量を右辺に移項すると、それぞれ m1˙x1,in=m2˙x2,inm1˙x1,out=m2˙x2,out となる。これらの絶対値をとって辺々割れば質量が消える: ˙x1,in˙x1,out=˙x2,in˙x2,out1α(9) これにより、重心系 K から見れば、衝突による速度の大きさの変化の割合は、両方のボールで等しいことが分かる(ともに α 倍になる)

【5.2-注1】重心 xg

2つの粒子 x1,x2 の重心 xg は、右図のように、 x1,x2 間を m2:m1 に内分する点として定義される: xgm1x1+m2x2m1+m2(10) もっと粒子数が多い場合にも、容易に拡張できる: xgm1x1+m2x2+m1+m2+

補足

2つの粒子に働く力 f1,f2 が、 f1+f2=0 を満たすならば、重心速度 ˙xg は一定となる: ˙xg=const. これは、定義式(10)を2階微分すれば導ける: ¨xg=m1¨x1+m2¨x2m1+m2=f1+f2m1+m2=0 加速度がゼロなので、速度は一定となる。

弾性衝突条件:式(12)

さて、上式(9)により、重心系 K から見た時、衝突による速度の大きさの変化の比率 α は両方のボールで等しい(右図)。よって、重心系において衝突時にあり得る可能性は、「どちらのボールも衝突前より遅くなる/速くなる/変わらない」のいずれかである。弾性衝突に対応するのは、「運動の勢い」が変化しないもの、即ち、「どちらのボールの速度も変わらない」であるα=1
以上により、重心系 K での弾性衝突条件としては、「ボール1の速度の大きさが変わらない」ことを要求すればよい(式(9)が成り立つので、どちらか一方のボールについてだけでよい)˙x1,out=˙x1,in(11) これをもとの慣性系に戻せばよい。そのためには、ガリレイ変換 x=xt˙xg (第4章の【4.1-注2】)の時間微分 ˙x=˙x˙xg を式(11)に代入し、式(8)を用いて ˙xg を消去すれば良く、以下のようになる: |˙x1,out˙x2,out|=|˙x1,in˙x2,in|(12) これが、ボール同士の衝突における弾性衝突条件である。
この式は、相対速度の大きさが衝突の前後で変化しないことを意味している。これは、動く壁との衝突の場合の弾性衝突条件(第4章の【4.2-注1】)と同じ形になっている。壁は「質量が非常に大きい物体」だとみなせるので、今考えている問題の特殊な場合となっているわけである。

2つのボールの衝突公式:式(13)

以上の、弾性衝突条件(12)およびダランベールの原理から得られた式(6)を連立すると、2つのボールの衝突の公式が得られる。実際に計算すると、以下の【5.2-注2】のようになる。

【5.2-注2】2つのボールの弾性衝突の公式

2つのボールが弾性衝突した時、衝突後の速度 ˙x1,out,˙x2,out は、衝突前の速度 ˙x1,in,˙x2,in を用いて、以下のように計算できる:ˆx12x12=x1,inx2,in を正規化したもの) ˙x1,out=˙x1,in+Λm1ˆx12˙x2,out=˙x2,inΛm2ˆx12Λ2m1m2m1+m2(˙x1,in˙x2,in)Tˆx12⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪(13)

導出

衝突後の速度 ˙Xout を決めるには、式(6)の未知数 Λ が分かればよい。式(6)を式(12)(を辺々2乗したもの)と連立して、 ˙Xout を消去すれば、単純な Λ の2次方程式となる。その際、第3章の場合と同様に、2つある解の一方は Λ=0 となるので、もう一方の解が正しい解である。この Λ は、式(13)の第3式のようになる。式(13)の上側2式は、式(6)をボールごとに分けて書いたものである。

5.3 ボールの運動 X(t) の計算

衝突公式(13)を使って数値計算を行う手順は、前章までと同様である。即ち、まず、衝突の瞬間まで、運動方程式 M¨X=F F は重力などの外力)を用いて計算を進める。その後、衝突公式(13)を使って速度を変換する。その後は再び M¨X=F を用いて、次の衝突まで計算をすすめる、という処理を繰り返せばよい。
この節では、具体的にいくつかの例について、数値計算を行う。

単純な弾性衝突

質量を様々に変えて衝突させてみる。数値計算を行うと、右図のようになる。質量は2倍ずつ変化するようにしている。同じ質量の時には、正面衝突すると速度が入れ替わることが分かる(両方動いている場合にも成り立つことが、式(13)から導ける)

重力がある場合

重力を考慮した場合、数値計算を行うと右図のようになる。2つのボールは、半径・質量ともに等しく、半径は両方とも 0.3m である。それ以外のケースについては、以下の数値計算を参照のこと。