統計力学編 第1章

エントロピーの候補

熱力学では、エントロピーは実験的に求めなければならなかった。これをミクロな法則から計算したい。単原子理想気体の場合、状態数(13)は、エントロピーの本質的な性質である可逆不変性(2)を持つ。(次章でこれを一般の場合に拡張する。)

統計力学の主要な目的:式(1)

統計力学の主要な目的は ミクロな法則から、エントロピーを直接定義する(1) ことである。エントロピーといえば、熱力学編の主役であった。エントロピーが分かれば、可逆性を用いた議論(例えば熱効率)や、平衡条件を導くことができる(温度、圧力、化学ポテンシャル等を含む)。とはいえ、熱力学において、エントロピーは、理論的に得られる量ではなく、実験的に状態方程式や熱容量を測定して求める必要があった。

一方、熱力学的な系であっても、原理的には、ミクロな法則によって記述できるはずである。従って原理的には、式(1)によって、ミクロな法則からエントロピーを求めることは、可能であると考えられる。それにより、これまで実験から求めなければならなかった、状態方程式や熱容量、多成分系の化学ポテンシャルといった量が、理論的に導けることになる。(なお、式(1)の他にも、ミクロな法則を考えることで、熱力学を超えた議論ができるようになる。例えば、後の章で見るように、気体分子の速度分布や観測量の揺らぎが計算できる。)

熱力学編で見たように、エントロピー 𝑆 の著しい特徴は 可逆過程で値を変えず、不可逆過程で増加する性質(可逆不変性)(2) を持っていることである(この用語は一般的ではない)。従って、そのような可逆不変量( Ω とおく)をミクロな法則から定義する方法を考える。ミクロな法則はハミルトニアン 𝐻 で記述されるはずなので、 𝐻 からこの Ω を定義できるだろう。

1次元1粒子という単純な系では、可逆不変性(2)を満たす量が知られている。この章では、まずこれを説明し、その後、最も単純な熱力学系である理想気体について拡張できることを示す: 1.1:1次元1粒子系における可逆不変量1.2:単原子理想気体の可逆不変量 (理想気体の Ω がそのまま一般の系に拡張できることは次章で議論する。また、 Ω からエントロピーを計算する方法については第3章で扱う。)

1.11次元1粒子系における可逆不変量

可逆不変性(2)を持つ量 Ω を見つけるため、まずは、1次元系において、1つの粒子がポテンシャルにトラップされて往復している場合を考える。ポテンシャルを準静的に変化する場合に限定して、 Ω を求めたい(自由に変化させると何でもありになってしまう)。この節では、 Ω が式(7)で表されることを見る。

まずは、任意のポテンシャルではなく、壁で挟まれただけの系(=井戸型ポテンシャル)において、壁の位置が準静的に変化する場合を考え、それを一般化する。

1.1.11次元容器における状態数 Ω は可逆不変量

1次元の容器の中で、1つの粒子が往復している系を考える。これは、(次元と粒子数を)最も単純化した理想気体である。理想気体では、体積の準静変形は可逆であった。この単純な系でも、容器の長さを準静的に変化させたときに、何らかの保存量があるのではないだろうか。

そのような量は実際に存在し 𝑣⁢𝐿=const. となる(以下の【1.1-注1】)。粒子の速度の大きさが 𝑣 、容器の長さが 𝐿 である。

これを相空間で見れば、エネルギー 𝐸 が一定の等エネルギー線で囲まれた領域の面積 Ω𝐸⁢𝐿≡∫𝐻≤𝐸1(3) が保存するとみることもできる( Ω𝐸,𝐿=2⁢𝑝⁢𝐿 )。 Ω𝐸⁢𝐿 を状態数という。この用語は、等エネルギー線に囲まれた領域を微小面要素に分割して、1つの要素が1つの状態に対応するという描像による。

