電磁力学編 第8章

マクスウェル方程式

電磁場の時間変化は、マクスウェル方程式(16)によって与えられる。これにより、電磁場中での荷電粒子の運動は、式(19)で記述されることになる。

ローレンツ変換を用いて、第5章の議論を繰り返す

時間変動する電磁場の方程式(=マクスウェル方程式)を求める、という当初の問題にようやく取り組むことができる。ここまでの流れは次のようになる。運動方程式をガリレイ変換すれば、電磁場の変換則が得られて、電磁場の時間変化を与える方程式のヒントが得られるはずであった。しかしそこには矛盾が存在した(第5章)。矛盾を解消するためには、ローレンツ変換を考えればよく(第6章)、それに合わせて、運動方程式も相対論的なものへ置き換えればよかった(第7章)。

よって、相対論的運動方程式とローレンツ変換の用いて第5章の議論を繰り返せば、マクスウェル方程式に近づくことができるはずである。

この章では、上述のような議論により、電磁場のローレンツ変換を求めることにより、マクスウェル方程式(16)を導く。その後、それを使って、時間変化を求める方法について述べる: 8.1:電磁場のローレンツ変換8.2:マクスウェル方程式の導出8.3:電磁場および荷電粒子の時間発展

8.1電磁場のローレンツ変換

この節では、電磁場のローレンツ変換(2)を求める。方針は次のとおりである。まず、前章で見たように、電荷 𝑞 を持つ物体の相対論的運動方程式は 𝑚⁢𝖺=𝑞⁢𝜂−1⁢𝐹⁢𝗏𝜂−1≡[1−𝑐2]𝐹≡𝑐−2⁢[0𝑬T−𝑬𝑩×](1) である。 𝐹 以外のローレンツ変換はすでに分かっているので、この式から 𝐹 のローレンツ変換が決まる。( 𝐹 を電磁テンソルという。)

8.1.1電磁場のローレンツ変換:式(2)

まず、式(1)のローレンツ変換である。各量のローレンツ変換は 𝖺=Λ−1⁢𝖺′𝗏=Λ−1⁢𝗏′𝜂−1=Λ−1⁢𝜂−1⁢Λ−T を満たすので、これらを式(1)に代入すると 𝑚⁡(Λ−1⁢𝖺′)=𝑞⁡(Λ−1⁢𝜂−1⁢Λ−T)⁢𝐹⁡(Λ−1⁢𝗏′)∴𝑚⁡𝖺′=𝑞⁡𝜂−1⁢(Λ−T⁢𝐹⁡Λ−1)⏟__⏟__⏟𝐹′⁢𝗏′ よって、 𝐾′ 系において、荷電粒子の運動の測定から電磁場を求めると 𝐹′=Λ−T⁢𝐹⁡Λ−1(2) のように見えることになる。

8.1.2式(2)の展開:式(3)

式(2)だけではわかりづらいので、展開することを考える。そうすると、以下の【8.1-注1】のようになる。 𝒗 と平行な成分は変化せず、垂直成分のみが変化することが分かる。

【8.1-注1】電磁場のローレンツ変換

慣性系 𝐾 における運動方程式を、 𝐾 から見て速度 𝒗 で動いている別の慣性系 𝐾′ から見た時、電磁場は以下の変換則を満たす:(添え字 ∥,⟂ はそれぞれ 𝒗 と平行・垂直成分) 𝑬′=𝑬∥+𝛾⁢(𝑬⟂+𝒗×𝑩⟂)𝑩′=𝑩∥+𝛾⁢(𝑩⟂−𝑐−2⁢𝒗×𝑬⟂)}(3)

