電磁力学編 第14章

テンソル場の微分

微分形式の微分と積分の関係。ポテンシャルの存在条件の一般化。

14.1ストークスの定理

14.1.1外微分

例えば、3次元空間において、2-形式 𝜔 は、向き付きの流線の束と解釈ができる。従って、閉じた面(=境界が無い面、例えば球面)上で2-形式を積分したものは、その面が囲む領域 𝐷 に入ってくる流線の数と、出ていく流線の数の和になる。この和が 0 にならない場合、 𝐷 の内部に、流線の生成箇所または消滅箇所が存在することになる。どれだけ生成・消滅しているかは、流線の始点・終点の密度によって決まる。

即ち、流線の始点・終点の密度を表す3-形式が存在するということになる(一般的に言えば、微分形式が作る葉層が切断される密度)。これを 𝑑⁢𝜔 と書く。 𝑑⁢𝜔 は、 𝜔 が与えられれば決まる量であるが、特に、ある点での 𝑑⁢𝜔 は、その点近傍での 𝜔 から決まるはずである。よって、 𝑑⁢𝜔 は、 𝜔 の微分によって表すことができると考えられる。

では、 𝜕∘𝜔∘𝑘 をどのように組み合わせれば、 𝑑⁢𝜔 になるのだろうか。 𝑑⁢𝜔 が微分形式にならなければならないことを考えると、以下の【12.1-注1】のようにとればよいことが分かる。

【14.1-注1】外微分

微分形式 𝜔∘𝑘 の外微分 𝑑⁢𝜔 は、以下で定義される (𝑘+1) -形式である:( 𝑛 は空間の次元) (𝑑⁢𝜔)∘𝑘+1=(−1)(𝑘+1)⁢(𝑛−𝑘−1)𝑘!(𝑛−𝑘−1)!𝜕∙⁢𝜔∙𝑘⁢⁢𝜖∙∙𝑘∙𝑛−𝑘−1∙𝑛−𝑘−1∘𝑘+1=𝜕[∘𝜔∘𝑘] ただし、 0≤𝑘≤𝑛−1 。外微分は座標によらない、即ち、 (𝑛+1) -形式と同じように変換する(=外微分と座標変換は可換): (𝑑⁢𝜔)∘′𝑘+1=(𝑑⁢𝜔)∙𝑘+1⁢(Λ∙∘′)𝑘+1 ただし、 ∘′ は変換後の量であり、 Λ∘∘′ はヤコビ行列 𝜕∘′𝑥∘ の略記である。また、 𝑑⁢𝑑⁢𝜔=0 である。

14.1.2ストークスの定理

このように、外微分によって、領域内部の積分と領域外部の積分を対応させることができる。即ち、以下の【12.1-注2】のストークスの定理が成り立つ。

【14.1-注2】ストークスの定理

ユークリッド空間 ℝ𝑚 に埋め込まれた、向き付けられた 𝑚−(𝑘−1) 次元領域 ⃗𝐷 と、 ⃗𝐷 上で定義された 𝑘 -ベクトル 𝐴∙𝑘 が与えられた時、以下が成り立つ: ∫⃗𝐷𝑛∙𝑘−1⁡(𝜕∙𝐴∙𝑘−1∙)=∫𝜕⃗𝐷𝑛∙𝑘⁡𝐴∙𝑘 ただし、 𝑘 -形式 𝑛∙𝑘 は、 𝑘 -ベクトルを積分領域と垂直な方向に射影したときの体積を与えるテンソルである。

系

3次元空間の場合、体積 𝑉 、面 𝑆 として以下の2種類が可能である:

∫𝑉𝜕∙𝐴∙=∫𝜕𝑉𝑛∙⁢𝐴∙∫𝑆𝑛∙𝜕∙𝐴∙∙=∫𝜕𝑆𝑛∙∙⁢𝐴∙∙ 1つ目の式はガウスの発散定理という( 𝜕∙𝐴∙ をベクトル 𝑨 の発散という)。2つめの式は、ベクトル 𝑽 を (𝑽×)∘∘≡𝐴∘∘ と定義すれば、以下のようにも書ける: ∫𝑆𝒏T∇×𝑽=∫𝜕𝑆𝒕T⁢𝑽 これを、ストークスの回転定理という。ただし、 𝒏 は面に垂直な単位ベクトル、 𝒕 は曲線に沿った単位ベクトルである。

14.1.3積分形のマクスウェル方程式(3次元)

