力学編 第11章

剛体の運動方程式

剛体の運動を決めるには、剛体の重心位置 𝒙g および回転行列 𝑅 の時間発展が分かればよい。これらを求めるための運動方程式は、式(11)、あるいは、それを数値計算に適した形に変形した式(21)である。

剛体の運動方程式を求めて、解きたい。

自由な速度 𝛀 に対する運動方程式(2)が欲しい

いよいよ、剛体の運動を求める方法を考える。

運動方程式 = 「剛体上の1点 𝒙0 と回転行列 𝑅 」の2階微分を与える方程式

前章で見たように、剛体の配置を決めるために必要は情報は、剛体上の1点 𝒙0 と回転行列 𝑅 である。従って、「剛体の運動を求める」とは、これら 𝒙0,𝑅 の時間発展を求めることに他ならない。そのためには、これまでと同様に、初期値として 𝒙0⁡(0),𝑅⁡(0) およびその微分 ˙𝒙0⁡(0),˙𝑅⁡(0) を与えたうえで、2階微分 ¨𝒙0,¨𝑅 を与える方程式(=運動方程式)を解く、という流れになる。もちろん、回転行列 𝑅 の代わりに自由な座標 𝜽 の時間発展を求めても良いが、10.3節で述べたように 𝜽 には理論的に自然なものがないので、ここでは考えないことにする。

質点要素の運動方程式を変形すればよい → 回転部分に拘束条件が残っている

剛体は質点要素 𝒙𝑖 の集合と見なせるので、前章の冒頭で示したように、剛体の運動方程式自体は、 𝒙𝑖 に対する方程式として表せる: ⎡⎢ ⎢⎣𝑚1𝑚2⋱⎤⎥ ⎥⎦⏟___⏟___⏟𝑀⁢⎡⎢ ⎢⎣¨𝒙1¨𝒙2⋮⎤⎥ ⎥⎦⏟¨𝑿=⎡⎢ ⎢⎣𝒇1𝒇2⋮⎤⎥ ⎥⎦⏟𝑭+⎡⎢ ⎢⎣𝒇c1𝒇c2⋮⎤⎥ ⎥⎦⏟𝑭c(1) ここから未知数である拘束力 𝑭c を削除すれば、 ¨𝒙0,¨𝑅 に対する方程式が得られる、というのが元々の方針であった。自由な座標が与えられたときに、拘束力 𝑭c を消去して運動方程式を求める公式は既に書き下している(第9章の【9.1-注1】)。それを利用したいわけだが、残念ながら回転行列 𝑅 には拘束が残っており自由な座標ではないので、そのままでは使えない。

→ 自由な速度が分かればよい

しかし、拘束力 𝑭c を消去するのに必要なのは、拘束面(=運動可能な方向)の情報である。よって、実際には、自由な「速度」が分かれば十分である。第8章の8.2.3節で述べたように、 𝑭c は、拘束面と垂直である(ダランベールの原理)。即ち、拘束面が分かれば 𝑭c が消せる。拘束面は、速度ベクトルと平行になるのだから、自由な速度から導ける(拘束条件が時間に依存しない場合)。よって、「自由な速度 → 拘束面 → ダランベールの原理により 𝑭c を消去」というロジックが使える。

¨𝑅 の代わりに角速度 𝝎 の微分 ˙𝝎 を求めても良い

回転行列 𝑅 そのものは自由な座標ではなく、その微分 ˙𝑅 も自由な「速度」ではないが、 ˙𝑅 をもとに自由な「速度」を作ることはできる。前章の10.2節で見たように、それは、角速度ベクトル 𝝎 である。 ˙𝑅 と 𝝎 の関係式 ˙𝑅=𝝎×𝑅 従って、 ˙𝒙0 と 𝝎 をまとめた剛体の自由な速度 𝛀 : 𝛀=[˙𝒙0𝝎] を考えれば、拘束力 𝑭c が消去出来て、 𝛀 に対する運動方程式: ˙𝛀≡[¨𝒙0˙𝝎]=[⋯](2) が得られるはずである。