なお、 𝐻 はハミルトニアン: 𝐻𝑥⁢𝑝⁢𝐿=𝑝22⁢𝑚+𝑈𝑥⁢𝐿,𝑈𝑥⁢𝐿≡{0,0≤𝑥≤𝐿∞,その他 である( 𝐻𝑥⁢𝑝⁢𝐿 は 𝐻⁡(𝑥,𝑝,𝐿) の略記)。式(3)右辺の積分は以下の積分の略記である( 𝜃𝑥 はヘヴィサイドの階段関数): ∫𝑥⁢𝑝𝜃𝐸−𝐻𝑥⁢𝑝

容器の長さ 𝐿 を変化させると、等エネルギー線は、相空間上の面積 Ω𝐸⁢𝐿 を保ったまま変形していくわけである。これにより、 𝐿 を変化させて元に戻すと速度の大きさ 𝑣 も元に戻るので、 𝐿 に対する準静操作は可逆である。今は準静的なポテンシャルの操作に限定しているので、常に可逆過程ということになる。従って、可逆不変性(2)としては、不可逆過程を考える必要はない。以上により、 Ω𝐸⁢𝐿 は可逆不変量である。

【1.1-注1】1次元容器の可逆不変量:式(4)

長さ 𝐿 の1次元の容器に、1つの粒子(速度の大きさ 𝑣 )が往復している系を考える。 𝐿 を時間的に変化させる時、準静極限(=変化をゆっくりにしていった極限)において 𝑣⁢𝐿=const.(4) という保存量が存在する。

導出

容器の体積を 𝐿→𝐿+𝛿⁢𝐿 に等速度で変化させる( 𝛿⁢𝐿 は非常に小さい)。ただし、それに要する時間を Δ⁢𝑡 (非常に大きい)とする。

この Δ⁢𝑡 秒間における粒子の速度変化 𝛿⁢𝑣 を考える。 𝛿⁢𝑣 は、衝突回数と1階の衝突での変化の積である: 𝛿⁢𝑣≈𝑛⋅𝛿⁢𝑣(1)𝑛≡(動いている壁に粒子が衝突する回数)𝛿⁢𝑣(1)≡(1回の衝突での速度の大きさの変化量)(5)

右辺の未知数を求めればよい。 𝑛 は 𝑛≈(Δ⁢𝑡秒で進む距離)(1往復の距離)≈𝑣⁢Δ⁢𝑡2⁢𝐿 𝛿⁢𝑣(1) は、力学編の第4章で見たように 𝛿⁢𝑣(1)=2⋅(壁の速度)=−2⁢𝛿⁢𝐿Δ⁢𝑡 である。よって、式(5)より 𝛿⁢𝑣 が得られる: 𝛿⁢𝑣≈𝑛⋅𝛿⁢𝑣(1)≈−𝑣⁢𝛿⁢𝐿𝐿(6)

この式(6)を変形すると (𝛿⁡𝑣)⁢𝐿+𝑣⁡(𝛿⁡𝐿)=𝛿⁡(𝑣⁡𝐿)≈0∴𝑣⁡𝐿≈const. となる。準静極限を取れば等号になるので、式(4)が得られる。 ◼

1.1.21次元1粒子系の周期運動では、状態数 Ω は可逆不変量

さらに状態数 Ω は、ほかの系、例えば、振り子のひもの長さを徐々に変化させる、といった運動について計算してみてもやはり可逆不変になることが分かる。(【1.1-注1】の例だけから状態数という概念を導くのは、飛躍が大きすぎるかもしれない。実際には、様々な例も計算してみることで、状態数で統一的に扱えることに気づく。)

実は、1次元1粒子の周期運動では、一般に Ω は可逆不変量になる(以下の【1.1-注2】)。このように、状態数 Ω が可逆不変量になるというのはきれいな結果である。

ところで、もともと知りたかったのは、このような単純な系ではなく、3次元で粒子数が 1023 といった熱力学系における可逆不変量である。状態数 Ω を定義するだけなら、そのような熱力学系でも容易に可能である。 Ω は、熱力学系においても可逆不変量なのではないだろうか。一般論に進む前に、次節で理想気体の場合に確かにそうなることを見る。

【1.1-注2】1次元1粒子の周期運動の可逆不変量:式(7)

一般的な、1次元1粒子系の周期運動を考える。この時、状態数 Ω𝐸⁢𝜆≡∫𝐻≤𝐸1(7) は可逆不変量である。 𝐻 はハミルトニアン 𝐻𝑥⁢𝑝⁢𝜆 であり、 𝜆 はポテンシャルの関数形を変化させるようなパラメータである。

ただし、導出をなるべく簡単にするため、1つの 𝐸 に対し、可能な周期運動は1つだけであるとする。ポテンシャルに極小が複数あれば、周期運動が複数存在し得る。その場合でも、考えている1つの周期運動が囲む面積が可逆不変量になる(数が変わらなければ)。また、振り子が勢いよく回転運動するような、往復しない周期運動の場合、どちらに回るかによって2種類の運動が可能である(2次元平面内の振り子は1次元系である)。この場合は、式(7)がそのまま可逆不変量になる。

導出

1周期におけるパラメータ 𝜆 の変化を 𝛿⁢𝜆 、その際のエネルギー 𝐸 の変化を 𝛿⁢𝐸 とおく。 𝛿⁢𝐿,𝛿⁢𝐸 の関係式は、1周期の時間を 𝑇 として 𝛿⁢𝐸≡∫𝑡+𝑇𝑡𝑑⁢𝐻𝑑⁢𝑡𝑑𝑡⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣𝑑⁢𝐻𝑑⁢𝑡=𝐻˙𝑥⁢𝑝⁢𝜆⁡𝑑⁢𝑥𝑑⁢𝑡+𝐻𝑥⁢˙𝑝⁢𝜆⁡𝑑⁢𝑝𝑑⁢𝑡⏟____⏟____⏟=0(運動方程式より)+𝐻𝑥⁢𝑝⁢˙𝜆⁡𝑑⁢𝜆𝑑⁢𝑡=𝐻𝑥⁢𝑝⁢˙𝜆⁡𝑑⁢𝜆𝑑⁢𝑡=∫𝑡+𝑇𝑡𝐻𝑥⁢𝑝⁢˙𝜆⁡𝑑⁢𝜆𝑑⁢𝑡⁢𝑑⁢𝑡⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣𝜆の変化がゆっくりであることより:𝑑⁢𝜆𝑑⁢𝑡≈𝛿⁢𝜆𝑇≈𝛿⁢𝜆𝑇⁢∫𝑡+𝑇𝑡𝐻𝑥⁢𝑝⁢˙𝜆⁡𝑑⁢𝑡(8) 𝛿⁢𝜆 の1次近似を考えており、最後の式には既に積分の外に 𝛿⁢𝜆 があるので、積分内では 𝜆 は定数とみなしてよい。

後は、変位 𝛿⁢𝜆,𝛿⁢𝐸 における Ω𝐸,𝜆 の変化量 𝛿⁢Ω𝐸,𝜆 に、式(8)を代入すればよい: 𝛿⁢Ω𝐸⁢𝜆≡∫𝐻+𝛿⁢𝐻≤𝐸+𝛿⁢𝐸1−∫𝐻≤𝐸1≐(∫𝐻≤𝐸+𝛿⁢𝐸1−∫𝐻≤𝐸1)⏟_____⏟_____⏟𝛿⁢𝐸の項+(∫𝐻+𝛿⁢𝐻≤𝐸1−∫𝐻≤𝐸1)⏟_____⏟_____⏟𝛿⁢𝜆の項⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣以下の【1.1-注3】を用いると区分求積によって𝛿⁢𝐸,𝛿⁢𝜆を括り出せる≐𝑇⁢𝛿⁢𝐸+(−∫𝑡+𝑇𝑡𝐻𝑥⁢𝑝⁢˙𝜆⁡𝑑⁢𝑡)⁢𝛿⁢𝜆⁢⁢∣𝛿⁢𝐸に式(8)を代入≈0◼