マクスウェル方程式 ∇T𝜖0⁢𝑬=𝜌∇T𝑩=0∇×𝑬=−𝜕𝑡𝑩∇×𝜇−10⁢𝑩=𝜕𝑡𝜖0⁢𝑬+𝒋 は、ちょうど、ガウスの発散定理とストークスの回転定理で書けるようになっている。実際、上側の2つの式を体積 𝑉 上で積分したり、下側2式を曲面 𝑆 上で積分すると、左辺はそれぞれガウスの発散定理とストークスの回転定理が使える形になっている。よって以下が成り立つ: ∫𝜕𝑉𝒏T⁢𝜖0⁢𝑬=∫𝑉𝜌∫𝜕𝑉𝑩=0∫𝜕𝑆𝒕T⁢𝑬=−𝑑𝑑⁢𝑡⁢∫𝑆𝒏T⁢𝑩∫𝜕𝑆𝒕T⁢𝜇−10⁢𝑩=𝑑𝑑⁢𝑡⁢∫𝑆𝒏T⁢𝜖0⁢𝑬+∫𝑆𝒏T⁢𝒋

14.2ポアンカレの補題

この節では、ポテンシャルが存在するための一般的な条件を与えるポアンカレの補題について述べる。力学編第15章では、可積分条件 ∇×𝑽=𝟎(1) が成り立てば、 𝑽=∇𝜙 を満たすポテンシャル 𝜙 が存在することを示した。ポアンカレの補題はこの一般化である。

14.2.1ポアンカレの補題:ポテンシャルの存在条件

可積分条件(1)と、マクスウェル方程式の ∇T𝑩=0 、および、 ∇T(⋆𝐹)=0 は、同じような形をしている。実際、成分で書くとそれぞれ以下のように書ける: ∇T⎡⎢ ⎢ ⎢⎣−0−𝑉3−𝑉2−𝑉3−0−𝑉1−𝑉2−𝑉1−0⎤⎥ ⎥ ⎥⎦=𝟎T∇T⎡⎢ ⎢⎣𝐵1𝐵2𝐵3⎤⎥ ⎥⎦=0∇T[0−𝑩T𝑩−𝑬×]=𝟢T(2)(3)(4) これらは全て、反対称な場 𝐴∘⋯ に対し 𝜕∙𝐴∙∘⋯=0(5) という形になっている。 𝜕∙𝐴∙∘⋯ のことを、 𝐴∘⋯ の発散という。

式(5)が成り立つ時、ポテンシャル( 𝐴∘⋯=𝜕∙𝜙∙∘⋯ を満たす) 𝜙∘⋯ が存在することをポアンカレの補題という(以下の【12.2-注1】)。

【14.2-注1】ポアンカレの補題

反対称な場 𝐴∘𝑘 の発散 𝜕∙𝐴∙∘𝑘−1 がゼロ: 𝜕∙𝐴∙∘𝑘−1=0(6) であるならば、 𝐴∘𝑘 は、ある反対称な場 𝜙∘𝑘+1 の発散で書ける: 𝐴∘𝑘=𝜕∙𝜙∙∘𝑘(7)

ただし、 𝐴∘𝑘 は2階偏微分可能であり、かつ、遠方で |𝒙|−2 より早く減衰するとする。また、空間の次元を 𝑛 とするとき、 𝑘 は 1,2,…,𝑛−1 のいずれかであればよい。

定理の逆、即ち、任意の 𝜙∘𝑘+1 に対し、式(7) ⇒ 式(6)も成り立つ(代入すれば偏微分の可換性からすぐ分かる)。式(7)を満たす 𝜙∘𝑘+1 は、一意的ではない。実際、任意の 𝜓∘𝑘+2 の発散を足したもの: 𝜙∘𝑘+1+𝜕∙𝜓∙∘𝑘+1 も解になる。

証明

実際に、 𝜙∘𝑘+1 を構成すればよい。実際 𝜙∘𝑘+1=∫𝒙′𝐺(𝑛)𝒙′𝜕[∘𝐴∘𝑘]𝒙−𝒙′(8) とすればよい。ただし、 𝜕∘=𝜕∘ とし、 𝐺(𝑛)𝒙 は、以下の【12.2-注2】のグリーン関数 𝐺(𝑛)𝒙 とする。式(8)の発散を実際に計算すると、【12.2-注2】のポアソン方程式の解の公式を使って 𝜕∙𝜙∙∘𝑘=∫𝒙′𝐺(𝑛)𝒙′𝜕∙𝜕[∙𝐴∘𝑘]𝒙−𝒙′=∫𝒙′𝐺(𝑛)𝒙′𝜕∙𝜕∙𝐴∘𝑘𝒙−𝒙′=Δ⁢∫𝒙′𝐺(𝑛)𝒙−𝒙′⁡𝐴∘𝑘𝒙′=𝐴∘𝑘𝒙◼

