等価原理から重力場の理論を探る
重力場の時間発展を計算したい。天体が移動すると、それに付随して周辺の重力場も変化する。その際、電磁場がそうであったように、離れた場所では、天体の運動による変化が遅れて伝わるはずである。従って、重力場がどのように時間発展し伝播するかを記述する方程式が存在するはずである(電磁場におけるマクスウェル方程式のようなもの)。これを知りたい。(前章では暗黙的に、重力場の変化が天体の運動に連動して瞬間的に伝わると仮定していた。)
電磁力学編では、時間変化する電磁場の法則を求めるために、静電磁場の方程式をローレンツ変換することを考えた。ということは、重力の場合も、前章で述べたニュートンの重力法則をローレンツ変換すれば、重力場の時間発展を記述する法則が得られるだろうか。確かに、ニュートンの重力法則は逆2乗則の形をしており、これは静電場のクーロンの法則と同じ形である。
しかし、重力に特有の問題がある。相対論によると、物体の速度が大きいほど、その物体は加速度を受けにくくなるのであった。これは、重力の特徴であるガリレイの等価原理(=重力加速度は全ての物体で等しい)に反することになる。どちらが正しいのだろうか。これは実験的に確かめるべきことではあるが、ここでは、ガリレイの等価原理が、相対論的にも成り立つことを認めることにする。
この章では、ガリレイの等価原理から出発して、それを拡張することで、議論を進めることにする:
2.1:局所慣性系→一般座標変換→重力場中の運動方程式2.2:運動方程式とマクスウェル方程式の一般座標変換2.2:クリストッフェル記号Γ∘∘∘は、計量テンソル𝑔∘∘から決まる
2.1局所慣性系→座標変換→重力場中の運動方程式
自転せずに自由落下する系は慣性系である。
2.1.1アインシュタインの等価原理:自転せずに自由落下する系は慣性系
力学編第1章で述べたガリレイの等価原理によると、重力加速度は、全ての物体で等しいのであった。しかし、電磁力学編での議論の後で考え直してみると、ガリレイの等価原理が成り立たないのではないかと考えられる点が、2つある:
- 相対論によると、運動している物体は、加速度しづらくなる。従って例えば、回転している物体は、そうでない場合に比べてゆっくり落ちるのではないか。特に、光速に近い速度を持つ物体がガリレイの等価原理に従って落下すると、光速を超えてしまうので、相対論的力学と矛盾する。
- 電荷をもっている物体は、自己力(電磁波の放射の反作用など)のため、加速しづらくなる。従って、帯電している物体は、そうでない場合に比べてゆっくり落ちるのではないか。
たとえ落ち方が異なっていても、その違いはほんのわずかであり測定は難しい、しかし、理論的には、どちらが正しいか白黒つけなければならない。ここでは、ガリレイの等価原理が、上記の場合にも成り立つことを認めることにする(もちろん実験で示すべきことである)。
そうすると、回転している物体にはより大きな重力が働くことになる。質量はエネルギーと相互に変換しうるものなので、重力が運動エネルギー(や運動量)に依存することは、相対論的には自然ではある。
一方、帯電した物体の場合はどうか。自己力は、物体の質量には依存しない。電磁場もエネルギーや運動量を持つのだから、電磁場も重力の影響を受ける(逆に、重力の源にもなる)と考えるのが自然である。そうすると、ガリレイの等価原理により帯電した物体の重力加速度が変わらないことを認めれば、その原因は、電磁場が物体とともに「落下」するためとみなせるのではないか。そうすれば、そもそも自己力が発生しないということになる。これも認めることにしよう。
