統計力学編 第3章

エントロピーの決定

エントロピー 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁 は、状態数 Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁 を用いて書くことができる:式(12)。これにより、熱力学では測定から決めなければならなかったエントロピーが、ハミルトニアンから直接定義できる。よって、状態方程式や熱容量もハミルトニアンから得られる(原理的には)。

状態数 Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁 からエントロピー 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁 を求めるたい。状態数 Ω𝐸⁢𝑉 は、相空間上において、エネルギー 𝐸 を持つ等エネルギー面で囲まれた領域の体積である: Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁=∫𝐻≤𝐸1 𝑉 は体積を表し、ハミルトニアンのパラメータである。 𝑁 は粒子数である。前章で述べた様に、この Ω𝐸⁢𝑉 は、可逆過程で値を変えないというエントロピーと似た性質を持つ。

相加性と示量性を持たせれば、関係式(1)が得られるはず

前章では、状態数 Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁 が、可逆過程で値を変えず、不可逆過程で値が増加するという、エントロピー 𝑆 と同じ可逆不変性を持つと述べた。もともとの目的は、 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁 をハミルトニアン 𝐻 から直接決めることであった。 Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁 は 𝐻 から決まるので、後は 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁=𝑓⁡(Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁)(1) となるような関数 𝑓 を決めればよい。(粒子数 𝑁 も含めている。)

式(1)の関係式を求めるために、まずエントロピー 𝑆 の性質を思い出そう。熱力学編で見たように、 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁 に可逆不変性を課すだけでは、 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁 の関数形は一意には決まらなかった。これは、等エントロピー面にどのように値を割り振るかに任意性があるためである。しかし、(マクロな距離の相互相がない場合)相加性と示量性をもつような 𝑆 が存在し、その関数形が一意的に決まるのであった(もちろん定数を掛けたり足したりする自明な自由度を除く)。

従って、総加性と示量性を課すことによって、式(1)の未知関数 𝑓 が決まるはずである。この章では、この方針に沿って 𝑓 を決定する。 3.1:相加性を持つ量を作る3.2:示量性を持つ量を作る なお、この章では、「熱的に接触した2つの容器を分離する操作」と「1つの容器に仕切りを入れて分離する操作」が状態数を変化させないと仮定する。次章で、実際にこれが正しいことを示す。

3.1相加性を持つ量を作る

状態数 Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁 から、熱力学におけるエントロピー 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁 を導きたいわけだが、熱力学編での議論に合わせて、まずは粒子数 𝑁 の依存性は考えないことにする。即ち、 Ω𝐸⁢𝑉 から 𝑆𝐸⁢𝑉 を導きたい。

熱力学編で見たように、エントロピー 𝑆𝐸⁢𝑉 は、以下の3つの性質により(原点位置や定数倍を除いて)一意的に決まる: (i)𝑆𝐸⁢𝑉は可逆不変である(ii)𝑆𝐸⁢𝑉は相加性を持つ(iii)𝑆𝐸⁢𝑉は平衡状態で極大になる⎫{ {⎬{ {⎭(2) (次節で扱うが、粒子数 𝑁 も含める場合には示量性を要求すればよい。)よって、状態数 Ω𝐸⁢𝑉 からこれらの条件を満たす 𝑆𝐸⁢𝑉 を作ればよい。 (ii) は、エントロピー 𝑆𝐸⁢𝑉 が状態数 Ω𝐸⁢𝑉 の関数であれば自動的に成り立つので、考えるべきは (ii),(iii) である。

この節では、 Ω𝐸⁢𝑉 から相加性を持つ量(7)を作ることができることを示す。また、統計力学でのエネルギー 𝐸 を、熱力学のものと一致させる方法についても述べる。

3.1.12容器系の状態数 Ω𝐸 :式(5)

まず、性質(2)の (ii) 、相加性についてである。相加性を考えているので、2つの容器 1,2 を考える。この系での可逆操作は、熱的に接触して平衡状態にある容器 1,2 を分離する操作である。 Ω𝐸⁢𝑉 は可逆不変性を持つので、容器 1,2 を合わせた全体の Ω𝐸⁢𝑉 は、この操作で変化しない。これを式で表す。

2つの容器のハミルトニアンをそれぞれ 𝐻1,𝐻2 とおく。全体のハミルトニアン 𝐻 は 𝐻=𝐻1+𝐻2+𝐻12 となる。 𝐻12 は容器間の相互作用である。接触面のごく近傍の少数の粒子にのみ影響を与えるとする。従って、 𝐻12≪𝐻1,𝐻2 であり、特に、容器を分離すると 𝐻12=0 とみなせる。

2つの系を接触させた時の状態数 Ω𝐸 は Ω𝐸=∫𝐻≤𝐸1(3) である。一方、容器を分離した時の状態数 Ω𝐸1⁢𝐸2 は、分離時の各容器のエネルギーを 𝐸∗1,𝐸∗2 として( 𝐸∗1+𝐸∗2≅𝐸 ) Ω𝐸∗1⁢𝐸∗2=∫(1,2)⎧{ {⎨{ {⎩𝐻1≤𝐸∗1𝐻2≤𝐸∗21=(∫(1)𝐻1≤𝐸∗11)⏟__⏟__⏟Ω(1)𝐸∗1⁢(∫(2)𝐻2≤𝐸∗21)⏟__⏟__⏟Ω(2)𝐸∗2≡Ω(1)𝐸∗1⁢Ω(2)𝐸∗2(4) となる。 Ω(1)𝐸∗1,Ω(2)𝐸∗2 はそれぞれ、容器 1,2 の状態数である。なお、 𝐸∗1,𝐸∗2 が決まった値を取ることは、エネルギー 𝐸 を持つほぼすべてのミクロ状態はマクロに区別できないというマクロ同値性による( 𝐸∗1,𝐸∗2 の値が分離するたびにマクロに異なるとその値によって区別できてしまう)。ただし、接触させている時には非常にわずかながらエネルギーの揺らぎがあるので、完全に確定した量ではない。

2つの状態数 Ω𝐸 と Ω𝐸∗1⁢𝐸∗2 は可逆過程で結ばれているので、同じ値とみなせる。よって Ω𝐸≈Ω(1)𝐸∗1⁢Ω(2)𝐸∗2(5) が成り立つ。等号にしていないのは、 𝐸∗1,𝐸∗2 の揺らぎのための揺らぎのために右辺は確定した値を取らないからである。それに加えて、左辺の積分範囲(3)よりも、右辺の積分範囲(4)のほうが狭いので、右辺のほうが値が小さく、等号になることはあり得ない。またこのことから、 𝐸∗1,𝐸∗2 の値は、同式右辺が最大になるように決まることが分かる。よって、性質(2)の (iii) が成り立つ。具体的に 𝐸∗1,𝐸∗2 を決める条件式を書下すと(上付き添え字は省略して) 𝛿⁡(Ω𝐸1⁢Ω𝐸2)≐˙Ω𝐸1⁢Ω𝐸2⁢𝛿⁡𝐸1+Ω𝐸1⁢˙Ω𝐸2⁢𝛿⁡𝐸2=Ω𝐸1⁢Ω𝐸2⁢(˙Ω𝐸1Ω𝐸1−˙Ω𝐸2Ω𝐸2)⁢𝛿⁡𝐸1≐0∴𝛽≡˙Ω𝐸1Ω𝐸1=˙Ω𝐸2Ω𝐸2(6) となる( Ω のエネルギー微分を ˙Ω と書いている)。熱接触時に 𝛽 が等しくなるわけなので、温度に対応する量であると推測できる。 𝛽 を逆温度という(後の式(11)で示すように、温度 𝑇 とは 𝛽=1𝑘⁢𝑇 の関係がある)。

第1章で理想気体の場合に示したように、状態数は、1粒子の運動エネルギー程度の違いで桁が変わる。そのため、式(5)の右辺は相当の不定性がある。従って、式(5)の ≈ という記号は、本当に近い値なのではなく、後述の式(7)のように両辺に 𝑘⁢log を作用させてエントロピーにしたときに等号とみなせるような関係とみるべきである(式(5)の両辺が1億桁くらい違っていても余裕で無視できる)。

3.1.2 Ω𝐸⁢𝑉 から相加性を持つ量を作る:式(7)

式(5)の右辺は各容器の状態数の積になっている。これを和の形にしたいのだから log を取ればよい: log⁡Ω𝐸⁢𝑉=log⁡Ω(1)𝐸1⁢𝑉1+log⁡Ω(2)𝐸2⁢𝑉2 (この式も数学的に厳密には成り立たないが、通常の実験の範囲では等号とみなしてよい。)従って、エントロピー 𝑆𝐸⁢𝑉 と Ω𝐸⁢𝑉 の関係式は、比例係数を 𝑘 と置いて 𝑆𝐸⁢𝑉=𝑘⁢log⁡Ω𝐸⁢𝑉(7) と書けるはずである(原点の取り方にも自由度があるが何でもよいので無視した)。 𝑘 は定数なので、理想気体の場合に熱力学のエントロピーと一致するように決めればよい。その計算については第1章ですでに行っており、 𝑘 はボルツマン定数になる: 𝑘=1.380⋯×10−23JK−1