導出

ローレン変換 𝗑′=Λ⁢𝗑 におけるヤコビ行列 Λ は、以下のようになる:( 𝑃∥,𝑃⟂ は正射影行列) Λ=[𝛾−𝑐−2⁢𝛾⁢𝒗𝑇−𝛾⁢𝒗𝛾⁢𝑃∥+𝑃⟂],Λ−1=[𝛾𝑐−2⁢𝛾⁢𝒗𝑇𝛾⁢𝒗𝛾⁢𝑃∥+𝑃⟂] これを式(2)に代入して行列積を計算すればよい:( ∗ は計算不要部分) 𝑐2⁢𝐹′=𝑐2⁢Λ−T⁢𝐹⁡Λ−1=[𝛾𝛾⁢𝒗T𝑐−2⁢𝛾⁢𝒗𝛾⁢𝑃∥+𝑃⟂]⁢[0𝑬T−𝑬𝑩×]⁢[∗𝑐−2⁢𝛾⁢𝒗T𝛾⁢𝑃∥+𝑃⟂]=[𝛾𝛾⁢𝒗T𝑐−2⁢𝛾⁢𝒗𝛾⁢𝑃∥+𝑃⟂]⁢[∗𝛾⁢𝑬T∥+𝑬T⟂−𝑐−2⁢𝛾⁢𝑬⁢𝒗T+𝑩×⁢(𝛾⁢𝑃∥+𝑃⟂)]⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣𝒗T⁢𝑬⁢𝒗T=|𝒗|2⁢𝑬T∥𝒗T⁢𝑩×⁢(𝛾⁢𝑃∥+𝑃⟂)=𝒗T⁢𝑩×𝒗⁢𝑬T∥−𝑬∥⁢𝒗T=0=[∗𝑬T∥+𝛾⁢𝑬T⟂+𝛾⁢𝒗T⁢𝑩×𝑐−2⁢𝛾⁢(𝒗⁢𝑬T⟂−𝑬⟂⁢𝒗T)+(𝛾⁢𝑃∥+𝑃⟂)⁢𝑩×(𝛾⁢𝑃∥+𝑃⟂)]⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣𝒗⁢𝑬T⟂−𝑬⟂⁢𝒗T=(𝑬⟂×𝒗)×(⋯)⁢𝑩×(⋯)=(𝑩∥+𝛾⁢𝑩⟂)×∵以下の【8.1-注2】の式(6)参照=[∗[𝑬∥+𝛾⁢(𝑬⟂+𝒗×𝑩)]T[𝑩∥+𝛾⁢(𝑩⟂−𝑐−2⁢𝒗×𝑬⟂)]×] ◼

式(3)は、正射影行列を使わずに、以下のようにも書ける: 𝑬′=[𝛾+(1−𝛾)⁢̂𝒗⁢̂𝒗T]⁢𝑬+𝛾⁢𝒗×𝑩𝑩′=[𝛾+(1−𝛾)⁢̂𝒗⁢̂𝒗T]⁢𝑩−𝑐−2⁢𝛾⁢𝒗×𝑬

【8.1-注2】3次元のレヴィチヴィタ記号 𝜖𝑖⁢𝑗⁢𝑘

レヴィチヴィタ記号 𝜖𝑖⁢𝑗⁢𝑘 は、以下で定義される:(添え字の範囲は 𝑖,𝑗,𝑘∈{1,2,3} ) 𝜖123=1𝜖𝑖⁢𝑗⁢𝑘は反対称 反対称とは、2つの添え字を入れ替えると符号が変わることを意味する:例えば 𝜖1⁢23=−𝜖1⁢32 。特に、同じ添え字が複数ある場合はゼロになる:例えば 𝜖11⁢2=0 。同じ数字が表れない場合は、 ±1 のどちらかである。

以下の公式が成り立つ:( 𝐴 は任意の行列、 𝑩 は任意のベクトル) (𝑩×)𝑖⁢𝑗=−∑𝑘𝜖𝑖⁢𝑗⁢𝑘⁢𝐵𝑘∑𝑖′⁢𝑗′⁢𝑘′𝜖𝑖′⁢𝑗′⁢𝑘′⁢𝐴𝑖′⁢𝑖⁡𝐴𝑗′⁢𝑗⁡𝐴𝑘′⁢𝑘=|𝐴|⁢𝜖𝑖⁢𝑗⁢𝑘𝐴T⁡(𝐴⁡𝑩)×𝐴=|𝐴|⁢𝑩×(4)(5)(6)

証明

式(4)の証明。クロスの定義 (𝑩×)𝑖⁢𝑗≡⎡⎢ ⎢⎣0−𝐵3𝐵2𝐵30−𝐵1−𝐵2𝐵10⎤⎥ ⎥⎦ と式(4)の右辺を見比べればよい。例えば、 (𝑖,𝑗)=(1,2) の時、右辺は、 −∑𝑘𝜖12⁢𝑘⁢𝐵𝑘=−𝜖123⁢𝐵3=−𝐵3 。

