連続体力学編 第3章

膜の運動

膜の場合も、微小要素に分割すればよい

弾性的な膜の運動が知りたい。前章までで1次元と3次元の弾性体を考えたので、最後に2次元の弾性体を考える。膜上にパラメータ を入れた時、 に対応する点の位置 の時間変化 を求めることが目的となる。

これまでと同様に、膜を微小な面積 を持つ面要素 要素)に仮想的に分割する。 要素に対する、ニュートンの運動方程式: を決めれば、微小要素の加速度 が決まる。後は、この式から面要素の面積 を括り出して、 の極限を取れば、厳密な が得られる。

3.12次元連続体の運動方程式

ニュートンの運動方程式()の各項から、微小面要素の面積 を括り出していく。

質量と体積力

質量と体積力については、これまでと同じである。 要素の質量 は、面密度 を用いて となる。体積力 については、 を括り出したときの残りを とおく: 例えば、重力の場合、以下のようにのように を括り出せる:

境界力は式()→ を括り出したい

問題は、境界力 である。2次元の場合は、境界が点ではなく線になるので、その境界全体から受ける応力を考える必要がある。境界力 を求めるためには、境界線をさらに微小線要素 に分けて、各線要素からの寄与を足し合わせることになる。要するに、単位長さの線要素に働く応力 を境界線上で区分求積法で積分したものが となるわけである: 2次元連続体の場合、応力は、線要素 の単位長さあたりで定義するので、線要素に働く力は、1次近似の範囲で となる。

応力 は、 の関数であるが、それだけではなく、考えている境界上の線要素の向きを表す単位ベクトル の関数でもある: (時間にも依存するが今は必要ないので省略する) は、 要素の外側を向くようにとる。即ち、 の始点側が終点側から受ける応力が となる。

さて、それでは式()から を括り出すにはどうすればよいだろうか。

境界の長さ に比例する項が存在してはならない

面積に比例する量 が括り出せるためには、境界力 は面要素の境界の長さ に比例するような項を持っていてはまずい。(これは、前章の立体の場合と同じ議論である。)実際、面要素のサイズを 倍にすると、 倍になるが、 倍になる。よって、 の極限で、 のほうが大きくなってしまう。すると、運動方程式()を で割ってから とすると、加速度が発散してしまう。

しかし、式()は境界線上での積分なので、典型的には、境界線の長さ に比例する。即ち、 に比例するような項がなくなるように、応力 に対して何らかの条件を加えなければならない。明らかな条件は、作用・反作用の法則 であるが、これだけでは足りない。

そこで実際に、どのような条件が必要か見るために、式()から、 に比例する項を括り出そう。式()において、積分経路の長さがすでに のオーダーなので、 は、 に依存しないとしてよい(面要素上の点 からの差 についての1次近似を考えると 自体が のオーダーなので1次の項は消える)。これを、 と書く。よって式()は となる。 は、この項が のオーダーであることを示す。右辺第1項の積分経路は、わずかに湾曲しているわけだが、 のオーダーで見れば平面上にあるとみなしてもよい。 もこの平面上に乗ると近似してよい。

応力は応力テンソル で書ける:式()

これ成り立つためには、応力はどのような条件を満たすべきだろうか。立体の場合と同じような形なので、テンソルで書けそることが予想される。まず、最も簡単な形状として、 (1次近似の範囲で)三角形である場合を考える。すると、3つの辺を として この式の右側の式は、 に置き換えても成り立つ 回転すると各項が三角形の辺に一致することから分かる)。これを の形にすると ところで、 は1次独立なので、応力はその1次結合で書ける(微小面要素は平面で近似できる) これを式()に代入した後、式()を使うと となる。

三角形の取り方を変えても は変わらないので、 さえ分かれば、任意の方向 に対する応力 が決まることになる: これは前章の場合と同じ形になっている。今回も、 は応力テンソルである。ただし、上式は、 が連続体の接平面上にある時のみ意味を持つ。

2次元連続体のコーシーの運動方程式:式()

応力テンソル を用いて、応力を式()で表すと、境界力()は以下のようになる: きれいな形になっているが、ここから、 を括り出せるだろうか。(もし括り出せなければ、さらに条件を加える必要がある。)幸い、これは可能である。これは単純に数学的な問題であり、曲面上における微分積分学の基本定理【3.1-注1】を用いて、以下のようになる:

以上により、運動方程式()において、 の極限を取ると、以下のコーシーの運動方程式が得られる: なお、任意の1点において、 かつ の微分がゼロになるような座標系は常に存在する(その1点以外では一般には成り立たない)。これを使うと、境界力は、弦の場合と同じ形になる。

【3.1-注1】曲面上での微分積分学の基本定理

3次元空間中の2次元閉曲面 上において、以下が成り立つ: ただし、 上の任意の関数であり、 は境界に垂直で外側を向く単位ベクトルである。3次元空間にはデカルト座標 が入っており、 上には任意の座標 が入っているとする。 は、 座標系で見た時の積分範囲である。 座標系での計量である: は、微分が(通常の右側でなく)左側に作用することを意味している。

証明

第xx章で証明する。

3.2弾性膜の構成方程式

2次元の弾性膜の運動方程式を求める。前章と同様に、弾性体の性質を表すパラメータから、応力テンソル を求めるための構成方程式を求めればよい。そうすれば、2次元連続体のコーシーの運動方程式()に代入することにより、運動方程式が確定する。

立体の場合と同様に、ミクロな回転は無視できるとする。

構成方程式

弾性膜の変形を、ひずみと回転に分離する。回転していない状態では 平面上にあるとする。その状態でひずみ を与えてから回転 を作用させる。すると、平面上での応力テンソルを 行列)として となる。よって、 平面上に置かれたときの応力テンソル が分かればよい。これは対称行列なので、独立なのは3成分だけである。

弾性体の場合は、立体の場合と同様に弾性テンソル を用いて 独立な成分は、 である。

【例】等方的な弾性膜の構成方程式:式()

等方的な場合の弾性テンソル を考える。これは、立体の場合と同じである。即ち、ラメ定数 を用いて以下のようになる: