統計力学編 第4章

カノニカル表示

状態数の代わりに、分配関数(11)から得られるマシュー関数(16)を用いて熱力学量を計算すると、簡単になることが多い。統計平均についても、カノニカル表示(22)を使うと計算が簡単になることが多い。

エントロピーの相加性が露わになるように、状態数を書き換えたい。

式(1)が成り立つことを露わに示すように、状態数 Ω を書き換えたい

前章で見たように、2つの容器を熱接触させている系では、全体の状態数は Ω(12) 、各容器の状態数 Ω(1),Ω(2) の積になる: Ω(12)𝐸≈Ω(1)𝐸∗1⁢Ω(2)𝐸∗2(1) 前章ではこれを素直に認めてエントロピーの議論につなげたが、この式はかなり非自明な式である。実際、これを Ω(1) について解くと Ω(1)𝐸∗1≈Ω(12)𝐸Ω(2)𝐸∗2(2) となり、左辺は容器1だけの量なので、右辺は分数は容器2の性質によらないことになる。これは面白い性質である。これが成り立つことが明らかなように状態数を書き換えたい。これを、状態数のカノニカル表示と呼ぶことにする(結論から言うと式(10))。

この章では、式(1)が成り立つようにカノニカル表示を予想し、その後それを正当化する。 4.1:状態数のカノニカル表示(予想)4.2:状態数のカノニカル表示4.3:マシュー関数から熱力学量が計算できる4.4:統計平均のカノニカル表示

4.1状態数のカノニカル表示(予想)

この節では、(エントロピー総加性を露わにする表示である)状態数のカノニカル表示が、式(5)で表されるのではないかという予想を立てる。これが正しいことは次節で示す。

4.1.1状態数 Ω のカノニカル表示の予想:式(5)

式(2)において、右辺から容器2に関する量を消去したい。まず、右辺分母の Ω(2)𝐸∗2 を消去するために、分子の Ω(12)𝐸 から Ω(2)𝐸∗2 を括り出す:( ∫(1) は容器1の相空間上での積分を表す) Ω(12)𝐸=∫𝐻<𝐸1=∫(1)𝐻1<𝐸Ω(2)𝐸−𝐻1⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣以下の【4.1-注1】よりΩ(2)𝐸−𝐻1=exp⁡[∫𝐸−𝐻1𝜖=𝐸∗2𝛽(2)𝜖]⁢Ω(2)𝐸∗2=∫(1)𝐻1<𝐸exp⁡[∫𝐸−𝐻1𝜖=𝐸∗2𝛽(2)𝜖]⁢Ω(2)𝐸∗2 これを式(2)の右辺の分子に代入すると Ω(1)𝐸∗1≈∫(1)𝐻1<𝐸∗1+𝐸∗2exp⁡[∫𝐸∗2+𝐸∗1−𝐻1𝜖=𝐸∗2𝛽(2)𝜖](3) となる( 𝐸=𝐸∗1+𝐸∗2 を代入して 𝐸 を消した)。

この式(3)が容器2の性質によらずに成り立つわけである。この式の右辺にはまだ容器2の量 𝐸∗2,𝛽(2)𝜖 が残っている。これらが消えるとしたらどうなるだろうか。もっとも単純なのは 𝐸∗2→∞かつ𝛽(2)𝜖=𝛽∗(4) ( 𝛽∗ は平衡状態での逆温度)である: Ω(1)𝐸∗1?≈∫(1)𝐻1exp⁡[𝛽∗⁢(𝐸∗1−𝐻1)] 条件(4)は、少なくとも容器2を非常に大きくすれば成立しそうである。容器1の量しか登場しなくなったので、添え字を落とすと Ω𝐸?≈∫𝐻𝑒𝛽𝐸⁢(𝐸−𝐻)≡Ω?𝐸(5) となる。 ∫𝐻 という記号は以下の略記である: ∫𝐻𝑓⁡(𝐻)=∫𝒙⁢𝒑𝑓⁡(𝐻𝒙⁢𝒑)