式(5)の証明。左辺は、添え字 𝑖,𝑗,𝑘 について反対称なので、 𝜖𝑖⁢𝑗⁢𝑘 に比例する。即ち、ある係数 𝛼 を用いて、 𝛼⁢𝜖𝑖⁢𝑗⁢𝑘 と書ける。 𝛼=|𝐴| を示せばよい。 (𝑖,𝑗,𝑘)=(1,2,3) とすると、 𝛼 は ∑𝑖′⁢𝑗′⁢𝑘′𝜖𝑖′⁢𝑗′⁢𝑘′⁢𝐴𝑖′⁢1⁢𝐴𝑗′⁢2⁢𝐴𝑘′⁢3=𝛼 を満たす。この式を見ると、 𝛼 は、「 𝐴 の各列に対して線形」かつ「 𝐴 の列の入れ替えに対して反対称」かつ「 𝐴=1 であれば 𝛼=1 」であることが分かる。これは、行列式の定義に他ならない。よって、 𝛼=|𝐴| 。

式(6)の証明。左辺を成分で表すと [𝐴T⁡(𝐴⁡𝑩)×𝐴]𝑖⁢𝑘=−∑𝑖′⁢𝑗′⁢𝑗⁢𝑘′𝐴𝑖′⁢𝑖⁡𝜖𝑖′⁢𝑗′⁢𝑘′⁢𝐴𝑗′⁢𝑗⁡𝐵𝑗⁢𝐴𝑘′⁢𝑘=−|𝐴|⁢∑𝑗𝜖𝑖⁢𝑗⁢𝑘⁢𝐵𝑗=|𝐴|⁢(𝑩×)𝑖⁢𝑘◼

なお、【8.1-注1】の (⋯)⁢𝑩×(⋯) 部分の計算は、式(6)の 𝑩 を 𝐴−1⁢𝑩 に置き換えたものを使えばよい: (⋯)⁢𝑩×(⋯)=|(⋯)|⁢[(⋯)−1⁢𝑩]×=𝛾⁡[(𝛾−1⁡𝑃∥+𝑃⟂)⁢𝑩]×=(𝑩∥+𝛾⁡𝑩⟂)×

8.2マクスウェル方程式の導出

この節では、電磁場の時間変化を記述する方程式である、マクスウェル方程式(16)を導出する。

電磁場のローレンツ変換が分かったので、これを使って、静電磁場のマクスウェル方程式:(第4章) ∇T𝑬=𝜖−10⁢𝜌∇×𝑩=𝜇0⁢𝒋∇T𝑩=0∇×𝑬=𝟎⎫{ { {⎬{ { {⎭(7) のローレンツ変換を求めれば、それは時間微分を含むものになる。即ち、電磁場の時間微分 ˙𝑬,˙𝑩 が得られる。これが全ての電磁場に対して成り立つことを仮定すれば、電磁場の時間発展が計算できるようになる。

8.2.1静的なマクスウェル方程式の変形:式(9)、式(11)

静電磁場のマクスウェル方程式(7)のローレンツ変換を考えたい。電磁テンソル 𝐹 のローレンツ変換(2)が分かっているので、式(7)を、 𝐹 を用いたもので書き換えたい。

まず、式(7)の上側の2式は、まとめて [𝜕𝑡∇T]⁢[0−𝑬T𝑬𝑐2⁢𝑩×]=𝜖−10⁢[𝜌𝒋T](8) と書ける。静電磁場なので、時間微分が作用する赤字部分は任意性があるが、反対称行列となるようにとった。これを、 𝐹 と使った形で表すと、以下のように書ける: ∇T𝗑𝜂−1⁢𝐹⁡𝜂−1=𝜖−10⁢𝗃T∇𝗑≡[𝜕𝑡∇](9)