【1.1-注3】相空間の面積の公式

相空間上において、運動方程式に従う(=等エネルギー線と接する)微小変位ベクトル 𝛿⁢𝑿 と、任意の微小ベクトル 𝛿⁢𝒀 を取る。 𝛿⁢𝑿,𝛿⁢𝒀 が作る平行四辺形の面積 𝛿⁢𝑆 は 𝛿⁢𝑆≐𝛿⁢𝑡⁢⁢𝛿⁢𝐸𝛿⁢𝑡≡(粒子が𝛿⁢𝑿だけ移動するのに要する時間)𝛿⁢𝐸≡(変位𝛿⁢𝒀におけるエネルギーの変化量) である。( ≐ は 𝛿⁢𝑡,𝛿⁢𝐸 それぞれについての1次近似であることを示す。)

導出

面積 𝛿⁢𝑆 の定義は 𝛿⁢𝑆≡∣det⁡[11𝛿⁢𝑿𝛿⁢𝒀]∣(9) である。 𝛿⁢𝑿,𝛿⁢𝒀 を 𝛿⁢𝑡,𝛿⁢𝐸 で表せばよい。

まず、 𝛿⁢𝑿 と 𝛿⁢𝑡 の関係は、運動方程式により 𝛿⁢𝑿≐˙𝑿⋅𝛿⁢𝑡=[𝐻𝑥,˙𝑝−𝐻˙𝑥,𝑝]⁢𝛿⁢𝑡(10) である。一方、 𝛿⁢𝒀 と 𝛿⁢𝐸 の関係は、 𝛿⁢𝐸 の全微分を考えることにより 𝛿⁢𝐸≐(∇𝐻)T⁢𝛿⁢𝒀=[𝐻˙𝑥,𝑝𝐻𝑥,˙𝑝]⁢𝛿⁢𝒀(11) である。後は、面積(9)に 𝛿⁢𝑿 を代入して det を計算すると、うまい具合に式(11)の右辺が現れ、与式が得られる。 ◼

1.2単原子理想気体における可逆不変量

前節で見たように、1次元1粒子系では、状態数 Ω (式(7))が可逆不変になる。 Ω は、相空間において等エネルギー線が囲む面積であり、3次元の多粒子系にそのまま定義を拡張することができる: Ω𝐸⁢𝜆≡∫𝐻≤𝐸1(12) このように拡張された Ω は可逆不変性を持つだろうか。

この節では、単原子分子理想気体の場合に、状態数(12)を実際に計算して、確かに可逆不変性を持つことを示す。

1.2.1単原子理想気体の状態数:式(13)

単原子理想気体(=単原子分子からなる理想気体)のハミルトニアンは 𝐻𝒙⁢𝒑=𝑁∑𝑖=1[‖𝒑𝑖‖22⁢𝑚+𝑈⁡(𝒙𝑖)],𝑈⁡(𝒙)≡{0,容器内∞,容器外 である。 𝑁 は粒子数。この時の状態数(12)を計算したい。結果を先に示すと、状態数 Ω𝐸⁢𝑉 は、容器の体積を 𝑉 として Ω𝐸⁢𝑉=(2⁢𝜋⁢𝑚)3⁢𝑁/2(3⁢𝑁/2)!⁢𝐸3⁢𝑁/2⁢𝑉𝑁(13) となる。(導出は数学的技巧に過ぎないので後の段落にまわす。)

この Ω𝐸⁢𝑉 は、 𝐸,𝑉 に関して、異常な増加関数である。実際、 𝛿⁢𝑉∼10−23⁢𝑉 程度の非常に小さい変化で、桁が変わる(以下の【1.2-注1】の式(14))。 𝐸 についても同様であり、1つの粒子の運動エネルギー程度の変化によって、桁が変わる。従って、実際には、 Ω𝐸⁢𝑉 に寄与するのは、エネルギーがほぼ 𝐸 となる状態のみである( Ω𝐸⁢𝑉 に含まれる状態をランダムに取り出すと、エネルギーがほぼ 𝐸 の状態ばかりになる)。