この章の方針

この章では、上記の議論に従って、剛体の運動方程式(2)を導出する。また、式(2)が得られたとしても、そこから実際の計算を行う方法は自明ではないので、具体的な方法についてもまとめておく必要があるだろう。そこでこの章では、以下の2つの節に分けて議論を行う:11.1剛体の運動方程式の導出11.2剛体の運動の計算

11.1剛体の運動方程式の導出

この節では、剛体の運動方程式(11)を導く。剛体自体には拘束がかかっていないとする。拘束がかかっている場合(例えば剛体の一点を固定した振り子のような運動)については次章で扱う。

11.1.1自由な速度 𝛀 に対する運動方程式(展開前):式(7)

議論の出発地点は、質点要素 𝒙𝑖 に対する運動方程式(1)である:(再掲) ⎡⎢ ⎢⎣𝑚1𝑚2⋱⎤⎥ ⎥⎦⏟___⏟___⏟𝑀⁢⎡⎢ ⎢⎣¨𝒙1¨𝒙2⋮⎤⎥ ⎥⎦⏟¨𝑿=⎡⎢ ⎢⎣𝒇1𝒇2⋮⎤⎥ ⎥⎦⏟𝑭+⎡⎢ ⎢⎣𝒇c1𝒇c2⋮⎤⎥ ⎥⎦⏟𝑭c(3) これを変形して、式(2)の形にすればよい。計算の流れは以下のようになる(具体的な計算は次節で行う):

1ダランベールの原理を使って拘束力 𝑭c を消したい

式(3)で未知なのは、拘束力 𝑭c である。ダランベールの原理により、 𝑭c は、拘束条件を満たす全ての速度 ˙𝑿 と「直交」する(第8章の8.2節): ˙𝑿T⁢𝑭c=0(4) 第9章と同様に、この式(4)を使って 𝑭c を消去したい。

2式(4)から ˙𝑿 を消す

速度 ˙𝑿 は、自由な速度 𝛀 の1次式として以下のように表せる:(以下の【11.1-注1】) ˙𝑿=⎡⎢ ⎢⎣1−𝒙10×1−𝒙20×⋮⋮⎤⎥ ⎥⎦⏟__⏟__⏟≡𝐴⁢𝛀(5) これを式(4)に代入すると ˙𝑿 が消去できる。 𝛀 が任意の値をとれることにより、結局、式(4)は以下のように書き換えられる: 𝐴T⁢𝑭c=0(6)

3自由な速度 ˙𝛀 に対する運動方程式

式(6)より、運動方程式(3)から 𝑭c を消去するには、 𝐴T を辺々左乗すればよい: 𝐴T⁢𝑀⁢¨𝑿=𝐴T⁢𝑭 この式の ¨𝑿 に速度(5)を代入すれば、 ˙𝛀 に対する方程式になる: 𝐴T⁢𝑀⁡(𝑑𝑑⁢𝑡⁢𝐴⁢𝛀)=𝐴T⁢𝑭(7) 後は、式(7)の 𝐴 を実際に展開して、 ˙𝛀 に対する方程式にしてやれば、求めたい剛体の運動方程式(2)となる。

【11.1-注1】 ˙𝑿 と 𝛀 の関係

質点要素の速度 ˙𝑿 と自由な速度 𝛀 は、以下の関係で結ばれる: ˙𝑿≡⎡⎢ ⎢⎣˙𝒙1˙𝒙2⋮⎤⎥ ⎥⎦=⎡⎢ ⎢⎣1−𝒙10×1−𝒙20×⋮⋮⎤⎥ ⎥⎦⁢[˙𝒙0𝝎]⎡⎢ ⎢⎣1−𝒙10×1−𝒙20×⋮⋮⎤⎥ ⎥⎦⏟𝛀(8) 𝒙𝑖⁢0=𝒙𝑖−𝒙0 である。 𝒙× は、第10章の【10.2-注2】で述べたベクトルのクロスである。

導出

前章の10.2節で示したように、質点要素の速度 ˙𝒙𝑖 を、自由な速度 𝛀 を使って書き下すと ˙𝒙𝑖=˙𝒙0+𝝎×𝒙𝑖⁢0=[1−𝒙𝑖⁢0×]⁢[˙𝒙0𝝎]⏟𝛀 となる。これを式(8)の中辺に代入すれば、最右辺になる。 ◼