以上により、全ての物体および電磁場は、重力による引き寄せられ方に差がないということになる。ということは、自由落下している観測者からは、重力が認識できない、即ち、慣性系とみなせると考えられる。これを、アインシュタインの等価原理という。例えば、宇宙ステーションにいると(地球の重力下にあるにもかかわらず)無重力のように感じられるのは、このためである。宇宙ステーションは自由落下しているのである。
2.1.2一般の観測者については、局所慣性系から座標変換すればよい
アインシュタインの等価原理により、自由落下している観測者
𝐾′
は慣性系となるので、
𝐾′
から見た物体や電磁場の時間変化は、電磁力学編で述べたものに一致する。よって、自由落下していない一般の観測者
𝐾
から見た場合の運動方程式は、それらを座標変換することによって得られるはずである。(これは、電磁力学編の第7章で、相対論的運動方程式を導出するために、瞬間静止系からのローレンツ変換を考えたのと似ている。)
ただし、重力場が空間的に変化している場合(つまりほとんどの場合)、
𝐾′
はあくまで観測者の周辺でしか成り立たない。例えば、北極と南極では重力加速度の方向が違うのだから、同じ系で扱うことはできない。従って、慣性系になるといっても、局所的なものであり、1次近似の範囲で成り立つということである。十分小さな領域の中でだけ慣性系とみなせる。これを局所慣性系という。
局所慣性系でない一般の座標系を、一般座標系という。例えば、地上であれば、自由落下する座標系
𝐾′
よりも、地上に静止した座標系
𝐾
を取るほうが自然だろう。自由落下系
𝐾′
は、慣性系と同じ法則が成り立つが、静止系
𝐾
系では成り立たない。しかし、2つの座標系は座標の取り方が異なるだけなので、座標変換で結びついている。よって、
𝐾
系での運動方程式は、
𝐾′
でのものを座標変換したものになる。
2.2運動方程式とマクスウェル方程式の座標変換
この節では、実際に座標変換を行って、相対論的運動方程式の変換則()とマクスウェル方程式の変換則()を求める。あらゆる一般座標系を考えると、その中には、物理的でない座標系も存在するが、とりあえず限定せずに議論を行う。
記法は電磁力学編の第11章のものを使う。局所慣性系
𝐾′
での座標を
𝑥∘′
、一般座標系
𝐾
での座標を
𝑥∘
と表す:
⎡⎢
⎢
⎢
⎢⎣𝑥0𝑥1𝑥2𝑥3⎤⎥
⎥
⎥
⎥⎦=⎡⎢
⎢
⎢
⎢⎣𝑡𝑥𝑦𝑧⎤⎥
⎥
⎥
⎥⎦
一般座標変換のヤコビ行列を
Λ
で表す:
Λ∘′∘=𝜕𝑥∘′𝜕𝑥∘Λ∘′𝜇𝜈=𝜕𝜕𝑥𝜈𝜕𝜕𝑥𝜇𝑥∘′
計量テンソルの変換則は
𝑔∘∘=𝑔∙′∙′Λ∙′∘Λ∙′∘
であり、局所慣性系では
𝑔∘′∘′≈𝜂∘′∘′=[1−𝑐−2]
となる。また、縮約の約束事として、同じ座標同士に限るとする。例えば、
𝐴∙𝐵∙
や
𝐴∙′𝐵∙′
の場合は縮約するが、
𝐴∙𝐵∙′
の場合は縮約しない。
2.2.1一般座標系での相対論的運動方程式:式(1)
電磁場中での相対論的運動方程式は以下である(電磁力学編の第7章):
𝑑𝑑𝑡𝑚√1−𝑐−2|˙𝒙|2[1˙𝒙]=𝑞[0𝑐−2𝑬T𝑬−𝑩×]⏟__⏟__⏟𝐹∘∘[1˙𝒙]
これを書きなおすと、局所慣性系
𝐾′
の量なので「
′
」を付けて
𝑚𝑑𝑑𝜏𝑢∘′=𝑞𝐹∘′∙′𝑢∙′
となる。
この運動方程式を満たす運動を、一般座標系
𝐾
から観測するとどうなるか。