【1.2-注1】べき関数の変化量

以下のべき関数 𝑓⁡(𝑉)=𝑉𝑁 において、 𝑉 を微小量 𝛿⁢𝑉 だけ変化させることを考える。 𝑓⁡(𝑉) を 𝛼 倍にするのに必要な 𝛿⁢𝑉 は 𝛿⁢𝑉≐log⁡𝛼𝑁⁢𝑉 である。ただし、 log⁡𝛼𝑁 は微小量であるとする。

例えば、典型的な熱力学系の粒子数 𝑁=1023 の場合、 𝛼=10 倍となる 𝛿⁢𝑉 は、 𝛿⁢𝑉≈2.3×10−23⁢𝑉(14) と非常に小さい値になる。

導出

実際に変化率を考えてみると 𝛼≡𝑓⁡(𝑉+𝛿⁢𝑉)𝑓⁡(𝑉)=(1+𝛿⁢𝑉𝑉)𝑁⁢⁢∣両辺log⁡を取った後、⁢𝑁で割るlog⁡𝛼𝑁=log⁡(1+𝛿⁢𝑉𝑉)⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣仮定により左辺は微小量なので、右辺は1次近似できる:log⁡(1+𝛿⁢𝑥)≐𝛿⁢𝑥≐𝛿⁢𝑉𝑉◼

1.2.2単原子理想気体の状態数 Ω𝐸⁢𝑉 は可逆不変である

一方、熱力学編で見たように、理想気体のエントロピー 𝑆𝐸⁢𝑉 は 𝑆𝐸⁢𝑉=𝐶⁢log⁡𝐸+𝑁⁢𝑘⁢log⁡𝑉⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣熱容量𝐶は、単原子分子の場合𝐶=32⁢𝑁⁢𝑘=𝑘⁢log⁡(𝐸3⁢𝑁/2⁢𝑉𝑁)+const.(15) である(粒子数 𝑁 に対する依存性は今は考えていない。)

可逆過程ではエントロピー 𝑆𝐸⁢𝑉 が変化しないので、 𝐸3⁢𝑁/2⁢𝑉𝑁 が定数となる。この項は、状態数(13)にも現れている。従って、 Ω𝐸⁢𝑉 も可逆仮定で変化しないことが分かる。以上により、単原子分子の理想気体の状態数 Ω𝐸⁢𝑉 は、可逆不変である。なお、 Ω𝐸⁢𝑉 か不可逆過程で増大することは、 𝑆𝐸⁢𝑉 と同様に 𝐸,𝑉 の増加関数となることから分かる。

この結果は理想気体の場合であったが、これ以外の一般の熱力学系でも、 Ω𝐸⁢𝑉 が可逆不変になると期待できる。その議論は次章で行う。

なお、式(13)と式(15)を見比べると 𝑆𝐸⁢𝑉?=𝑘⁢log⁡Ω𝐸⁢𝑉 とるのではないかという予測ができる。(第3章で議論するが、粒子数 𝑁 の関数とみなさない場合には正しい。)

1.2.3参考式(13)の導出

ここでは、単原子理想気体の状態数(13)の導出を行う。

Ω𝐸=∫𝐻≤𝐸1=∫𝑈⁡(𝒙𝑖)=0∫‖𝒑1‖2+⋯+‖𝒑𝑁‖2≤2⁢𝑚⁢𝐸1⁢⁢∣𝒙𝑖積分を実行すると𝑉𝑁が出る=𝑉𝑁⁢∫‖𝒑1‖2+⋯+‖𝒑𝑁‖2⋯≤2⁢𝑚⁢𝐸1⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣残った積分は、以下の【1.2-注2】において𝑛=3⁢𝑁,𝑅=√2⁢𝑚⁢𝐸としたものに一致する=(2⁢𝜋⁢𝑚)3⁢𝑁/2(3⁢𝑁/2)!⁢𝐸3⁢𝑁/2⁢𝑉𝑁 ただし、 𝑁 は偶数とした。(偶奇性によって場合分けしてもよいが、物理的な結果には影響を及ぼさないことが後で分かるので、式が簡単なほうを採用した。) ◼

