流速密度の積分
ある曲面
𝑆
を、電流が貫いているとする。この
𝑆
を1秒間に通過する電荷量
𝑄
を求めるにはどうすればよいだろうか。
𝑄
は、電流密度
𝒋
が与えられれば決まるはずである。これを計算するには、
𝑆
を微小な面要素
𝛿𝑆
に分割し、
𝛿𝑆
を通過する電荷量
𝛿𝑄
を求め、それらを足し合わせればよい。要するに、区分求積法である。詳しくは後述するが、このような積分を「微分形式の積分」という。微分形式は数学用語であり、「微分の形式で表現されたもの」という意味ではない。
この積分は、力学編のだ第14章で扱った区分求積法による密度の積分の考え方と全く同じである。微分形式の積分は、密度の積分と異なり、積分の向きが存在し、その向きにより符号が変わるという特徴がある。例えば、冒頭の例では、
𝑆
をどの方向に電流が貫いている時に正の値にするかという任意性がある。通常の数直線上での積分
∫𝑏𝑥=𝑎𝑓(𝑥)
は、
𝑎,𝑏
を入れ替えると符号が変わるが、実際これも微分形式の積分である。
この章では、まず微分形式の積分を導入し、微分形式のイメージを述べる。その後、力学編の第15章で述べたベクトル場の積分が、実は微分形式の積分に他ならないことを示す。以上を3つの積に分けて議論する:
11.1:微分形式の積分11.2:微分形式のイメージ11.3:計量テンソルによる微分形式とベクトル場の対応
13.1微分形式の積分
13.1.1テンソル=ベクトルの1次関数
冒頭で述べた、「曲面
𝑆
を1秒間に通過する電荷量
𝑄
」を求める方法を考える。区分求積法を考えれば良いので、与えられた電流密度
𝒋
から、微小面要素
𝛿𝑆
を通過する電荷量を求めればよい。まず、1つの
𝛿𝑆
に着目する。この
𝛿𝑆
は2つの微小なベクトル
𝛿𝒙,𝛿𝒚
が作る平行四辺形であるとしてよい。この時、
𝛿𝑆
は微小なのだから、
𝛿𝑄
は
𝛿𝒙,𝛿𝒚
の1次近似で表すことができる。即ち、ある行列
𝐽
を用いて、以下のような形に書ける:(
𝛿𝒙,𝛿𝒚
それぞれについて1次である)
𝛿𝑄≐𝛿𝒙T𝐽𝛿𝒚=∑𝑖,𝑗𝐽𝑖𝑗𝛿𝑥𝑖𝛿𝑦𝑗(1)
この
𝐽𝑖𝑗
のように、ベクトルの1次関数となるものを、テンソルという。今の場合、
𝐽𝑖𝑗
は地点ごとに定義される量なので、テンソル場である。
𝑘
個のベクトルに作用する場合、
𝑘
階のテンソルという。
𝐽𝑖𝑗
の場合、2つのベクトルに作用するので2階のテンソルである。
なお、式(1)の場合もそうであるが、テンソルは下付き添え字、ベクトルは上付き添え字で表すのが習慣である。これにより、必ず、上付きと下付きのペアで和を取ることになる。そのため、式(1)の和の記号は省略してもよい:(アインシュタインの縮約記法)
𝛿𝑄≐𝐽𝑖𝑗𝛿𝑥𝑖𝛿𝑦𝑗=𝐽∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑦∙
この記法の詳細は、連続体力学編の第2章の【2.2-注1】の通りである。
13.1.2テンソル場の例
テンソル場の例をいくつか挙げておく:
- 電流密度
𝐽
は、上述の通り2階のテンソルである。
𝛿𝑄≐𝐽∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑦∙
は、2つのベクトル
𝛿𝒙,𝛿𝒚
が作る平行四辺形を1秒に通過する電荷量(向きを考慮したもの)になる。通常のベクトル場としての電流密度
