電磁場のエネルギーおよび運動量
これまでの議論により、電荷が電磁場から受ける力も分かったし、電磁場がどのように変化するかも分かった。電磁力学のもともとの目的は、荷電粒子の運動を計算する方法を見つけることであったので、必要な議論は尽くしたことになる。即ち、荷電粒子
の初期位置・初期速度と電磁場の初期値(と外部の電流密度の変化)が与えられれば、運動方程式とマクスウェル方程式から、
の運動を計算できる。
ところで、
が運動すると、それによって電磁場が乱されることになるわけだが、変化した電磁場の影響が
自身にも作用するのではないだろうか。有限の大きさを持つ荷電粒子の場合、粒子のある部分から放たれた電磁波が、同じ粒子の別の部分に作用する可能性がある。このような力は実際に値を持ち、自己力と呼ばれる。
もちろん、
の運動を計算する際、
が作る電流を考慮して電磁場の時間変化を計算すれば、自己力は自動的に取り込まれるので、実際の計算では特に意識する必要はない。しかし、自己力がどのような値になるのかには興味がある。
第7章で、静電磁場のエネルギーが定義できて、電荷のエネルギーとの和が保存するということを述べたが、時間変化する電磁場の場合にどうなるかについてはまだ議論していなかった。そこでこの章では、電磁場が時間変化している場合にも、電磁場のエネルギー・運動量が定義できて、電荷のエネルギー・運動量との和が保存することを見る。これにより、電荷が電磁波を放射すると、電磁波がエネルギー・運動量を持ち出すことになる。これは、電荷自身に対して放射の反作用が働くことを意味している。これが自己力である。自己力の導出は次章で行う。
11.1電磁場の四元運動量
相対論的には、エネルギー・運動量はまとめて1つの四元運動量を作るので、以下では四元運動量の形で考えることにする。電磁場の四元運動量()に対して、保存則()が成り立つことを示す。
電磁波と物質の四元運動量の和は保存する
物質の四元運動量
は、相対論的運動方程式:
の左辺の被微分関数である:
よって、式()の右辺を
の形に変形できれば
となり、
が保存する。そうすれば、
は電磁場の四元運動量と呼ぶにふさわしいものということになる。
これを確認するには、式()の右辺を実際に変形してみればよい。そうすると、以下の【11.1-注1】のようにうまく
が存在することが分かる。
【11.1-注1】電磁場の4元運動量
電磁場の4元運動量を以下のように定義する:
が電磁場のエネルギー、
が運動量である。この時、
と物質の4元運動量:
を足し合わせたものは、保存する:
ただし、物質と電磁場のみが相互作用しているとする。なお、
はローレンツ共変ではない。
証明
まず、デルタ関数形状の電荷が1つだけある場合を考える。電荷分布を
とし、
を時刻
での荷電粒子の位置とすると、電流密度
は:
となる(電荷保存則
を満たしている)。よって、運動方程式と合わせると以下のようになる:(電荷全体が受ける力を考えるので積分が出てくる)
複数の電荷がある場合、それらの運動方程式の和を取れば、左辺は物質の全4元運動量となる。右辺は全電荷電流密度に置き換えるだけなので式は変わらない。右辺を左辺に移行すると、式()に一致する。
電磁波の放射には反作用が伴う
特に、同注の式()を見ると、電磁場のエネルギー
は、電場の2乗と磁場の2乗から構成されているので、ゼロでない電磁場は常にエネルギーを持つことになる。ところで、前章で見たように、運動する電荷は一般に、電磁波を放射する。従って、電磁波の分だけ電磁場のエネルギーが大きくなるはずである。全エネルギーは保存するので、荷電粒子はエネルギーを失うことになる。即ち、電磁波の反作用として、減速するような力を受けることになる。これが自己力である。(次章で見るが、自己力には、これ以外にも質量を増やすように働くものもある。)
(参考)静電磁場のエネルギー
第7章で、静的な電磁場のエネルギーの話をしただけで、具体的な式を示していなかったので、ここで扱っておこう。実際に計算すると、以下の【11.1-注2】を得る。
【11.1-注2】静電磁場のエネルギー
静電磁場のエネルギー
は、電荷・電流密度
を用いて、以下のようになる:
証明
必要な式
第1式に残りの式を代入して計算するだけである。電場部分
と磁場部分
に分けて計算する:
を含む項は消える)第項にポアソン方程式の解の公式