【4.1-注1】状態数 Ω の公式

エネルギー 𝐸 における状態数 Ω𝐸 と逆温度 𝛽𝐸 は、微分方程式 ˙Ω𝐸=𝛽𝐸⁢Ω𝐸(6) を満たす。この解は、任意のエネルギー 𝐸0 での状態数 Ω𝐸0 を用いて、以下のように書ける: Ω𝐸=exp⁡[∫𝐸𝜖=𝐸0𝛽𝜖]⁢Ω𝐸0(7)

導出

まず逆温度 𝛽 と状態数 Ω の関係式は、前章で見たように 𝛽𝐸=˙Ω𝐸Ω𝐸 であり、これは式(6)そのものである。

式(6)は、もし 𝛽𝐸 が定数であれば、見慣れた指数関数の微分方程式である。定数でない場合でも解くことができて、与式(7)になる。実際、与式(7)は初期値 𝐸=𝐸0 で成り立つので、後は式(6)を満たすことを言えばよいが、実際に代入してみればすぐ分かる。 ◼

4.1.2式(5)が成り立てば、式(2)も成り立つ

この式(5) Ω𝐸≈Ω?𝐸 が成り立てば、式(2)も成り立つことが言える: Ω(12)𝐸≈∫𝐻𝑒𝛽𝐸⁢(𝐸−𝐻)=∫𝐻1+𝐻2𝑒𝛽𝐸⁢(𝐸∗1+𝐸∗2−𝐻1+𝐻2)=∫𝐻1∫𝐻2𝑒𝛽(1)𝐸∗1⁢(𝐸∗1−𝐻1)⁢𝑒𝛽(2)𝐸∗2⁢(𝐸∗2−𝐻2)≈Ω(1)𝐸∗1⁢Ω(2)𝐸∗2 ( 𝐸∗1,𝐸∗2 は、 𝐸∗1+𝐸∗2=𝐸 かつ 𝛽(1)𝐸∗1=𝛽(2)𝐸∗2 で定義され、必ず存在する。)よって、確かにもっともらしい。そこで、次節で式(5)が成り立つことを示す。

4.2状態数のカノニカル表示

この節では、式(5)が実際に成り立つことを示す。

4.2.1状態数 Ω の公式:式(9)

