相対論的な運動方程式が知りたい
ニュートンの運動方程式を、相対論と整合するように書き直したい。ニュートンの運動方程式によると、一定の力を加え続けると、加速度も一定となり、そのうち光速を超えることになる。しかし、前章で見たように、連続的な加速で光速を超えることはできない。従って、ニュートンの運動方程式は、速度が小さい時にのみ近似的に成り立つものと考えられる。では、厳密な運動方程式はどのようなものなのだろうか。
まず、物体が静止している場合、ニュートンの運動方程式は厳密に成り立つだろう。物体が動いている場合であっても、任意の瞬間に対して、その物体が静止して見える慣性系が存在する。従って、静止している場合の運動方程式をローレンツ変換すれば、任意の速度に対してローレンツ変換と整合する運動方程式が得られるはずである。
この章では、上記の方針に沿って相対論的な(=ローレンツ変換と整合する)運動方程式を求める。また、力学編で登場した、運動量保存則が相対論的にも成り立つことを見る。
7.1:相対論的運動方程式7.2:相対論的な運動量保存則
ところで、もともと何がしたかったかというと、慣性系を取り換えることにより、非静的な電磁場の法則(あるいはそれを示唆するもの)が得られるのではないかということだった。しかし、第5章で見たように、電磁場中のニュートンの運動方程式をガリレイ変換すると、矛盾が生じるのであった。そこで、第6章で、ガリレイ変換の代わりにローレンツ変換が正しい変換であることを述べた。後は、正しい運動方程式が得られれば、電磁場の変換則も矛盾無く決まり、電磁場の時間発展を記述する方程式に迫れるはずである。これは次章で行う。
7.1相対論的運動方程式
静止している物体に対するニュートンの運動方程式をローレンツ変換することにより、相対論的な運動方程式(11)を導く。
これまで同様、以下の記号を使う:(
𝜂
はミンコフスキー計量)
𝗑≡[𝑡𝒙],𝜂≡[1−𝑐−2]
7.1.1相対論的運動方程式:式(2)
静止した物体(
˙𝒙′=𝟎
)に対して、ニュートンの運動方程式:
𝑚¨𝒙′=𝒇′(1)
が厳密に成り立っていることを認めることにしよう。
この式(1)から、相対論的な運動方程式を導きたい。まず、たとえ動いている物体であっても、ある瞬間にその物体が静止して見えるような慣性系
𝐾′
が存在する。この便宜的な系
𝐾′
を瞬間静止系(または瞬間共動慣性系)という(物体が常に静止して見えるわけではなく、物質の世界線のある一点で静止して見えるだけである)。任意の慣性系
𝐾
における物体の運動方程式を導くには、物体の世界線の各点において、瞬間静止系
𝐾′
でニュートンの運動方程式(1)が成立することを課せばよい。
𝐾
系と
𝐾′
系の間の座標変換は、物体の速度をパラメータとするローレンツ変換に他ならないので、式(1)をローレンツ変換すれば、相対論的な運動方程式が得られることになる。
そのためには、加速度
¨𝒙
が、ローレンツ変換に伴ってどのように変換するかが必要である。前章で述べた速度のローレンツ変換(速度の合成則【6.2-注1】)は、結構複雑な形をしていた。加速度の場合はもっと複雑になると思われるので、何らかの工夫が必要となるだろう。最も簡単なのは、座標のローレンツ変換
𝗑=Λ𝗑′
と同じように変換するベクトルを見つけることである。そのような量は実際に存在し、以下の【6.1-注1】のように、四元加速度
𝖺
:
𝖺=𝛾𝑑𝑑𝑡𝛾[1˙𝒙]
を考えればよい。
𝐾′
系では
˙𝒙′=𝟎
より、
𝖺′=[0¨𝒙′]
となるので、式(1)は
𝑚𝖺′=[0𝒇′]
と書くことができる。これをローレンツ変換することにより、
𝐾
系での運動方程式が得られる:
𝑚𝖺=𝖿𝖿≡Λ(˙𝒙)[0𝒇′](2)
これが、相対論的運動方程式である。
𝖿
