重力理論編 第3章

等価原理の整合性

任意の計量テンソル場 𝑔∘∘ に対し、アインシュタインの等価原理が成り立つ。

等価原理は、計量テンソル場 𝑔∘∘ に条件を課さない

任意の計量 𝑔∘∘ のもとで、(アインシュタインの)等価原理が成り立つだろうか。前章では、等価原理が成り立つならば、重力場の完全な情報が 𝑔∘∘ に含まれることを見た。この逆が言えるか、ということである。もし、等価原理が成立するために何らかの条件が 𝑔∘∘ に課されるのであれば、重力の法則を導出するためにはそれを知っておく必要があるだろう。

結論から言うと、等価原理は、 𝑔∘∘ に対して条件を課すことはない。この章では、これを示す。

話の流れを簡単に述べておこう。まず、ある点の近傍で局所慣性系が常に存在することを見る。局所慣性系とは、ある点 𝑃 の近傍において局所的にミンコフスキー計量 𝜂∘∘ とみなせる座標系であった。数学的に言えば、 𝑃 の近傍で 𝑔∘∘ を1次近似した時に、 𝑔∘∘≐𝜂∘∘ が成り立つということである。即ち、 𝑃 において、以下が成り立てばよい: 𝑔∘∘=𝜂∘∘𝑔∘∘,∘=0 3.1節において、任意の1点 𝑃 において、これを満たすような座標系が取れることを示す。

次に、等価原理が成り立つこと、即ち、局所慣性系を自由落下させると、それに沿って局所慣性系が取れることを示す。そのためには、自由落下の運動方程式である(重力以外の外力が存在しない場合の)測地線方程式に沿って、局所慣性系を移動させればよい。

この章では、上記をそれぞれ2つの節に分けて議論する: 3.1:局所慣性系は常に存在する3.2:任意の計量のもとで、等価原理が成立する

3.1局所慣性系は常に存在する

証明を、以下の【3.1-注1】で与える。

【3.1-注1】局所慣性系は常に存在する

時空上の任意の1点 𝑃 の近傍において、1次の範囲でミンコフスキー座標系が取れる。即ち、 𝑃 において 𝑔∘∘=𝜂∘∘𝑔∘∘,∘=0(1)(2) が成り立つような座標系が存在する。

証明

証明するには、式(2)の存在だけを示せば十分である。なぜなら、式(2)が成り立てば、1次近似の範囲で計量 𝑔∘∘ が定数になるわけだが、それをさらに1次変換すれば、点 𝑃 において式(1)を成立させることができるからである。

次に、式(2)は、クリストッフェル記号がゼロ Γ∘⁢∘∘=0(3) という条件と等価である(以下の【3.1-注2】)。(式(3)が成り立てば、測地線方程式の慣性力部分が消えるので、直線座標になることは直感的にも自然である。)よって結局、式(3)を満たす座標系の存在を示せばよい。そのような座標系を実際に構成することができる。実際、あらかじめ定義されている座標系 𝑥∘ に対し、次のような 𝑥∘′ : 𝑥∘′=𝑥∘+12⁢Γ∘⁢∙∙⁢(𝑥−𝑥𝑃)∙⁢(𝑥−𝑥𝑃)∙(4) をとればよい Γ,𝑥𝑃 は定数であり、点 𝑃 での値)。実際、クリストッフェル記号の変換則:(以下の【3.1-注3】) Γ∘′⁢∘′∘′=Λ∘′∙⁢Γ∙⁢∙∙⁢Λ∙∘′⁢Λ∙∘′+Λ∘′∙⁢Λ∙∘′∘′ に、点 𝑃 における式(4)の微分: Λ∘′∘=1Λ∘∘′∘′=(Λ∘∘′),∘′=[(Λ∘′∘)−1],∘′=([𝛿∘′∘+Γ∘⁢∙∘⁢(𝑥−𝑥𝑃)∙]−1),∘=−[𝛿∘′∘+0]−1⁢(0+Γ∘⁢∘∘)⁢[𝛿∘′∘+0]−1=−Γ∘⁢∘∘ を代入すれば、 Γ∘′⁢∘′∘′=0 となる。 ◼