示したいのは、式(5) Ω𝐸≈Ω?𝐸 である。式(3)の導出時と同様に、 Ω?𝐸 から Ω𝐸 を括り出すことを考える: Ω?𝐸≡∫𝐻𝑒𝛽𝐸⁢(𝐸−𝐻)=∫∞𝜖=0˙Ω𝜖⁢𝑒𝛽𝐸⁢(𝐸−𝜖)⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣˙Ω𝜖=𝛽𝜖⁢Ω𝜖=𝛽𝜖⁢exp⁡[∫𝜖𝜎=𝐸𝛽𝜎]⁢Ω𝐸=∫∞𝜖=0𝛽𝜖⁢exp⁡[∫𝜖𝜎=𝐸𝛽𝜎+𝛽𝐸⁢(𝐸−𝜖)]⁢Ω𝐸=∫∞𝜖=0𝛽𝜖⁢exp⁡[∫𝜖𝜎=𝐸(𝛽𝜎−𝛽𝐸)]⏟______⏟______⏟≡𝐼𝐸Ω𝐸=𝐼𝐸⁢Ω𝐸∴Ω𝐸=1𝐼𝐸⁢∫𝐻𝑒𝛽𝐸⁢(𝐸−𝐻)(8) 式(5)に近い式が出てきた。後は、係数の 𝐼𝐸 を計算すればよい: 𝐼𝐸≡∫∞𝜖=0𝛽𝜖⁢exp⁡[∫𝜖𝜎=𝐸(𝛽𝜎−𝛽𝐸)]⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣𝛽は単調減少関数なので指数部分[⋯]はマイナスである(𝜎=𝐸の場合のみ0)。𝛽∼1020程度なのでexp⁡[⋯]は𝜎=𝐸に非常に鋭いピークを持つ。よって、以下の置き換えを行ってよい:・𝛽𝜖→𝛽𝐸・𝛽𝜎≐𝛽𝐸+˙𝛽𝐸⁢(𝜎−𝐸)≅𝛽𝐸⁢∫∞𝜖=0exp⁡[˙𝛽𝐸⁢∫𝜖𝜎=𝐸(𝜎−𝐸)]⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣∫𝜖𝜎=𝐸(𝜎−𝐸)=12⁢(𝜖−𝐸)2=𝛽𝐸⁢∫∞𝜖=0exp⁡[˙𝛽𝐸2⁢(𝜖−𝐸)2]⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣ガウス積分公式∫∞𝜖=−∞exp⁡[−|𝛼|2⁢𝜖2]=√2⁢𝜋|𝛼|を使う。˙𝛽𝐸<0に注意。≅𝛽𝐸⁢√√ √ √⎷2⁢𝜋∣˙𝛽𝐸∣⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣˙𝛽𝐸=𝜕𝜕𝐸⁢1𝑘⁢𝑇𝐸=−˙𝑇𝑘⁢𝑇2𝐸=√2⁢𝜋𝑘⁢˙𝑇𝐸 (途中でデルタ関数で近似できることを用いた。この考え方は後の【4.4-注1】の導出でも使う。)これを式(8)に代入すると、最終的に Ω𝐸≅√𝑘⁢˙𝑇𝐸2⁢𝜋⁢∫𝐻𝑒𝛽𝐸⁢(𝐸−𝐻)(9) が得られる。式(5)とは、 √⋯ の部分だけ異なるが、この値は 𝑘⁢log を作用させると無視できる大きさなので、式(5):(再掲) Ω𝐸≈𝑒𝛽𝐸⁢𝐸⁢𝑍𝛽𝐸𝑍𝛽≡∫𝐻𝑒−𝛽⁢𝐻(分配関数)(10)(11) も成り立つ。式(10)を、状態数のカノニカル表示と呼ぶことにする(一般的ではない)。 Ω𝐸 において、肝となる積分部分 𝑍𝛽 を分配関数という。

カノニカル表示(10)は、式(2)とは無関係に導いたものなので、複数の容器が熱的に接触している系でなくても、容器が1つだけの系でも成り立つ(式(2)は式(5)を予想する際に使用しただけ)。

4.2.2温度関数 𝑇𝐸 を求めるには分配関数 𝑍𝛽 を使う:式(14)

カノニカル表示の状態数(10)を求めるには、分配関数 𝑍𝛽 を求めればよいわけだが、これは相空間全体の積分になっており、計算が容易である(状態数を使った元の定義ではエネルギー 𝐸 以下の領域に限定していた)。特に理想気体のように、分子間の相互作用が無視できる場合には、1分子の積分の積になる。

とはいえ、式(10)には、 𝛽𝐸 が登場するので、エネルギー 𝐸 と温度 𝑇 の関係式が分かっている必要がある。分配関数 𝑍𝛽 からこれを求めることができる。エントロピー 𝑆𝐸 の微分 ˙𝑆𝐸=1𝑇(12) を使えばよい。まず、状態数(10)からエントロピー 𝑆𝐸 を求めると(ギブスの修正因子 𝑁! を含めて) 𝑆𝐸=𝑘⁢log⁡Ω𝐸𝑁!=𝑘⁢log⁡𝑒𝛽𝐸⁢𝐸⁢𝑍𝛽𝐸𝑁!=𝐸𝑇𝐸+𝑘⁢log⁡𝑍𝛽𝐸𝑁!(13) 後は、式(12)の左辺に式(13)を代入すると(見やすさのため引数添え字 𝐸 は省略して) (左辺)=˙𝑆=1𝑇+𝑘⁢˙𝛽⁢𝐸+𝑘⁢𝜕𝜕𝐸⁢log⁡𝑍⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣𝜕𝜕𝐸⁢log⁡𝑍=𝜕𝛽𝜕𝐸⁢𝜕𝜕𝛽⁢log⁡𝑍=1𝑇+𝑘⁢˙𝛽⁢(𝐸+𝜕𝜕𝛽⁢log⁡𝑍)=(右辺)=1𝑇 よって、 (⋯) 部分がゼロとなる: 𝐸=−𝜕𝜕𝛽⁢log⁡𝑍𝛽=∫𝐻𝐻⁡𝑒−𝛽⁢𝐻∫𝐻𝑒−𝛽⁢𝐻(14)(15)

