力学編 第13章

滑り・転がり

「曲がった床の上に拘束された剛体」の運動方程式を求める場合、拘束力をあらわに書き下してしまう形になる。実際の運動方程式は、床を滑る場合は式(25)、転がる場合は式(36)で与えられる。

曲がった床の上を、滑ったり転がったりしている剛体の運動を計算したい。剛体に課せられる拘束条件としては、「滑り拘束」(=摩擦なく滑る)と「転がり拘束」(=摩擦が働き、全く滑らずに転がる)を考える。

運動方程式(1)の拘束力 𝒇c と拘束トルク 𝝉cg を求めればよい

床の上の剛体の場合、拘束条件は、床との接点 𝒙c に対して課せられる。 𝒙c の位置は時々刻々変化するので、前章の固定点の議論は使えない。ではどうすべきだろうか。

運動方程式の導出の方針案

運動方程式を求めることが目的となるわけだが、そのための戦略として、以下の2種類が考えられる:

2つ目を採用する

床の上の運動では、拘束の対象となる接点 𝒙c が変化するため、(自由な速度を見つける必要がある)1つ目の方法は難しそうである。よって、式(1)の拘束力を書き下すという、2つ目の方法を採用しよう。

「拘束条件から拘束力を求める公式」が欲しい

拘束力を書き下したいわけだが、考え方としては、「拘束条件を式で表せば、ダランベールの原理から拘束力が決まる」という、第8章の【8.2-注4】の導出をなぞることになる。ただし今回は、剛体という「拘束条件の塊」に、さらに拘束条件が課されるという多層構造になっているので、【8.2-注4】がそのまま使えるわけではない。よって、「拘束条件が追加された場合の拘束力の公式」を導出しておくのが良いだろう。加えて、後述するが、「拘束条件が 𝑮=𝟎 の形で描けない」という点も、これまでとは異なる。

この章の方針

最初に議論すべきは、1剛体に拘束条件が追加された場合の拘束力 𝒇c,𝝉cg を求める一般公式の導出と、2実際に、床の上を運動する剛体に課せられた拘束条件の定式化である。これらが揃って初めて、実際の計算手順を議論できる。この章では、この方針に従って、以下のように4つの節に分けて議論する。13.1拘束条件が追加された剛体の運動方程式13.2剛体と床が接しているための条件13.3滑り拘束13.4転がり拘束

13.1拘束条件が追加された剛体の運動方程式

この節では、剛体に拘束条件を課した時の拘束力を一般的に求め、その場合の運動方程式(12)を導く。これにより、後の節で、滑り・転がりの場合の拘束条件を求めれば、運動方程式が確定する。

この節の表記法

形式的な計算を見やすくするため、第11章の11.1.2節のように、運動方程式(1)を以下のようにまとめておく: 𝑑𝑑⁢𝑡⁢(𝜇⁢𝛀)=𝚽+𝚽c(2) ただし、各々の記号は以下のように定義している: 𝜇≡[𝑚00𝐼g],𝛀≡[˙𝒙g𝝎],𝚽≡[𝒇𝝉g],𝚽c≡[𝒇c𝝉cg] 運動方程式を決めるためには、拘束力 𝚽c を求めればよい。重心を基準にしていることに注意。 𝜇 などは 𝜇g のように書いたほうがよいが、見づらいので略記している。

13.1.1剛体の速度 𝛀 に対する拘束条件の一般形:式(6)

まず、剛体の速度 𝛀 に対する拘束条件が、どのような形で与えられるかを考える。

「座標に対する拘束条件」を微分してみる:式(4)

一般に、座標 𝑿 に対する拘束条件の場合は 𝑮⁡(𝑡,𝑿)=𝟎(3) の形で与えられる。速度 ˙𝑿 に対する条件は、これを 𝑡 で微分したもの: 𝜕𝑮𝜕𝑿⁢˙𝑿+𝜕𝑮𝜕𝑡=𝟎(4) である。

剛体の速度 𝛀 に対する拘束条件:式(6)

剛体の場合、 ˙𝑿 は質点要素の速度であり、剛体の速度 𝛀 との関係式は、ある行列 𝐴 を用いて ˙𝑿=𝐴⁢𝛀(5) の形で書ける(第11章の【11.1-注1】)。そこで、この関係式を式(4)に代入すると、 𝛀 に対する拘束条件は、以下の形になる: 𝐵⁢𝛀+𝒃=𝟎(6) これが 𝛀 に対する拘束条件の一般系だと仮定しよう。

