熱力学編 第9章

冷房・暖房の最大効率

効率が最大になるのは、可逆的な装置の場合。

エアコンのエネルギー効率を最も高くする方法が知りたい。

ヒートポンプの効率には上限がありそう

ヒートポンプの最大効率を求めたい。ヒートポンプとは、右図のように、低温側から熱エネルギー 𝑄L を奪い、高温側に熱エネルギー 𝑄H を加える装置である。低温側はより低温になり、高温側はより高温になる。典型的な利用例はエアコンである(低温側にいる人から見れば冷房、高温側だと暖房)。外部から与えるエネルギー 𝑊 をなるべく少なくしつつ、汲み上げる熱エネルギー 𝑄L,𝑄H を大きくしたいわけである。エネルギー保存則より 𝑄H=𝑄L+𝑊(1) が成り立つ。(添え字HはHigh、LはLowの意味。)

ヒートポンプの原理

ヒートポンプの原理は、小さな容器 𝐴 (作業容器という)を用いて行う次の操作の繰り返しである: 低温側に作業容器𝐴を接触させる。𝐴を膨張させ低温側から熱を奪う。高温側に𝐴を接触させる。𝐴を圧縮し高温側に熱を渡す。(一番上に戻る) ヒートポンプを継続的に動かすためには、何らかのサイクル構造を持つ必要がある。即ち、1サイクルごとに作業容器は元の状態に戻る。

可逆な場合に最大効率になりそう

効率が最高なのは、外部からエネルギーを与えずに温度を変えられること、即ち、 𝑊=0 であるが、これは実現できない。なぜなら、その過程は、不可逆過程である「熱接触によって温度が等しくなっていく過程」の逆過程だからである。逆に、効率が最悪なのは、低温側が存在しない場合、即ち、 𝑊=𝑄H である(これはただのヒーターであってもはやヒートポンプではない)。これは容易に実現できる。例えば、エネルギー 𝑊 を全て摩擦熱や電気仕事として高温側に与えればよい。これらの過程は不可逆過程である。このように、「理想的な効率」は可逆性により禁止され、「最悪な効率」は不可逆過程で実現できる。どうやらヒートポンプの効率は可逆性と関係していそうである。実現可能な最大効率は、おそらく可逆な場合だろう。この章では、これを実際に示す:9.1ヒートポンプの最大効率9.2参考 熱を全て動力に変えることはできない

9.1ヒートポンプの最大効率

この節では、ヒートポンプの最大効率を与える不等式(6)および(7)を示す。エントロピーを考えて不等式を立てればよい。

9.1.1ヒートポンプによるエントロピーの変化:式(5)

ヒートポンプによってやり取りされる熱エネルギー 𝑄L,𝑄H に対する不等式を立てよう。

エントロピーに対する不等式(2)

ヒートポンプを含む系は、低温部・高温部という2つの容器から構成される。よって、全エントロピー 𝑆 はそれぞれの容器のエントロピー 𝑆L,𝑆H の和となる。その微小変化は、 𝛿𝑆=𝛿𝑆L+𝛿𝑆H である。孤立系のエントロピーは減少させることができないことから、以下の不等式が得られる: 0𝛿𝑆=𝛿𝑆L+𝛿𝑆H(2) 等式が成り立つのは、可逆な場合である。以下では、 𝛿𝑆 はヒートポンプの1サイクルでのエントロピーの変化とし、 𝛿𝑆L,𝛿𝑆H をまとめて 𝛿𝑆𝑖 𝑖{L,H}と表すことにする。ヒートポンプ装置自体もエントロピーを持つ(作業容器を持つため)。しかし、1サイクル後には元に戻っているので、エントロピー変化を考える上では無視してよい。

𝛿𝑆𝑖𝛿𝑄𝑖 の関係式を求める

式(2)を、熱エネルギー 𝑄L,𝑄H に対する不等式にしたい。そのためには、 𝛿𝑆𝑖𝑄𝑖 の関係式があればよい。エントロピーの微小変化 𝛿𝑆𝑖 は、エントロピーの定義式5.1節を用いて 𝛿𝑆𝑖1𝑇𝑖(𝛿𝑈𝑖+𝑃𝑖𝛿𝑉𝑖)体積は変化しないので𝛿𝑉𝑖=0=1𝑇𝑖𝛿𝐸𝑖(3) となる。以下、ヒートポンプの1サイクルでの熱の移動は、 𝑇𝑖 が変化しない程度に小さいとする。そうすれば上式が良い精度で成り立つ。 𝛿𝑈𝑖 は各容器のエネルギーの変化なので、章の冒頭の 𝛿𝑄L,𝛿𝑄H (微小量なので 𝛿 を付けた)を使って表すことができる: 𝛿𝑈L=𝛿𝑄L𝛿𝑈H=𝛿𝑄H}(4)

𝛿𝑄𝑖 に対する不等式(5)

以上により、 𝛿𝑄L,𝛿𝑄H に対する不等式を得るには、式(2)に、式(3), (4)を代入すればよい: 𝛿𝑄L𝑇L𝛿𝑄H𝑇H(5) 𝛿𝑄L は低温部から奪った熱エネルギー、 𝛿𝑄H は高温部に与えた熱エネルギーである。等式は、可逆な場合に成り立つ。

9.1.2ヒートポンプ(暖房)の効率:式(6)

それでは式(5)を使って、ヒートポンプの最大効率を考えよう。まず暖房の場合である。

𝛿𝑊𝛿𝑄H の不等式を求める

外部から与えたエネルギー 𝛿𝑊 に対して、どれだけの熱エネルギー 𝛿𝑄H を高温側に加えられるかが知りたい。即ち、式(5)を、 𝛿𝑊𝛿𝑄H の式にしたい。そのためには、エネルギーの関係式(1): 𝛿𝑄L=𝛿𝑄H𝛿𝑊 を、式(5)に代入して 𝛿𝑄L を消去すればよい: 𝛿𝑄H𝑇H𝑇H𝑇L𝛿𝑊(6) 効率が最大になるのは、等式が成り立つ場合であり、可逆な場合に成り立つ。最大成績係数最大効率に対応する赤字部分を最大成績係数という。最大成績係数は、常に1より大きい。よって、任意の温度で、費やしたエネルギー 𝛿𝑊 よりも多くの熱エネルギー 𝛿𝑄H を汲み上げることができる。なお、 𝑇H=𝑇L の時、最大成績係数は発散する。これは、「低温側(同じ温度だが便宜上そう呼ぶ)から熱を奪うのに必要なエネルギー」と「高温側に熱を与えるのに必要なエネルギー」が打ち消しあって 𝛿𝑊=0 になることによる(可逆操作の場合)

9.1.3ヒートポンプ(冷房)の効率:式(7)

次は冷房の最大効率である。

𝛿𝑊𝛿𝑄L の不等式を求める

外部から与えたエネルギー 𝛿𝑊 に対して、どれだけの熱エネルギー 𝛿𝑄L を低音側から奪えるかが知りたい。式(5)にエネルギーの関係式 𝛿𝑄H=𝛿𝑄L+𝛿𝑊 を代入して 𝛿𝑄H を消去すればよい: 𝛿𝑄L𝑇L𝑇H𝑇L𝛿𝑊(7) この場合も、効率が最大になるのは等式が成り立つ場合であり、可逆な場合に成り立つ。 𝑇H<2𝑇L の場合、即ち 𝑇H𝑇L が十分近い場合、赤字部分(最大成績係数)は1より大きくなり、費やしたエネルギー 𝛿𝑊 よりも多くの熱エネルギー 𝛿𝑄L を奪うことができる。

9.1.4最大効率の例:逆カルノーサイクル

ヒートポンプの最大効率は、可逆な場合に達成できることが分かった。そのような可逆なヒートポンプは、原理的に構成することができる。実際、以下の【9.1-注1】のような逆カルノーサイクルを使えばよい。これは、冒頭で述べたヒートポンプのサイクルを可逆過程だけで構成したものである。

【9.1-注1】逆カルノーサイクル

逆カルノーサイクルは、右図のようなヒートポンプサイクルである。全ての操作は準静的に行われる。共等温膨張によって低温側からエネルギー 𝑄L を吸収し、共等温圧縮によって高温側にエネルギー 𝑄H を放出する。色が同じ個所は同じ温度である。可逆であるため、最大の効率を持つ、即ち、式(6)および式(7)の等号が成立する。逆カルノーサイクルの効率は最大ではあるが、可逆性を持たせるためには非常にゆっくり動かす必要があるので、時間的な効率という点では最悪である。

カルノーサイクル

なお、これを逆にたどるようなサイクルを、カルノーサイクルという。これは、用意された低温源と高温源から力学的なエネルギーを最大効率で取りだすサイクルであり、次節で述べる熱機関の例である。

9.2参考 熱を全て動力に変えることはできない

熱機関

ところで、ヒートポンプは外部エネルギーを温度差に変換するものであったが、逆向きに作動させると、温度差を力学的なエネルギー 𝑊 に変換する装置としても使える(右図)。このように熱を動力に変換する装置を、熱機関という。

第二種永久機関

特に興味があるのは、高温側から奪った熱 𝑄H を全て 𝑊 に変換できることが可能かという問題である𝑊=𝑄H。この場合、 𝑄L 低温側は不要になり(あったとしても触媒的にしか作用しない)、高温熱源だけから 𝑊 を取り出すようなサイクルがあることになる。即ち、温度差が不要なエンジンが作れることになる。そうすれば、例えば、空気や地面から熱を奪って運動エネルギーに変換することにより、事実上、燃料なしで永久に動き続ける車が作れるのではないか、という期待が生まれるわけである。このような熱機関を第二種永久機関という。

この節では、第二種永久機関が不可能であることを示す。なお、第種永久機関というのもあるが、これは、エネルギー保存則を破ってエネルギーを生成するような装置であり、これも不可能である。第二種永久機関のほうはエネルギー保存則を破らない。

9.2.1第二種永久機関は存在しない:式(8)

熱機関の場合、式(5)に対応する式は 𝛿𝑄L𝑇L𝛿𝑄H𝑇H である(エネルギーの流れの方向が逆になっているので、符号も逆になる)。これに、エネルギー保存を表す 𝛿𝑄H=𝛿𝑄L+𝛿𝑊 を用いて 𝛿𝑄L を消去すると 𝛿𝑊𝑇H𝑇L𝑇H𝛿𝑄H(8) となる。赤字部分を最大熱効率といい、常に1よりも小さな値である。即ち、奪った熱 𝛿𝑄H の全てを運動エネルギー 𝛿𝑊 に変えるようなサイクルは存在せず、必ず、低温熱源に熱を捨てなければならない。よって、第二種永久機関は存在しない。

最大熱効率が実現するのは、可逆な場合である。例えば、【9.1-注1】の最後で触れたカルノーサイクルがそうである。逆に、熱効率が最悪なのは、高温熱源から低温熱源にそのまま熱を捨てる場合であり、 𝛿𝑊=0 となる。