非斉次方程式
非斉次(常微分)方程式とは、以下の方程式である:
˙𝒙=𝐴𝑡𝒙+𝒋𝑡(1)
これは、前章で扱った斉次方程式
˙𝒙=𝐴𝑡𝒙(2)
に、時刻
𝑡
の関数
𝒋𝑡
を加えたものである。
𝒋𝑡
は、斉次方程式の解に擾乱を与えるものなので、ソース項という。例えばバネの振動であれば、バネに外から与える力が
𝒋𝑡
に含まれる。
非斉次方程式(1)の初期値問題の解の公式は、斉次方程式(2)の時間発展行列
𝐺𝑡
が分かれば得られる。この章では、これについて述べる。
6.1初期値問題の解の公式
非斉次方程式(1)の初期値問題の解は、斉次方程式(2)の時間発展行列
𝐺𝑡
から求めることができる。この節では、その公式()を示す。
6.1.1デュアメルの原理
斉次方程式(2)の場合、時間発展行列
𝐺𝑡
が分かれば、初期値問題の解は
𝒙𝑡=𝐺𝑡𝒙0(3)
となるのであった。
斉次方程式の場合と同様に、
𝒙𝛿𝑡
を1次近似すると
𝒙𝛿𝑡≐𝒙0+˙𝒙0𝛿𝑡=𝒙0+(𝐴0𝒙0+𝒋0)𝛿𝑡≐𝑒𝐴0𝛿𝑡𝒙0+𝒋0𝛿𝑡𝒙(1)≡𝑒(0)𝒙(0)+𝒋(0)𝛿𝑡
となる。ただし、最後の式では、以下のように定義している:(
𝑖=0,1,…
)
𝑒(𝑖)≡𝑒𝐴𝑖𝛿𝑡𝛿𝑡𝒙(𝑖)≡𝒙𝑖𝛿𝑡
この記法を使って、
𝒙2𝛿𝑡,𝒙3𝛿𝑡
まで計算してみると、以下のようになる:
𝒙2𝛿𝑡≐𝑒(1)𝒙(1)+𝒋(1)𝛿𝑡≈𝑒(1)𝑒(0)⏟≡𝑒(1,0)𝒙(0)+(𝑒(1)𝒋(0)+𝒋(1))𝛿𝑡𝒙3𝛿𝑡≈𝑒(2,1,0)𝒙(0)+(𝑒(2,1)𝒋(0)+𝑒(1)𝒋(1)+𝒋(2))𝛿𝑡=𝑒(2,1,0)[𝒙(0)+(𝑒−(0)𝒋(0)+𝑒−(1,0)𝒋(1)+𝑒−(2,1,0)𝒋(2))𝛿𝑡]
ここまで展開すると、規則性が見える。即ち、以下が成り立つと予想できる:
𝒙𝑡=𝐺𝑡(𝒙0+∫𝑡𝑡′=0𝐺−1𝑡′𝒋𝑡′)
この式をデュアメルの原理といい、実際、正しいことが示せる(以下の【6.1-注1】)。よって、前章の方法を使うなどして斉次方程式の時間発展行列
𝐺𝑡
(グリーン行列)を求めておけば、デュアメルの原理によって、非斉次方程式の初期値問題が解ける。
【6.1-注1】非斉次方程式の解の公式:デュアメルの原理
非斉次方程式(1)において、初期値
𝒙0
が与えられたときの解
𝒙𝑡
は、斉次方程式(2)の時間発展行列
𝐺𝑡
を用いて、以下のように書ける(デュアメルの原理):
𝒙𝑡=𝐺𝑡(𝒙0+∫𝑡𝑡′=0𝐺−1𝑡′𝒋𝑡′)(4)
𝐺𝑡
のことを、(非斉次方程式の初期値問題における)グリーン行列と呼ぶ。
係数行列
𝐴
が、時間に依存しない定数であれば、
𝐺𝑡=𝑒𝐴𝑡
と書けるので、以下のようになる:
𝒙𝑡=𝑒𝐴𝑡𝒙0+∫𝑡𝑡′=0𝑒𝐴(𝑡−𝑡′)𝒋𝑡′(5)
証明
式(4)において、
𝑡=0
とすれば、積分が消えるので、両辺が等しくなり、初期条件を満たすことが分かる。非斉次方程式(1)を満たすことは、式(4)を辺々微分すれば分かる:
𝑑𝑑𝑡(左辺)=˙𝒙𝑡𝑑𝑑𝑡(右辺)=˙𝐺𝑡(𝒙0+∫𝑡𝑡′=0𝐺−1𝑡′𝒋𝑡′)+𝐺𝑡(𝟎+𝐺−1𝑡𝒋𝑡)∣˙𝐺𝑡=𝐴𝐺𝑡=𝐴𝑡𝒙𝑡+𝒋𝑡◼
後の章で扱うが、この議論は非斉次の偏微分方程式についても成り立つ。デュアメルの原理という用語はそちらを指すことが多い。上で述べた常微分方程式の場合の式(4)は、定数変化法と呼ばれることが多い。定数変化法と呼ぶのは、「斉次方程式の解
𝒙=𝐺𝑡𝒙0
において、定数
𝒙0
を変数
𝒚
に置き換えたもの」
𝒙=𝐺𝑡𝒚
を非斉次方程式(1)に代入して