よって、分配関数 𝑍𝛽 さえ求めれば、 𝐸𝛽 が求まるので、その逆関数 𝛽𝐸 が求まり、式(13)からエントロピー 𝑆𝐸 も求まる。即ち、分配関数(11)は、エントロピーと同じ情報を持っていることになる。

4.3マシュー関数から熱力学量が計算できる

分配関数がエントロピーと同じ情報を持っていることが分かった。それならばエントロピーを経由せずとも、分配関数から直接、圧力などの熱力学量を直接導けるはずである。

そのためにまず、状態数 Ω からエントロピー 𝑆 を 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁=𝑘⁢log⁡Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁𝑁! で定義したように、分配関数 𝑍 からマシュー関数と呼ばれる量 Ψ を Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁≡log⁡𝑍𝛽⁢𝑉⁢𝑁𝑁!(マシュー関数)(16) によって定義する。(ギブスの修正因子 𝑁! を含めて書いた。エントロピーと同様に、ハミルトニアンに粒子交換対称性がある場合に必要。)

この節では、このマシュー関数 Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁 から直接、熱力学量を導く。

4.3.1マシュー関数から熱力学量を求める:式(19)

エントロピー 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁 の場合、熱力学量 𝑇,𝑃,𝜇 (それぞれ温度、圧力、化学ポテンシャル)は、 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁 の全微分から得られた: 𝛿⁢𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁≐1𝑇⁢𝛿⁢𝐸+𝑃𝑇⁢𝛿⁢𝑉−𝜇𝑇⁢𝛿⁢𝑁(17) 同様に、マシュー関数 Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁 の微分を考えても熱力学量が得られるはずである。

そのためにまず、エントロピー 𝑆𝐸⁢𝐸⁢𝑉 とマシュー関数 Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁 の関係式を求めると(ギブスの修正因子 𝑁! を含めて) 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁=𝑘⁢log⁡Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁𝑁!=𝑘⁢log⁡𝑒𝛽⁢𝐸⁢𝑍𝛽⁢𝑉⁢𝑁𝑁!=𝑘⁢𝛽⁢𝐸+𝑘⁢log⁡𝑍𝛽⁢𝑉⁢𝑁𝑁!⏟Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁=𝑘⁢𝛽⁢𝐸+𝑘⁢Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁(18) となる。あとは、両辺の全微分を取ればよい: 𝛿⁢𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁=𝛿⁢(𝑘⁢𝛽⁢𝐸+𝑘⁢Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁)=1𝑇⁢𝛿⁢𝐸+𝑘⁢𝐸⁢𝛿⁢𝛽+𝑘⁢𝛿⁢Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁 左辺に式(17)を代入して、 𝛿⁢Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁 を左辺に移せば、最終的に以下を得る: 𝛿⁢Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁≐−𝐸⁢𝛿⁢𝛽+𝛽⁢𝑃⁢𝛿⁢𝑉−𝛽⁢𝜇⁢𝛿⁢𝑁(19) よって、分配関数からマシュー関数(16) Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁 を計算すれば、この式によって熱力学量 𝑇,𝑃,𝜇 の関数形が求まる。

例えば、単原子理想気体の場合、以下の【4.3-注1】のようになる。

【4.3-注1】単原子理想気体のマシュー関数

単原子理想気体のマシュー関数は Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁=𝑁⁢log⁡[𝑉𝑁⁢(2⁢𝜋⁢𝑚𝛽)3/2]+𝑁 である。