参考式(6)でしか表せない拘束条件がある

速度の拘束条件(6)は、座標の拘束条件(3)をもとに導いたが、この2つは等価ではない。即ち、式(3) → 式(6)は言えるが、その逆は言えない。詳しくはこの節の最後の【13.1-注3】で述べるが、例えば、転がり拘束の場合、拘束条件は速度の式(6)の形で書けるにもかかわらず、座標の式(3)の形にすることはできない(存在しない)。即ち、速度に対する拘束条件(6)は、座標のもの(3)よりも広いものとなっている。

13.1.2ダランベールの原理(9)により、運動方程式は式(12)

拘束条件(6)から拘束力 𝚽c を導くには、ダランベールの原理を適用すればよい。

復習質点要素に対するダランベールの原理::式(7)

ダランベールの原理によると、質点要素が受ける拘束力 𝑭c は、拘束面に接する全ての速度 ˙𝑿 と垂直: ˙𝑿T⁢𝑭c=0(7) となるのだった(第8章の8.2.3節)。「拘束面に接する」と注釈した通り、式(7)の ˙𝑿 は、厳密には、仮想変位、即ち、拘束面の接空間内のベクトルである(第8章の8.2.4節)。拘束条件(4)で言えば、 ˙𝑿 は、時間変化を表す0次の項を無視した 𝜕𝑮𝜕𝑿⁢˙𝑿=𝟎 を満たすものである。

剛体に対するダランベールの原理:式(9)

式(7)は、「質点要素の拘束力と速度」の関係式なので、「剛体の拘束力 𝚽c と速度 𝛀 」の関係式にしたい。まず、 𝑭c と 𝚽c の関係式は 𝚽c=𝐴T⁢𝑭c(8) である(第11章の【11.1-注2】)。式(7)に式(5)を代入して ˙𝑿 を消した後、式(8)を使って 𝑭c も消せば、求めたい関係式が得られる: 𝛀T⁢𝚽c=0(9) ただし、この式の 𝛀 も仮想変位なので、 𝛀 が従うのは、拘束条件(6)そのものではなく、時間依存性を除いたものである( 𝒃=𝟎 としたもの): 𝐵⁢𝛀=𝟎(10)

剛体の運動方程式:式(12)

(9)は、質点に対する式(7)と同じ形である。よって、拘束力を書き下す方法も第8章と同じである。実際に計算して、運動方程式の形で書き下すと、以下の【13.1-注1】のようになる。

【13.1-注1】拘束された剛体の運動方程式:式(12)

剛体に、速度 𝛀 に対する拘束条件 𝐵⁢𝛀+𝒃=𝟎(11) が課せられているとする。この時、剛体の運動方程式は以下のようになる: 𝑑𝑑⁢𝑡⁢(𝜇⁢𝛀)=𝚽+𝚽c𝚽c≡𝐵T⁢𝝀𝝀≡−(𝐵⁢𝜇−1⁢𝐵T)−1⁢[˙𝐵⁢𝛀+˙𝒃+𝐵⁢𝜇−1⁢(𝚽−˙𝜇⁢𝛀)](12)(13) なお、 ˙𝜇⁢𝛀 は以下のように書ける:(第11章の【11.1-注3】) ˙𝜇⁢𝛀=[0𝝎×𝐼g⁢𝝎]

導出

導出の流れは、第8章の【8.2-注4】と同じである。

1拘束力 𝚽c の書き換え:式(14)

式(10)を満たす全ての速度 𝛀 に対して、拘束力 𝚽c は式(9)を満たすのだから、拘束力 𝚽c は、未知の係数 𝝀 を用いて、以下のように書ける(第8章の【8.2-注3】): 𝚽c=𝐵⁢𝝀(14)