を四元力という。
この節の残りでは、「
𝖿
の意味」と「式(2)を加速度
¨𝒙
に関する式に変形する」ことを考えよう。
【7.1-注1】四元速度・四元加速度のローレンツ変換
四元速度
𝗏
および四元加速度
𝖺
を、以下のように定義する:
𝗎≡𝛾˙𝗑=𝛾[1˙𝒙]𝖺≡𝛾˙𝗎=𝛾𝑑𝑑𝑡𝛾[1˙𝒙]𝛾≡1√1−𝑐−2|˙𝒙|2
これらは、ローレンツ変換
𝗑=Λ𝗑′
のもとで、
𝗑
と同じように変換する:
𝗎=Λ𝗎′𝖺=Λ𝖺′
導出
まず、物体の世界線上の微小ベクトル
𝛿𝗑
を考えると、微分の連鎖律により
𝛿𝗑≐˙𝗑𝛿𝑡,𝛿𝗑′≐˙𝗑′𝛿𝑡′
となる。これらを、ローレンツ変換
𝛿𝗑=Λ𝛿𝗑′
に代入すると
˙𝗑𝛿𝑡≐Λ˙𝗑′𝛿𝑡′
となるので、
˙𝗑
と
Λ˙𝗑′
は、ベクトルの向きが同じであり、うまい係数を掛ければ等しくできる。そのような係数として
𝛾≡1√˙𝗑T𝜂˙𝗑=1√1−𝑐−2|˙𝒙|2
をとり、
𝗎≡𝛾˙𝗑
とおけばよい。実際、
𝗎T𝜂𝗎=𝗎′T𝜂𝗎′=1
と正規化されるので、大きさも一致することが分かる。
四元加速度についても、微小な速度の変化
𝛿𝗏
の1次近似
𝛿𝗎≐˙𝗎𝛿𝑡,𝛿𝗎′≐˙𝗎′𝛿𝑡′
に対して同様に考えることにより、
𝖺≡𝛾˙𝗎
に対して
𝖺=Λ𝖺′
が成り立つことが分かる。
◼
ここで出てきた
𝛾
は、ローレンツ因子と同じ形をしているが、慣性系の相対速度
𝒗
ではなく、物体の速度で定義したものである。また、四元速度を
𝗏
でなく
𝗎
で表したのは、単に慣性系の相対速度
𝒗
と紛らわしいからである。
7.1.2四元力 𝖿 の時間成分は、運動エネルギーの微分:式(6)
さて、相対論的運動方程式(2)が求まったので、四元力
𝖿
が測定などにより分かっていれば、物体の運動が決まるわけである。
ところで、
𝖿
は、4つの成分を持っている。3つは力に対応するものだと思われるが、もう1つは何だろうか。物体が静止している場合は、時間成分が
0
となる。どうやら、4成分すべてが独立というわけではないようだ。実際、【7.1-注1】で述べた四元速度
𝗎
の正規化条件
𝗎T𝜂𝗎=1
の時間微分を取れば、
𝗎T𝜂𝖺=0
が得られるので、式(2)を使って、
𝖿
に対する条件が得られる:
𝗎T𝜂𝖿=0(3)
この式は、速度を含んでいるので、
𝖿
は速度に依存することになる。(そういえば、ローレンツ力も速度に依存していたのだった。)
条件式(3)は、消去することが可能である。実際、以下の【7.2-注1】により、
𝖿
は、ある反対称行列
𝐹
を用いて
𝖿=𝜂−1𝐹𝗎(4)
の形に必ず書ける。
𝐹
にはもはや制約はかかっておらず、どのような値を取ってもよい。
反対称行列
𝐹
の成分を、以下の形に書いておこう:(
𝒆,𝒃
と書いたり
𝑐−2
を付けたりしているのは結果を電磁場
𝑬,𝑩
に似せるためである)
𝐹=𝑐−2[0𝒆T−𝒆𝒃×]
相対論的運動方程式(2)にこれらを代入すると
𝑚𝖺=𝜂−1𝐹𝗎
即ち
𝑑𝑑𝑡[𝑚𝛾𝑚𝛾˙𝒙]=[𝑐−2𝒆T˙𝒙𝒆+˙𝒙×𝒃](5)
となる。赤字部分は、電磁気力と同じ形をしている。ということは、これが、これまで力と呼んできたベクトルの相対論版であると考えられる。ローレンツ変換が正しければ、電磁気力に限らず、あらゆる力がこの形になるのである。これを
𝒇
:
𝒇=𝒆+˙𝒙×𝒃
と書くことにすれば、式(5)は以下のようになる:(時間成分に
𝑐2
をかけた)
𝑑𝑑𝑡[𝛾𝑚𝑐2𝛾𝑚˙𝒙]=[𝒇T˙𝒙𝒇](6)
時間成分(第1式)は空間成分(第2式)から導けるので、空間成分だけで十分である。実際、空間成分に
˙𝒙
を内積すれば、時間成分が導ける。
式(6)の第1成分の緑字部分は、運動エネルギーの時間微分の形になっているので、左辺の
𝛾𝑚𝑐2
は運動エネルギーに対応するだろう。実際、速度が小さい場合には、