𝒋
との関係は11.3節で述べる。
- 電荷・電流密度
𝖩
は、4次元時空における3階のテンソルである。これは、3つのベクトルが張る平行六面体を通過する、荷電粒子の世界線の数を与える。第5章で、電荷・電流密度は、荷電粒子の世界線の束とみなせるという話をしたが、それと対応していることが分かるだろう。四元ベクトルとしての電荷・電流密度
𝗃
との関係は11.3節で述べる。
- 関数
𝑓(𝒙)
の微分
𝑑𝑓𝑑𝒙
は1階のテンソルである。これは、微分の定義により、
𝛿𝒙
を掛けると
𝑓
の変化量
𝛿𝑓
になる。即ち、
𝛿𝑓≐𝑑𝑓𝑑𝒙𝛿𝒙=(𝜕∙𝑓)𝛿𝑥∙
。
- 計量テンソル
𝑔
(力学編の第14章)も2階のテンソルである。
𝑔∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑦∙
は、ベクトル
𝛿𝒙
と
𝛿𝒚
の(幾何学的な意味での)内積であり、
𝛿𝒙=𝛿𝒚
の場合には
𝛿𝒙
の大きさの2乗を与える。
13.1.3 𝑘 次微分形式: 𝑘 次元領域で積分できる 𝑘 階テンソル場
上記の例のうち、計量テンソル
𝑔
以外は、「テンソル場の階数と同じ次元を持つ領域」上で自然に積分が定義できる。このようなテンソル場を微分形式という。特に、
𝑘
階のテンソル場の場合、
𝑘
-形式(または
𝑘
次微分形式)という。微分形式は
𝜔
で表されることが多い。
例えば、2階のテンソルである電流密度
𝐽
は、2次元曲面上で
𝐽∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑦∙
を微小要素として積分できるので、
2
-形式である。同様に、関数の微分
𝑑𝑓𝑑𝒙
は1階のテンソル場であり、1次元曲線に沿って積分できるので、
1
-形式である。その積分値は、曲線の始点
𝒙begin
と終点
𝒙end
での
𝑓
の値の差
𝑓(𝒙end)−𝑓(𝒙begin)
である。
このようなテンソル場を、微分形式という。実際の積分を計算するには、
𝑘
-形式を
𝑘
次元空間
𝐷′
に引き戻して、
∫𝜔∘𝑘=∫𝐷′𝜔1′⋯𝑘′𝑑𝑥1′⋯𝑑𝑥𝑘′
で計算する。ただし、
𝜔1′⋯𝑘′
は、
𝜔∘𝑘
を
𝐷′
へ引き戻したものの
1⋯𝑘
成分である。
一方、計量テンソル
𝑔
についても、曲線に沿って積分可能であり、曲線の長さを与える。しかし、2階のテンソルを、1次元曲線上で積分する形となっており、しかも、
√𝑔∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑥∙
を微小要素とする必要があるので、微分形式ではない。
13.1.4微分形式は、反対称テンソル場
微分形式はテンソル場であるが、逆に、任意のテンソル場が微分形式であるとは言えない。
𝑘
階テンソルが微分形式であるためには、
𝑘
次元領域上で積分できる必要がある。即ち、区分求積の際、どのように分割するかによらずに値が決まらなければならない。そのための条件は、反対称であることとなる(以下の【11.1-注2】)。反対称とは、任意の2つの添え字を入れ替えると、符号が変わることである。例えば、2階のテンソルであれば、
𝑇𝑖𝑗=−𝑇𝑗𝑖
となる。
上述の電流の例
𝛿𝑄≐𝐽∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑦∙
を見ると、
𝐽∘∘
の反対称性により、
𝛿𝒙
と
𝛿𝒚
の順序を交換すると、
𝛿𝑄
の符号も反転する。この性質は、電流がこの面をどの方向に貫くかを指定するのに使える。そのためには、まず以下の【11.1-注3】で示すように、空間および積分領域
𝐷
に向き付けておく。この時、向き付けられた領域
⃗𝐷
の右手系との縮約が正の場合に、
⃗𝐷
の裏から表方向に抜けるような流れとなるように、
𝐽∘∘
を定義すればよい。このように、微分形式に物理的意味を持たせるには、積分領域を向き付けしておくことになる。
【13.1-注1】微分形式は反対称テンソル場
微分形式は、反対称なテンソル場である。特に、
1
-形式は、常に微分形式である。
導出
まず2階のテンソル場の場合(
𝑇∘∘
とおく)を考える。
𝑇∘∘
に同じベクトルを2つ作用させると、平行四辺形がつぶれるため、
0
にならなければならない:
𝑇∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑥∙=0
任意の
𝛿𝒙
についてこれが成り立つ。ここで
𝛿𝒙=𝛿𝒖+𝛿𝒗
とおくと、上式の左辺は
(左辺)=𝑇∙∙(𝛿𝑢∙+𝛿𝑣∙)(𝛿𝑢∙+𝛿𝑣∙)=𝑇∙∙(𝛿𝑢∙𝛿𝑢∙+𝛿𝑣∙𝛿𝑣∙)+𝑇∙∙(𝛿𝑢∙𝛿𝑣∙+𝛿𝑣∙𝛿𝑢∙)=0+(𝑇𝑖𝑗+𝑇𝑗𝑖)𝛿𝑢𝑖𝛿𝑣𝑗
これが任意の
𝛿𝒖,𝛿𝒗
について
0
になるのだから、
(⋯)=0
。即ち、
𝑇𝑖𝑗
は反対称である。
3階以上の場合も、任意の2つの添え字に着目すれば同じ議論で反対称性が言える。
◼
【13.1-注2】領域 𝐷 の向き付け: ⃗𝐷
領域
𝐷
を向き付けるとは、全ての点で非0である
𝑛
-形式
𝜔
(
𝑛
は
𝐷
の次元)を定義することである。
𝐷
上に座標
𝒙
を定義した時、「
𝒙
の各軸方向によって定義される順序付きの基底
{𝒆1,…,𝒆𝑛}
」と
𝜔
との縮約が正であれば、
𝒙
は右手系であるという(負であれば左手系)。向き付けられた領域を
⃗𝐷
と書くことにする。向き付けは常に可能であるとは限らない。
補足
例えば、2点
𝒂,𝒃
を端点に持つ1次元曲線であれば、
𝒂→𝒃
に向かう向きと、その逆向き
𝒃→𝒂
の2通りが考えられる。
𝒂→𝒃
方向に向き付ける場合には、その向きを向くベクトルと縮約したときに、正の値になる1-形式を定義すればよい。あるいはそんな回りくどいことをしなくても、
𝒂→𝒃
に向かって値が大きくなるような座標を定義し、そこから得られる基底ベクトルの方向で定義してもよい。
一方、3次元空間
𝑈
の2次元の曲面
𝐷
の場合、
𝐷
の向きは、面を表裏と対応させることができる。そのためには、
𝑈
と
𝐷
の両方に向きを定義する。
⃗𝐷
の右手系基底にあるベクトル
𝒆3
を追加した時、それが
⃗𝑈
の右手系基底になれば、
𝒆3
の方向を
𝐷
の表と定義することができる。ただし、メビウスの帯のように裏表が無いものもあり、これは向き付け不可能である。
13.2微分形式のイメージ
この節では、微分形式のイメージを考える。
𝑘
-形式は、
𝑘
個のベクトルに作用するので、
𝑘
の最大値は、次元の数
𝑛
である(
𝑛+1
形式以上では、反対称性からも0しかないことが分かる)。
13.2.11次元(数直線)
