流速場の運動方程式(1)が知りたい
流体の運動を計算したい。弾性体の場合、物体上の点がどのように運動するかを求めることが目的だったので、物体上の全ての点にはラベルが付いており、互いに区別可能としていた。しかし、流体の場合、流体上の点は、流れに乗って自由に移動できてしまうので、個々の点が過去にどこにあったかを区別する必要はないことが多い。例えば、物体の周りを水や空気が流れていて、その様子が知りたい場合、周囲の流速場が分かれば十分である。よって、弾性体の場合に考えたような、点(マーカー)の運動を追跡する方法(ラグランジュ表現という)より、空間に固定された点
𝒙
に着目して、流速場
𝒗𝑡,𝒙
がどのように変化するかを考える方法(オイラー表現という)のほうが自然であることが多い。
オイラー表現における運動方程式は、流速場の時間変化を与えるもの、即ち、
˙𝒗𝑡,𝒙=[⋯](1)
の形をしたものとなる。オイラー表現とラグランジュ表現と等価である。実際、式(1)が解ければ、(各点に置かれたマーカーは流速に沿って動くので)マーカーの運動を決めることができる。逆に、ラグランジュ表現の場合の運動方程式(コーシーの運動方程式):
𝜌¨𝒙=𝜎←∇+˜𝒇(2)
を解けば、そこから空間上の各点での速度場は計算できる。よって、両表現は等価なのだから、式(2)を変形すれば、式(1)が得られるはずである。
この章では、流速場に対する運動方程式(1)を求める。その後、いくつかの流体について具体的にな方程式を書下す。
10.1オイラー表現による運動方程式
この節では、オイラー表現による運動方程式(6)を導く。
10.1.1加速度 ¨𝒙 と流速の微分 ˙𝒗 の関係式:式(5)
オイラー表現では、流速場
𝒗
の時間発展を計算することになる。そのためは、時間微分
˙𝒗
が必要である。
˙𝒗
は速度の微分なので加速度のようなものである。よって、式(2)における加速度
¨𝒙
から、
˙𝒗
を求めてやることを考える。
¨𝒙
の定義に立ち返ると、
¨𝒙
は、速度
˙𝒙
の1次近似である:(右辺は時刻
𝑡
での値)
˙𝒙𝑡+𝛿𝑡≐˙𝒙+¨𝒙⋅𝛿𝑡(3)
両辺の
˙𝒙
は、流速場の
𝒗
と同じものである。ただし、流れに沿って移動する特定の点を考えているので、右辺と左辺では
𝒗
の位置が異なる。右辺では点
𝒙𝑡
における値なので
˙𝒙=𝒗𝑡,𝒙
であるが、左辺では
𝛿𝑡
秒後の移動地点
𝒙𝑡+𝛿𝑡
における値を考えなければならない:
˙𝒙𝑡+𝛿𝑡=𝒗𝑡+𝛿𝑡,𝒙+𝛿𝒙(4)
ここで、
𝛿𝒙
は、
𝛿𝑡
での移動距離なので、1次近似により
𝛿𝒙=𝒙𝑡+𝛿𝑡−𝒙𝑡≐˙𝒙𝑡𝛿𝑡
である。これを用いて、左辺を1次近似すると以下のようになる:(右辺は
𝑡,𝒙
での値)
𝒗𝑡+𝛿𝑡,𝒙+𝛿𝒙≐𝒗+(˙𝒗𝛿𝑡+𝜕𝒗𝜕𝒙𝛿𝒙)≐𝒗+(˙𝒗𝛿𝑡+𝜕𝒗𝜕𝒙𝒗𝛿𝑡)=𝒗+(˙𝒗+𝒗∇T𝒗)𝛿𝑡
これらを元の式(3)に代入すると、
𝛿𝑡
に比例する項のみが残り、
¨𝒙
と
𝒗
の関係式が得られる:
¨𝒙=˙𝒗+𝒗∇T𝒗(5)
10.1.2オイラー表現による運動方程式:式(6)
後は、式(5)を、コーシーの運動方程式(2)に代入すれば、
˙𝒗
が求まる:
𝜌˙𝒗=−𝜌(∇T𝒗)𝒗+𝜎←∇+˜𝒇(6)
これが、オイラー表現における運動方程式である。これは、運動量保存則の形で、以下のようにも書ける:
𝜕𝜕𝑡𝜌𝒗=(−𝜌𝒗𝒗T+𝜎)←∇+˜𝒇
密度
𝜌
は、初期分布を与えておけば、時間変化は、連続の方程式
˙𝜌=−∇T(𝜌𝒗)
から決まる。
10.2理想流体の場合:オイラー方程式
10.2.1理想流体の構成方程式:式(7)
流体の応力テンソル
𝜎
として、最も簡単なのは、
𝜎
がスカラー行列の場合である。これは等方的な圧力
𝑝
がかかる場合である:
𝜎=−⎡⎢
⎢⎣𝑝𝑝𝑝⎤⎥
⎥⎦(7)
これを理想流体(または完全流体)という。
𝜎
にマイナスがついているのは、流体の圧力は体積要素の内向きに作用するからである(外向きの単位ベクトル
𝒏
を取った時に応力
𝜎𝒏
が内側を向く)。
10.2.2理想流体の運動方程式:オイラー方程式
流速場の時間発展を記述する運動方程式は、構成方程式(7)を式(6)に代入することにより得られる:
𝜌˙𝒗=−𝜌(∇T𝒗)𝒗−∇𝑝+˜𝒇
これを(流体力学における)オイラー方程式という。
10.3等方的なニュートン流体の場合:ナビエ・ストークス方程式
10.3.1等方的なニュートン流体の構成方程式:式(8)
理想流体の構成方程式(7)の場合、応力は、常に面に垂直に作用する。しかし、実際の流体では、面に平行な応力(=剪断能力)も作用する。この性質を粘性という。特に、面を横に動かすような場合、速度に応じた剪断応力が発生する。この剪断応力は、典型的には、ひずみ速度テンソル
𝐸
𝐸=12(𝜕𝒗𝜕𝒙+𝜕𝒗𝜕𝒙T)
の1次関数になることが知られている(
𝐸
は速度勾配テンソル
𝜕𝒗𝜕𝒙
の対称部分)。これをニュートンの粘性法則という。この近似が成り立つ流体を、ニュートン流体という。ニュートン流体であれば、応力テンソル
𝜎
のひずみ速度依存性は、線形になるわけである。(これはちょうど、弾性体の場合に、応力テンソルが変形勾配テンソルに比例するのと同じ形である。)
応力テンソルが等方的な場合を考える。等方的という条件は、弾性体の場合と同様である。弾性体の場合はに、構成方程式は以下のようになる:
𝜎=−𝑝+𝜆tr𝐸+2𝜇𝐸(8)
この式は、完全流体の構成方程式(7)に、ひずみ速度テンソルに比例する項を足したものである。
𝜆,𝜇
は弾性体でのラメ定数に対応するものである。
𝜇
を粘性率という。
10.3.2等方的なニュートン流体の場合:ナビエ・ストークス方程式
流速場の時間発展を記述する運動方程式は、式(6)に構成方程式(8)を代入すれば得られる:
𝜌˙𝒗=−𝜌(∇T𝒗)𝒗−∇𝑝+(𝜆+𝜇)∇∇T𝒗+𝜇Δ𝒗+˜𝒇(9)
これを、ナビエ・ストークス方程式という。