【14.2-注2】ポアソン方程式の解の公式

空間の次元を 𝑛 とする時、任意の 𝑓𝒙 に対し Δ⁢∫𝒙′𝐺(𝑛)𝒙−𝒙′⁡𝑓𝒙′=𝑓𝒙 が成り立つ。ただし、 𝐺(𝑛)𝒙 は、以下で与えられる:(ポアソン方程式のグリーン関数という) 𝐺(𝑛)𝒙=⎧{ { { { {⎨{ { { { {⎩|𝒙|2,𝑛=1log⁡|𝒙|2⁢𝜋,𝑛=21−𝑆(𝑛)⁢|𝒙|𝑛−2,𝑛=3,4,… 𝑆(𝑛) は 𝑛 次元単位球の表面積である:( 𝒙∈ℝ𝑛 ) 𝑆(𝑛)≡∫|𝒙|=11=⎧{ { { { {⎨{ { { { {⎩2,𝑛=12⁢𝜋,𝑛=24⁢𝜋,𝑛=32⁢𝜋2,𝑛=483⁢𝜋2,𝑛=5⋮⋮ 𝑛=6 以降についても、漸化式 𝑆(𝑛)=2⁢𝜋𝑛−2⁢𝑆(𝑛−2) によって計算できる。

証明

第4章の【4.2-注2】で、3次元の場合を証明した。その他の次元についても同様に示せる。

14.2.2スカラーポテンシャル、ベクトルポテンシャル:式(9)、式(10)

ポアンカレの補題の結果を、具体的な例に適用してみる。まず、式(2)の場合である: ∇T⎡⎢ ⎢ ⎢⎣−0−𝑉3−𝑉2−𝑉3−0−𝑉1−𝑉2−𝑉1−0⎤⎥ ⎥ ⎥⎦⏟_____⏟_____⏟𝐴∘∘=𝟎T ポアンカレの補題により、ポテンシャル 𝜙∘∘∘ が存在し 𝐴∘∘=𝜕∙𝜙∙∘∘ と書ける。成分ごとに計算すると 𝑉1=𝐴32=𝜕∙𝜙∙32=−𝜕1𝜙123𝑉2=𝐴13=𝜕∙𝜙∙13=−𝜕2𝜙123𝑉3=𝐴21=𝜕∙𝜙∙21=−𝜕3𝜙123 よって、 𝜙≡𝜙123 とおき直せば 𝑽=−∇𝜙(9) となっており、見慣れた式となる。 𝜙 をスカラーポテンシャルという(以下のベクトルポテンシャル 𝑨 と対比しての用語である)。

次に式(3)の場合: ∇T𝑩=0 ポアンカレの補題により、ポテンシャル 𝜙∘∘ が存在し、 𝑩=𝜕∙𝜙∙∘ となる。ここで、 𝑨×≡𝜙∘∘ となるように 𝑨 を定義すると、 𝑩=∇×𝑨(10) となるようなポテンシャル 𝑨 が存在することが分かる。 𝑨 をベクトルポテンシャルという。

14.2.3電磁ポテンシャル:式(11)

最後に式(4)の場合: ∇T[0−𝑩T𝑩−𝑬×]⏟__⏟__⏟𝐴∘∘=𝟢T ポアンカレの補題により、ポテンシャル 𝜙∘∘∘ が存在し 𝐴∘∘=𝜕∙𝜙∙∘∘ と書ける。成分ごとに計算すると 𝐸1=𝐴23=𝜕0𝜙023+𝜕1𝜙123,𝐵1=𝐴10=𝜕2𝜙210+𝜕3𝜙310,𝐸2=𝐴31=𝜕0𝜙031+𝜕2𝜙231,𝐵2=𝐴20=𝜕1𝜙120+𝜕3𝜙320,𝐸3=𝐴12=𝜕0𝜙012+𝜕3𝜙312,𝐵3=𝐴30=𝜕1𝜙130+𝜕2𝜙230, ここで、 𝜙≡−𝜙123 および 𝐴∘=(−𝜙023,−𝜙031,−𝜙012) と定義すると以下のようになる: 𝑬=−𝜕𝑡𝑨−∇𝜙𝑩=∇×𝑨}(11) (𝜙,𝑨) をまとめて電磁ポテンシャルという。