まず、1次元の数直線の場合である。1次元空間中には1形式しか定義できない(次章で述べるが、単なる関数のことを0-形式と定義するので、0-形式も可能ではある)。1-形式として、関数の微分
𝑑𝑓𝑑𝑥
を考える。これは、
𝛿𝑥
に掛けた時に、
𝑓
の変化量
𝛿𝑓≐𝑑𝑓𝑑𝑥𝛿𝑥
になるような量である。この積分は通常の数直線上の積分であり、
𝑥=𝑎
から
𝑥=𝑏
まで積分すると、
𝑓(𝑎),𝑓(𝑏)
の差が出てくる:(微分積分額の基本定理そのものである)
∫𝑏𝑎𝑑𝑓𝑑𝑥𝑑𝑥=𝑓(𝑏)−𝑓(𝑎)
というわけでこの場合は、イメージがどうのというより、1-形式の積分は通常の1変数の積分そのものであり、1-形式は被積分関数である。積分する方向を変えると(
𝑎,𝑏
を逆にすると)符号が変わるという性質を持っているが、これは微分形式の積分一般に言えることである。一方、力学編の第15章で述べた密度の積分は、領域を与えれば、積分の向きに関係なく値が決まる(密度積分を多重積分に変換するときに向きを気にしたが、それは、多重積分が微分形式の積分だったからである)。
13.2.22次元
2次元空間の場合、1-形式と2-形式が定義できる。1-形式の場合、代表的なのは関数の微分
𝜕∘𝑓
である。これは、
𝛿𝑥∘
に作用させた時に、
𝑓
の変化量になるような量なので、等高線をイメージすればよい。1-形式を曲線
𝐶
に沿って線積分したものは、
𝐶
が貫く「等高線の数」になるわけである。なお、可積分条件(力学編の第16章)での議論からも分かるように、1-形式が常に
𝜕∘𝑓
の形に書けるわけではない。
次に、2-形式
𝜔∘∘
である。これは、2つのベクトル
𝛿𝑥∘,𝛿𝑦∘
が作る平行四辺形の面積(のようなもの)に比例するような量である。従って、砂を撒いたように点が分布している状況をイメージすればよい。2-形式を面
𝑆
に沿って積分すると、
𝑆
に含まれる「点の数」になるわけである。
なお、微分形式は向きを持っている。例えば
𝜔∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑦∙
であれば、
𝛿𝑥∘
の向きを反転すると符号が変わる。あるいは、
𝜔
の反対称性から
𝛿𝑥∘
と
𝛿𝑦∘
を入れ替えても符号が変わる。
13.2.33次元
次に、3次元空間の場合である。3-形式まで定義可能である。1-形式は、2次元の場合の類推により、等高面を考えればよいことが分かる。また、3-形式についても、点が分布している状況をイメージすればよい。
後は、2-形式である。この場合は、前節の電流密度に対応するものなので、流線の束をイメージすればよい。2-形式を曲面
𝑆
上で積分すると、
𝑆
を通過する「流線の数」になる。ただしこの場合も、向きを考える必要がある(面要素の向きと一致している場合に正の値になる)。
13.2.4 𝑘 -ベクトル
ところで、2-形式
𝜔∘∘
の縮約
𝜔∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑦∙
を考える時、
𝜔∘∘
は反対称なので、
𝛿𝑥∘,𝛿𝑦∘
の全ての成分が必要となるわけではない。何が言いたいかというと、縮約した値は、微小面要素の向きや「面積」に対応する量だけが重要であり、それらが同じになるような
𝛿𝑥∘,𝛿𝑦∘
は区別する必要性がないということである。
実際、
𝛿𝑥∘,𝛿𝑦∘
が与えられたとき、任意の
𝜔∘∘