なお、 𝑘 はもともと、水の三重点の温度が 278.16K となるように熱力学温度の目盛りを定義することで決まった。この定義だと水という特定の物質の性質を使っているのであまり好ましくない。これを逆にして、 𝑘 を定義することで熱力学温度の目盛りを定義すればそのような問題は生じない。実際、現在のケルビン K の定義は、 𝑘=1.380649×10−23JK−1 により定義されている。従って、ボルツマン定数は定義値である。

3.1.3エネルギー 𝐸 を熱力学と整合させる

エントロピーを与える式(7)が得られた。しかしまだ不十分である。というのも、エネルギー 𝐸 が熱力学的に定義されたものと一致することを言う必要があるからである。統計力学的には、 𝐸 はハミルトニアンの値によって定義されている。一方、熱力学では、適当な基準点でのエネルギーを定義し、直接的な測定によって、基準点からの差を定義した。例えば、体積 𝑉 を準静的に変化させたときのエネルギーの変化は 𝛿⁢𝐸≐−𝑃⁢𝛿⁢𝑉(8) である。

もともとエネルギーの取り方には原点の取り方がある。これだけであれば単に定数を足すだけの自由度なので、適当な状態を1つ選んで、そこでのエネルギーを決めればよい。

問題なのは、体積 𝑉 を変えた時に、エネルギー原点も 𝑉 と共に変化する点である。実際、ハミルトニアン 𝐻𝒙⁢𝒑⁢𝑉 には 𝑉 の任意の関数を足してもよい。従って、勝手な 𝐻𝑥⁢𝑝⁢𝑉 を取ると式(8)が成り立たなくなる。理想気体の場合は、熱力学での原点の取り方(絶対零度で 𝐸=0 )と、統計力学での原点の取り方(運動エネルギーが 0 の状態が 𝐸=0 )が自然に一致していた。ハミルトニアン 𝐻𝒙⁢𝒑⁢𝑉 の 𝑉 依存性を固定するには、単純には 粒子が壁に接触していない状態で𝑉を変化させても𝐻𝒙⁢𝒑⁢𝑉が変化しない(9) という条件を満たすようにとればよい。

もう少し詳しく見ておこう。式(8)に対応する統計力学的な式は、状態数 Ω𝐸⁢𝑉 が 𝑉 の準静変形で変化しないこと: 𝛿⁢Ω𝐸⁢𝑉≐Ω˙𝐸⁢𝑉⁢𝛿⁢𝐸+Ω𝐸⁢˙𝑉⁢𝛿⁢𝑉≐0∴𝛿⁢𝐸≐−Ω𝐸⁢˙𝑉Ω˙𝐸⁢𝑉⁢𝛿⁢𝑉(10) である。式(8)と式(10)が一致すればよいので、以下が成り立てばよい: 𝑃=Ω𝐸⁢˙𝑉Ω˙𝐸⁢𝑉=∫𝒙,𝒑𝛿𝐻−𝐸⁢𝐻𝒙⁢𝒑⁢˙𝑉∫𝒙,𝒑𝛿𝐻−𝐸=⟨𝐻𝒙⁢𝒑⁢˙𝑉⟩=――――𝐻𝒙⁢𝒑⁢˙𝑉 (最後の式ではエルゴード性を用いて統計平均を時間平均に置き換えた。)即ち、 𝐻𝒙⁢𝒑⁢˙𝑉 の時間平均 ――――𝐻𝒙⁢𝒑⁢˙𝑉 が圧力 𝑃 に一致すればよい。どうすればよいのか自明ではないが、 𝑉 の代わりに例えばピストンの位置 𝑙 を取り、 𝑙 を 𝑥 と同様に力学変数とすれば、ハミルトン方程式により 𝐻𝒙⁢𝒑⁢˙𝑙 はピストンが受ける力になるので、そこから得られる ――――𝐻𝒙⁢𝒑⁢˙𝑉 は圧力になる。この時のハミルトニアンは条件(9)のものに一致する

