エントロピーの示量性を露わにするように、状態数を書き換えたい。
グランドカノニカル表示
前節ではエントロピーの相加性を露わにするような表示として、状態数のカノニカル表示を導出した。今度は示量性を露わにすることを考える。これをグランドカノニカル表示と呼ぶことにする。
5.1示量性を露わにする表示:グランドカノニカル表示
ここでは、体積
に関する依存性は考えないので、簡単のため省略する(状態数は
ではなく
と書く)。
状態数 のグランドカノニカル表示の予想:式()
前章のカノニカル表示を参考にするならば、状態数
は、以下の関数
で近似できると予想される:
ただし、
は
である(
との違いは
で微分するか
で微分するか)。
は化学ポテンシャル。
は
について単調減少関数であり、
と同様に非常に大きな値である。
この式()を
で割って
を取ったものは示量性を満たすことが示せる。1つの容器を仮想的に2つに分離した時のそれぞれの容器からの寄与に分解すればよい:
・積分変数に依存しない部分を前に出す・の添え字を省略する節と同様の計算で容器を分離する:・積分変数をに変換。・各容器ごとにまとめる。
ただし、最後の式の
は、「保存則」と「各容器の
が一致する」ことから決まる:
状態数 のグランドカノニカル表示:式()
式()が正しいことを示そう。カノニカル表示の場合と同様に、
から
を括り出すことを考える:
の計算は前章の4.2節と同様である:
部分はかつの部分以外はゼロとみなしてよい
エントロピーを求める際には
を取るので、
は無視できる:
よって、式()を状態数とみなしてよい:
ただし、今まで省略していた体積
を含めた。これが状態数のグランドカノニカル表示である。
温度関数 と化学ポテンシャル を求めるには、大分配関数 を使う:式()
状態数のグランドカノニカル表示()には、右辺に
が現れているので、これらの関数形が分からないと計算できないように見える。しかし、カノニカル表示の場合と同様に計算することができる。
まず、式()の左辺から
のみに依存する部分を括り出すことにより、
のみに依存する項
を括り出せる:
を大分配関数という。これを計算すれば、
の関数形が求められることを示したい。
エントロピー
は(ギブスの修正因子を含めて)
である。
をクラマース関数という(カノニカル表示におけるマシュー関数に対応する部分)。式()の全微分を取ると
よって、係数を見れば
となることが分かる。この逆関数を求めれば、
が決められる。
これにより、逆に、
さえ求めれば式()を用いて、
も決まる。従って、大分配関数
はエントロピー
と同じ情報を持っている。
5.2統計平均のグランドカノニカル表示
平衡状態における物理量
の時間平均値
は、エルゴード仮説により、相空間上での平均を取ればよいのであった:
この節では、
のグランドカノニカル表示()を与えておく。考え方は、前章の4.4節と同様である。
統計平均のグランドカノニカル表示
式()のグランドカノニカル表示は、以下のようになる:
分母は、大分配関数である。
導出は、カノニカル表示での統計平均の場合(4.4節)と同様である。式()の分子を変形して、
に依存する部分が
になることを言えばよい(
に依存しない部分は分母で打ち消す)。以下では、
は
に依存しない項を代表するものとする:
分子節と同じ議論によって積分を実行同様に、前章の【注】を用いて積分を実行
に依存しない項
は式()の分母に一致するので打ち消す。よって、式()が成り立つ。