次は、式(7)の下側の2式である。これらは、以下のようにまとめられる: ∇T𝗑(⋆𝐹)=0T⋆𝐹≡𝑐−2⁢[0−𝑩T𝑩−𝑬×](10) この場合も、 ⋆𝐹 の取り方には任意性があるが、 𝐹 と同様に反対称になるようにとっている。 ⋆𝐹 を 𝐹 で表したい。これは、4次元のレヴィチヴィタ記号 𝜖𝜇⁢𝜈⁢𝜌⁢𝜎 を使って、以下のようになる:(添え字の範囲は 𝜇,𝜈,𝜆,𝜎∈{0,1,2,3} ) (⋆𝐹)𝜇⁢𝜈=12⁢∑𝜌⁢𝜎𝜖𝜇⁢𝜈⁢𝜌⁢𝜎⁢𝐹𝜌⁢𝜎=12⁢𝑐−2⁢∑𝜌⁢𝜎𝜖𝜇⁢𝜈⁢𝜌⁢𝜎⁢[0𝑬T−𝑬𝑩×]𝜌⁢𝜎(11) ⋆𝐹 を、 𝐹 のホッジ双対(そうつい)という。例えば、 𝜇⁢𝜈=01,23 とすると、右辺はそれぞれ 12⁢∑𝜌⁢𝜎𝜖01⁢𝜌⁢𝜎⁢𝐹𝜌⁢𝜎=12⁢(𝜖01⁢23⁢𝐹23+𝜖01⁢32⁢𝐹32)=12⁢(𝐹23−𝐹32)=−𝑐−2⁢𝐵112⁢∑𝜌⁢𝜎𝜖23⁢𝜌⁢𝜎⁢𝐹𝜌⁢𝜎=12⁢(𝜖23⁢01⁢𝐹01+𝜖23⁢10⁢𝐹10)=12⁢(𝐹01−𝐹10)=𝑐−2⁢𝐸1 𝜇,𝜈 などのギリシャ文字は時間を含み、一方 𝑖,𝑗 などのローマ字は空間 {1,2,3} のみを取るというのが相対論の習慣である。

8.2.2マクスウェル方程式のローレンツ変換:式(12)→式(13)

静電磁場となる系を 𝐾′ 、それをローレンツ変換した系を 𝐾 とおく。上述のように、 𝐾′ 系における静電磁場のマクスウェル方程式は、式(9)と式(11)で与えられる:(再掲) ∇T𝗑′𝜂−1⁢𝐹′⁡𝜂−1=𝜖−10⁢(𝗃′)T∇T𝗑′(⋆𝐹)′=0T}(12) ローレンツ変換 𝗑′=Λ⁢𝗑 によって、これらの式が 𝐾 系においてどうなるかを求めたい。そうすれば、変換後の系 𝐾′ では、電磁場は静的ではなくなるので、動的な電磁場が満たすべき方程式が得られるだろう。

現状で変換則が分かっているのは 𝐹′=Λ−T⁢𝐹⁡Λ−1𝗃′=Λ⁢𝗃𝜖′0=𝜖0 である。加えて、以下の変換則が成り立つ:(以下の【8.2-注1】) ∇𝗑′=Λ−T∇𝗑(⋆𝐹)′=Λ⁡(⋆𝐹)⁢ΛT これらを式(12)に代入して 𝜂−1=Λ−1⁢𝜂−1⁢Λ−T を使うと ∇T𝗑𝜂−1⁢𝐹⁡𝜂−1=𝜖−10⁢𝗃T∇T𝗑(⋆𝐹)=0T}(13) となる。即ち、式の形が式(12)と全く変わらない。

【8.2-注1】微分演算子のローレンツ変換

ローレンツ変換 𝗑′=Λ⁢𝗑 のもとで、微分演算子 ∇𝑡⁢𝒙 および ⋆𝐹 は、それぞれ以下のように変換する: ∇𝗑′=Λ−T∇𝗑(⋆𝐹)′=Λ⁡(⋆𝐹)⁢ΛT(14)(15)