|˙𝒙|2
の1次近似の範囲で
𝛾𝑚𝑐2≐𝑚𝑐2+12𝑚|˙𝒙|2
となる。静止している場合にも
𝑚𝑐2
という値を持つが、これは静止している時にもエネルギーを持つということだろうか。この値を運動エネルギーに相互に変換できなければ、単に原点の取り方の問題に過ぎず、物理的な意味を持つとは言えない。驚くべきことに、次節で、実際に運動エネルギーと質量は相互に変換し得ることを見る。
【7.1-注2】直交するベクトルの定理
2つのベクトル
𝗎,𝗏
が、以下の条件を満たしているとする:
𝗎T𝜂𝗏=0(7)
この時、
𝗏
は、ある反対称行列
𝐹
を用いて以下のように書ける:(
𝗎T𝜂𝗎≠𝟢
とする)
𝗏=𝜂−1𝐹𝗎(8)
証明
実際に
𝐹
を構成すればよい。そのような
𝐹
として
𝐹=𝜂𝗏𝗎T𝜂−𝜂𝗎𝗏T𝜂𝗎T𝜂𝗎
を取ればよい。これは反対称行列(
𝐹T=−𝐹
)である。さらに、式(8)を満たす:
𝜂−1𝐹𝗎=𝜂−1𝜂𝗏𝗎T𝜂−𝜂𝗎𝗏T𝜂𝗎T𝜂𝗎𝗎=𝗏𝗎T𝜂𝗎−𝗎⋅0𝗎T𝜂𝗎=𝗏◼
唐突な公式に見えるかもしれないが、3次元空間で考えると、「3次元ベクトル
𝒖,𝒗
が
𝒖T𝒗=0
を満たすならば、
𝒗
は
𝒗=𝒇×𝒖
の形で書ける(そのような
𝒇
が存在する)」という至極もっともなことを言っているだけである。
逆に、式(8)⇒式(7)も成り立つ(代入すればすぐわかる)。
𝜂
はミンコフスキー計量を想定しているが、可逆な対称行列であればこの公式は成り立つ。
7.1.3加速度 ¨𝒙 に対する方程式:式(11)
実際の運動を記述するのは、式(6)の第2成分
𝑑𝑑𝑡𝛾𝑚˙𝒙=𝒇(9)
である。これも相対論的運動方程式と呼んでよいだろう。(左辺全体に微分がかかる運動方程式といえば、剛体の運動方程式
𝑑𝑑𝑡𝐼𝝎=𝝉
を思い出させる。)式(9)の形はきれいではあるが、実際の計算では、
¨𝒙
についての式にする必要がある。左辺は、加速度
¨𝒙
の1次式である。左辺の微分を実行して
¨𝒙
を括りだすと、以下のようになる:(以下の【7.1-注3】の式(12))
(𝛾+𝑐−2𝛾3˙𝒙˙𝒙T)𝑚¨𝒙=𝒇(10)
赤字部分は、慣性質量であるが、速度の大きさ・向きに依存しており、スカラー行列(=単位行列を実数倍したもの)でもない。よって、力の方向と加速度の方向は、一般には一致しない。(力学編第11章で述べた剛体の運動でも、慣性モーメントがスカラー行列でない場合、同じトルクであっても、角加速度が異なるのであった。)
なお、単に質量といった時には、
𝑚
のことを表すとする。ただし、物体が内部構造を持っている場合、質量がスカラー行列で表せるかは微妙である。例えば、回転している物体は、回転軸に沿った方向よりも、垂直な方向に加速しづらくなるので、スカラー行列ではない。マクロに見て変化していない物体であっても、磁石や結晶のように、特定の軸を持つような物体は、加速しやすさに方向依存性があるかもしれない。もし方向依存性があれば、スカラー行列で表すことはできない。しかし、これには深入りしないことにする。
式(10)は、物質に関する量と力をそれぞれの変に分離した形になっていて、それはそれでよいのだが、実際に計算する際には
¨𝒙=[⋯]
の形のほうが良い。すると、以下のようになる:(以下の【7.1-注3】の式(13))
𝑚¨𝒙=𝛾−3𝒇∥+𝛾−1𝒇⟂(11)
速度の増大とともに、係数の
𝛾−1(<1)
は小さくなる、即ち、加速しづらくなる。しかも、方向依存性があり、速度と平行な方向には、より加速しづらくなる。また、光速
𝑐
まで加速することはできない。
|˙𝒙|≪𝑐
の場合には、ニュートンの運動方程式
𝑚¨𝒙=𝒇
に帰着する。
【7.1-注3】相対論的運動方程式(9)の変形:式(12)、式(13)
運動方程式(9)は、左辺の微分を実行することにより