2係数 𝝀 を決める

𝝀 を決めるには、運動方程式(2)と拘束条件(6)を連立すればよい。まず、運動方程式(2)に式(14)を代入し、左辺の時間微分を実行しておく: ˙𝜇⁢𝛀+𝜇⁢˙𝛀=𝚽+𝐵T⁢𝝀∴˙𝛀=𝜇−1⁢(𝚽+𝐵T⁢𝝀−˙𝜇⁢𝛀) 𝝀 を求めるには、 ˙𝛀 を消せばよいので、拘束条件(11)の時間微分: ˙𝐵⁢𝛀+𝐵⁢˙𝛀+˙𝒃=𝟎 に代入してやる。後は、その式を 𝝀=[⋯] の形に変形すれば、式(13)になる。 ◼

13.1.3参考初期値は、配置に対する拘束条件も満たすようにとる

式(12)によって運動方程が確定したら、後は、初期値を与えてやることで運動が計算できる。初期値は、拘束条件を満たす必要があるが、厄介な点がある。初期値さえ拘束条件を満たしていれば、その後の運動方程式(12)の解は、自動的に拘束条件を満たし続ける。(そうなるように式(13)の 𝝀 を求めた。)

「配置の拘束条件」も考慮する必要がある

まず、 𝑡=0 における初期速度 𝛀 は、もちろん拘束条件(11)を満たさなければならない。これに加えて、一般には、剛体の配置(位置 𝒙g と向き 𝜽 )にも拘束条件が課される(例えば床に接しているという条件)。従って、 𝑡=0 における初期配置 𝒙g,𝜽 についても、拘束条件を考慮する必要がある。

「配置の拘束条件」は減ることがある

もし、拘束条件が、速度 𝛀 を含まない関係式 𝑮⁡(𝑡,𝒙g,𝜽)=𝟎 の形に書けたならば、初期値が満たすべき拘束条件は、第8章のように、 𝑮=˙𝑮=𝟎 である。その場合、拘束条件(11)は ˙𝑮=𝟎 と等価である。問題なのは、式(11)に対応する 𝑮 が常に存在するとは限らないということである。 𝑮 が存在しない場合、拘束条件(11)は非可積分であるという(以下の【13.1-注2】)。非可積分な拘束条件を含む場合、配置 𝒙g,𝜽 に対する条件は、速度 𝛀 に対する条件(11)よりも少なくなる。

まとめ:初期値の取り方

従って、速度の式(11)として拘束条件が与えられている場合、正しい初期値を与えるためには、配置に対する拘束条件 𝑮=𝟎 も特定する必要がある。ただし、 𝑮 の要素数は、式(11)の本数より少ないことがある。そのうえで、初期値は、式(11)と 𝑮=𝟎 を満たすようにとればよい。 𝑮 は物理的に決まることが多い。例えば、以下の13.4節で述べるように、転がり拘束は非可積分だが、「床に接する」という条件が 𝑮=𝟎 に対応する。

【13.1-注2】拘束条件の可積分性

微分形の拘束条件: 𝐵⁢˙𝑿+𝒃=𝟎(15) が、何らかの拘束条件 𝑮=𝟎 の時間微分: ˙𝑮=𝟎(16) で表せる時、式(15)は可積分(あるいはホロノミック)であるという。逆に、 𝑮 が存在しない場合、非可積分(あるいは非ホロノミック)であるという。 𝐵,𝒃,𝑮 は (𝑡,𝑿) の関数である。

補足

可積分な例

例えば、 ˆ𝒙T⁢˙𝒙=𝟎 という拘束条件は、 𝑑𝑑⁢𝑡⁢(|𝒙|−𝑙)=𝟎 と書けるので、可積分である。これは、原点からの距離 𝑙 が一定という拘束条件である。 𝑙 は、問題設定の中で与えられているはずである。

非可積分な例

「転がり拘束」は非可積分である。床の上を転がるボールを考えると、運動の自由度は、「 𝑧 軸周りのスピン」と「前後/左右に転がす操作」の3自由度である。よって、もし、転がり拘束が可積分であれば、3つの拘束条件(剛体の自由度 6 -自由度 3 ) 𝐺1=𝐺2=𝐺3=0 が存在し、ボールの配置の 6 自由度(位置 𝒙g と角度 𝜽 )のうち、自由に決められるのは 3 成分のみとなる。しかし、これは現実と矛盾する。実際、実験してみるとすぐ分かるが、ボールをうまく転がしてやることで、床の上の任意の位置に(=2自由度)、任意の向きで(=3自由度)配置することができる。即ち、配置の自由度は5であり、運動(速度)の3自由度より大きくなる。よって、可積分ではありえない。