𝑚𝑑𝑑𝜏𝑢∘′=𝑞𝐹∘′∙′𝑢∙′𝑚𝑑𝑑𝜏Λ∘′∙𝑢∙=𝑞𝐹∘′∙′Λ∙′∙𝑢∙𝑚[Λ∘′∙(𝑑𝑑𝜏𝑢∙)+(𝑑𝑑𝜏Λ∘′∙)𝑢∙]=𝑞𝐹∘′∙′Λ∙′∙𝑢∙𝑚[𝑑𝑑𝜏𝑢∘+Λ∘∙′Λ∙′∙∙⏟Γ∘∙∙𝑢∙𝑢∙]=𝑞Λ∘∙′𝐹∙′∙′Λ∙′∙⏟__⏟__⏟𝐹∘∙𝑢∙𝑚[𝑑𝑑𝜏𝑢∘+Γ∘∙∙𝑢∙𝑢∙]=𝑞𝐹∘∙𝑢∙(1)
これが一般座標系での運動方程式である。赤字部分:
Γ∘∘∘≡Λ∘∙′Λ∙′∘∘
をクリストッフェル記号という。
重力場中での運動方程式は、式(1)となる。重力場の影響は、クリストッフェル記号
Γ∘∘∘
と、四元運動量に含まれる計量テンソル
𝑔∘∘
に含まれることになる。ただし、これらには、重力だけでなく座標の取り方の影響も含まれている。例えば、回転している座標系では、重力がない場合でも
Γ∘∘∘≠0
であり、
Γ∘∘∘
を含む項は遠心力やコリオリ力を表す。
【2.2-注1】四元速度 𝑢∘′ の一般座標変換
四元速度の一般座標変換
𝑢∘′↦𝑢∘
は、以下のようになる:
𝑢∘=Λ∘∙′𝑢∙′
ただし、一般座標系での
𝑢∘
は、計量テンソル
𝑔∘∘
を用いて以下のように定義される:
𝑢∘=𝛾˙𝑥∘𝛾≡1√𝑔∙∙˙𝑥∙˙𝑥∙
導出
物体の世界線上の微小変位ベクトルの変換式
𝛿𝑥∘≐Λ∘∙′𝛿𝑥∙′∴˙𝑥∘𝛿𝑡≐Λ∘∙′˙𝑥∘′𝛿𝑡′
の
𝛿𝑡′
を
√𝑔∙∙˙𝑥∙˙𝑥∙𝛿𝑡≐√𝑔∙′∙′˙𝑥∙′˙𝑥∙′𝛿𝑡′∴1𝛾𝛿𝑡≐1𝛾′𝛿𝑡′
を使って消去すればよい。
2.2.2一般座標系でのマクスウェル方程式:式(4)、式(5)
マクスウェル方程式
[𝜕𝑡∇T][0−𝑬T𝑬𝑐2𝑩×]=𝜖−10[𝜌𝒋T][𝜕𝑡∇T][0𝑩T−𝑩𝑬×]=[0𝟎T]
をを書き換えておく。電磁テンソル
𝐹∘∘≡𝐹∘∙𝜂∙∘(⋆𝐹)∘∘=𝑐−42𝜂∘∙𝜂∘∙𝜖∙∙∙∙𝐹∙∙
を用いると、局所慣性系
𝐾′
の量なので「
′
」を付けて、マクスウェル方程式は以下のようになる:
𝐹∙′∘′,∙′=(𝜖′0)−1𝑗∘′(⋆𝐹)∙′∘′,∙′=0(2)(3)
これの一般座標変換を求める。
𝐹∘∘
の座標変換は
𝐹∘′∘′=𝐹∘′∙′⋅𝜂∙′∘′=Λ∘′∙′𝐹∙∙′Λ∙∙′⋅Λ∙′∙′𝑔∙∙Λ∘′∙′=Λ∘′∙Λ∘′∙𝐹∙∙𝐹∙′∘′,∙′=Λ𝛼∙′𝜕𝛼(Λ∙′∙′Λ∘′∙′𝐹∙∙)=Λ𝛼∙′(Λ∙′∙𝛼Λ∘′∙𝐹∙∙+Λ∙′∙Λ∘′∙𝛼𝐹∙∙+Λ∙′∙Λ∘′∙𝐹∙∙,𝛼)=(Λ𝛼∙′Λ∙′∙𝛼𝐹∙∙+𝐹𝛼∙Λ∙′∙𝛼Λ∘∙′+𝐹𝛼∙,𝛼)Λ∘′∙=(Γ𝛼∙𝛼𝐹∙∙+𝐹𝛼∙Γ∙∙𝛼+𝐹𝛼∙,𝛼)Λ∘′∙=𝐹∙∙;∙Λ∘′∙
ただし、
𝐹∘∘;∘
は
𝐹∘∘;∘≡𝐹∘∘,∘+Γ∘∙∘𝐹∙∘+𝐹∘∙Γ∘∙∘
であり、
𝐹∘∘
の共変微分という。
𝑗∘
の変換則は、電磁力学編の第5章で述べた様に
𝑗∘=1|detΛ|Λ∘∙′𝑗∙′
である。よって、式(2)の変換則は、以下のようになる:
𝐹∙∘;∙=𝜖0−1𝑗∘𝜖0≡1|detΛ|𝜖′0(4)
一方、式(3)の左辺は
(⋆𝐹)∘′∘′=𝑐−42𝜂∘′∙′𝜂∘′∙′𝜖∙′∙′∙′∙′𝐹∙′∙′=𝑐−42(𝑔∙∙Λ∘′∙Λ∙′∙)(𝑔∙∙Λ∘′∙Λ∙′∙)𝜖∙′∙′∙′∙′Λ∙′∙Λ∙′∙𝐹∙∙=𝑐−42|Λ|𝑔∙𝛼Λ∘′∙𝑔∙𝛽Λ∘′∙𝜖𝛼𝛽∙∙𝐹∙∙=|Λ|(⋆𝐹)∙∙Λ∘′∙Λ∘′∙
よって結局、式(3)は、以下のようになる:
(⋆𝐹)∙∘,∙=0(5)
一般座標系
𝐾
でのマクスウェル方程式を確定させるためには、相対論的運動方程式の場合と同様、クリストッフェル記号と計量テンソルが分かればよいことになる。
2.3クリストッフェル記号 Γ∘∘∘ は、計量テンソル 𝑔∘∘ から決まる