11.1.2基準点を重心(9)に取った時の運動方程式:式(10)

それでは、運動方程式(7)に式(5)の 𝐴 を代入して、各項を実際に計算しよう。

基準点 𝒙0 を重心 𝒙g にとる:式(9)

実際の計算を行うにあたり、任意にとれる剛体上の基準点 𝒙0 として、重心 𝒙g を採用することにしよう: 𝒙0=𝒙g≡1𝑚⁢∑𝑖𝑚𝑖⁢𝒙𝑖(9) 𝑚≡∑𝑚𝑖 は剛体の全質量。その理由は、剛体内の拘束力は作用・反作用の法則を満たすので、重心の速度 ˙𝒙g が拘束力の影響を受けないからである(第6章の【6.2-注1】の補足)。これにより、基準点の速度 ˙𝒙0 は、内部の拘束力の影響を受けず、外力だけに依存することになる。

運動方程式:式(10)

式(9)のもとで、運動方程式(7)の 𝐴 を展開すると、この章の目的である以下の運動方程式が得られる:( 𝒙𝑖⁢g=𝒙𝑖−𝒙g ) 𝑑𝑑⁢𝑡⁢(𝜇⁢𝛀)=𝚽𝜇≡[∑𝑖𝑚𝑖00∑𝑖𝑚𝑖⁢(|𝒙𝑖⁢g|2−𝒙𝑖⁢g⁢𝒙T𝑖⁢g)]𝚽≡[∑𝑖𝒇𝑖∑𝑖𝒙𝑖⁢g×𝒇𝑖](10) 導出計算は単なる作業なので以下の【11.1-注2】にまとめておく。章の冒頭の段階では、 ˙𝛀=[⋯] の形にすることを予定していたが、上式のように、外力 𝒇𝑖 だけを右辺に集める形にしたほうがきれいになる。式(10)を見ると、外力がない場合には、右辺がゼロになり、左辺の 𝜇⁢𝛀 が保存することが分かる。このようにきれいな式になるのは、基準点を重心(9)にとったおかげである。別の基準点を取った場合は、余計な項が出るし、 𝜇 がブロック対角行列にならない。

【11.1-注2】運動方程式(7)の各項の計算

運動方程式(7):(左辺の微分を括り出した) 𝑑𝑑⁢𝑡⁢(𝐴T⁢𝑀⁢𝐴⁢𝛀)−˙𝐴T⁢𝑀⁢𝐴⁢𝛀=𝐴T⁢𝑭 の各項を計算すると、以下のようになる: 𝜇≡𝐴T⁢𝑀⁢𝐴=[∑𝑖𝑚𝑖00∑𝑖𝑚𝑖⁢(|𝒙𝑖⁢g|2−𝒙𝑖⁢g⁢𝒙T𝑖⁢g)]˙𝐴T⁢𝑀⁢𝐴⁢𝛀=𝟎𝚽≡𝐴T⁢𝑭=[∑𝑖𝒇𝑖∑𝑖𝒙𝑖⁢g×𝒇𝑖] 𝒙𝑖⁢g=𝒙𝑖−𝒙g である。基準点 𝒙0 は重心 𝒙g にとっている。

導出

3つの式を1つずつ見ていく。 𝐴 は式(5)で与えられている。

第1式: 𝜇

𝜇≡𝐴T⁢𝑀⁢𝐴=[11⋯𝒙1⁢g×𝒙2⁢g×⋯]⁢⎡⎢ ⎢⎣𝑚1𝑚2⋱⎤⎥ ⎥⎦⁢⎡⎢ ⎢⎣1−𝒙1⁢g×1−𝒙2⁢g×⋮⋮⎤⎥ ⎥⎦=[∑𝑖𝑚𝑖−∑𝑖𝑚𝑖⁢𝒙𝑖⁢g×∑𝑖𝑚𝑖⁢𝒙𝑖⁢g×−∑𝑖𝑚𝑖⁢(𝒙𝑖⁢g×)2]⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣∑𝑖𝑚𝑖⁢𝒙𝑖⁢g=∑𝑖𝑚𝑖⁢(𝒙𝑖−𝒙g)=𝑚⁢𝒙g−𝑚⁢𝒙g∵式(9)=𝟎(𝒙𝑖⁢g×)2=−|𝒙|2+𝒙⁢𝒙T∵第10章の【10.2-注2】=[∑𝑖𝑚𝑖00∑𝑖𝑚𝑖⁢(|𝒙𝑖⁢g|2−𝒙𝑖⁢g⁢𝒙T𝑖⁢g)]⁢◼ 赤字部分がうまく消えるのは、重心(9)を基準にとったからである。

