統計力学編 第6章

分子の速度分布

ハミルトニアンが式()の形になる古典系では、分子の速度分布は式()で与えられる。

分子の速度分布が知りたい。

分子の速度分布を、統計平均を用いて計算する

分子の速度は、平衡状態が決まれば、あるきまった分布を持つだろう。その速度分布密度を とおく(速度が「 周辺の微小体積 」に含まれる粒子数 になる)。個々の分子の速度はミクロな量であるが、全体としての分布であれば、統計平均を使って計算することができるだろう。

熱力学で扱った量についてはエントロピーから計算できるわけだが、分子速度のようにそれよりもミクロ寄りの量については、平衡状態に固有のものであっても、エントロピーから計算できない。一方、統計力学を用いれば、統計平均を用いることによって時間平均を計算することができる。分子の速度分布の実際には時間的に揺らいでいるだろうが、時間平均を取れば、ある確定した値になるはずである。

6.1分子の速度分布

まずハミルトニアンを決める必要があるので、以下のものを仮定する: はそれぞれ各分子の重心位置とその運動量であり、 は残りの自由度(主に回転)に対する座標と共役運動量である。 は重心の運動エネルギー、 はそれ以外の運動エネルギー、 はポテンシャルを表す。知りたいのは の分布だけなので、 に依存しない の具体的な形を知る必要はない。分子は、古典論で扱えるとする。

この節では、統計平均を計算することにより、分子の重心の速度分布(の時間平均)を導く(式())

分子の速度分布

ある速度 、および、その周りの領域 の適当にとる。ある時刻 において速度が 内にある粒子の個数 は、以下のように与えられる: これは、時間とともに揺らぐような値である。今知りたいのは、その時間平均 である。冒頭で導入した速度分布密度 で書くと となる。

第2章で述べたエルゴ―ド仮説により、時間平均 と統計平均 が一致することを認めることにしよう。 は、4.4節の統計平均のカノニカル表示において とすればよいので となる。あとはこれを計算していけばよい: これが、速度分布を与える式である。

速度の大きさ の分布

式()を見ると、速度分布は に関して指数関数的に減少することが分かる。従って、 の周辺に最も多く密集することになる。エネルギーが大きくなると、大きな速度を持つようになるはずなので、不自然に見えるかもしれない。これは、 の中の粒子数を考えているからである。速度の大きさの分布、即ち、 に含まれる粒子数を考えると、 以外のところにピークを持つようになる。

これを見るために、式()の速度分布を、速度の大きさ に関するものに変形する。 に含まれる粒子数 は、式()を、この領域で積分すればよいので となる。

この分布のピークは、この で微分したものがゼロになる所であり、実際に計算すると となる。ただし、鋭いピークになるわけではなく、広がりを持つ。