𝑮 を数学的に求めるのは難しい

可積分の場合には、式(16)を満たす 𝑮 を特定したくなるが、単純に、式(15)と式(16)の左辺同士を見比べて ˙𝑮=𝐵⁢˙𝑿+𝒃 となる 𝑮 を探せばよいというわけではない。というのも、拘束条件(15)には、逆行列を持つ任意の行列値関数 𝑓⁡(𝑡,𝑿) を両辺に掛ける自由度があるからである。従って、解くべきは ˙𝑮=𝑓⁡(𝑡,𝑿)⁢(𝐵⁢˙𝑿+𝒃)(17) である。この 𝑓⁡(𝑡,𝑿) も考慮する必要があるので、 𝑮 を数学的に特定するのは難易度が高い。ただし、可積分かどうかの判定自体は、第15章の15.3節で述べるフロベニウスの定理を使えば、比較的容易である。

13.2剛体と床が接しているための条件

拘束条件から運動方程式を決める公式が得られた(前節の式(12))。この節では、次のステップとして、剛体と床が接触し続けるための、(剛体の速度 ˙𝒙g,𝝎 に対する)拘束条件(24)を導く。滑り拘束と転がり拘束は両方とも、この条件を満たさなければならない。なお、簡単のため、床と剛体は1点でのみ接しているとする。

13.2.1モデリング:時刻 𝑡 での剛体の形状は式(21)

まず準備として、床の形状を 𝐺≤0 、剛体の形状を 𝐻≤0 で表す。

床の形状の定義:式(18)

床の形状を 𝐺⁡(𝑡,𝒙)≤0(18) で表すことにする(右図)。即ち、これを満たす 𝒙 の集合が床を構成する。 𝑡 に依存しているように書いているのは、時間とともに床が変形してもよいことを表している。

剛体の形状の定義:式(19)

また、モデル配置における剛体の形状を ˜𝐻⁡(𝒙)≤0(19) で表すことにする(右図)。モデル配置は任意であり、床と接触するようにとる必要はない。

任意の配置での剛体の形状:式(20), (21)

任意の時刻 𝑡 での剛体の形状も 𝐻⁡(𝑡,𝒙)≤0(20) で表す。 𝐻⁡(𝑡,𝒙) は、剛体の配置(重心位置 𝒙g 、回転行列 𝑅 )と、モデル位置での形状 ˜𝐻 を用いて、以下のように書ける: 𝐻⁡(𝑡,𝒙)=˜𝐻⁡(𝑅T⁢(𝒙−𝒙g)+˜𝒙g)(21) ˜𝒙g は、モデル位置での剛体の重心である。 𝐻 が時刻 𝑡 に依存しているのは、剛体の運動によって配置 𝒙g,𝑅 が変化するためであり、剛体自体が変形するわけではない。式(21)の導出モデル位置での質点要素 ˜𝒙𝑖 が満たす式 ˜𝐻⁡(˜𝒙𝑖)≤0 に、時刻 𝑡 での質点要素の位置 𝒙𝑖=𝒙g+𝑅⁢(˜𝒙𝑖−˜𝒙g) を使って、 ˜𝒙𝑖 を消去すればよい(回転行列の性質 𝑅−1=𝑅T を使う)。 ◼

13.2.2剛体の配置 𝒙g,𝑅 に対する拘束条件:式(22)

それでは、この節の目的である、剛体と床が接触しているための条件を考えよう。

床と剛体の接触条件:式(22)

剛体と床の接触点を 𝒙c とおく(右図)。 𝒙c が満たす条件は、「 𝒙c が剛体と床の両方の表面にあり、かつその点での接平面が一致する」ことなので、以下のように書ける: 𝐺=0𝐻=0ˆ∇𝐺+ˆ∇𝐻=𝟎⎫{ {⎬{ {⎭(22) 𝐺,𝐻 は、ともに (𝑡,𝒙c) での値。 ˆ∇𝐺 は ∇𝐺 の大きさを正規化したものである( ˆ∇𝐻 についても同様)。 ∇𝐺,∇𝐻 はそれぞれ 𝐺,𝐻 が大きくなる方向を向くので、右図のように互いに逆を向くことに注意。また、これ以降、床と剛体の接触点は、1点のみと仮定する。