第2式: ˙𝐴T⁢𝑀⁢𝐴⁢𝛀

˙𝐴T⁢𝑀⁢𝐴⁢𝛀=˙𝐴T⁢𝑀⁢˙𝑿=[00⋯˙𝒙1⁢g×˙𝒙2⁢g×⋯]⁢⎡⎢ ⎢⎣𝑚1𝑚2⋱⎤⎥ ⎥⎦⁢⎡⎢ ⎢⎣˙𝒙1˙𝒙2⋮⎤⎥ ⎥⎦=∑𝑖𝑚𝑖⁢˙𝒙𝑖⁢g×˙𝒙𝑖⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣自明な関係式 ˙𝒙𝑖=˙𝒙𝑖⁢g+˙𝒙g を代入して、˙𝒙𝑖⁢g×˙𝒙𝑖⁢g=𝟎 を使う=∑𝑖𝑚𝑖⁢𝒙𝑖⁢g⏟𝟎×˙𝒙g=𝟎⁢◼ 赤字部分は、第1式のものと同じなのでゼロ。

第3式: 𝚽

𝚽≡𝐴T⁢𝑭=[11⋯𝒙1⁢g×𝒙2⁢g×⋯]⁢⎡⎢ ⎢⎣𝒇1𝒇2⋮⎤⎥ ⎥⎦=[∑𝑖𝒇𝑖∑𝑖𝒙𝑖⁢g×𝒇𝑖]◼

11.1.3剛体の運動方程式(10)の分離:式(11)

剛体の運動の計算に必要な方程式が得られたので、結果をまとめておこう。

剛体の運動方程式:式(11)

運動方程式(10)を、重心速度 ˙𝒙g に対するものと、角速度 𝝎 に対するものに分けて書くと、以下のようになる: 𝑚⁢¨𝒙g=𝒇𝑑𝑑⁢𝑡⁢(𝐼g⁢𝝎)=𝝉g⎫{ {⎬{ {⎭(11) ただし、緑赤部分の定義は以下である: 全質量:𝑚=∑𝑖𝑚𝑖外力の和:𝒇=∑𝑖𝒇𝑖慣性モーメント:𝐼g=∑𝑖𝑚𝑖⁢(|𝒙𝑖⁢g|2−𝒙𝑖⁢g⁢𝒙T𝑖⁢g)トルク:𝝉g=∑𝑖𝒙𝑖⁢g×𝒇𝑖(12)(13) 慣性モーメント 𝐼g とトルク 𝝉g に添え字 g がついているのは、基準点を重心 𝒙g に取っていることを表している。 𝒙g 以外の基準点を取った場合、式(10)の第2式は、このような単純な式にはならない。

重心の運動方程式

式(11)の第1式: 𝑚⁢¨𝒙g=𝒇(14) を見ると、見慣れた質点の運動方程式と同じ形になっている。即ち、重心 𝒙g の時間変化を知るだけであれば、剛体に働く外力の和 𝒇 さえ分かればよく、「物体の形状」や「どこに力がかかっているか」を考慮する必要はない。これまでも、キャッチボールや振り子を考える際、物体の形状を考慮してこなかったが、実際それでよかったわけである。