とにかく、条件(9)を満たすようにハミルトニアンをとれば、 𝑆𝐸⁢𝑉 が満たす微分方程式は、熱力学と統計力学で一致する。 𝑆𝐸⁢𝑉 が決まれば、熱力学温度 𝑇 も求めることができる。即ち、 𝑆𝐸⁢𝑉 の微分 𝛿⁢𝑆𝐸⁢𝑉≐1𝑇𝐸⁢𝑉⁢(𝛿⁢𝐸+𝑃𝐸⁢𝑉⁢𝛿⁢𝑉) より 𝑇𝐸⁢𝑉=1𝑆˙𝐸⁢𝑉 である。

逆温度 𝛽 (式(6))との関係式は 𝛽≡˙Ω𝐸Ω𝐸=1𝑘⁢𝜕𝜕𝐸⁢𝑘⁢log⁡Ω𝐸=1𝑘⁢𝑆˙𝐸⁢𝑉=1𝑘⁢𝑇(11) となる。

3.2示量性を持つ量を作る

エントロピーの粒子数 𝑁 に対する依存性を決めるたい。 𝑁 は体積 𝑉 のようなハミルトニアンのパラメータではないので別途考える必要がある。 熱力学では示量性を持つように 𝑁 の依存性を定義できたので、それに合わせたい。

この節では、実際に状態数 Ω𝐸⁢𝑉 から、総加性だけでなく示量性を持つ量 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁 (式(12))が作れることを示す。これが、求めたかったエントロピーの表式である。

3.2.1エントロピー 𝑆 に示量性を持たせる:式(12)

示量性を持つように定義できることを期待して、容器を仮想的に2つに分け、各々の部屋からの状態数 Ω への寄与を考える。ただし、ハミルトニアン 𝐻 には粒子交換の対称性がある、即ち、 (𝒙𝑖,𝒑𝑖) と (𝒙𝑗,𝒑𝑗) を入れ替えた時にハミルトニアンは変化しないとする。これは流体の場合は正しい。固体のように粒子位置が固定されている場合には、この対称性は持たないがこれは後で議論する。固相と液相を1つのハミルトニアンで表すこともできるはずだが、そのようなハミルトニアンを選べば、固相でも粒子交換の対称性を持つ(一旦液体にしてから再び固体にすれば原子位置が入れ替わる)。

容器を仮想的に 𝑉1,𝑉2 に分割する。 𝑖 番目の粒子における 𝑉1,𝑉2 の指示関数をそれぞれ 𝜃(1)𝑖,𝜃(2)𝑖 とおく。全体の状態数 Ω𝐸 は Ω𝐸≡∫𝐻≤𝐸1⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣1を𝑛∏𝑖=1(𝜃(1)𝑖+𝜃(2)𝑖)で置き換えてよい。=∫𝐻≤𝐸𝑛∏𝑖=1(𝜃(1)𝑖+𝜃(2)𝑖)⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣積を展開し、ハミルトニアンの粒子交換の対称性を使って番号が小さい粒子が𝑉1に入るようにする=𝑁1+𝑁2=𝑁∑𝑁1,𝑁2𝑁!𝑁1!𝑁2!⁢∫𝐻≤𝐸𝜃(1)1⋯𝜃(1)𝑁1⁢𝜃(2)1⋯𝜃(2)𝑁2⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣𝑁1,𝑁2は特定の値を持つところ𝑁∗1,𝑁∗2に鋭いピークを持つ。ピークは幅を持つが、𝑘⁢log⁡を作用させれば無視できる程度。≈𝑁!𝑁∗1!𝑁∗2!⁢∫𝐻≤𝐸𝜃(1)1⋯𝜃(1)𝑁∗1⁢𝜃(2)1⋯𝜃(2)𝑁∗2⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣仮想境界に沿って容器を分離すれば前節と同様に、各部屋の状態数の積になる≈𝑁!𝑁∗1!𝑁∗2!⁢(∫𝐻1≤𝐸∗1𝜃(1)1⋯𝜃(1)𝑁∗1)⁢(∫𝐻2≤𝐸∗2𝜃(2)1⋯𝜃(2)𝑁∗2)=𝑁!𝑁∗1!𝑁∗2!⁢(∫𝐻1≤𝐸∗11)⏟__⏟__⏟Ω𝐸∗1⁢(∫𝐻2≤𝐸∗21)⏟__⏟__⏟Ω𝐸∗2=𝑁!Ω𝐸∗1𝑁1!⁢Ω𝐸∗2𝑁2!

