連続体力学編 第2章

立体の運動

3次元連続体におけるコーシーの運動方程式は式(12)。これを確定させるには応力テンソル 𝜎 が必要だが、弾性体の場合、構成方程式(19)により 𝜎 が求まる。

立体の場合も、微小要素に分割すればよい

弾性的な3次元立体の運動が知りたい。前章まで1次元の弾性体を考えたので、次は3次元の弾性体を考えるわけである。1次元の場合と同様に、立体上にパラメータラベル 𝒙′=(𝑥′1,𝑥′2,𝑥′3) を入れた時、 𝒙′ に対応する点の位置 𝒙𝒙′ の時間変化 𝒙𝑡,𝒙′ を求めることが目的となる。

立体から微小体積 𝛿⁢𝑣 を持つ体積要素( 𝛿⁢𝑣 要素)を仮想的に切り出す。前章と同様に、 𝛿⁢𝑣 要素に対するニュートンの運動方程式: 𝛿⁢𝑚⁢¨𝒙≈𝛿⁢𝒇vol+𝛿⁢𝒇bound(1) が分かればよい。この式は近似式であるが、体積 𝛿⁢𝑣 を括り出して、 𝛿⁢𝑣→0 の極限を取ることにより、厳密な加速度 ¨𝒙 が得られる。

2.13次元連続体におけるコーシーの運動方程式

ニュートンの運動方程式(1)の各項から、体積 𝛿⁢𝑣 を括り出していく。この節では、弾性体に限定せず、一般の連続体について議論し、コーシーの運動方程式(12)を導出する。

2.1.1質量 𝛿⁢𝑚 と体積力 𝛿⁢𝒇vol から体積 𝛿⁢𝑣 を括り出す:それぞれ式(2)、式(3)

式(1)の各項のうち、質量 𝛿⁢𝑚 と体積力 𝛿⁢𝒇vol については、前章と同じである。

まず、微小体積要素の質量 𝛿⁢𝑚 については、密度 𝜌 を用いて体積 𝛿⁢𝑣 を括り出すと 𝛿⁢𝑚≐𝜌⁢𝛿⁢𝑣(2) となる。

体積力 𝛿⁢𝒇vol は、体積に比例した力なので、単位体積当たりの体積力を ˜𝒇vol とおくと: 𝛿⁢𝒇vol≐˜𝒇vol⁡𝛿⁢𝑣(3) と書ける。例えば、重力の場合、以下のようにのように 𝛿⁢𝑣 を括り出せる: 𝛿⁢𝒇vol=𝛿⁢𝑚⁢𝒈≐𝜌⁢𝒈⏟≡˜𝒇vol⁢𝛿⁢𝑣

2.1.2境界力は式(4)→ 𝛿⁢𝑣 を括り出したい

ここまでは解く問題はなかった。問題となるのは、今回も境界力(面積力) 𝛿⁢𝒇bound である。 𝛿⁢𝒇bound は、微小体積要素の境界を通じて働く力である。1次元の場合は、微小線要素の両端から受ける2つの応力の和を考えるだけでよかった。しかし、3次元の場合は、境界が点ではなく面になるので、その境界全体から受ける応力を考える必要がある。即ち、応力を、境界上で積分する必要がある。 𝛿⁢𝑣 要素の境界面を 𝜕𝛿⁢𝑣 と表すことにする。

境界力 𝛿⁢𝒇bound を求めるためには、境界面 𝜕𝛿⁢𝑣 ( 𝜕 は偏微分ではなく境界を表す記号)をさらに微小面要素に分けて、各面要素からの寄与を足し合わせることになる。要するに、面要素に働く応力 𝑻𝒙′,𝒏 を境界面上で区分求積法で積分したものが 𝛿⁢𝒇bound となるわけである: 𝛿⁢𝒇bound=∫𝒙∈𝜕𝛿⁢𝑣′𝑻𝒙′,𝒏(4) 応力 𝑻 は単位面積あたりに働く力である。 𝒏 は、体積要素の外側を向くようにとる。即ち、 𝒏 の始点側が終点側から受ける応力が 𝑻𝒙′,𝒏 となる。( 𝑻𝒙′,𝒏 は時間にももちろん依存するが、今は必要ないので省略している。)