回転の運動方程式

同第2式: 𝑑𝑑⁢𝑡⁢(𝐼g⁢𝝎)=𝝉g(15) は、回転に関する運動方程式である。トルク 𝝉g は「回転を引き起こそうとする力」であり、大きくなるほど、角速度 𝝎 が変化しやすくなる。一方、慣性モーメント 𝐼g は、式(14)と見比べれば分かるように、質量 𝑚 に対応する量である。実際、 𝑚 が大きくなると速度 ˙𝒙g が変化しづらくなるように、 𝐼g が大きくなるほど 𝝎 が変化しづらくなる。ただし、 𝐼g は行列であり、時間にも依存するため、式(15)は、式(14)よりも複雑である。式(15)の性質について、次節にまとめておく。角運動量 𝑳 回転の運動方程式(15)において、左辺のトルク 𝝉g がゼロであれば、右辺の 𝑳≡𝐼g⁢𝝎 が保存する。この 𝑳 を角運動量という。

11.1.4参考回転の運動方程式(15)の性質

回転に関する運動方程式(15)の性質について、いくつか補足しておく。

【11.1-注3】慣性モーメント 𝐼g の時間微分

慣性モーメント 𝐼g の時間微分は、以下のようになる: ˙𝐼g=𝝎×𝐼g−𝐼g⁢𝝎×(17)

導出

𝐼g の定義式(12)の微分を素直に計算すると以下のようになる:(見やすさのため 𝒙𝑖⁢g を 𝒙𝑖 と略記している) ˙𝐼g=𝑑𝑑⁢𝑡⁢∑𝑖𝑚𝑖⁢(|𝒙𝑖|2−𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖)⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣𝑑𝑑⁢𝑡⁢|𝒙𝑖|2=2⁢𝒙T𝑖⁢˙𝒙𝑖=2⁢𝒙T𝑖⁢𝝎×𝒙𝑖=0𝑑𝑑⁢𝑡⁢𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖=˙𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖+𝒙𝑖⁢˙𝒙T𝑖=𝝎×𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖−𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖⁢𝝎×=∑𝑖𝑚𝑖⁢(−𝝎×𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖+𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖⁢𝝎×) 一方、式(17)の右辺も、 𝐼g の定義式(12)を代入すれば同じ結果になる: 𝝎×𝐼g−𝐼g⁢𝝎×=𝝎×⁢∑𝑖𝑚𝑖⁢(|𝒙𝑖|2−𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖)=𝝎×−∑𝑖𝑚𝑖⁢(|𝒙𝑖|2−𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖)⁢𝝎×=∑𝑖𝑚𝑖⁢(−𝝎×⁢𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖+𝒙𝑖⁢𝒙T𝑖⁢𝝎×)◼

11.2剛体の運動の計算

運動方程式(11)は、重心速度 ˙𝒙g と角速度 𝝎 の時間発展を与える方程式である。よって、与えられた初期値の下で、これを解くことにより、「剛体の運動」、即ち、「重心位置と回転の時間発展」が計算できることになる。

しかし、実際に計算を行うためには、はっきりさせるべき点がある。この節では、「初期値をどのように設定するか」、「どのように運動方程式を解けばよいか」について議論を行う。運動方程式を、見通しの良い1階の正規形に変形すると、式(21)のようになる。

11.2.1剛体のモデリング

まず当然であるが、剛体の形状を定義する必要がある。

モデル配置での剛体の形状を定義する

剛体の形状を定義するためには、剛体の配置(位置と向き)を決めてやる必要があるわけだが、剛体の変形しないので、都合の良い任意の配置を考えてよい。このような、剛体の形状の定義のための配置のことを、モデル配置と呼ぶことにする。以下、モデル配置での変数には、チルダ ˜ をつけて区別することにする。このモデル配置において、各質点要素の質量 𝑚𝑖 と座標 ˜𝒙𝑖 を与えてやれば、剛体の形状が定義できたことになる。

モデル配置と質点要素の関係:式(18)

剛体の配置を決めるのは、重心位置 𝒙g と回転行列 𝑅 である。これらを用いて、「モデル配置での質点要素の座標 ˜𝒙𝑖 」と「任意の配置での座標 𝒙𝑖 」の関係式を書き下すと以下のようになる:(前章の10.1.3節) 𝒙𝑖=𝒙g+𝑅⁢(˜𝒙𝑖−˜𝒙g)(18) よって、 𝒙g,𝑅 の時間変化を計算すれば、全ての質点要素 𝒙𝑖 の運動も、モデル配置から決まる。重心 ˜𝒙g モデル配置での重心 ˜𝒙g は、以下で与えられる:(式(9)) ˜𝒙g=1𝑚⁢∑𝑖𝑚𝑖⁢˜𝒙𝑖

