重力理論編 第4章

重力は時空の曲率

重力があると、リーマン曲率 が値を持つ。重力がなければ、

重力が存在するかどうかを決める方法が知りたい

重力の有無や強さを判断するような量が欲しい。第2章で見たように、重力が測定結果に現れるのは、計量を通してである。よって、重力場を知るためには計量を測定することになる。無重力時空であれば、計量 としてミンコフスキー計量 を取ることができる。これをミンコフスキー座標系という。しかし、計量は、座標変換 によって のように変換する。そのため、例え重力がない場合であっても、 は、座標系の取り方によって とは異なる複雑な値を取り得る。要するに、計量には、重力の影響だけでなく、座標系の取り方の影響も含まれるわけである。もし、重力の影響だけを取り出すことができれば、重力場を支配する方程式を求める際に都合がよいだろう。

よって知りたいのは、座標系の取り方によらず、与えられた から、重力部分だけを取り出す方法である。例えば、あるテンソル が存在して、 の時には となるミンコフスキー座標系が存在し、 の時にはそのような座標系は存在しない、という性質が成り立てば、その が重力の情報を持つはずである。

4.1リーマン曲率

以降では、ベクトルの平行移動を単に平行移動という。

平行移動と座標変換は可換である→無重力時空では平行移動が経路によらない

前章で述べた様に、平行移動は幾何学的な操作である。これは、平行移動が座標系によらない量であることを意味している。別の言い方をすると、平行移動と座標変換は可換である。即ち、「ベクトル をある座標系 において平行移動した後、別の座標系 に座標変換したもの」と「 に座標変換してから同じ経路に沿って平行移動したもの」は同じ結果になる。

これは重要な性質である。特に、無重力時空では、ミンコフスキー座標系を取っておけば、ベクトルの平行移動は成分をそのまま単純に保つので、平行移動は経路によらない。これを、「平行移動と座標変換の可換性」に適用すると、無重力時空では、「平行移動が経路によらない」という性質が、ミンコフスキー座標系によらず任意の座標系で成り立つことが分かる(平衡移動の始点 と終点 を固定すれば、途中の経路にはよらない)

平行移動が経路によらないための条件:式()

そこで、平行移動が経路によらないための条件が知りたい。

【3.1-注1】平行移動が経路によらないための条件

平行移動が経路によらないための必要十分条件は、以下のリーマン曲率 がいたる所 になることである:

証明

まず、ベクトル をある経路 に沿って平行移動していく。パラメータ を取ると、平行移動の定義により以下のようになる: 力学編第15章で述べたポテンシャルの存在条件の場合と同様に、変分を取ることを考える。変分 (始点を固定)を考え、その経路上の点を とすると、 の変化 は、以下のようになる: ここで、 は、定義により、 にある変分後の を、 に平行移動して、変分前のものとの差を取ったものに等しい の1次近似で)。よって、もし、平行移動が経路に依存しないのであれば、 や経路の取り方によらず)常に となる。この時、式()より (=式())が成り立つことが分かる。逆に、式()が成り立てば、式()は となるが、初期条件は なので、この微分方程式の解は となる。ここで、端点を固定した変分考えれば、 となり、平行移動後のベクトルが変化しないことが分かる。

【3.1-注2】リーマン曲率テンソルの自由度は20

リーマン曲率テンソル の成分数は であるが、独立な成分はそのうち20である。

となる点では、無重力

逆に、ある時空上で、平行移動が経路によらないという性質が常に成り立つならば、ミンコフスキー座標系を取れることも分かる(以下の【3.1-注3】)

従って、無重力であるための必要十分条件は、「平行移動が経路によらない」、即ち、 である。

【3.1-注3】時空が平坦であるための条件

時空上の4次元単連結領域 が平坦であるための必要十分条件は、 上で が成り立つことである。ただし、 が平坦であるとは、 上にミンコフスキー座標が取れることを言う。

証明

まず、平坦⇒式()を示す。 が平坦である時、ミンコフスキー座標を取れば、式()が成り立つ。さらに、 はテンソルとして変換するので、任意の座標系で式()が成り立つことになる。

次に、式()⇒平坦を示す。ある点において、4つのベクトル となるようにとる。式()が成り立つことを仮定しているので、ベクトルの平行移動は経路によらない。よって、 をそれぞれ平行移動していくことによって、4つのベクトル場作ることができる。この時、平行移動は内積を保つことにより、式()は任意の点で成り立つことになる。後は、 の添え字を下げて得られる4つの1-形式 に対し、それぞれのポテンシャルとなるような 、即ち、 となるような が構成できれば、それがミンコフスキー座標になる。これは可能である。なぜなら、平行移動の定義により の微分は となるが、 であることから、 となり可積分条件(スカラーポテンシャルの存在条件)を満たすからである。