導出

式(14)の導出。任意の関数 𝑓 の微分は ∇𝗑′𝑓=(𝑑⁢𝑓𝑑⁢𝗑′)T=(𝑑⁢𝑓𝑑⁢𝗑⁢𝑑⁢𝗑𝑑⁢𝗑′)T=(𝑑⁢𝑓𝑑⁢𝗑⁢Λ−1)T=Λ−T∇𝗑⁢𝑓⁡◼

式(15)の導出。 (⋆𝐹)′𝜇⁢𝜈=12⁢∑𝜌′⁢𝜎′𝜖𝜇⁢𝜈⁢𝜌′⁢𝜎′⁢𝐹′𝜌′⁢𝜎′=12⁢∑𝜌⁢𝜌′⁢𝜎⁢𝜎′𝜖𝜇⁢𝜈⁢𝜌′⁢𝜎′⁢(Λ−T)𝜌′⁢𝜌⁢𝐹𝜌⁢𝜎⁡(Λ−1)𝜎′⁢𝜎=12⁢∑𝜇′⁢𝜈′⁢𝜌′⁢𝜎′⁢𝜌⁢𝜎𝜖𝜇′⁢𝜈′⁢𝜌′⁢𝜎′⁢(Λ−T⁢ΛT)𝜇′⁢𝜇⁢(Λ−T⁢ΛT)𝜈′⁢𝜈⁢(Λ−T)𝜌′⁢𝜌⁢(Λ−T)𝜎′⁢𝜎⁢𝐹𝜌⁢𝜎=12⁢∑𝜇′⁢𝜈′⁢𝜌′⁢𝜎′𝜖𝜇′⁢𝜈′⁢𝜌′⁢𝜎′⁢(ΛT)𝜇′⁢𝜇⁢(ΛT)𝜈′⁢𝜈⁢𝐹𝜌′⁢𝜎′=∑𝜇′⁢𝜈′Λ𝜇⁢𝜇′⁢(⋆𝐹)𝜇′⁢𝜈′⁢(ΛT)𝜈′⁢𝜈⁢◼

8.2.3マクスウェル方程式

式(13)を成分で表すと、式(8)と式(10)そのものなので: [𝜕𝑡∇T]⁢[0−𝑬T𝑬𝑐2⁢𝑩×]=𝜖−10⁢[𝜌𝒋T]∇T𝗑[0−𝑩T𝑩−𝑬×]=0T となる。これをさらに静的な静的なマクスウェル方程式(7)と同じ形に分離すると、以下のようになる:( ˙𝑬≡𝜕𝑡𝑬 ) ˙𝑬=𝑐2∇×𝑩−𝜖−10⁢𝒋˙𝑩=−∇×𝑬∇T𝑬=𝜖−10⁢𝜌∇T𝑩=0⎫{ { { {⎬{ { { {⎭(16)

静電磁場を別の慣性系から見ると、式(16)が成り立つわけである。下側の2式は、静的な場合と同じである。上側の2式は電磁場の時間微分を与えるので、これにより電磁場の時間発展が計算できる。

ただし、今は静的な電磁場を別の慣性系から見ることを考えているのであって、一般の動的な電磁場を考えているのではない。従って、一般に式(16)が成り立つかは自明ではなく、実験的に検証する必要がある。ここでは、(電荷・電流密度が任意の時間変化をしている場合にも)常に式(16)が成り立つことを認めることにしよう。式(16)を、マクスウェル方程式という。

8.3電磁場および荷電粒子の時間発展

前節で求めたマクスウェル方程式(16)を使って、電磁場 𝑬⁡(𝑡,𝒙),𝑩⁡(𝑡,𝒙) の時間発展が計算できる。この節では、当初の目的である、電磁気力を受ける荷電粒子の運動を記述する式(18)を導く。

8.3.1マクスウェル方程式(16)の上側2式は、電磁場の時間発展を与える

マクスウェル方程式(16)の上側の2式は、電磁場の時間微分を与えているので、これを用いて、電磁場の時間発展を計算できる。実際、 𝛿⁢𝑡 秒後の電磁場は、 𝛿⁢𝑡 が十分小さければ以下のように近似できる: 𝑬⁡(𝑡+𝛿⁢𝑡,𝒙)≐𝑬⁡(𝑡,𝒙)+˙𝑬⁡(𝑡,𝒙)⋅𝛿⁢𝑡𝑩⁡(𝑡+𝛿⁢𝑡,𝒙)≐𝑩⁡(𝑡,𝒙)+˙𝑩⁡(𝑡,𝒙)⋅𝛿⁢𝑡 この計算を繰り返していくことで、任意の時刻の電磁場が計算できることになる。ただしそのためには、式(16)の右辺に含まれる電流密度 𝜌⁡(𝑡,𝒙),𝒋⁡(𝑡,𝒙) の時間発展が分かっている必要がある( 𝜌 の時間発展は以下の式(17)から計算することもできる)。