慣性モーメントの公式:式(19)

慣性モーメント 𝐼g は、運動方程式(11)に現れる量なので、剛体の運動を計算するには必要な量である。しかし、全ての質点要素に対して和をとるという定義式(12)を、配置が変化するたびに計算し直すのは大変である。実は、単純な公式が存在し、モデル配置での値: ˜𝐼g=∑𝑖𝑚𝑖⁢(|˜𝒙𝑖⁢g|2−˜𝒙𝑖⁢g⁢˜𝒙T𝑖⁢g) さえ求めておけば、 𝐼g は、以下の【11.2-注1】の公式で容易に計算できる。

【11.2-注1】慣性モーメントの回転の公式

モデル位置での慣性モーメントが ˜𝐼g である剛体が、回転行列 𝑅 だけ回転したとする。回転後の慣性モーメント 𝐼g は以下のようになる: 𝐼g=𝑅⁢˜𝐼g⁢𝑅T(19) このように、回転 𝑅 のみに依存し、重心 𝒙g には依存しない。なお、うまくモデル配置を設定すると、 ˜𝐼g を対角行列(以下の【11.2-注2】)にすることができ、式(19)の計算がより簡単になる。

証明

慣性モーメント ˜𝐼g,𝐼 の定義は ˜𝐼g=∑𝑖𝑚𝑖⁢(|˜𝒙𝑖⁢g|2−˜𝒙𝑖⁢g⁢˜𝒙T𝑖⁢g)𝐼g=∑𝑖𝑚𝑖⁢(|𝒙𝑖⁢g|2−𝒙𝑖⁢g⁢𝒙T𝑖⁢g) である。これの第2式に式(18): 𝒙𝑖⁢g=𝑅⁢˜𝒙𝑖⁢g を代入して、同第1式をくくりだせば、式(19)が得られる( 𝑅⁢𝑅T=1 を使う)。 ◼

【11.2-注2】慣性モーメントは対角化可能

任意の剛体の慣性モーメント 𝐼g は、剛体を適当に回転させることによって、対角化することができる。即ち、以下の形にできる: 𝐼g=⎡⎢ ⎢⎣𝐼1000𝐼2000𝐼3⎤⎥ ⎥⎦(20) 対角成分 𝐼1,𝐼2,𝐼3 を主慣性モーメントという。よって、モデル配置をうまくとれば、 ˜𝐼 を対角行列にすることができる。結局、剛体の個性を表現するには、主慣性モーメントの3成分と、全質量、あわせて4成分だけで十分であり、これらが一致する剛体の運動は、本質的には等しい。

証明の概要

剛体を回転させた時の慣性モーメントの変化は、式(19)で与えられる。一方、線形代数の定理により、「任意の実対称行列 𝐴 は、ある回転行列 𝑅 によって対角化できる(= 𝑅⁢𝐴⁢𝑅T が対角行列になる)」ことが知られている。慣性モーメントは対称行列なので、なぜなら、定義式(12)の全ての項が対称行列だから。この定理が使えて、回転によって対角化できることが言える。 ◼

11.2.2運動方程式(21)を解けば運動が求まる

ではいよいよ、運動方程式の解法を考える。

運動方程式を正規形にする:式(21)

上述の通り、剛体の運動を計算することは、重心位置 𝒙g⁡(𝑡) および回転行列 𝑅⁡(𝑡) の時間変化を計算することに他ならない。そのためには、運動方程式(11)を解けば良いわけだが、例によって、1階の微分方程式の形に変形しておくと数値計算しやすい(第3章の【3.1-注1】): 𝑑𝑑⁢𝑡⁢⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣𝒙g˙𝒙g𝑅𝐼g⁢𝝎⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦=⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣˙𝒙g𝑚−1⁢𝒇𝝎×𝑅𝝉g⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦(21) 上2成分が「重心 𝒙g とその微分」に対する微分方程式、下2成分が「回転行列 𝑅 とその微分」に対する微分方程式である。第3成分を導出するには、前章の10.2.2節で述べた角速度 𝝎 の定義式: 𝝎×=˙𝑅⁢𝑅T に 𝑅 を右乗すればよい。第4成分は、 ˙𝝎=[⋯] の形(式(16))にしてもよい。