さて、それでは式(4)から 𝛿⁢𝑣 を括り出すにはどうすればよいだろうか。

2.1.3式(4)には、境界の面積に比例する項が存在してはならない→式(5)

式(4)は境界面上での積分なので、典型的には、積分領域の面積 𝛿⁢𝑠 に比例する。しかし、体積 𝛿⁢𝑣 が括り出せるためには、境界力 𝛿⁢𝒇bound は 𝛿⁢𝑠 に比例するような項を持ってはならない。実際、体積要素を相似比で 12 倍にすると、 𝛿⁢𝑠 は 122 倍になるが、 𝛿⁢𝑣 は 123 倍になる。よって、 𝛿⁢𝑣→0 の極限で、 𝛿⁢𝑠𝛿⁢𝑣→∞ となってしまう。すると、運動方程式(1)を 𝛿⁢𝑣 で割ってから 𝛿⁢𝑣→0 とすると、加速度が発散してしまう。

よって、 𝛿⁢𝑠 に比例するような項がなくなるように、応力 𝑻 に対して何らかの条件を加えなければならない。明らかな条件は、作用・反作用の法則 𝑻𝒙′,−𝒏=−𝑻𝒙′,𝒏 であるが、これだけでは足りない。

そこで、実際に式(4)から 𝛿⁢𝑠 に比例する項を括り出して、それがゼロになることを要請すればよい。まず、式(4)において、積分領域の面積がすでに 𝛿⁢𝑠 のオーダーなので、 𝑻𝒙′,𝒏 は、 𝒙′ 依存を無視してよい( 𝜕𝛿⁢𝑠 上の点 𝒙0 からの差 𝛿⁢𝒙=𝒙−𝒙0 についての1次近似を考えると 𝛿⁢𝒙 が微小量なので 𝛿⁢𝑠 よりも小さいオーダーになる)。これを、 𝑻𝒏 と書く。すると式(4)は 𝛿⁢𝒇bound=∫𝒙∈𝜕𝛿⁢𝑠𝑻𝒏+𝑂⁡(𝛿⁢𝑣) となる。 𝑂⁡(𝛿⁢𝑣) は、この項が 𝛿⁢𝑣 のオーダーであることを示す。よって、 𝛿⁢𝒇bound が 𝛿⁢𝑣 のオーダーになるには ∫𝒙∈𝜕𝛿⁢𝑠𝑻𝒏=𝟎(5) となることが必要である。

2.1.4応力は応力テンソル 𝜎 で書ける:式(9)

式(5)が成り立つためには、応力はどのような条件を満たすべきだろうか。まず、最も簡単な形状として、 𝛿⁢𝑣 が三角錐である場合を考える。すると、4つの面を 𝑖=1,2,3,4 として ∫𝒙∈𝜕𝛿⁢𝑠𝑻𝒏=𝛿⁢𝑠1⁢𝑻𝒏1+𝛿⁢𝑠2⁢𝑻𝒏2+𝛿⁢𝑠3⁢𝑻𝒏3+𝛿⁢𝑠4⁢𝑻𝒏4=𝟎 となる。同様の式が 𝒏𝑖 についても成り立つことが幾何学的にわかる: 𝛿⁢𝑠1⁢𝒏1+𝛿⁢𝑠2⁢𝒏2+𝛿⁢𝑠3⁢𝒏3+𝛿⁢𝑠4⁢𝒏4=𝟎 これらを、 𝑻𝒏4=(⋯) および 𝒏4=(⋯) の形にすると、以下のようになる: 𝑻𝒏4=[𝑻𝒏1𝑻𝒏2𝑻𝒏3]⁢⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣−𝛿⁢𝑙1𝛿⁢𝑙4−𝛿⁢𝑙2𝛿⁢𝑙4−𝛿⁢𝑙1𝛿⁢𝑙4⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦𝒏4=[𝒏1𝒏2𝒏3]⁢⎡⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣−𝛿⁢𝑙1𝛿⁢𝑙4−𝛿⁢𝑙2𝛿⁢𝑙4−𝛿⁢𝑙1𝛿⁢𝑙4⎤⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥⎦(6)(7) ところで、 𝒏1,𝒏2,𝒏3 は1次独立なので、応力 𝑻𝒏𝑖 はそれらの1次結合で書ける。即ち、ある行列 𝜎 を用いて: [𝑻𝒏1𝑻𝒏2𝑻𝒏3]=𝜎⁢[𝒏1𝒏2𝒏3] これを式(6)に代入した後、式(7)を使うと 𝑻𝒏4=𝜎⁢𝒏4(8) となる。