この節では、
Γ∘∘∘
が、
𝑔∘∘
からによって決まることを見る(式(6))。また、
𝑔∘∘
の測定方法についても述べる。
2.3.1 Γ∘∘∘ は 𝑔∘∘ から決まる:式(6)
クリストッフェル記号
Γ∘∘∘
と計量テンソル
𝑔∘∘
は、局所慣性系
𝐾′
からの一般座標変換によって以下のように定義されたのであった:
Γ𝜎𝜇𝜈=Λ𝜎∙Λ∙𝜇𝜈𝑔𝜇𝜈=Λ∙′𝜇Λ∙′𝜈𝜂∙′∙′
上述のように、クリストッフェル記号
Γ∘∘∘
と計量テンソル
𝑔∘∘
を実験的に求めれば、重力場が決まる。両方の量を決めなければ重力場が決まらないのだろうか。
実は、
𝑔∘∘
が分かれば、その値を用いて
Γ∘∘∘
も一意的に決まるのである。実際、以下の【2.3-注1】のようになる。よって、重力場の情報は計量テンソル
𝑔∘∘
にすべて含まれることになる。
従って、重力場の時間発展などを記述する方程式があるとすれば、それは、
𝑔∘∘
に対する方程式となるはずである。そのような重力場の方程式の導出は、次章以降の主題となる。
【2.3-注1】 Γ∘∘∘ は 𝑔∘∘ から求められる
クリストッフェル記号
Γ∘∘∘
は、計量テンソル
𝑔∘∘
を用いて、以下のように書ける:
Γ𝜎𝜈𝜇=12𝑔𝜎∙(𝑔∙𝜈,𝜇+𝑔∙𝜇,𝜈−𝑔𝜈𝜇,∙)(6)
ただし、
𝑔∘∘
は
𝑔∘∘
の逆行列。
証明
代入するだけである。実際
𝑔∘𝜈,𝜇=Λ∙′∘𝜇Λ∙′𝜈𝜂∙′∙′+Λ∙′∘Λ∙′𝜈𝜇𝜂∙′∙′𝑔∘𝜇,𝜈=Λ∙′∘𝜈Λ∙′𝜇𝜂∙′∙′+Λ∙′∘Λ∙′𝜇𝜈𝜂∙′∙′−𝑔𝜈𝜇,∘=−Λ∙′𝜈∘Λ∙′𝜇𝜂∙′∙′−Λ∙′𝜈Λ∙′𝜇∘𝜂∙′∙′
を、式(6)の右辺に代入すると
(右辺)=12𝑔𝜎∙(𝑔∙𝜈,𝜇+𝑔∙𝜇,𝜈−𝑔𝜈𝜇,∙)=𝑔𝜎∙Λ∙′∙Λ∙′𝜇𝜈𝜂∙′∙′=𝑔𝜎∙Λ∙′∙Λ∙′𝜇𝜈(Λ∙∙′Λ∙∙′𝑔∙∙)=Λ∙′𝜇𝜈Λ𝜎∙′=(左辺)◼
2.3.2座標の取り方と計量の測定
これまで本当に一般的な座標を考えてきたが、実際には物理的に自然な座標系を取ることになる。座標系を決めるには、仮想的に、空間中を無数の時計で埋め尽くせばよい。各々の時計には適当な空間座標の値
(𝑥,𝑦,𝑧)
が割り振られている。
(𝑡,𝑥,𝑦,𝑧)
の値は連続的に変化するようにする。
使用する時計は全て「同じ」ものであるとする。ただし、「同じ」というのは、同期しているという意味ではなく、同じように作られているという意味である。別の言い方をすれば、「同じところに置いて静止させると、同じように時間が進む」ということである。(ただし、時計の進み方を場所によって調節するほうが扱う安くなる場合もある。例えば、後の章で扱うが、計量が時間に依存しないようにするといった場合である。)
この座標系を使って物体の運動を測るには次のようにする。ある時計を物体が通過したら、その時計は、自身の
(𝑡,𝑥,𝑦,𝑧)
を報告する。こうして報告されたデータを集めて解析すれば、物体がどのように運動したかが分かることになる。そうすれば、四元速度と四元加速度が求まる。
次は計量テンソルの測定である。上記の座標の取り方を採用すれば、
𝑔00=1
となる。後は、
𝑔∘∘
を知りたい点で、光を放てばよい。
𝛿𝑡
後の光円錐の断面を
𝑆
とおくと、
𝑆
上の任意の点
𝛿𝑥∘
において
√𝑔∙∙𝛿𝑥∙𝛿𝑥∙≐0(7)
を満たすので、
𝛿𝑥∘
の測定から
𝑔∘∘
の残りの成分が全て決まる。式(7)は楕円体の方程式なので、
𝑆
は楕円体であり、
𝑔𝑖𝑗
は
𝑆
の形状を表し、
𝑔𝑖0
は
𝑆
の位置のずれを表すことになる。