運動方程式(21)を解く

運動方程式(21)は、赤字部分 [⋮] に対する微分方程式である。この式は、以下の手順で解くことができる。

1初期値を与える

初期時刻 𝑡=0 における [⋮] 部分の値を与える。なお、回転行列 𝑅 は、モデル配置からの回転を表すので、 𝑡=0 であっても単位行列とは限らない。慣性モーメント 𝐼g は、「予め計算したモデル配置での値 ˜𝐼g 」と「 𝑅 」から、公式(19)を使って求める。

2漸化式を解く

後は、微分方程式を解けばよい。1次近似から得られる漸化式: [⋮]𝑡+𝛿⁢𝑡≐[⋮]𝑡+𝑑𝑑⁢𝑡⁢[⋮]𝑡⋅𝛿⁢𝑡 の右辺第2項に式(21)を代入したもの: [⋮]𝑡+𝛿⁢𝑡≐[⋮]𝑡+⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣˙𝒙g𝑚−1⁢𝒇𝝎×𝑅𝝉g⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦𝑡⋅𝛿⁢𝑡(22) は、 𝑡=0 から順に解く。これを続けて、微小な時間幅 𝛿⁢𝑡 ずつ、任意の時刻 𝑡 まで進めることで、 [⋮]𝑡 、即ち、 𝒙g⁡(𝑡),𝑅⁡(𝑡) が求まる。式(22)の右辺を計算するためには、 [⋮]𝑡 が分かれば十分であることに注意。もちろん、外力の和 𝒇 とトルク 𝝉g を求めるためには、どのような外力が働いているかを決めておく必要がある。式(22)による解法は、第3章の【3.1-注1】で述べたオイラー法である。そこでも指摘した通り、式(22)は精度が低いので、実用上は誤差の少ない4次のルンゲ・クッタ法などを使う。

参考「回転の自由な座標」での運動方程式

式(21)では、回転行列 𝑅 の時間発展を計算対象としたが、 𝑅 の代わりに、第10章の10.3節で述べた、オイラー角などの自由な座標 𝜽 を用いることもできる。その場合、同章の【10.3-注2】や【10.3-注3】に示した 𝝎 と ˙𝜽 の関係式を ˙𝜽=𝐴⁢𝝎 と書くことにして、以下のようになる: 𝑑𝑑⁢𝑡⁢⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣𝒙g˙𝒙g𝜽𝐼g⁢𝝎⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦=⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣˙𝒙g𝑚−1⁢𝒇𝐴⁢𝝎𝝉g⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦ 𝜽 の初期値は任意の値をとることができる。

11.2.3例題重力は、剛体の回転に影響しない

例として、外力が、一様な重力のみである場合を考える。この時、外力の総和 𝒇 およびトルク 𝝉g は、例外的に簡単になる:

𝒇=∑𝑖𝑚𝑖⁢𝒈=𝑚⁢𝒈𝝉g=∑𝑖𝒙𝑖⁢g×𝑚𝑖⁢𝒈=𝟎∵∑𝑖𝑚𝑖⁢𝒙𝑖⁢g=𝑚⁢(𝒙g−𝒙g)=𝟎

重心の運動方程式

まず、重心 𝒙g の運動方程式は、運動方程式(11)の第1式より 𝑚⁢¨𝒙g=𝑚⁢𝒈 となる。これは、第1章の質点のキャッチボールの場合とまったく同じである。

回転の運動方程式

また、回転部分の運動方程式については、トルク 𝝉g がゼロなのだから、同第2式より 𝑑𝑑⁢𝑡⁢(𝐼g⁢𝝎)=𝟎(23) となる。

回転の数値シミュレーション

以上を踏まえ、回転部分のみに着目して、トルクがゼロの場合の運動方程式(23)について、数値計算を行う。実際に計算を行うと、右図のようになる。