に対して
𝜔∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑦∙=𝜔∙∙𝛿𝑥∙∙
を満たすような、反対称な量
𝛿𝑥∘∘
がただ1つ存在し、それは
𝛿𝑥∘∘≡(𝛿𝒙∧𝛿𝒚)∘∘≡12(𝛿𝑥∘𝛿𝑦∘−𝛿𝑦∘𝛿𝑥∘)
である。従って、
𝛿𝑥∘,𝛿𝑦∘
を与える代わりに
𝛿𝑥∘∘
を与えても等価である。上式のように
𝛿𝑥∘∘
を
𝛿𝒙∧𝛿𝒚
と書き、ウェッジ積という。これを、2-形式になぞらえて2-ベクトルという。2-ベクトルは向き付きの面要素を表す。
これは、より高次元に一般化できる。
𝑘
次元の体積要素は、
𝑘
個のベクトルのウェッジ積で表され、
𝑘
-ベクトルという。
𝑘
-ベクトルを、
𝛿𝑥∘𝑘
で表すことにする。
𝑘
-ベクトルには、
𝑘
-形式
𝜔∘𝑘
を作用させることができる:(
∘𝑘
は
𝑘
個の
∘⋯∘
の略記)
𝜔∙𝑘𝛿𝑥∙𝑘
【13.2-注1】 𝑘 -ベクトル: 𝑥∘𝑘
空間の次元を
𝑛
とする。任意の
𝑘
個のベクトル
𝒙1,…,𝒙𝑘
のウェッジ積
𝑥∘𝑘
を、以下のように定義する:
𝑥∘𝑘≡(−1)𝑘(𝑛−𝑘)𝑘!(𝑛−𝑘)!𝜖∘𝑘∙𝑛−𝑘∙𝑛−𝑘∙𝑘𝑥∙1⋯𝑥∙𝑘(2)
これを
𝑘
-ベクトルという。
𝜖∘𝑛∘𝑛
はレビ・チビタ記号である(以下の【11.2-注2】)。
𝑥∘𝑘
をもっと明示的に書きたい時は、
𝒙1∧⋯∧𝒙𝑘
と書く。
この時、任意の
𝑘
-形式
𝜔∘𝑘
と
𝒙1,…,𝒙𝑘
との縮約は、
𝑥∘𝑘
に置き換えられる:
𝜔∙𝑘𝑥∙1⋯𝑥∙𝑘=𝜔∙𝑘𝑥∙𝑘
補足
式(2)は、以下のようにも書ける:
𝑥∘𝑘=𝑥[∘1⋯𝑥∘]𝑘
ただし、
[∘⋯∘]
は反対称化括弧、即ち、添え字を反対称化して
𝑘!
で割ったものである。例えば、以下のようになる:(添え字を入れ替えると符号が変わる)
𝛼[12]=12!(𝛼12−𝛼21)𝛽[123]=13!(𝛽123+𝛽231+𝛽312−𝛽132−𝛽321−𝛽213)
【13.2-注2】一般化レビ・チビタ記号: 𝜖∘𝑛∘𝑛
【7.1-注5】で述べたように、
𝑛
次元空間におけるレビ・チビタ記号
𝜖∘𝑛
は、「
𝜖1⋯𝑛=1
、かつ、添え字の交換に対して反対称」という性質で定義される量である(【7.1-注5】では相対論の流儀に従って0から始めたが通常は1からである)。これを2階建てにしたもの
𝜖∘𝑛∘𝑛
を以下のように定義する:(
𝜖∘𝑛=𝜖∘𝑛
)
𝜖∘𝑛∘𝑛≡𝜖∘𝑛𝜖∘𝑛
つまり、上付き添え字が全て異なり、かつ、下付き添え字も全て異なる場合にのみ
±1
でありそれ以外は
0
。符号は、上下の添え字が共に偶置換または共に奇置換の場合に
+1
、それ以外の場合(偶奇性が異なる場合)に
−1
である。
𝛿∘𝑛∘𝑛
と書いて一般化されたクロネッカーのデルタと呼ぶこともある。
13.3計量テンソルによる微分形式とベクトル場の対応
微分形式とベクトルには類似性がある。例えば、1-形式
𝜔∘
をベクトル
𝑣∘
に作用させたもの
𝜔∙𝑣∙
は、デカルト座標のもとでのベクトル
𝒙,𝒚
の内積
𝒙T𝒚
と同じ形になっている。また、電流密度2-形式
𝐽∘∘
と電流密度ベクトル場
𝑗∘
は同じ情報を持っている。これらを考慮すると、微分形式をベクトルに変換したりできそうである。ただし、内積とか直交性といった情報が必要なので、計量テンソル
𝑔
