エントロピーを定量化したい。
エントロピーの自然な定量化があるのではないか
前章では、熱力学的状態方程式の成立が実験的に確認されていることにより、エントロピー
𝑆𝑈1𝑉1𝑈2𝑉2
が存在することが分かった(全体が断熱された2容器系において)。
エントロピーを定量化したい
ただし、前章の段階では、等エントロピー面が存在するといっているだけである。その定量化、即ち、「各々の等エントロピー面にどのような値を割り振るか」については何も言っておらず、任意性が残っている。エントロピーは熱力学において明らかに重要な量なのだから、自然な定量化の方法があるのではないだろうか。
エントロピーは加法性を持つのが好ましい
定量化されたエントロピー
𝑆𝑈1𝑉1𝑈2𝑉2
が満たすべき最も自然な性質は、加法性である。即ち
𝑆𝑈1𝑉1𝑈2𝑉2=𝑆𝑈1𝑉1+𝑆𝑈2𝑉2(1)
のように、全体のエントロピーが、各々の容器のエントロピーの和になっているのが自然である。そうすれば、容器ごとにエントロピーを求めておくだけで、全体のエントロピーが単純な和によって計算できる。そうなっていない場合は、容器の組み合わせごとにエントロピーを計算し直すことになり不便である。
エントロピーの性質についても議論する
そこでこの章では、エントロピーの加法的な定量化を行った後、エントロピーの性質についていくつか議論する:5.1エントロピーの加法的な定量化5.2参考エントロピーから平衡状態を導出する5.3参考 エントロピーを用いた熱力学の再構成
5.1エントロピーの加法的な定量化
この節では、加法性を持つエントロピーとして、式(14)のように定量化出来ることを示す。これが、加法性(1)を持つエントロピーの唯一の選択肢である。加法性=相加性本サイトでは加法性と呼んでいるが、熱力学では相加性(あるいは示量性)と呼ぶのが普通である。力学編で、質量や力が持つ「足し算ができる性質」を加法性と呼んでいるので、本サイトではそれに統一している。
5.1.1方針
方針は以下のとおりである:
𝐷eq
上で加法性を持つための条件
まず、等温状態空間
𝐷eq
を考える。
𝐷eq
上でのエントロピー
𝑆𝑇𝑉1𝑉2
が加法的になるようにしたい。3.3節で述べたように、エントロピーの取り方には任意性がある。即ち、各々の等エントロピー線に対して値を割り振る任意性。その任意性は、積分因子
𝑓𝑇𝑉1𝑉2
として表現できる。よって、加法的になるという条件は
𝑓𝑇𝑉1𝑉2
に対する条件として書き下せる。
𝑓𝑇𝑉1𝑉2
を求める
次に、1容器のエントロピー
𝑆𝑇𝑉
に着目する。
𝑆𝑇𝑉
が存在するように積分因子
𝑓𝑇𝑉1𝑉2
に対する条件を求める。それを解けば
𝑓𝑇𝑉1𝑉2
が特定できるである。
加法的なエントロピーの定義
求まった
𝑓𝑇𝑉1𝑉2
を使って、エントロピーを定義すれば、それが平衡状態空間全体で加法的なエントロピーとなる。
5.1.2 𝐷eq 上で加法性を持つための条件:式(8)
前章で見たように、等温状態空間
𝐷eq
上でエントロピーを定義すれば、平衡状態空間全体のエントロピーが決まる。よって、
𝐷eq
上でエントロピー(1)が加法的になる条件を考える。
共等温変形の整理:式(4)
𝐷eq
上での等エントロピー面を与えるのは、前章で与えた共等温変形である:
(𝑈˙𝑇𝑉1+𝑈˙𝑇𝑉2)𝛿𝑇+∑𝑖(𝑈𝑇˙𝑉𝑖+𝑃𝑇𝑉𝑖˙𝑇)𝛿𝑉𝑖≐0(2)
見やすくするために、
𝛿𝑄𝑇𝑖𝑉𝑖
を
𝛿𝑄𝑇𝑖𝑉𝑖≡𝑈˙𝑇𝑉𝑖𝛿𝑇+(𝑈𝑇˙𝑉𝑖+𝑃𝑇𝑉𝑖˙𝑇)𝛿𝑉𝑖(3)
𝛿𝑄𝑇𝑖𝑉𝑖
と書いてはいるが、何らかの関数
𝑄𝑇𝑖𝑉𝑖
が存在すると主張しているわけではない。あくまで、略記である。で定義する。すると、共等温変形(2)は
𝛿𝑄𝑇𝑉1+𝛿𝑄𝑇𝑉2≐0(4)
と書ける。前章で見たように、これは分離準静変形
𝛿𝑄𝑇𝑖𝑉𝑖≐0(5)
を
𝑇1=𝑇2
のもとで辺々足し合わせたものである。
積分因子 𝑓𝑇𝑉1𝑉2 を使ってエントロピーを書き下す
さて、共等温変形(4)は可積分なのだから、エントロピー
𝑆𝑇𝑉1𝑉2
が存在する。その具体的な形は、ある積分因子
𝑓𝑇𝑉1𝑉2≠0
を用いて
𝛿𝑆𝑇𝑉1𝑉2≐𝑓𝑇𝑉1𝑉2(𝛿𝑄𝑇𝑉1+𝛿𝑄𝑇𝑉2)(6)
のようになる。共等温変形(4)と
𝛿𝑆𝑇𝑉1𝑉2≐0
が等価になっているわけである。これが積分因子
𝑓𝑇𝑉1𝑉2
は、等エントロピー面に値を割り振る自由度に対応している。(積分因子の一般論については、力学編の15.3節参照。)
𝐷eq 上で加法性を持つための条件:式(8)
これが、各容器のエントロピーの和に分解できるとする:
𝛿𝑆𝑇𝑉1𝑉2≐𝛿𝑆𝑇𝑉1+𝛿𝑆𝑇𝑉2(7)
式(6)と式(7)を見比べると、右辺の各項は
𝛿𝑆𝑇𝑉𝑖≐𝑓𝑇𝑉1𝑉2𝛿𝑄𝑇𝑉𝑖
となる。さらに、
𝑆𝑇𝑉𝑖
は容器
𝑖
の情報だけで書き下せることを期待しているので結局、積分因子
𝑓𝑇𝑉1𝑉2
は容器に依存しない
𝑇
のみの関数となる:
𝛿𝑆𝑇𝑉𝑖≐𝑓𝑇𝛿𝑄𝑇𝑉𝑖(8)
5.1.3 𝑓𝑇 を求める:式(12)
1容器のエントロピー
𝑆𝑇𝑉
が存在するように、式(8)の積分因子
𝑓𝑇
を決めたい。
𝑆𝑇𝑉 が存在する条件
式(3)を使って
𝛿𝑄𝑇𝑉𝑖
の中身をあらわに書くと、式(8)は
𝛿𝑆𝑇𝑉≐𝑓𝑇˙𝑇(𝑈˙𝑇𝑉𝛿𝑇+[𝑈𝑇˙𝑉+𝑃𝑇𝑉˙𝑇]𝛿𝑉)(9)
となる(添え字
𝑖
は省略した)。このような
𝑆𝑇𝑉
が存在するには、可積分条件:
(𝑓𝑇˙𝑇𝑈˙𝑇𝑉)𝑇˙𝑉=(𝑓𝑇˙𝑇[𝑈𝑇˙𝑉+𝑃𝑇𝑉˙𝑇])˙𝑇𝑉(10)
が成り立たてばよい。導出可積分条件については力学編15.2節で述べた。即ち
𝛿𝑆𝑥𝑦≐𝐹𝑥𝑦𝛿𝑥+𝐺𝑥𝑦𝛿𝑦
を満たす
𝑆𝑥𝑦
が存在するための必要十分条件は
𝐹𝑥˙𝑦=𝐺˙𝑥𝑦(11)
である。これと式(9)を見比べれば式(10)が得られる。
◼
式(10)の解:式(12)
式(10)の両辺にある微分を実行した後、
𝑓
に関する量を左辺に集めると
𝑓˙𝑇𝑓𝑇˙𝑇=−𝑃˙𝑇𝑉˙𝑇𝑃𝑇𝑉˙𝑇+𝑈𝑇˙𝑉∣熱力学的状態方程式=−1𝑇∴(log𝑓𝑇)˙𝑇=−(log𝑇)˙𝑇
となる。従って、解は
𝑓𝑇=1𝑇(12)
となる。予想通り、
𝑇
のみの関数にできている。
𝑓𝑇
には定数倍する自由度があるが本質的ではないので係数を
1
とした。ただし、エントロピーは高温側で大きくなるように取るのが慣例なので、そうなるよう符号には気を付ける必要がある。式(12)のようにとっておけば、エントロピーの微分(9)の
𝛿𝑇
の係数が正になるので問題ない。逆温度熱力学で使われることはあまりないが、
𝐵≡1𝑇