𝒚
を求めるという手法による。実際に代入してみると
˙𝒙=𝐴𝑡𝒙+𝒋𝑡˙𝐺𝑡𝒚+𝐺𝑡˙𝒚=𝐴𝑡𝐺𝑡𝒚+𝒋𝑡𝐺𝑡˙𝒚=𝒋𝑡∴𝒚=∫𝑡𝑡′=0𝐺−1𝑡′𝒋𝑡′+𝑪
となり、積分定数
𝑪
は、初期条件
𝒚0=𝒙0
より
𝑪=𝒙0
なので、
𝒚
が式(4)の
(⋯)
部分に確かに一致することが分かる。
6.2例題
例題として、放物運動と強制振動を扱う。
6.2.1【例題】放物運動をデュアメルの原理で解く
放物運動の運動方程式
¨𝒙=𝒈
を解くことを考える(あまり面白くない例だが感覚をつかむため)。これは、非斉次微分方程式である。実際、非斉次方程式(1)の形で書くと
𝑑𝑑𝑡[𝒙˙𝒙]=[0100]⏟𝐴[𝒙˙𝒙]+[0𝒈]⏟𝒋𝑡
となる。
𝐴
はすでにジョルダン標準形(固有値が
0
)になっているので、
𝑒𝐴𝑡
は容易に求まる:
𝑒𝐴𝑡=[1𝑡01]
これらをデュアメルの原理(5)に代入すると、よく知られた初期値問題の解が得られる:
[𝒙˙𝒙]𝑡=[1𝑡01][𝒙0˙𝒙0]+∫𝑡𝑡′=0[1𝑡−𝑡′01][0𝒈]=⎡⎢
⎢⎣𝒙0+𝑡˙𝒙0+12𝑡2𝒈˙𝒙0+𝑡𝒈⎤⎥
⎥⎦
6.2.2【例題】時間がたった後の強制振動:式(7)
強制振動とは、減衰振動の方程式に、時間に依存する外力
𝑓𝑡
を加えたものである:
¨𝑥=−𝜔2𝑥−2𝛼˙𝑥+𝑚−1𝑓𝑡
これを、非斉次方程式(1)の形で書けば
𝑑𝑑𝑡[𝑥˙𝑥]=[01−𝜔2−2𝛼]⏟__⏟__⏟𝐴[𝑥˙𝑥]+[0𝑚−1𝑓𝑡]⏟𝒋𝑡
となるので、その解は、デュアメルの原理(5)により以下のようになる:(
𝑒𝐴𝑡
は前章の5.4節で既に求めている)
[𝑥˙𝑥]𝑡=𝑒𝐴𝑡[𝒙0˙𝒙0]+∫𝑡𝑡′=0𝑒𝐴(𝑡−𝑡′)[0𝑚−1𝑓𝑡′](6)
ここでは、
𝑓𝑡
として、周期的なものを考える:
𝑓𝑡≡𝑓0cos𝜔0𝑡
この時、時間が経った後でどのような状態に落ち着くかを知りたい。式(6)の右辺第1項は
𝑒−𝛼𝑡
が含まれるため、
𝑡𝛼≫1
を満たす時刻では無視してよい。また、第2項について、
𝑥𝑡
に効いてくるのは、
𝑒𝐴(𝑡−𝑡′)
の右上成分
[𝑒𝐴(𝑡−𝑡′)]12
だけである。この成分は、前章の【5.4-注1】で与えた減衰振動の解において、
˙𝑥0
の係数である:
[𝑒𝐴(𝑡−𝑡′)]12=𝑒𝜆+(𝑡−𝑡′)−𝑒𝜆−(𝑡−𝑡′)𝜆+−𝜆−𝜆±≡−𝛼±√𝛼2−𝜔2
(後の計算を簡単にするため、場合分けをまとめて1つの式にしている。)。これを使うと、
𝑥𝑡
は、
𝑡≫𝛼−1
の時、以下のようになる:
𝑥𝑡≈0+∫𝑡𝑡′=0[𝑒𝐴(𝑡−𝑡′)]12𝑓0𝑚cos𝜔0𝑡′=𝑓0𝑚Re∫𝑡𝑡′=0[𝑒𝐴(𝑡−𝑡′)]12𝑒𝑖𝜔0𝑡′=𝑓0𝑚Re∫𝑡𝑡′=0𝑒𝑖𝜔0𝑡′+𝜆+(𝑡−𝑡′)−𝑒𝑖𝜔0𝑡′+𝜆−(𝑡−𝑡′)𝜆+−𝜆−=𝑓0𝑚Re[𝑒𝑖𝜔0𝑡′+𝜆+(𝑡−𝑡′)𝑖𝜔0−𝜆+−𝑒𝑖𝜔0𝑡′+𝜆−(𝑡−𝑡′)𝑖𝜔0−𝜆−]𝑡𝑡′=0𝜆+−𝜆−=𝑓0𝑚Re𝑒𝑖𝜔0𝑡𝑖𝜔0−𝜆+−𝑒𝑖𝜔0𝑡𝑖𝜔0−𝜆−𝜆+−𝜆−−(𝑡′=0)⏟≈0∣分母の実数化≈𝑓0𝑚Re𝜔2−𝜔20−𝑖2𝛼𝜔0(𝜔2−𝜔20)2+4𝛼2𝜔20𝑒𝑖𝜔0𝑡∣
∣
∣
∣
∣分数部分の複素数を指数関数で表す。tan𝜃=2𝛼𝜔0𝜔20−𝜔2=𝑓0𝑚Re𝑒𝑖𝜃√(𝜔2−𝜔20)2+4𝛼2𝜔20𝑒𝑖𝜔0𝑡=𝑓0𝑚1√(𝜔2−𝜔20)2+4𝛼2𝜔20cos(𝜔0𝑡+𝜃)(7)
よって、角周波数
𝜔0
で振動することが分かる。ただし、外力の振動に対して
𝜃
だけずれる。