三角錐を取り換えたとしても、式(8)の 𝜎 は共通となる( 𝑖=1,2,3 の面の向きを変えずに、 𝑖=4 の向きを任意にとることができるため)。従って、 𝜎 さえ分かれば、任意の方向 𝒏 に対する応力 𝑻 が決まることになる: 𝑻𝒏=𝜎⁢𝒏(9) これは前章の場合と同じ形になっている。今回も、 𝜎 を応力テンソルという。前章では、テンソルというほどでもなかったが、今回は、確かに線形関数になっている。

2.1.53次元連続体のコーシーの運動方程式:式(12)

応力テンソル 𝜎 を用いた応力(9)を使うと、境界力(4)は以下のようになる: 𝛿⁢𝒇bound=∫𝒙∈𝜕𝛿⁢𝑣𝜎⁢𝒏(10) ここから、 𝛿⁢𝑣 を括り出したい。括り出せるのであれば、面積分を体積積分に変換するような数学公式が存在するはずである。実際そのような公式存在し、それは、3次元での微分積分学の基本定理(以下の【2.1-注1】)である。同注の式(13)を、式(10)の各成分に代入して体積積分にすれば、 𝛿⁢𝑣 を括り出せる: (𝛿⁢𝒇bound)𝑖=∑𝑗∫𝒙∈𝜕𝛿⁢𝑣𝜎𝑖⁢𝑗⁢𝑛𝑗=∑𝑗∫𝒙∈𝛿⁢𝑣𝜕𝑗𝜎𝑖⁢𝑗≐∑𝑗𝜕𝑗𝜎𝑖⁢𝑗⁢𝛿⁢𝑣∴𝛿⁢𝒇bound≐𝜎←∇⋅𝛿⁢𝑣(11) ←∇ は、微分が(通常の右側でなく)左側に作用することを意味している( 𝜎←∇≡(∇T𝜎T)T とも書ける)。

式(11)を見ると、 𝜎 が定数であれば、境界力はゼロになる。これは、応力がテンソルで書ければ、常に式(5)が成り立つということである。よって、 𝛿⁢𝑣 が括り出せるという条件からは、応力がテンソルで表されるという以上の条件は出てこない。

以上で得られた3式(式(2)および式(3)、式(11))を運動方程式(1)に代入して 𝛿⁢𝑣 で割った後、 𝛿⁢𝑣→0 の極限を取ると、目的のコーシーの運動方程式が得られる: 𝜌⁢¨𝒙=˜𝒇vol+𝜎←∇(12)

【2.1-注1】3次元での微分積分学の基本定理

3次元空間中の3次元領域 𝐷 上において、以下のように、境界 𝜕𝐷 上の積分を、 𝐷 上の積分に変換できる: ∫𝒙∈𝜕𝐷𝑓⁡𝒏=∫𝒙∈𝐷∇𝑓𝑓:𝐷上で全微分可能な関数𝒏:境界に垂直で外側を向く単位ベクトル