を逆温度という。逆温度
𝐵
を使うと積分因子(12)が
𝑓𝐵=𝐵
と簡単になり、エントロピー関連の式が、わずかに綺麗になる。よって、理論的には
𝑇
よりも
𝐵
のほうが自然な温度目盛りである。実際、統計力学では、逆温度が主に使われる。(もともと
𝑇
は、理想気体の体積に比例するようにとっただけなので、理論的根拠はあまりなかった。)
5.1.4加法的なエントロピーの定義:式(14)
以上により積分因子が決まったので、加法的なエントロピーが定義できる。
(𝑈,𝑉) 表示でのエントロピー:式(14)
具体的には、式(9)に積分因子(12)を適用すれば、エントロピーの定義式は
𝛿𝑆𝑇𝑉≐𝑈˙𝑇𝑉𝑇𝛿𝑇+𝑃𝑇𝑉˙𝑇+𝑈𝑇˙𝑉𝑇𝛿𝑉(13)
となる。等温状態空間を考える都合上、これまでは
(𝑇,𝑉)
表示をとっていた。しかし、もともと知りたかったのは、より物理的に自然な
(𝑈,𝑉)
表示でのエントロピー
𝑆𝑈𝑉
である。これを
(𝑈,𝑉)
表示に置き換えるには、
𝛿𝑇
を、
𝛿𝑈,𝛿𝑉
で書き換えればよい。即ち、エネルギー関数
𝑈𝑇𝑉
の微分:
𝛿𝑈𝑇𝑉≐𝑈˙𝑇𝑉𝛿𝑇+𝑈𝑇˙𝑉𝛿𝑉
の右辺第1項を式(13)の右辺第1項に代入すればよい。これにより、最終的なエントロピーの定義式が得られる:
𝛿𝑆𝑈𝑉≐1𝑇(𝛿𝑈+𝑃𝛿𝑉)(14)
右辺の
𝑇,𝑃
は、それぞれ
𝑇𝑈𝑉,𝑃𝑈𝑉
と書いても良いが、冗長なので略記した。
エントロピーが加法的になっていることの確認
各容器のエントロピー
𝑆𝑈𝑖𝑉𝑖
を、式(14)によって決めれば、加法的なエントロピー式(1):(再掲)
𝑆𝑈1𝑉1𝑈2𝑉2=𝑆𝑈1𝑉1+𝑆𝑈2𝑉2
が定義できる。こうして定義されたエントロピーは、加法的かつ、分離準静変形(5)と共等温変形(4)で保存するので、確かに正しいエントロピーとなっている。逆に、このように加法性を持つようなエントロピーは、これ以外に存在しないこともこれまでの導出から分かる(定数倍と原点位置の自由度を除いて)。
5.2参考エントロピーから平衡状態を導出する
4.2章で述べたように、平衡状態ではエントロピーが極大の状態になっていると考えられる。実際には、「エネルギーが一定」とか「体積の和が一定」といった制約条件が付くので、制約条件付き極値問題を解くことになる。この節では、その例として、第1章と第2章の問題に対して、確かにこの性質が成り立つことを確認する。
エントロピーのまとめ
これまでの結果をまとめておくと、1容器のエントロピーの定義は式(14)である:(再掲)
𝛿𝑆≐1𝑇(𝛿𝑈+𝑃𝛿𝑉)(15)
複数の容器がある場合、全体のエントロピーは、各々の容器のエントロピーの和を取ればよい。
5.2.1第1章の平衡条件の再現:式(19)
第1章の結果を再現したい
第1章では、体積が変化しない2つの容器を熱的に接触させた時の平衡状態を考えた。2つの容器がある場合のエントロピー
𝑆12
は、各容器のエントロピー
𝑆1,𝑆2
の和である:
𝑆12=𝑆1+𝑆2
。平衡状態では、エントロピーが極大になるので
0=𝛿𝑆12=∑𝑖𝛿𝑆𝑖∣エントロピーの定義(15)≐∑𝑖1𝑇𝑖(𝛿𝑈𝑖+𝑃𝑖𝛿𝑉𝑖)(16)
が成り立つはずである。第1章では、経験的に等温条件
𝑇1=𝑇2