が定義されている必要がある。
この双対性を使えば、微分形式の積分を、よりイメージしやすいベクトル場の積分のように解釈することができる。
13.3.1 𝑘 -形式 𝜔∘𝑘 を 𝑘 -ベクトル場 𝜔∘𝑘 に変換する
1-形式
𝜔∘
をベクトル
𝛿𝑥∘
に作用させたものは
𝜔∘𝛿𝑥∘
となるわけだが、これは2つのベクトルを内積したようにも見える。1-形式は、2次元空間中では等高線のような量であった。これをベクトルで表現するには、等高線に「垂直」な方向(2方向あるが最も大きくなる方向)を向き、その大きさが、「単位長さ」当たりその方向に通過する等高線の本数となるようなベクトル場
𝜔∘
を考えればよい(添え字が上付きになっている)。ただし、「垂直」や「単位長さ」を定めるには計量テンソル
𝑔∘∘
が必要なことに注意。そのようなベクトル
𝜔∘
は、
𝑔∘∙𝜔∙=𝜔∘
を満たす。よって、
𝑔∘∘
の逆行列を
𝑔∘∘
と書くことにすると、
𝜔∘
は以下のようになる:
𝜔∘=𝜔∙𝑔∙∘
従って、デカルト座標のもとでは
𝑔∘∘
が単位行列なので、
𝜔𝑖=𝜔𝑖
となり、1-形式と1-ベクトル場をそのまま同一視できる(ただし単位は異なる)。このように、計量が存在する場合、1-形式と1-ベクトル場はこの置き換えのもとで同一視できる。
同様に、任意の
𝑘
-形式
𝜔∘𝑘
を、
𝑘
-ベクトル場
𝜔∘𝑘
に変換することができる:
𝜔∘𝑘=𝑔∘∙⋯𝑔∘∙⏟𝑘個𝜔∙𝑘
このように、
𝑔
を用いて変換したものは、同じ変数名を使い、添え字の位置で区別する。
13.3.2ホッジ双対: 𝑘 -形式と (𝑛−𝑘) -ベクトル場の対応
次に、電流密度2-形式
𝐽∘∘
と、電流密度ベクトル場
𝑗∘
である。は、電流が流れる方向を向き、それと直行する単位面積を単位時間あたりに通過する電荷量である。一方、
𝐽∘∘
は、2つの微小なベクトルを作用させたときに、それらが張る平行四辺形を通過する電荷量になるような量である。1次近似の範囲で。
明らかにこれら2つの量は対応関係がある。例えば、
𝑗∘∘
は、反対称なので、独立な成分は3であり、
𝑗∘
の成分と一致している。両者を関係付ける式がありそうである。実際、それは以下のようになる:
𝑗∘=12Vol∘∙∙𝐽∙∙
ただし、
Vol∘∘∘
は、単位体積を持つような3-ベクトル場である(以下の【11.3-注1】)。
この対応関係をホッジ双対といい、
𝑗=⋆𝐽
と書く。
⋆
という演算子はホッジスターと呼ばれる。一般に、
⋆
は、
𝑘
-形式を
(𝑛−𝑘)
-ベクトルに(あるいはその逆に)変換する演算子であり、以下の【11.3-注2】で定義される。
【13.3-注1】体積形式
空間の次元を
𝑛
とする。以下の
𝑛
-形式
Vol∘𝑛
を、体積形式と呼ぶ:
Vol∘𝑛=𝑠√|𝑔|𝜖∘𝑛
その名の通り、
𝑛
個のベクトルを縮約すると、平行体(
𝑛=2
なら平行四辺形、
𝑛=3
なら平行六面体)の符号付き体積になる。ただし、
|𝑔|>0
は、計量テンソル
𝑔∘∘
の行列式である。また、
𝑠=±1
であり、右手系の場合に
+1
、左手系の場合に
−1
とする。
【13.3-注2】ホッジ双対 ⋆𝜔
空間の次元を
𝑛
とする。
𝑘
-形式
𝜔∘𝑘
のホッジ双対
⋆𝜔
とは、以下で定義される
(𝑛−𝑘)
-ベクトル場である:
(⋆𝜔)∘𝑛−𝑘≡1𝑘!(𝑛−𝑘)!Vol∘𝑛−𝑘∙𝑘𝜔∙𝑘