これを成分で表すと ∫𝒙∈𝜕𝐷𝑓⁡𝑛𝑗=∫𝒙∈𝐷𝜕𝑗𝑓(13) となる。

証明

第xx章で証明する。

2.2応力テンソルは対称であると見なせる

2.2.1ミクロな回転は通常無視できる

コーシーの運動方程式(12)が求まったので、最初の目的は達成した。ただ、1つ疑問がある。運動方程式(1)では、微小体積要素の位置について考えたが、力学編第10章で見たように、大きさを持つ物体は、位置だけでなく回転を考える必要がある。よって、微小体積要素の回転についても考える必要があるのではないだろうか。

単純に考えると、考えなくてもよさそうである。コーシーの運動方程式(12)によって全ての点の加速度が求まるわけだから、回転を考えなくても運動が計算ができるのである。実際、微小体積要素 𝛿⁢𝑣 が回転している場合でも、さらに小さい体積要素 𝛿⁢𝛿⁢𝑣 に分割すれば、 𝛿⁢𝑣 の回転運動は、 𝛿⁢𝛿⁢𝑣 の平行移動で表現できるはずである。

しかし、この議論には不備がある。というのも、体積要素をいくらでも小さくできるわけではないからである。コーシーの運動方程式が成立するのは、連続体である場合のみである。連続体であるという性質を保ったまま、体積要素をいくらでも小さくしていけるとは限らないので、 𝛿⁢𝛿⁢𝑣 が常に取れるとは限らない。(分子の存在をこの段階で認めるのであれば、微小体積要素は、分子より十分大きくなければならないということである。)。連続体と見なせないほど(あるいは測定できないほど)ミクロなスケールでの回転がある場合、式(1)だけを考えていたのでは不十分である。その場合、各点の運動だけでなく、回転を決めなければならない。即ち、各点に回転行列と角速度ベクトルを割り当てて(=回転行列と角速度ベクトルの場を考えて)、それらの時間変化を与えるように、コーシーの運動方程式を拡張しなければならない。

とはいえ、通常、そのようなミクロスケールでの回転が連続体のマクロな変形に与える影響は、小さい。よって今後、ミクロな回転は無視できるとする(無視できるような連続体のみを考える)。

2.2.2ミクロな回転を無視すれば、応力テンソル 𝜎 は対称行列である

以上により、微小体積要素に対して、(応力由来の)偶力によるトルク 𝛿⁢𝝉 はゼロとしてよい。 𝛿⁢𝝉 を計算すると、重心を ――𝒙 として以下のようになる:(添え字が多くなって見づらいので、以下の【2.2-注1】の式(15)の略記法を用いた) 𝛿⁢𝝉=∫𝜕𝛿⁢𝑣(𝒙−――𝒙)×𝜎⁢𝒏=∫𝜕𝛿⁢𝑣𝜖∘⁢∙∙⁢(𝑥∙−――𝑥⁢∙)⁢𝜎∙⁢𝑖⁢𝑛𝑖∵式(15)=∫𝛿⁢𝑣𝜖∘⁢∙∙𝜕𝑖(𝑥∙−――𝑥⁢∙)⁢𝜎∙⁢𝑖∵式(13)≐𝜖∘⁢∙∙𝜕𝑖(𝑥∙−――𝑥⁢∙)⁢𝜎∙⁢𝑖⋅𝛿⁢𝑣≐𝜖∘⁢∙∙⁢𝛿∙𝑖⁢𝜎∙⁢𝑖⋅𝛿⁢𝑣 (体積力によるトルクはゼロなので無視している。)これが任意の微小な 𝛿⁢𝑣 でゼロなのだから、 𝜖∘⁢∙∙⁢𝛿∙𝑖⁢𝜎∙⁢𝑖=0 となる。即ち、以下が言える: 𝜎T=𝜎 即ち、応力テンソル 𝜎 は対称行列である。逆に、 𝜎 が対称行列であれば、ミクロなトルクの影響はゼロになる。