を要請した。ここでは、式(16)を使って等温条件を再現したい。
制約条件を追加する
ただし、
𝛿𝑈𝑖,𝛿𝑉𝑖
は任意の値をとれるわけではない。「体積
𝑉𝑖
が固定されている」のと「エネルギー保存則より全エネルギー
𝑈1+𝑈2
が保存する」のだから、それらの微分がゼロ:
𝛿𝑉1=𝛿𝑉2=0𝛿𝑈1+𝛿𝑈2=0(17)(18)
という制約条件が課される。
第1章の結果が再現できた
これらの制約条件を使って、式(16)から
𝛿𝑉𝑖
と
𝛿𝑈2
を消去すると
(1𝑇1−1𝑇2)𝛿𝐸1≐0
となる。
𝛿𝑈1
は任意の値をとれるので、結局この式は、温度が等しいこと:
𝑇1=𝑇2(19)
を意味する。よって、等温条件が再現された。
◼
もっとも、この結果は、温度を定義する際に既に認めていたことである(容器に温度計を差込んで温度が測れるためには、容器と温度計が同じ温度にならなければならない)。従って、上記の結果は、理論的に導出したというよりは、エントロピーの極値問題から平衡状態が正しく導出できることの検算である。なお以下の5.3節で見るように、エントロピー存在および加法性などを認めれば、そこから、温度の概念を導出することもできる。
5.2.2第2章の平衡条件の再現:式(21)
第2章の結果を再導出したい
次に、第2章の問題である。第2章で扱ったのは、上述の系に対して、体積が変化できるようにしたものである。体積の和は一定なので、式(17)を
∑𝑖𝛿𝑉𝑖=0(20)
で置き換えればよい。第2章で経験的に課した平衡条件は、温度と圧力がそれぞれ等しいという条件であった。これを再現したい。
第2章の結果が再現できた
式(20)とエネルギー保存則(18)を用いて、平衡条件(16)から
𝛿𝑈2
と
𝛿𝑉2
を消去すると
(1𝑇1−1𝑇2)𝛿𝑈1+(𝑃1𝑇1−𝑃2𝑇2)𝛿𝑉1≐0
となる。
𝛿𝑈1,𝛿𝑉1
は任意の値をとれるので、各々の係数はゼロである。
𝛿𝑈1
の係数から等温条件が得られ、
𝛿𝑉1
の係数から等圧条件が得られる:
𝑇1=𝑇2𝑃1=𝑃2}(21)
よって、第2章の平衡条件と一致している。
◼
平衡状態でエントロピーが極大になることを認めよう
以上のように、温度や圧力が等しくなるという条件を手で課さずとも、エントロピーの極値問題を解くことで自動的に出てくるわけである。確かに、エントロピーの極値点が、平衡状態に対応していそうである。これを認めることにしよう。
5.3参考 エントロピーを用いた熱力学の再構成
エントロピーの
𝑈,𝑉
表示である
𝑆𝑈𝑉
の関数形は、温度という概念を用いなくても測定から決定することができるだろうか。もしできるのであれば、温度
𝑇
は、式(15)の
𝛿𝑈
の係数より
𝑆˙𝑈𝑉=1𝑇𝑈𝑉
から定義されることになる。これまでは、温度の存在を前提にしていたが、エントロピーから温度の存在が導かれることになる。そうすれば、熱力学に登場する、温度・平衡状態・不可逆性といった概念の理論づけが全てエントロピーから行えることになる。
この節では、そのために必要なエントロピーの性質について述べた後、エントロピーから実際に温度が導出できることを示す。熱力学の範囲だと、これは理論的な興味であり、この議論によって何かが新しく計算できるようになるわけではない。一方、統計力学では、ミクロな運動方程式から、エントロピーを直接計算する方法があるので、もう少し深い意味を持つようになる。