【1.2-注2】高次元球の体積

半径 𝑅 の 𝑛 次元空間内の球 {𝒙∣√𝑥21+𝑥22+⋯+𝑥2𝑛≤𝑅} の体積 𝑉𝑛⁡(𝑅) は 𝑉𝑛⁡(𝑅)=⎧{ { {⎨{ { {⎩2(𝑛+1)/2⁢𝜋(𝑛−1)/2𝑛!!⁢𝑅𝑛,𝑛=1,3,5,…𝜋𝑛/2(𝑛/2)!⁢𝑅𝑛,𝑛=2,4,6,… である。二重階乗 𝑛!! は、 𝑛 以下の奇数の積: 𝑛!!=1⋅3⋅5⋯𝑛 である(今は関係ないが 𝑛 が偶数の場合は偶数のみの積を取る)。

導出

方針:漸化式 𝑉𝑛⁡(𝑅)=2⁢𝜋⁢𝑅2𝑛⁢𝑉𝑛−2⁡(𝑅)(16) を導出すればよい( 𝑛≥3 )。そうすれば後は、冒頭の公式がこの漸化式を満たし、かつ、 𝑛=1,2 の場合に 𝑉1⁡(𝑅)=2⁢𝑅 (線分 [−𝑅,𝑅] の長さ)および 𝑉2⁡(𝑅)=𝜋⁢𝑅2 (半径Rの円の面積)となることを言えばよいが、これは代入すればすぐ分かる。

体積の定義により 𝑉𝑛⁡(𝑅)=∫𝑥21+𝑥22+⋯+𝑥2𝑛≤𝑅21 ここで、 𝑛≥3 とし、極座標 (𝑥𝑛−1,𝑥𝑛)=(𝑟⁢cos⁡𝜃,𝑟⁢sin⁡𝜃) を導入すると、ヤコビ行列式が 𝑟 であることに注意して 𝑉𝑛⁡(𝑅)=∫2⁢𝜋𝜃=0⏟2⁢𝜋∫𝑅𝑟=0𝑟⁢∫𝑥21+𝑥22+⋯+𝑥2𝑛−2≤𝑅2−𝑟21⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣緑字部分は𝑥1,…,𝑥𝑛−2での積分である。この部分に、変数変換𝑦𝑖=𝑅√𝑅2−𝑟2⁢𝑥𝑖を行うと𝑉𝑛−2⁡(𝑅)を括り出せる。実際、ヤコビ行列式が(1−𝑟2𝑅2)𝑛/2−1であることに注意して∫𝑥21+𝑥22+⋯+𝑥2𝑛−2≤𝑅2−𝑟21=(1−𝑟2𝑅2)𝑛/2−1⁢∫𝑦21+𝑦22+⋯+𝑦2𝑛−2≤𝑅1=(1−𝑟2𝑅2)𝑛/2−1⁢𝑉𝑛−2⁡(𝑅)=2⁢𝜋⁢[∫𝑅𝑟=0𝑟⁢(1−𝑟2𝑅2)𝑛/2−1]⁢𝑉𝑛−2⁡(𝑅)⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣[括弧部分]=∫𝑅𝑟=0𝑑𝑑⁢𝑟⁢[−𝑅2𝑛⁢(1−𝑟2𝑅2)𝑛/2]=0+𝑅2𝑛=2⁢𝜋⁢𝑅2𝑛⁢𝑉𝑛−2⁡(𝑅) よって、漸化式(16)が得られた。 ◼