エネルギー 𝐸𝑇⁢𝑉⁢𝑁 と状態方程式 𝑃𝑇⁢𝑉⁢𝑁 を求めてみると 𝐸𝑇⁢𝑉⁢𝑁=−Ψ˙𝛽⁢𝑉⁢𝑁=32⁢𝑁⁢𝑘⁢𝑇𝑃𝑇⁢𝑉⁢𝑁=1𝛽⁢Ψ𝛽⁢˙𝑉⁢𝑁=𝑁⁢𝑘⁢𝑇𝑉 となり正しい値になる。またエントロピー(18)は 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁=𝐸𝑇+𝑘⁢Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁=𝑁⁢𝑘⁢log⁡[𝑉𝑁⁢(4⁢𝜋⁢𝑚⁢𝐸3⁢𝑁)3/2]+52⁢𝑁⁢𝑘 となり、第3章の【3.2-注1】の結果に一致する。

導出

分配関数は 𝑍𝛽⁢𝑉⁢𝑁=∫𝑒−𝛽⁢𝐻=𝑉𝑁⁢∫𝑒−𝛽⁢(‖𝒑1‖2+⋯+‖𝒑𝑁‖2)/2⁢𝑚=𝑉𝑁⁢[∫∞𝑝=−∞𝑒−(𝛽/2⁢𝑚)⁢𝑝2]3⁢𝑁⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣ガウス積分の公式:∫∞𝑝=−∞𝑒−𝑎⁢𝑝2=√𝜋𝑎において𝑎=𝛽2⁢𝑚とする=𝑉𝑁⁢(2⁢𝜋⁢𝑚𝛽)3⁢𝑁/2 よって、マシュー関数(16)は Ψ𝛽⁢𝑉⁢𝑁=log⁡𝑍𝛽⁢𝑉⁢𝑁𝑁!≅𝑁⁢log⁡[𝑉𝑁⁢(2⁢𝜋⁢𝑚𝛽)3/2]+𝑁◼

このように、状態数の積分よりも、分配関数の積分のほうが容易に計算できることが分かる。特に、この場合のように、粒子間の相互作用がない場合、分配関数はべき乗の形になる。

4.4統計平均のカノニカル表示

統計平均もカノニカル表示できないだろうか。第2章で述べた様に、エネルギー 𝐸 における物理量 𝑄 の統計平均 ⟨𝑄⟩𝐸 は、相空間におけるエネルギー 𝐸 を持つ状態の平均値である: ⟨𝑄⟩𝐸=∫𝒙⁢𝒑𝛿𝐻𝒙⁢𝒑−𝐸⁢𝑄𝒙⁢𝒑∫𝐻𝛿𝐻−𝐸(20) 一方、式(15)を見ると、 ⟨𝑄⟩𝐸?=∫𝒙⁢𝒑𝑄𝒙⁢𝒑⁢𝑒−𝛽𝐸⁢𝐻𝒙⁢𝒑∫𝐻𝑒−𝛽𝐸⁢𝐻(21) と書けることが予想される。確かに、分子の積分に寄与するのは、 𝐻=𝐸 付近の被積分関数だけなので、もっともらしい。

この節では、式(21)が正しことを示す。

4.4.1統計平均のカノニカル表示:式(22)

そのために、式(8)の場合と同様に、分子 ∫𝒙⁢𝒑𝑄𝒙⁢𝒑⁢𝑒−𝛽𝐸⁢𝐻𝒙⁢𝒑 から式(20)の ⟨𝑄⟩𝐸 を括り出すことを考える: ∫𝒙⁢𝒑𝑄𝒙⁢𝒑⁢𝑒−𝛽𝐸⁢𝐻𝒙⁢𝒑=∫∞𝜖=0∫𝒙,𝒑𝛿𝐻𝒙⁢𝒑−𝜖⁢𝑄𝒙⁢𝒑⁢𝑒−𝛽𝐸⁢𝜖=∫∞𝜖=0⟨𝑄⟩𝜖⁢∫𝐻𝛿𝐻−𝜖⁢𝑒−𝛽𝐸⁢𝜖=∫𝐻⟨𝑄⟩𝐻⁢𝑒−𝛽𝐸⁢𝐻=∫∞𝜖=0⟨𝑄⟩𝜖⁢𝛽𝜖⁢Ω𝜖⁢𝑒−𝛽𝐸⁢𝜖⁢⁢∣以下の【4.4-注1】より=1𝛼𝐸⁢∫∞𝜖=0⟨𝑄⟩𝜖⁢𝛽𝜖⁢𝛿𝐸−𝜖≅𝛽𝐸𝛼𝐸⁢⟨𝑄⟩𝐸 一方、式(21)の分母はこの式で 𝑄=1 としたものである: ∫𝐻𝑒−𝛽𝐸⁢𝐻≅𝛽𝐸𝛼𝐸 よって、式(21)の統計平均のカノニカル表現は正しい: ⟨𝑄⟩𝐸≅∫𝒙⁢𝒑𝑄𝒙⁢𝒑⁢𝑒−𝛽𝐸⁢𝐻𝒙⁢𝒑∫𝐻𝑒−𝛽𝐸⁢𝐻(22) 式(20)に比べると、全体積分になっているので、計算しやすそうである。分母は分配関数(11)になっている。