剛体に対する拘束条件は、1つのみ

式(22)の第3式は、 3 成分であるが、実際には 2 つの条件しか与えない。 ∇𝐺,∇𝐻 の一方が与えられた時に、他方の向き(=2自由度)を決めるための条件だからである。よって、式(22)は全体として 4 つの条件を与える。これら全てが拘束条件になるわけではなく、 𝒙c の3成分を決定するために 3 つの条件を消費する。よって、剛体に対する拘束条件の数は、残りの 4−3=1 つとなる。例えば、水平な床の上の球を考えると、拘束条件は球の高さを固定する 1 つだけであり、水平方向や回転方向は自由に動ける。その 1 つが、式(21)を通して剛体の位置・向き 𝒙g,𝑅 に対する拘束条件を与える。

13.2.3剛体の速度 𝛀 に対する拘束条件:式(25)

運動方程式を導くには、剛体の速度 𝛀 に対する拘束条件(11)が必要である。よって、式(22)を微分して、 𝛀 に対する条件にしたい。

拘束条件の時間微分:式(23)

実際に式(22)を時間微分すると以下のようになる:(接触点 𝒙c も時間依存することに注意) 𝜕𝐺𝜕𝑡+(∇𝐺)T⁢˙𝒙c=0𝜕𝐻𝜕𝑡+(∇𝐻)T⁢˙𝒙c=0(𝜕ˆ∇𝐺𝜕𝑡+𝜕ˆ∇𝐻𝜕𝑡)+(𝜕ˆ∇𝐺𝜕𝒙+𝜕ˆ∇𝐻𝜕𝒙)⁢˙𝒙c=𝟎⎫{ { { { {⎬{ { { { {⎭(23) 𝐻 の時間微分には剛体の速度 𝛀 が含まれているので、 𝛀 に対する拘束条件になっている。式(22)の場合と同様に、式(23)は、「 𝛀 に対する1つの条件」と「接触点の速度 ˙𝒙c に対する3つの条件」が合わさったものである。なお、上述の通り、 𝐺 の時間依存性は「床の移動・変形」によるもの、 𝐻 の時間依存性は「剛体の配置 𝒙g,𝑅 の時間変化」によるものである。微分公式式(23)の導出は、以下の微分公式を各項に使うだけである: 𝑑𝑑⁢𝑡⁢𝑽⁡(𝑡,𝒙⁡(𝑡))=𝜕𝑽𝜕𝑡+𝜕𝑽𝜕𝒙⁢˙𝒙

剛体の速度 𝛀 に対する拘束条件を分離する:式(25)

運動方程式を得るためには、拘束条件を式(11)( 𝐵⁢𝛀+𝒃=𝟎 )の形にする必要がある。そのために、上式(23)から、剛体の 𝛀 に対する拘束条件を分離したい。 ˙𝒙c を消去すればよいのだが、これは簡単で 式(23)の第1式|∇𝐺|+同第2式|∇𝐻| に、式(22)の第3式を代入すればよい: 1|∇𝐺|⁢𝜕𝐺𝜕𝑡+1|∇𝐻|⁢𝜕𝐻𝜕𝑡=0(24) これが 𝛀 に対する拘束条件であり、実際に式(11)の形に変形すると、以下の【13.2-注1】の式(25)のようになる。

【13.2-注1】床との接触条件

床と剛体が接触し続けている時、剛体の速度 𝛀 に対する拘束条件は、以下のようになる: 𝐵⁢𝛀+𝑏=0𝐵≡(∇𝐺)T⁢[1−(𝒙c−𝒙g)×]𝑏≡𝜕𝐺𝜕𝑡⎫{ { {⎬{ { {⎭(25) 床の形状は 𝐺⁡(𝑡,𝒙)≤0 で与えられ、 𝒙c は剛体と床の接触点である。特に、床が静止している場合( 𝑏=0 )、この式は、接触点 𝒙c における「剛体の質点要素の速度 [⋯]⁢𝛀 」が、 ∇𝐺 と垂直、即ち、拘束面と平行になっていることを意味しており、直感的にも自然である(そうでなかったら、めり込んだり離れたりしてしまう)。