【2.2-注1】アインシュタインの縮約記法:式(14)、式(15)

ベクトルにテンソルを作用させる時、以下のように、必ず和が現れる:ベクトルは上付き添え字、テンソルは下付き) 3∑𝑖=1𝑇𝑖⁢𝑥𝑖,3∑𝑖=13∑𝑗=1𝑆𝑖⁢𝑗⁢𝑥𝑖⁢𝑦𝑗 これを見やすくするため、和の記号を以下のように省略することが多い: 𝑇𝑖⁢𝑥𝑖,𝑆𝑖⁢𝑗⁢𝑥𝑖⁢𝑦𝑗(14) 同じ添え字が2回現れたら和を取る(=縮約する)と覚えておけばよい。これを、アインシュタインの縮約記法という。テンソルの関数形や対称性を露わに書き下した場合を除き、1つの項に3回以上同じ添え字が現れることはない。

補足

あるいは、式(14)をさらに記号的に書くこともできる。具体的には 𝐴𝑖⁢𝑗=𝐵𝑖⁢𝑗⁢𝑘⁢𝑙⁢𝑥𝑘⁢𝑦𝑙 であれば、以下のように書く(標準的な記法ではない): 𝐴∘∘=𝐵∘∘∙∙⁢𝑥∙⁢𝑦∙(15) ∘ は和を取らない添え字であり、左から順に対応させていく。例えば、左辺の最初の ∘ と右辺の最初の ∘ が同じ添え字である。 ∙ は和を取る添え字であり、この場合も左から順に、例えば、最初の下付き ∙ と最初の上付き ∙ が縮約のペアになる。

添え字が多くなると、見分けがつきにくくなったり、間違って同じ添え字を重複させてしまったりするので、添え字の名前を考えなくてよいこの記法は便利である。以降では基本的にこの記法を使う。ただし、常に使えるわけではないので(例えば 𝑇𝑖⁢𝑗=𝑇𝑗⁢𝑖 のような式)、式(14)の表記法も併用する。

2.3弾性立体の構成方程式

3次元弾性立体の運動方程式を求めるためには、応力テンソル 𝜎 を求める方程式である構成方程式を導けばよい。そうすれば、コーシーの運動方程式(12)に、その 𝜎 を代入することにより、運動方程式が確定する。

2.3.1微小体積要素の変位は、回転とひずみに分けられる

弾性体を考えているので、応力テンソル 𝜎 は、変形に比例する。ところで、変形とはどのように表されるのだろうか。

簡単のため、 𝑡=0 において弾性体が自然状態、即ち、いたるところで 𝜎=0 になっているとする。(これは常に可能であるとは限らない。例えば、しなる棒を曲げて両端を接着することで輪を作ると、釣り合いの状態でも応力が内部に残ったままとなる。これを残留応力という。)さらに、 𝑡=0 において、 𝒙′=𝒙0,𝒙′ であるとする(初期状態での空間座標をそのままラベル 𝒙′ として使う)。このようにとっておくと、ラベル 𝒙′ 周辺において 𝛿⁢𝒙≐𝜕𝒙𝜕𝒙′⏟≡𝐹⁢𝛿⁢𝒙′ となるので、 𝐹 が変形を表している。特に、 𝐹=1 の時には変形していない。 𝐹 を、変形勾配テンソルという。

ここまでは、初期状態で自然状態としたが、一般には自然状態が取れるとは限らない。自然状態でない場合、 𝐹=1 であっても変形が残っている。そこで、これを補正するための行列 ˜𝐹 を用いて、一般の変形勾配テンソルを以下のように定義する: 𝐹≡𝜕𝒙𝜕𝒙′⁢˜𝐹 こうすれば、自然状態の時に 𝐹=1 となる(そうなるように ˜𝐹 を定義する)。