【4.4-注1】デルタ関数の近似公式

適当な関数 Ω𝐸 に対し、 𝛽𝐸,Δ⁢𝐸 を 𝛽𝐸=˙Ω𝐸Ω𝐸Δ⁢𝐸\apprge6√∣˙𝛽𝐸∣ となるように定義する。 𝛽𝐸 は、「単調減少」かつ「 𝐸±Δ⁢𝐸 の範囲で1次近似がよく成り立つ」とする。

この時、以下で定義される関数 𝛿𝐸−𝜖 : 𝛿𝐸−𝜖≡𝛼𝐸⁢Ω𝜖⁢𝑒−𝛽𝐸⁢𝜖,𝛼𝐸≡√∣˙𝛽𝐸∣2⁢𝜋⁢𝑒𝛽𝐸⁢𝐸Ω𝐸 はデルタ関数とみなせる。即ち、変化が緩やかな(= 𝐸±Δ⁢𝐸 の範囲での変化が測定誤差の範囲で無視できる)任意の量 𝑄𝐸 に対し ∫∞𝜖=0𝛿𝐸−𝜖⁢𝑄𝜖≅𝑄𝐸(23) が成り立つ。

導出

関数 𝛿𝐸−𝜖 を変形していく: 𝛿𝐸−𝜖=√∣˙𝛽𝐸∣2⁢𝜋⁢exp⁡[𝛽𝐸⁢(𝐸−𝜖)]Ω𝐸⁢Ω𝜖⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣Ω𝜖=exp⁡[∫𝐸𝜎=𝐸𝛽𝜎]⁢Ω𝐸𝛽𝐸⁢(𝐸−𝜖)=∫𝐸𝜎=𝜖𝛽𝐸=√∣˙𝛽𝐸∣2⁢𝜋⁢exp⁡[∫𝜖𝜎=𝐸(𝛽𝜎−𝛽𝐸)]⁢⁢∣𝛽𝜎≐𝛽𝐸+˙𝛽𝐸⁢(𝜎−𝐸)+𝑜⁢(𝜎−𝐸)=√∣˙𝛽𝐸∣2⁢𝜋⁢exp⁡[˙𝛽𝐸2⁢(𝜖−𝐸)2+∫𝜖𝜎=𝐸𝑜⁢(𝜎−𝐸)] ここで、 𝛽𝐸 は、単調減少かつ 𝐸±Δ⁢𝐸 の範囲で1次近似でできるので、 𝑜⁢(𝜎−𝐸) 部分は無視できて、ガウス関数とみなせる。( 𝐸±Δ⁢𝐸 の範囲ではこの部分は効いてこないし、その外ではガウス関数の性質により 𝛿𝐸−𝜖≅0 となる。)よって、 ˙𝛽𝐸→∞ の極限で、 𝛿𝐸−𝜖 はデルタ関数として振る舞う。ただし、式(23)を考える上では、そのような極限を取らずとも、 𝑄𝐸 の変化が緩やかなので、 𝛿𝐸−𝜖 をデルタ関数のように扱ってよい。 ◼