8.3.2マクスウェル方程式の残りは、初期条件と電荷・磁荷保存則を表す

式(16)の下側の2式は、時間発展には影響しないが、これらはどう扱うべきだろうか。当然、任意の時刻でこれらは満たしている必要がある。そのためには、これらの時間微分が 0 でなければならない。実際に微分してみると 𝜕𝜕𝑡⁢(∇T𝑬−𝜖−10⁢𝜌)=∇T˙𝑬−𝜖−10⁢˙𝜌=∇T(𝑐2∇×𝑩−𝜖−10⁢𝒋)−𝜖−10⁢˙𝜌=−𝜖−10⁢(∇T𝒋+˙𝜌)𝜕𝜕𝑡∇T𝑩=∇T˙𝑩=∇T(−∇×𝑬)=0 これらが 0 となるのだから (⋯) 部分は 0 である: ˙𝜌+∇T𝒋=0(17) 前述のように、これは電荷保存則を表す。ガウスの法則は、 𝜌 を与えるものなので、 𝜌 と 𝒋 の関係式を課すものとなるのは自然だろう。もう一方の式は、磁場の源となるもの(電場における電荷に対応するもの、磁荷)が存在しないことを表している。

逆に言えば、初期値が式(16)の下側の2式を満たし、それ以降の時刻で、電荷密度の時間発展が式(17)で与えられ、磁荷がゼロであれば、これら2式は自動的に成り立ち続けるわけである。

8.3.3荷電粒子の運動は式(18)から計算できる

さて、もともと知りたかったのは、電磁気力を受ける荷電粒子の運動 𝒙⁡(𝑡) であった。上述のように電磁場の時間発展が計算できるので、 𝒙⁡(𝑡) は、相対論的運動方程式から計算できることになる:( 𝑞 は荷電粒子の電荷) 𝑚⁢¨𝒙=𝛾−3⁢𝒇∥+𝛾−1⁢𝒇⟂𝒇≡𝑞⁢(𝑬+˙𝒙×𝑩)𝛾≡1√1−𝑐−2⁢|˙𝒙|2 𝒇∥,𝒇⟂ はそれぞれ、力 𝒇 を「速度 ˙𝒙 に対して平行な方向」と「垂直な方向」に分解したものである。物体の速度が光速 𝑐 より十分小さければ、 𝛾≈1 としてよいので、非相対論的なもの帰着する: 𝑚⁢¨𝒙≈𝒇 。

まとめると、荷電粒子の運動を計算するには、次のようにすればよい。まず、 𝑡=0 における初期条件として以下を与える: 荷電粒子の位置・速度:𝒙0,˙𝒙0電荷・電流密度:𝜌⁡(0,𝒙),𝒋⁡(0,𝒙)電磁場:𝑬⁡(0,𝒙),𝑩⁡(0,𝒙) ただし、電磁場は、マクスウェル方程式(16)の下側2式を満たすようにとる。その後の、電流密度の時間変化 𝒋⁡(𝑡,𝒙) が分かっているとすると、それぞれの量の時間発展は、以下の微分方程式により計算できる: 𝑑𝑑⁢𝑡⁢⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣𝒙˙𝒙𝑬𝑩⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦=⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣˙𝒙𝛾−3⁢𝒇∥+𝛾−1⁢𝒇⟂𝑐2∇×𝑩−𝜖−10⁢𝒋−∇×𝑬⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦(18) あるいは、差分形式で書くと以下のようになる: ⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣𝒙˙𝒙𝑬𝑩⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦𝑡+𝛿⁢𝑡≐⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣𝒙+𝛿⁢𝑡⋅˙𝒙˙𝒙+𝛿⁢𝑡⋅(𝛾−3⁢𝒇∥+𝛾−1⁢𝒇⟂)𝑬+𝛿⁢𝑡⋅(𝑐2∇×𝑩−𝜖−10⁢𝒋)𝑩+𝛿⁢𝑡⋅(−∇×𝑬)⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦𝑡(19) 𝜌 の時間変化については、マクスウェル方程式(16)の第3式から直接求めることもできるし、電荷保存則から逐次計算して行くこともできる。

なお、ここでは 𝒋⁡(𝑡,𝒙) が既知であるとしたが、実際には、電流自体がクーロン力やアンペール力の影響を受ける。これを考慮する必要がある場合には、 𝒋⁡(𝑡,𝒙) の時間発展も同時に計算する必要がある。