5.3.1エントロピー 𝑆𝑈𝑉 の性質
平衡状態
孤立系を放置すると、やがてマクロに変化しない状態に移行する。この状態を平衡状態という。(孤立系といっているが、重力などの静的な外場はあってよい。)単一容器系では、平衡状態、エネルギー
𝑈
と体積
𝑉
を決めると一意的に決まる。第2章で述べたように、平衡状態を区別するパラメータは、「エネルギー」「運動方程式のパラメータ(体積、粒子数、重力など)」「内部障壁に由来するもの(容器ごとのエネルギー・粒子数の配分、氷と過冷却水の区別など)」からなる。
エントロピー
各々の平衡状態には、エントロピーと呼ばれる実数値
𝑆
が対応付けられる:
𝑆𝑈𝑉
。
𝑆
が以下の性質を持つことを認めることにする:
可逆性
𝑆
は、断熱かつ可逆な操作では変化しない。不可逆過程の場合は、増大する。特に、準静変形は可逆である。
加法性
𝑆
は加法的である。即ち、複数の容器がある場合、
𝑆
は、各容器のエントロピー
𝑆1,𝑆2,…
の和である:
𝑆=∑𝑖𝑆𝑖
ただし、分子が帯電しているなどして、マクロな相互作用をしている場合は成り立たない。
極大性
平衡状態では、(総エネルギー一定、総体積一定といった)制約条件のもとで、エントロピーが極大となる。
5.3.2エントロピーの測定方法と温度概念の導出
これらの性質を使って、エントロピーを測定する方法について述べ、温度の概念を導出する。具体的には、これまでの議論を逆にたどって、エントロピーの積分因子が温度と同じ性質を持つことを示す。
積分因子 𝑇 の設定:式(22)
まず、準静変形、即ち、断熱曲線に沿った変形:
𝛿𝑈+𝑃𝛿𝑉≐0
では、エントロピー
𝑆
は変化しない。よって、一般に、
𝑆
の微分は、未知の積分因子の逆数を
𝑇
として
𝛿𝑆≐1𝑇(𝛿𝑈+𝑃𝛿𝑉)(22)
の形になる(今は
𝑇
が熱力学温度であることを知らない)。
𝑆
を決めるには、
𝑇
を実験的に決める必要がある。もちろん、積分因子には任意性があるので、そのままでは一意的には決まらない。エントロピーの加法性などを援用する必要があるだろう。
𝑇 は熱力学的状態方程式を満たす
積分因子
𝑇
がまず満たすべき条件は、エントロピー(22)に対する可積分条件(=式(11))である:
(1𝑇)𝑈˙𝑉=(𝑃𝑇)˙𝑈𝑉∣
∣
∣
∣微分を実行して、𝑇=(⋯)の形に変形する。(最終的に熱力学的状態方程式にしたいので。)∴𝑇=𝑃𝑇˙𝑈𝑉−𝑇𝑈˙𝑉𝑃˙𝑈𝑉(23)
これに、微分公式
𝑇𝑈˙𝑉=−𝑈𝑇˙𝑉𝑇˙𝑈𝑉𝑃˙𝑈𝑉=𝑃˙𝑇𝑉𝑇˙𝑈𝑉
導出第1式は、以下の【5.3-注1】の式(25)において、
(𝑋,𝑌,𝑍)→(𝑇,𝐸,𝑉)
と置き換えたもの。第2式は、
𝑉
を固定してみれば分かるように、合成関数の微分公式
𝑑𝑓𝑑𝑥=𝑑𝑓𝑑𝑔𝑑𝑔𝑑𝑥
と同じものである。
◼
を代入すると、
(𝑈,𝑉)
表示から
(𝑇,𝑉)
表示に移行できる:
𝑇=𝑃+𝑈𝑇˙𝑉𝑃˙𝑇𝑉(24)
これは熱力学的状態方程式である。式(23)も熱力学的状態方程式と呼んでよい。式(23)と式(24)の違いは、変数が
(𝑈,𝑉)
表示か
(𝑇,𝑉)
表示かというだけである。
𝑇 は熱力学温度?