(𝛾+𝑐−2𝛾3˙𝒙˙𝒙T)𝑚¨𝒙=𝒇(12)
となる。さらに、
𝑚¨𝒙=[⋯]
の形に変形すると、以下のようになる:(
𝒇
を、
˙𝒙
と平行成分
𝒇∥
と垂直成分
𝒇⟂
に分けた)
𝑚¨𝒙=𝛾−3𝒇∥+𝛾−1𝒇⟂(13)
導出
運動方程式(9)の左辺の微分を実行すればよい:
𝑑𝑑𝑡𝛾𝑚˙𝒙=˙𝛾𝑚˙𝒙+𝛾𝑚¨𝒙˙𝛾=𝑑𝛾𝑑|˙𝒙|⋅𝑑|˙𝒙|𝑑˙𝒙⋅𝑑˙𝒙𝑑𝑡=𝑐−2|˙𝒙|√1−𝑐−2|˙𝒙|23⋅˙𝒙T|˙𝒙|⋅¨𝒙=𝑐−2𝛾3˙𝒙T¨𝒙
¨𝒙
を括りだせば、式(12)の左辺になる。
式(13)を導くには、式(12)の左辺の行列
(𝛾+𝑐−2𝛾3˙𝒙˙𝒙T)=𝛾(1+𝑐−2|˙𝒙|21−𝑐−2|˙𝒙|2˙𝒙˙𝒙T|˙𝒙|2)=𝛾(1−˙𝒙˙𝒙T|˙𝒙|2+11−𝑐−2|˙𝒙|2˙𝒙˙𝒙T|˙𝒙|2)=𝛾(1−˙𝒙˙𝒙T|˙𝒙|2)+𝛾3˙𝒙˙𝒙T|˙𝒙|2=𝛾𝑃⟂+𝛾3𝑃∥
の、逆行列:
𝛾−1𝑃⟂+𝛾−3𝑃∥
を左から掛ければよい(
˙𝒙=𝟎
の時は単位行列)。
◼
7.2エネルギー・運動量の和は保存する
ニュートンの運動方程式を相対論的なもの(13)に書き換えたので、力学編で登場したそのほかの法則、特に作用・反作用の法則について確認しよう。力学編で述べたように、作用・反作用の法則は運動量保存則を導くのだが、運動量
𝒑≡𝑚˙𝒙
は、ニュートンの運動方程式から得られたものなので、相対論的運動方程式のものへ書き換える必要がある。
7.2.1作用・反作用の法則により、四元運動量が保存する:式(16)
まず、相対論的運動方程式(6)を再掲する:
𝑑𝑑𝑡[𝛾𝑚𝑐2𝛾𝑚˙𝒙]⏟𝗉=[𝒇T˙𝒙𝒇](14)
𝗉
を四元運動量という。さて、この式において、作用・反作用の法則が相対論的にも成り立つことを認めることにする(実験的に確認すべきものである)。即ち、2つの物体
1,2
が接触している時、各々の物体に働く拘束力
𝒇1,𝒇2
は
𝒇1+𝒇2=𝟎
を(任意の慣性系において)満たすとする。
すると、各々の物体の運動方程式(14)を辺々加えることにより
𝑑𝑑𝑡(𝗉1+𝗉2)=[𝒇T1(˙𝒙1−˙𝒙2)𝟎](15)
となる。よって、四元運動量の和の空間成分は保存することが分かる。しかし、時間成分は保存しないように見える。もし、拘束力だけが働いているのであれば、拘束力は接触面と垂直であり、拘束力方向の相対速度はゼロなので、右辺の時間成分もゼロになる。しかし、摩擦力が働いている場合、摩擦力方向の相対速度を持っていてもよいので、ゼロにならない。これは、摩擦が働くと運動エネルギーが保存しないことを考えると当然である。ということは、保存するのは四元運動量の空間成分だけなのだろうか。
いや、まだ結論には早い。そもそも、全ての慣性系から見て、
𝗉
の空間成分だけが保存するということはあり得るのだろうか。四元運動量
𝗉
は、四元速度に質量を掛けたものなので、ローレンツ変換における変換則も四元速度の変換則
𝗎′=Λ𝗎
と同じである。よって、四元運動量の和のローレンツ変換は
𝗉′1+𝗉′2=Λ(𝗉1+𝗉2)
となるわけだが、
𝗉′1+𝗉′2
の空間成分が定数となるためには、
𝗉1+𝗉2
の時間成分についても保存しなければならない。
以上により、作用・反作用の法則が成り立てば、四元運動量の和
𝗉1+𝗉2
が保存することになる:
𝗉1+𝗉2=const.(16)
時間成分はエネルギー保存則、空間成分は運動量保存則を表している。
7.2.2式(16)と式(15)の矛盾は、質量が変化することで解消する
さて、四元運動量は式(16)のように保存することが分かったが、これは、式(15)において、摩擦力がある場合に四元運動量の時間成分(=エネルギー)が保存しないと述べたことと明らかに矛盾する。四元運動量の保存則は、ローレンツ変換の数学的な帰結であり正しいはずである。よって、式(15)の方を考え直すべきである。
