連続体力学編 第6章

非斉次方程式の解

非斉次方程式()の初期値問題の解の公式は、デュアメルの原理【6.1-注1】で与えられる。

非斉次方程式

非斉次(常微分)方程式とは、以下の方程式である: これは、前章で扱った斉次方程式 に、時刻 の関数 を加えたものである。 は、斉次方程式の解に擾乱を与えるものなので、ソース項という。例えばバネの振動であれば、バネに外から与える力が に含まれる。

非斉次方程式()の初期値問題の解の公式は、斉次方程式()の時間発展行列 が分かれば得られる。この章では、これについて述べる。

6.1初期値問題の解の公式

非斉次方程式()の初期値問題の解は、斉次方程式()の時間発展行列 から求めることができる。この節では、その公式()を示す。

デュアメルの原理

斉次方程式()の場合、時間発展行列 が分かれば、初期値問題の解は となるのであった。

斉次方程式の場合と同様に、 を1次近似すると となる。ただし、最後の式では、以下のように定義している:

この記法を使って、 まで計算してみると、以下のようになる: ここまで展開すると、規則性が見える。即ち、以下が成り立つと予想できる: この式をデュアメルの原理といい、実際、正しいことが示せる(以下の【6.1-注1】)。よって、前章の方法を使うなどして斉次方程式の時間発展行列 (グリーン行列)を求めておけば、デュアメルの原理によって、非斉次方程式の初期値問題が解ける。

【6.1-注1】非斉次方程式の解の公式:デュアメルの原理

非斉次方程式()において、初期値 が与えられたときの解 は、斉次方程式()の時間発展行列 を用いて、以下のように書ける(デュアメルの原理) のことを、(非斉次方程式の初期値問題における)グリーン行列と呼ぶ。

係数行列 が、時間に依存しない定数であれば、 と書けるので、以下のようになる:

証明

式()において、 とすれば、積分が消えるので、両辺が等しくなり、初期条件を満たすことが分かる。非斉次方程式()を満たすことは、式()を辺々微分すれば分かる:

後の章で扱うが、この議論は非斉次の偏微分方程式についても成り立つ。デュアメルの原理という用語はそちらを指すことが多い。上で述べた常微分方程式の場合の式()は、定数変化法と呼ばれることが多い。定数変化法と呼ぶのは、「斉次方程式の解 において、定数 を変数 に置き換えたもの」 を非斉次方程式()に代入して を求めるという手法による。実際に代入してみると となり、積分定数 は、初期条件 より なので、 が式()の 部分に確かに一致することが分かる。

6.2例題

例題として、放物運動と強制振動を扱う。

【例題】放物運動をデュアメルの原理で解く

放物運動の運動方程式 を解くことを考える(あまり面白くない例だが感覚をつかむため)。これは、非斉次微分方程式である。実際、非斉次方程式()の形で書くと となる。 はすでにジョルダン標準形(固有値が になっているので、 は容易に求まる: これらをデュアメルの原理()に代入すると、よく知られた初期値問題の解が得られる:

【例題】時間がたった後の強制振動:式()

強制振動とは、減衰振動の方程式に、時間に依存する外力 を加えたものである: これを、非斉次方程式()の形で書けば となるので、その解は、デュアメルの原理()により以下のようになる: は前章の5.4節で既に求めている)

ここでは、 として、周期的なものを考える: この時、時間が経った後でどのような状態に落ち着くかを知りたい。式()の右辺第1項 が含まれるため、 を満たす時刻では無視してよい。また、第2項について、 に効いてくるのは、 の右上成分 だけである。この成分は、前章の【5.4-注1】で与えた減衰振動の解において、 の係数である: (後の計算を簡単にするため、場合分けをまとめて1つの式にしている。)。これを使うと、 は、 の時、以下のようになる: よって、角周波数 で振動することが分かる。ただし、外力の振動に対して だけずれる。