導出

速度 𝛀 に対する拘束条件(24):(再掲) 1|∇𝐺|⁢𝜕𝐺𝜕𝑡+1|∇𝐻|⁢𝜕𝐻𝜕𝑡=0(26) から式(25)を導くには、 𝜕𝐻𝜕𝑡 に含まれている 𝛀 を括りだせばよい。

𝜕𝐻⁡/𝜕𝑡 の計算:式(30)

そのためには、 𝐻 とモデル形状 ˜𝐻 の関係式(21):(再掲) 𝐻⁡(𝑡,𝒙)≡˜𝐻⁡(𝑅T⁢(𝒙−𝒙g)+˜𝒙g⏟___⏟___⏟≡˜𝒙)(27) を使えばよい。 𝑅,𝒙g の時間微分が 𝛀 に対応する。この式(27)の両辺の 𝑡 微分および 𝒙 微分を取ると、それぞれ以下のようになる:( 𝜕𝜕𝑡 が 𝑅,𝒙g だけに作用することに注意) 𝜕𝐻𝜕𝑡=𝑑⁢˜𝐻𝑑⁢˜𝒙⁢𝜕˜𝒙𝜕𝑡⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣𝜕˜𝒙𝜕𝑡=𝜕𝜕𝑡⁢[𝑅T⁢(𝒙−𝒙g)+˜𝒙g]=˙𝑅T⁢(𝒙−𝒙g)+𝑅T⁢(𝟎−˙𝒙g)+𝟎=−𝑅T⁢[𝝎×(𝒙−𝒙g)+˙𝒙g]∵˙𝑅=𝝎×𝑅=−𝑅T⁢[1−(𝒙−𝒙g)×]⁢𝛀∵𝛀≡[˙𝒙g𝝎]=−𝑑⁢˜𝐻𝑑⁢˜𝒙⁢𝑅T⁢[1−(𝒙−𝒙g)×]⁢𝛀𝜕𝐻𝜕𝒙≡(∇𝐻)T=𝑑⁢˜𝐻𝑑⁢˜𝒙⁢𝜕˜𝒙𝜕𝒙⏟𝑅T(28)(29) 後は、第1式に、第2式を代入して ˜𝐻 部分を消去すると以下を得る: 𝜕𝐻𝜕𝑡=−(∇𝐻)T⁢[1−(𝒙−𝒙g)×]⁢𝛀(30)

式の取りまとめ

後は、式(30)を式(26)に代入すれば、与式が得られる。ただし、式(30)の 𝒙 は 𝒙c で置き換えておく。また、式(22)の第3式 ˆ∇𝐺+ˆ∇𝐻=𝟎 を使って、 ∇𝐻 を消去して、 𝐺 に関する項で統一する。 ◼

13.2.4参考接触点 𝒙c の速度 ˙𝒙c :式(32)

条件式(23)は、接触点の速度 ˙𝒙c を決める式でもある。これを実際に求めよう。

拘束条件(23)の第3式に着目する → 条件が足りない

同式の第3式:(再掲) (𝜕ˆ∇𝐺𝜕𝑡+𝜕ˆ∇𝐻𝜕𝑡)+(𝜕ˆ∇𝐺𝜕𝒙+𝜕ˆ∇𝐻𝜕𝒙)⁢˙𝒙c=𝟎(31) は3成分の式なので、逆行列をかけて ˙𝒙c=[⋯] の形に変形できればよいが、それはできない。なぜなら、 (⋯) 部分は、単位ベクトル ˆ∇𝐺,ˆ∇𝐻 の微分の性質(第8章の【8.3-注1】)により、拘束面への射影行列を含むからである。(単位行列以外の)射影行列は逆行列を持たない。実際、行列 𝑃 が逆行列を持つと仮定して、射影行列であるための条件 𝑃2=𝑃 に、 𝑃−1 を辺々かければ 𝑃=1 となる。

残りの拘束条件も使って、式(31)が解けるようにしたい

よって、 ˙𝒙c を求めるには、式(31)だけではだめで、条件式(23)の残りの式も使う必要がある。方針としては、式(31)に適当な項を加えて、係数行列 (⋯) が逆行列を持つようにすればよい。上述の通り、 (⋯) は「拘束面への射影行列」を含むのだから、逆行列を持たせるには、「拘束面の垂線方向(= ∇𝐺 方向)への射影行列」に比例する項を加えればよさそうである。