よって、部分形のエントロピーを 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁=𝑘⁢log⁡Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁𝑁! と定義すれば、全エントロピーは、部分形のエントロピーの和になる。一方、 𝐻 が粒子交換の対称性を持たない場合は、指示関数 𝜃(1)𝑖,𝜃(2)𝑖 の一方しか効いてこないので組み合わせを考える必要がなく、分母の 𝑁! は必要ない。

以上により、状態数から総加性と示量性を持つ量 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁={𝑘⁢log⁡Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁𝑁!ハミルトニアンが粒子交換対称性を持つ場合𝑘⁢log⁡Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁〃を持たない場合(12) を作ることができた。この再定義では 𝑁 の関数を足しただけなので、総加性には影響していない。これが求めたかった、統計力学的に見たエントロピーの定義式である。この式(12)もボルツマンの原理という(こちらが普通)。また、 𝑁! の補正のことを、ギブスの修正因子という。

単原子理想気体の場合、エントロピーは以下の【3.2-注1】のようになる。

【3.2-注1】単原子理想気体のエントロピー

単原子分子の理想気体のエントロピーは 𝑆𝐸⁢𝑉⁢𝑁=𝑁⁢𝑘⁢log⁡[𝑉𝑁⁢(4⁢𝜋⁢𝑚⁢𝐸3⁢𝑁)3/2]+52⁢𝑁⁢𝑘 である。

導出

第1章の1.2節で求めたように、状態数 Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁 は

Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁=(2⁢𝜋⁢𝑚)3⁢𝑁/2(3⁢𝑁/2)!⁢𝐸3⁢𝑁/2⁢𝑉𝑁 である。エントロピーを与える式(12)の第1式に代入すると 𝑆𝐸,𝑉=𝑘⁢log⁡Ω𝐸⁢𝑉⁢𝑁𝑁!=𝑘⁢log⁡(2⁢𝜋⁢𝑚⁢𝐸)3⁢𝑁/2(3⁢𝑁/2)!⁢𝑉𝑁𝑁!⁢⁢∣ ∣ ∣ ∣ ∣ ∣以下のスターリングの近似公式【3.2-注2】よりlog⁡𝑉𝑁𝑁!≈𝑁⁢log⁡𝑉𝑁+𝑁log⁡(2⁢𝜋⁢𝑚⁢𝐸)3⁢𝑁/2(3⁢𝑁/2)!≈32⁢𝑁⁢log⁡2⁢𝜋⁢𝑚⁢𝐸3⁢𝑁/2+32⁢𝑁≅𝑁⁢𝑘⁢log⁡[𝑉𝑁⁢(4⁢𝜋⁢𝑚⁢𝐸3⁢𝑁)3/2]+52⁢𝑁⁢𝑘 よって、与式が得られた。ここでは、等号ではなく近似で表しているが、実用上は等号としてよい。 ◼

【3.2-注2】スターリングの近似公式

階乗 𝑁! の対数について、以下が成り立つ:( 𝑁≥1 ) log⁡𝑁!≈log⁡𝑁𝑁−𝑁(誤差は1+log⁡𝑁以下) (例えば、 𝑁=1023 とすると、上式の右辺は 1023 より大きな値になるが、誤差は 50 程度と非常に小さい。)

導出

まず、 log⁡𝑁! を展開する: log⁡𝑁!=log⁡1+log⁡2+log⁡3+⋯+log⁡𝑁 これを見ると、 𝑁≥2 として上式を連続関数 log⁡𝑥 の積分で挟み撃ちにできることが分かる: ∫𝑁𝑥=1log⁡𝑥≤log⁡𝑁!≤∫𝑁+1𝑥=2log⁡𝑥 この積分は、公式 log⁡𝑥=𝑑𝑑⁢𝑥⁢(𝑥⁢log⁡𝑥−𝑥) を代入すれば実行でき、以下を得る: log⁡𝑁𝑁−𝑁≤log⁡𝑁!≤log⁡𝑁𝑁−𝑁+Δ𝑁Δ𝑁≡−𝑁⁢log⁡𝑁+(𝑁+1)⁢log⁡(𝑁+1)−log⁡4+1(13) ( Δ1=1 なので、式(13)は 𝑁=1 の時にも成り立つ。)

後は、誤差に対応する Δ𝑁 が Δ𝑁≤1+log⁡𝑁 を満たすことを言えばよい。 𝑁=1 の時に等号が成立するので、両辺の微分 log⁡(𝑁+1)−log⁡𝑁≤1𝑁 が成り立つことを言えばよい。これが成り立つことは、 𝑁→∞ で等号が成り立つこと及び、右辺の微分のほうが小さいことから分かる(右辺が上から左辺に漸近する)。 ◼