振動する弾性体の簡略版として、連成振動を考える
連続体の運動で大きな興味を引くのは、振動である。力学編第2章で述べたように、フックの法則に従うバネの振動では、運動方程式が線形になり、運動が三角関数で簡単に書き下すことができた。弾性体の場合も、変位が小さければ線形になって解が書下せるのではないだろうか。
この章では、弾性体とバネを結び付ける準備として、連成振動の解を書き下すことにする。純粋に数学的な話である。
4.1バネの運動、再び
バネにつながれた重りの運動方程式:(
𝑘>0
)
𝑚¨𝑥=−𝑘𝑥(1)
の初期値問題の解は、初期位置
𝑥0
および初期速度
˙𝑥0
のもとで、以下のようになる:
𝑥=𝑥0cos𝜔𝑡+˙𝑥0𝜔sin𝜔𝑡𝜔≡√𝑘𝑚(2)
これについては、力学編の【2.3-注2】で既に扱った。
この節では、この式を複素表示する。次の節で連成振動の解を求めるための準備である。
4.1.1バネの運動方程式の複素表示:式(6)
まず、バネの運動方程式(1)を、式(2)の
𝜔
を使って書いておく:
¨𝑥=−𝜔2𝑥
これを、1階正規形(
˙𝑿=𝐹(𝑡,𝑿)
の形)で書けば以下のようになる:
𝑑𝑑𝑡[𝑥˙𝑥]=[01−𝜔20][𝑥˙𝑥](3)
成分ごとに分けて書けば
𝑑𝑑𝑡𝑥=˙𝑥𝑑𝑑𝑡˙𝑥=−𝜔2𝑥⎫{
{
{⎬{
{
{⎭(4)
となる。
式(4)を少し観察してみよう。
𝜔2=1
と置いてみると、両式は対称的な形をしている。即ち、微分することにより
𝑥,˙𝑥
が入れ替わる。ただし、一方だけ符号が変わっている。ところで、このような関係には見覚えがある。即ち、複素数
𝑎+𝑖𝑏
に虚数単位
𝑖
をかけた時の、実部と虚部の関係である。ということは、微分を、虚数の積で置き換えられそうである。実際
𝑧≡𝑥−𝑖𝜔−1˙𝑥(5)
とおけば、式(3)は、以下のようにまとまる:
˙𝑧=𝑖𝜔𝑧(6)
「時間微分」と「
𝑖𝜔
の積」が等しいことを意味している。
4.1.2運動方程式(6)の解:式(7)
これの初期値
𝒛0
における解
𝑧
を以下のように書くことにする:
𝑧=𝑒𝑖𝜔𝑡𝑧0(7)
この記法は、
˙𝑥=𝑘𝑥
の解が
𝑥=𝑒𝑘𝑡𝑥0
となることに合わせたものである。
𝑒𝑖𝜔𝑡
は、虚数の指数関数という見慣れない形をした、未知の関数である。
𝑒𝑖𝜔𝑡
は以下で与えられる:(オイラーの公式【4.1-注1】)
𝑒𝑖𝜔𝑡=cos𝜔𝑡+𝑖sin𝜔𝑡
これは、実軸が
𝑥
、虚軸が
−𝑖𝜔−1˙𝑥
となるような複素平面を取った時、おもりの運動は、この複素平面状の等速円運動で表されるということを意味している。実部と虚部を分けて書くと、式(2)に一致する。
𝜔
を、各周波数という。
𝛿𝑡
秒間で
𝜔𝛿𝑡
ラジアンだけ回転する。
【4.1-注1】オイラーの公式
虚数の指数関数
𝑒𝑖𝜃
は、以下のようになる:
𝑒𝑖𝜃=cos𝜃+𝑖sin𝜃
導出
運動方程式(6)の両辺に、式(7)を代入すると
𝑑𝑑𝑡𝑒𝑖𝜔𝑡𝑧0=𝑖𝜔𝑒𝑖𝜔𝑡𝑧0
となる。初期値
𝑧0
で割ると、
𝑧0
に依存しなくなる:
𝑑𝑑𝑡𝑒𝑖𝜔𝑡=𝑖𝜔𝑒𝑖𝜔𝑡(8)
これで
𝑒𝑖𝜔𝑡
に対する微分方程式が得られた。これを解くには初期条件が必要であるが、それは、
𝑡=0
において
𝑒𝑖𝜔𝑡=1
である(式(7)より)。
微分方程式の解の一意性により、式(8)と初期条件を満たす解を1つ見つけてくればよい。以下が解になることはすぐ分かる:
𝑒𝑖𝜔𝑡=cos𝜔𝑡+𝑖sin𝜔𝑡
𝜃≡𝜔𝑡
とおけば、与式になる。
◼
オイラーの公式以外にも、式(8)を一般化することで、行列や微分演算子の指数関数を定義することができる(以下の【4.1-注2】)。
【4.1-注2】指数関数の一般化
線形変換
𝐴
の指数関数
𝑒𝐴𝑡
を、以下の微分方程式で定義する:
𝑑𝑑𝑡𝑒𝐴𝑡=𝐴𝑒𝐴𝑡𝑒𝐴𝑡∣𝑡=0=1
𝐴
が実数の場合、ただの指数関数である。
𝐴
が虚数の場合、【4.1-注1】のオイラーの公式となる。ほかにも、
𝐴
が行列であったり(次節)、微分演算子であってもよい(第xx章)。ただし、
𝐴
は、
𝑡
に依存しないとする。
4.2連成振動
連成振動とは、
𝑥
軸上の運動であり、
𝑁
個の重りを2つの固定点
𝑥0,𝑥𝑁+1
の間にバネでつないだものである(上付き添え字はべき乗ではない)。運動方程式は、以下のようになる:(
𝑖=1,2,…,𝑁
)
𝑚¨𝑥𝑖=−𝑘(𝑥𝑖−𝑥𝑖−1−𝐿)⏟____⏟____⏟左側からの力+𝑘(𝑥𝑖+1−𝑥𝑖−𝐿)⏟___⏟___⏟右側からの力=−𝑘(2𝑥𝑖−𝑥𝑖−1−𝑥𝑖+1)(9)
𝐿
は、バネの自然長である。重りの質量は、全て等しい。バネは、全て等価なものであり、バネ定数
𝑘
を持つ。
この運動方程式の解を、初期値
𝑥𝑖0,˙𝑥𝑖0
のもとで解きたいわけである。
4.2.1式(9)を釣り合いからの変位 𝑢𝑖 で表す→式(10)
まず、運動方程式(9)から、固定点
𝑥0,𝑥𝑁+1
を除くために、釣り合いの位置からの変位
𝑢𝑗
:(
𝑗=0,1,…,𝑁+1
)
𝑢𝑗≡𝑥𝑗−𝑗𝑥𝑁+1+(𝑁+1−𝑗)𝑥0𝑁+1
を導入する。すると、式(9)は、以下のようになる:
𝑚¨𝑢𝑖=−𝑘(2𝑢𝑖−𝑢𝑖−1−𝑢𝑖+1)(10)
形は元の式と同じだが、固定点に対応する項が消える:
𝑢0=𝑢𝑁+1=0
。
4.2.2式(10)の複素数表示→式(14)
式(10)をまとめて行列で書くと
𝑚¨𝑼=−𝐾𝑼(11)
となる。ただし、
𝑼,𝐾
は以下で定義される:
𝑼=⎡⎢
⎢
⎢
⎢⎣𝑢1𝑢2⋮𝑢𝑁⎤⎥
⎥
⎥
⎥⎦,𝐾≡𝑘⎡⎢
⎢
⎢
⎢
⎢⎣2−1−12−1−12⋱⋱⋱−1−12⎤⎥
⎥
⎥
⎥
⎥⎦(12)
式(11)は、前節の運動方程式(1)と同じ形になっている。よって、複素表示を取ることにより、1階の微分方程式にできそうである。実際、式(5)の場合と同様に
𝒁≡𝑼−𝑖Ω−1˙𝑼Ω≡√𝐾𝑚(13)
と置けばよいだろう。すると、式(11)は以下のように、1階微分方程式になる:
˙𝒁=𝑖Ω𝒁(14)
(式(13)を代入すると、式(11)になる。)
なお、
Ω
は、以下の【4.2-注1】のスペクトル展開を用いて、以下のように書ける:
Ω≡√𝑘𝑚̂𝐾=√𝑘𝑚∑𝑛√𝜆𝑛𝒆𝑛𝒆T𝑛
固有値をまとめて
𝜔𝑛
と書くことにする:
Ω=∑𝑛𝜔𝑛𝒆𝑛𝒆T𝑛𝜔𝑛≡2𝜔sin𝑛𝜋2(𝑁+1)𝜔≡√𝑘𝑚(15)
【4.2-注1】三重対角対称行列のスペクトル分解
式(12)の
𝐾
を
𝑘
で割ったもの:
̂𝐾≡⎡⎢
⎢
⎢
⎢
⎢⎣2−1−12−1−12⋱⋱⋱−1−12⎤⎥
⎥
⎥
⎥
⎥⎦
をスペクトル分解すると
̂𝐾=∑𝑛𝜆𝑛𝒆𝑛𝒆T𝑛
となる。ただし、
𝜆𝑛,𝒆𝑛
は以下のようになる:(
𝑁
は行列
̂𝐾
の次数)
𝒆𝑛≡√2𝑁+1⎡⎢
⎢
⎢
⎢
⎢
⎢
⎢⎣sin1𝑛𝜋𝑁+1sin2𝑛𝜋𝑁+1⋮sin𝑁𝑛𝜋𝑁+1⎤⎥
⎥
⎥
⎥
⎥
⎥
⎥⎦𝜆𝑛≡(2sin𝑛𝜋2(𝑁+1))2(16)(17)
4.2.3運動方程式(14)の初期値問題の解:式(18)
初期値
𝒁0
が与えられた時、式(14)の解
𝒁(𝑡)
は
𝒁=𝑒𝑖Ω𝑡𝒁0(18)
となる。
𝑒𝑖Ω𝑡
は【4.1-注2】で与えたものであり、以下を満たせばよい:
𝑑𝑑𝑡𝑒𝑖Ω𝑡=𝑖Ω𝑒𝑖Ω𝑡𝑒𝑖Ω𝑡∣𝑡=0=1
これを満たすような
𝑒𝑖Ω𝑡
は、スペクトル展開(15)から容易に求まる:
𝑒𝑖Ω𝑡=∑𝑛𝑒−𝑖𝜔𝑛𝑡𝒆𝑛𝒆T𝑛
よって、
𝒆𝑛
は角周波数
𝜔𝑛
で振動する。これを、基準振動という。任意の振動は、基準振動の線形結合になるわけである。