ただし、だからと言って「
𝑇
が熱力学温度になる」とすぐに言えるわけではない。この式を使って、第4章で述べた方法で、
𝑇
を実験的に決めるためには、
𝑈𝑇˙𝑉
が必要である。しかし今の段階では、これは測定できない。実際、
𝑈𝑇˙𝑉
を測定するには、
𝑇
を変化させずに体積
𝑉
だけを変化させなければならない(
𝑉
を変化させた後、
𝑇
を元に戻すことができれば十分)。しかし現段階では、元の
𝑇
と同じになっているかを判定する方法が不明である。第4章では、温度という概念が成立すること(温度計が存在すること)を仮定していたので、
𝑇
を揃えるような実験が可能だった。
𝑇 は熱力学温度である
そこで、
𝑇
が等しいかを判定する方法を考える。
𝑇
は温度になるはずなので、温度計の場合と同様に、2つの系の熱接触を考えれば良いという見当が付く。2つの容器の熱接触での平衡条件は、体積を固定し、全エネルギーが一定とすれば、式(19)になる:(再掲)
𝑇1=𝑇2
(ここでエントロピーの加法性と極大性を使っている。)即ち、熱的に接触させた系では、
𝑇
は等しくなる。これを使って、
𝑇
を元に戻すような実験が可能である。よって、
𝑈𝑇˙𝑉
を測定することができ、
𝑇
を決定することができる。
𝑇
を決定する操作は、第4章で述べたものと同じでなので、
𝑇
は熱力学的温度と一致している。以上により、温度の概念が導出でき、エントロピー
𝑆
も測定から決定できる。
【5.3-注1】偏微分の公式
𝑋𝑌𝑍,𝑌𝑋𝑍
が微分可能な場合、以下が成り立つ:
𝑋˙𝑌𝑍𝑌𝑋˙𝑍+𝑋𝑌˙𝑍=0(25)
証明
𝑋𝑌𝑍,𝑌𝑋𝑍
の微分はそれぞれ
𝛿𝑋≐𝑋˙𝑌𝑍𝛿𝑌+𝑋𝑌˙𝑍𝛿𝑍𝛿𝑌≐𝑌˙𝑋𝑍𝛿𝑋+𝑌𝑋˙𝑍𝛿𝑍
である。第1式を第2式に代入して
𝛿𝑋
を消去すると
𝛿𝑌≐𝑋˙𝑌𝑍𝑌˙𝑋𝑍𝛿𝑌+(𝑋˙𝑌𝑍𝑌𝑋˙𝑍+𝑋𝑌˙𝑍)𝛿𝑍
となる。任意の
𝛿𝑌,𝛿𝑍
でこの式が成り立つのだから、
𝛿𝑍
の係数はゼロとなり、式(25)が得られる。
◼
𝛿𝑋
の係数からは、1変数関数の逆関数の微分公式と同じものが得られる。