応力テンソル 𝜎 は、変形に比例するわけだが、 𝐹−1 に比例するわけではない。 𝐹 には回転が含まれているのでこれを取り除かなければならない。そのためには、極分解(以下の【2.3-注1】)を用いればよい: 𝐹=𝑅⁢𝑆 今の場合、 𝑅 は回転行列になる。変形は、対称行列 𝑆 で与えられる。また 𝜖≡𝑆−1 のことをひずみという。ひずんでいない時に 𝜖=0 となる。

【2.3-注1】極分解

任意の正方行列 𝐹 は、以下の形に分解できる: 𝐹=𝑅⁢𝑆𝑅:直交行列𝑆:半正定値対称行列 これを右極分解という。積の順序を変えた左極分解も可能である: 𝐹=𝑆′⁢𝑅′

証明

まず、 𝐹T⁡𝐹 の平方根 √𝐹T⁡𝐹 を、「2乗した時に 𝐹T⁡𝐹 になる半正定値対称行列」と定義する: √𝐹T⁡𝐹2=𝐹T⁡𝐹 これは常に存在する。実際、 𝐹T⁡𝐹 のスペクトル分解(対称行列なので常に可能): 𝐹T⁡𝐹=∑𝑖𝜆𝑖⁢𝑃𝑖 について、固有値 𝜆𝑖 の平方根 √𝜆𝑖 を取ればよい( 𝐹T⁡𝐹 は半正定値なので 𝜆𝑖≥0 ): √𝐹T⁡𝐹=∑𝑖√𝜆𝑖⁢𝑃𝑖

これを使うと、極分解を具体的に書き下せる:( 𝐺≡𝐹T⁡𝐹 、 𝐺′≡𝐹⁡𝐹T ) 𝐹=𝐹⁡√𝐺−1⏟𝑅⋅√𝐺⏟𝑆=√𝐺′⏟𝑆′⋅√𝐺′−1⁢𝐹⏟𝑅′ 𝑅,𝑅′ が直交行列であることは、直交行列の定義 𝑅T⁢𝑅=1 を直接導くことにより示せる: 𝑅T⁢𝑅=√𝐺−1⁢𝐺⁡√𝐺−1=√𝐺−1⁢√𝐺2⁢√𝐺−1=1𝑅′T⁢𝑅′=𝐹T⁡√𝐺−1⁢√𝐺−1⁢𝐹=𝐹T⁡(𝐹⁡𝐹T)−1⁢𝐹=1

2.3.2回転に対する応力テンソルの変化:式(18)

回転とひずみに分離したので、まず、回転を考える。直感的に、回転したときの応力テンソル 𝜎 の変化は、自動的に決まりそうな気がする。回転前の 𝜎 は、応力 𝑻 と法線ベクトル 𝒏 を以下によって関係づける: 𝑻=𝜎⁢𝒏(16) すると、弾性体を 𝑅 だけ回転させた時、以下が成り立つはずである:( 𝜎′ は回転後の応力テンソル) 𝑅⁢𝑻=𝜎′⁢𝑅⁢𝒏(17) 要するに、弾性体と 𝒏 を一緒に 𝑅 だけ回転させれば、応力も同じように 𝑅 だけ回転するということである。これは、以下の【2.3-注2】のように、力学編で述べた相対性原理の自然な拡張である。

式(16)と式(17)を連立して 𝑻 を消すと、任意の 𝒏 で成り立つことより、 𝜎′ は以下のように変換することが分かる: 𝜎′=𝑅⁢𝜎⁢𝑅T(18)

【2.3-注2】相対性原理の拡張

力学編第4章の【4.1-注1】で述べた相対性原理は、定数回転についても成り立つ。即ち、ある慣性系 𝐾 に対して一定の角度だけ回転した系 𝐾′ は、やはり慣性系であり、物理法則も変わらない。

補足

例えば系 𝐾 において運動方程式 𝑚⁢¨𝒙=𝒇 が成立している時、系 𝐾′ では 𝑚⁢¨𝒙′=𝒇′ となる。 𝒙′=𝑅⁢𝒙 と置いて両運動方程式を比較することにより、 𝒇′=𝑅⁢𝒙′ と変換することが要請される。

力学編第4章の【4.1-注2】では、慣性系間の座標はガリレイ変換 𝒙′=𝒙−𝑡⁢𝒗 で結ばれると述べた( 𝒗 は 𝐾 から見た 𝐾′ の速度)。定数回転も含めて書くと以下のようになる:( 𝑅 は 𝐾 から見た 𝐾′ の回転) 𝒙′=𝑅−1⁢𝒙−𝑡⁢𝒗 これもガリレイ変換という。これだとに原点の位置が共通なので、その取り換えを含めてもよい: 𝒙′=𝑅−1⁢(𝒙−𝒐)−𝑡⁢𝒗 ( 𝒐 は 𝐾 から見た 𝐾′ の原点位置)。

2.3.3構成方程式:式(19)

以上により、変形勾配テンソル 𝐹 が与えられれば、その右極分解 𝐹=𝑅⁢𝑆 により応力テンソル 𝜎 が求まる。即ち、ひずみ 𝜖=𝑆−1 を用いて、 𝜎𝑅,𝜖 は以下の形で書ける: 𝜎𝑅,𝜖=𝑅⁢𝜎1,𝜖⁢𝑅T(19) 𝜎1,𝜖 は、回転を除いたものであり、ひずみ 𝜖 に比例する。成分で書けば以下のようになる: (𝜎1,𝜖)∘⁢∘=𝐶∘⁢∘⁢∙∙⁢𝜖∙∙ 比例係数 𝐶 を、弾性テンソルという。 𝜎,𝜖 は対称行列なので、独立な成分の数はともに6である。従って、弾性テンソル 𝐶 の独立な成分は 6×6=36 である。一様な物体であれば、 𝐶 は時間的・空間的に定数である(物性が時間とともに変化する場合を除く)。

以上により、弾性テンソル 𝐶 を決めておけば、変形勾配テンソル 𝐹 から応力テンソル 𝜎 が決まり、コーシーの運動方程式(12)が確定することになる。

2.3.4【例】等方的な弾性体の構成方程式:式(21)

例として、弾性体が等方的な場合を考える。等方的とは、向きによって性質が変わらないことをいう。通常の物体は等方的とみなせる。この場合、弾性テンソルは以下のように、簡単になる: 𝐶∘⁢∘⁢𝑖⁢𝑗=𝜆⁢𝛿∘∘⁢𝛿𝑖⁢𝑗+2⁢𝜇⁢𝛿∘𝑖⁢𝛿𝑗∘(20) 導出は第xx章で行う。ただし、 𝑖,𝑗 にかかるひずみテンソルが対称であることを用いた。 𝛿∘∘,𝛿∘∘ はクロネッカーのデルタといい、2つの添え字が等しい時に1、異なるときに0となる。自由度は 𝜆,𝜇 の2つのだけになる。 𝜆,𝜇 をラメ定数という。

よって、応力テンソル 𝜎 は、式(19)に式(20)を代入すればよい: (𝜎1,𝜖)∘⁢∘=𝐶∘⁢∘⁢∙∙⁢𝜖∙∙=(𝜆⁢𝛿∘∘⁢𝛿∙∙+2⁢𝜇⁢𝛿∘∙⁢𝛿∙∘)⁢𝜖∙∙=𝜆⁢𝛿∘∘⁢𝜖∙⁢∙+2⁢𝜇⁢𝜖∘⁢∘ よって 𝜎𝑅,𝜖=𝜆⁢tr⁢𝜖+2⁢𝜇⁢𝑅⁢𝜖⁢𝑅T(21) ただし、 tr は対角成分の和である: tr⁢𝜖=𝜖11+𝜖22+𝜖33 。