まず、2つのボール同士の衝突(力学編の第5章)の場合を思い出そう。この場合、エネルギーの和
𝛾1𝑚1𝑐2+𝛾2𝑚2𝑐2
が保存すると、奇妙である。運動エネルギーが保存するのは、弾性衝突(=最もよく跳ね返る極限)の場合のみであり、常には成り立つわけではなかった。これを整合させるには、質量が変化すると考えざるを得ない。
例えば、衝突前にエネルギーがそれぞれ
𝛾1𝑚in1𝑐2,𝛾2𝑚in2𝑐2
であった物体が、衝突し、質量がそれぞれ
𝑚out1,𝑚out2
になったとする。衝突が完全非弾性衝突で衝突後に合体し静止したとすると、エネルギー保存則により
𝛾1𝑚in1𝑐2+𝛾2𝑚in2𝑐2⏟___⏟___⏟衝突前のエネルギー=𝑚out1𝑐2+𝑚out2𝑐2⏟___⏟___⏟衝突後のエネルギー(17)
となる。未知数は
𝑚out1,𝑚out2
であるが、元の質量
𝑚in1,𝑚in2
と等しくなる解は存在しない(ローレンツ因子
𝛾1,𝛾2
は静止している場合にのみ1で、それ以外は1より大きい)。従って、質量が変化せざるを得ない。
7.2.3熱エネルギーやポテンシャルエネルギーは質量に変換される
衝突や摩擦など、運動が減衰する場合には、熱が発生する(手をこすり合わせると温度が上がるように)。全体のエネルギーが保存しなければならないので、失った運動エネルギーが熱に変わったと考えられる。従って、温度が高いものは大きなエネルギーを持ち、質量も増大するということになるだろう。より温度が高いものほど大きなエネルギーを持つことは、例えば、熱せられた気体によりピストンを動かして、運動エネルギーに変換できることを考えると、もっともらしい。
以上を考慮すれば、式(15)の時間成分が保存しなかった原因が分かる。質量の変化を考慮していなかったのである。即ち、式(15)の時間成分がゼロになるように、質量が変化するのである。ただし、その変化の仕方は一意的ではない。例えば、式(17)の未知数は
𝑚out1,𝑚out2
の2つなので、どのように質量を分配するかには任意性がある。これは自然である。というのも、一方の物体が柔らかく、他方が硬い場合には、柔らかい物体が多くのエネルギーを受け取り重くなる、といったように物体の性質が影響するからである。あるいは、衝突後に、温度が均一化されていく過程で質量が変化することも考えられる。
四元運動量の保存は、作用・反作用の法則から導出されるので、例えば、ばねの両端に重りを付けた場合にも成り立つ。バネが振動している場合でも、四元運動量の和は保存するのである。特に、系全体のエネルギー
𝐸
が保存する。
𝐸
は、自然長で静止している場合のエネルギーより大きい。即ち、質量がより増える。特に、バネが伸びきったり縮みきったりした瞬間にはおもりは静止しているので、残りのエネルギーはバネに蓄えられていると考えられる。即ち、伸びた状態あるいは縮んだ状態のバネは質量が増大するのである。
さらに、クーロン力やアンペール力の場合にも、2つの電荷・導線に働く力も、作用・反作用の法則を満たしている。バネであれば、バネ自身にエネルギーが蓄えられるのはわかりやすいが、電磁気力の場合、2つの電荷の間には何もない。ということは、電磁場自体がエネルギーを持ち、系全体のエネルギーは保存することになる。エネルギーが保存するということは、前述の議論を繰り返すことにより、運動量も保存することになる。即ち、相対論の要請を満たすには、電磁場はエネルギーと運動量を持ち、系全体としてそれらが保存することになると考えられる。これまでは静的な電磁場しか扱っていないが、静的な場をローレンツ変換すれば時間変化する場になるので、時間変化する場合も成り立つと考えられる(第11章で実際に示す)。