∇𝐺 方向の条件を加えれば解ける:式(32)

式(23)の第1式に着目すると、これは「 ˙𝒙c の ∇𝐺 方向成分を決める式」になっている。よって、射影行列の形に変形でき、実際、 ∇𝐺 を辺々かければ以下をのようになる: 𝜕𝐺𝜕𝑡∇𝐺+∇𝐺⁡(∇𝐺)T⁢˙𝒙c=0 後は、これを式(31)に辺々加えればよい: (𝜕ˆ∇𝐺𝜕𝒙+𝜕ˆ∇𝐻𝜕𝒙+∇𝐺⁡(∇𝐺)T)⁢˙𝒙c=−(𝜕ˆ∇𝐺𝜕𝑡+𝜕ˆ∇𝐻𝜕𝑡+𝜕𝐺𝜕𝑡∇𝐺) 新たな係数行列 (⋯) は逆行列を持つので、 ˙𝒙c について解ける: ˙𝒙c=−𝐾−1⁢(𝜕ˆ∇𝐺𝜕𝑡+𝜕ˆ∇𝐻𝜕𝑡+𝜕𝐺𝜕𝑡∇𝐺)𝐾≡(⋯)=𝜕ˆ∇𝐺𝜕𝒙+𝜕ˆ∇𝐻𝜕𝒙+∇𝐺⁡(∇𝐺)T(32)(33) 以上により、条件式(23)を、「速度 𝛀 に対する1つの拘束条件(25)」と「 ˙𝒙c を与える3成分の式(32)」に過不足なく分離することができた。 𝐾 が逆行列を持つこと任意のゼロでないベクトル 𝛿⁢𝒙≠𝟎 に対して、 𝐾⁢𝛿⁢𝒙≠𝟎 となることを言えばよい。まず、 𝐾⁢𝛿⁢𝒙 において、式(33)の第1, 2項がかかる部分は「拘束面に平行」になり、第3項がかかる部分は「拘束面に垂直」になる。1 𝛿⁢𝒙 が拘束面に垂直な(= ∇𝐺 方向の)成分を持つとき、この第3項のため、 𝐾⁢𝛿⁢𝒙 は必ず ∇𝐺 方向の成分を持つ。2残るは、 𝛿⁢𝒙 が拘束面に平行な場合だが、剛体と床の曲率は異なるので、(剛体と床の垂線方向の差異を表す)第1, 2項がかかる部分はゼロにならない。 ◼

13.3滑り拘束

この節では、「滑り拘束」に対する運動方程式の解き方をまとめる。前述のように、今考えているのは、常に1点で接触している状況である。接触点が複数ある場合、あるいは運動の途中で増える場合(衝突運動になることが多いだろう)は考慮していない。逆に、接触点が減る場合も扱えない。例えば、本来であれば空中に飛び上がってしまうような場合でも、床から離れないようにする拘束力が働いて、床にくっついたままになる。

13.3.1滑り運動の計算方法

数値的に計算する方法をまとめると、以下のようになる:

1運動方程式を確定させる

剛体が床の上を滑るという拘束条件は、剛体と床が接触しているという前節の式(25)そのものである。よって、式(25)の 𝐵,𝑏 を使って、運動方程式(12)が確定する。

2モデリング

床の形状 𝐺⁡(𝑡,𝒙) と、モデル配置での剛体の形状 ˜𝐻⁡(𝒙) を定義する。

3初期値を設定する

𝑡=0 での初期値を与える。初期配置 𝒙g,𝑅 については、拘束条件(22)を満たす接触点 𝒙c が存在するようにとる。初期速度 ˙𝒙g,𝛀 については、拘束条件(25)を満たすようにをとる。

4運動方程式を解く

その後の運動は、運動方程式(12)から計算できる。その解き方は、第11章の11.2.2節と同じである。ただし、式(12)の拘束力 𝚽c を確定させるために、接触点 𝒙c を計算ステップごとに求める必要がある。 𝒙c は、 𝒙g,𝑅 から直接計算することも原理的には可能であるが、ステップごとに計算するのは大変である。これを回避するには、式(32)から決まる ˙𝒙c を用いて、 𝒙c の時間変化を並行して計算していけば良い: 𝒙c⁢(𝑡+𝛿⁢𝑡)≐𝒙c+˙𝒙c⁢𝛿⁢𝑡

13.3.2例題曲面上を滑る楕円体

例として、楕円体の剛体(=球を 𝑥,𝑦,𝑧 方向につぶしたもの): ˜𝐻⁡(𝒙)≡𝑥2𝑎2+𝑦2𝑏2+𝑧2𝑐2−1(34) を取りあげる( 𝑎,𝑏,𝑐 は定数)。密度は一様とする。

慣性モーメント:式(35)

このモデル配置(34)での慣性モーメント ˜𝐼g は、剛体を質点要素に分解して数値的に近似計算してもよいが、今の場合には解析的に計算することができ、以下のようになる: ˜𝐼g=𝑚5⁢⎡⎢ ⎢ ⎢⎣𝑏2+𝑐2𝑐2+𝑎2𝑎2+𝑏2⎤⎥ ⎥ ⎥⎦(35) 𝑚 は剛体の質量である。(導出は第14章で行う。)

数値シミュレーション

数値計算を行うと右図のようになる。床は静止している。

13.4転がり拘束

この節では、「転がり拘束」での拘束条件(36)を導く。

13.4.1転がり運動の拘束条件:式(36)

滑らないということは、接触点 𝒙c において、剛体と床が相対速度を持っていないということである。即ち、「 𝒙c に位置している剛体上の質点要素 𝒙c,𝐻 」の速度 ˙𝒙c,𝐻 : ˙𝒙c,𝐻=˙𝒙g+𝝎×(𝒙c−𝒙g) と「 𝒙c に位置している拘束面上の点 𝒙c,𝐺 」の速度 ˙𝒙c,𝐺 が等しいということである: ˙𝒙c,𝐻≡˙𝒙g+𝝎×(𝒙c−𝒙g)=˙𝒙c,𝐺 これを、式(11)の形に変形すると、転がり運動の拘束条件が得られる: 𝐵⁢𝛀+𝒃=𝟎𝐵≡[1−(𝒙c−𝒙g)×]𝒃≡−˙𝒙c,𝐺⎫{ {⎬{ {⎭(36) ˙𝒙c,𝐺 は別途与える必要がある床が静止している場合には、 ˙𝒙c,𝐺=𝟎 である。そうでない場合、 ˙𝒙c,𝐺 を決めるためには、床の上の各点の速度が必要となる。床の形状の定義式 𝐺≤0 にこの情報は含まれているが、動く壁との衝突(第5章の5.2節)の際にも述べたように、この定義式の中には、床と平行な方向の速度成分の情報が含まれていない。そのため、追加でその情報を与えてやる必要がある。滑り拘束を含んでいる拘束条件(36)は、滑り運動の拘束条件(25)を含んでいる。実際、式(36)の両辺に ∇𝐺T を左乗すると式(25)に一致する。右辺の一致が分かりづらいかもしれないが、 𝐺⁡(𝑡,𝒙c,𝐺)=0 の時間微分: 𝜕𝐺𝜕𝑡+𝜕𝐺𝜕𝒙⁢˙𝒙c,𝐺=0 に着目すれば明らかである。

13.4.2転がり運動の計算方法

転がり拘束がある場合の計算方法は、滑り拘束の場合(13.3.1節)と基本的に同じである。ここでは、滑り拘束とは異なる個所を強調して説明する。

1運動方程式を確定させる

滑り拘束の場合と同様だが、 𝐵,𝑏 として、式(36)のものを使う。

2モデリング

滑り拘束の場合と同じ。

3初期値を設定する

初期配置に対する拘束条件は、床と剛体が接していることのみなので、滑り拘束の場合と同じである。一方、初期速度については拘束条件(36)の3成分すべてが成り立つ必要がある。配置に対する条件より、速度に対する条件のほうが多いので、上述の通り、転がり拘束は非可積分(【13.1-注2】)であることが分かる。

4運動方程式を解く

滑り拘束の場合と同じ。

13.4.3例題曲面上を転がる楕円体

前節と同じ楕円体形状の剛体の場合、数値計算を行うと右図のようになる。床は静止している。