【3.1-注2】計量の微分とクリストッフェル記号

計量の微分がゼロ 𝑔∘∘,∘=0 であることと、クリストッフェル記号がゼロ Γ∘⁢∘∘=0 であることとは、同値である。

証明

計量が定数ならば、定義により Γ∘⁢∘∘=0 である。後は、この逆を示せばよい。まず、クリストッフェル記号の定義:

Γ𝜇⁢𝜈⁢𝜎=12⁢𝑔𝜇∙⁡(𝑔∙𝜈,𝜎+𝑔∙𝜎,𝜈−𝑔𝜈⁢𝜎,∙) により、 Γ∘⁢∘∘=0 ならば、 (⋯)=0 である: 𝑔𝜇⁢𝜈,𝜎+𝑔𝜇⁢𝜎,𝜈−𝑔𝜈⁢𝜎,𝜇=0 これと、添え字を 𝜇↔𝜈 と取り換えたもの: 𝑔𝜈⁢𝜇,𝜎+𝑔𝜈⁢𝜎,𝜇−𝑔𝜇⁢𝜎,𝜈=0 を足し合わせると、計量の微分もゼロになることが分かる: 𝑔𝜈⁢𝜇,𝜎=0◼

【3.1-注3】クリストッフェル記号の座標変換

クリストッフェル記号の座標変換は Γ∘′⁢∘′∘′=Λ∘′∙⁢Γ∙⁢∙∙⁢Λ∙∘′⁢Λ∙∘′+Λ∘′∙⁢Λ∙∘′∘′ である。

証明

前章でクリストッフェル記号を定義する際、測地線方程式: ¨𝑥∘+Γ∘⁢∙∙⁢˙𝑥∙⁢˙𝑥∙=0 を用いたのであった。これを変数変換すると 0=(Λ∘∙′∙′⁢˙𝑥∙′⁢˙𝑥∙′+Λ∘∙′⁢¨𝑥∙′)+Γ∘⁢∙∙⁢Λ∙∙′⁢Λ∙∙′⁢˙𝑥∙′⁢˙𝑥∙′⁢⁢∣Λ∘′∙を掛けて縮約0=Λ∘′∙⁢Λ∙∙′∙′⁢˙𝑥∙′⁢˙𝑥∙′+¨𝑥∘′+Λ∘′∙⁢Γ∙⁢∙∙⁢Λ∙∙′⁢Λ∙∙′⁢˙𝑥∙′⁢˙𝑥∙′=¨𝑥∘′+(Λ∘′∙⁢Λ∙∙′∙′+Λ∘′∙⁢Γ∙⁢∙∙⁢Λ∙∙′⁢Λ∙∙′)⏟______⏟______⏟Γ∘′⁢∙′∙′⁢˙𝑥∙′⁢˙𝑥∙′

3.2任意の計量のもとで、等価原理が成立する

局所慣性系が常に取れることが分かった。後は、等価原理が数学的に整合することを言えばよい。

3.2.1自由落下はベクトルの平行移動である

まず、自由落下の運動方程式は、重力以外の力が存在しない場合の測地線方程式、即ち 𝑑⁢𝑢∘𝑑⁢𝜏=−Γ∘⁢∙∙⁢𝑢∙⁢𝑢∙(5) である。

次に、任意のベクトル 𝑉∘ の平行移動を以下のように定義する: 𝑉∘′≐𝑉∘−Γ∘⁢∙∙⁢𝑉∙⁢𝛿⁢𝑥∙(6) ただし、 ∘′ がついた量は平行移動後の点 𝒙+𝛿⁢𝒙 での値、 ∘ は 𝒙 での値である。これは、以下の【3.2-注1】のように、内積を保つという性質を持つ。特筆すべきことに、測地線方程式(5)は、四元速度 𝑢∘ を自身の方向に平行移動することに他ならない。実際、式(6)において、 𝑉∘ を 𝑢∘ に置き換え、 𝛿⁢𝑥∘≐𝑢∘⁢𝛿⁢𝜏 とすれば、式(5)になる。

【3.2-注1】平行移動は内積を保つ

ある点 𝒙 でのベクトル 𝑉∘ を、近傍の点 𝒙+𝛿⁢𝒙 に移動することを考える。以下のように移動することを、ベクトルの平行移動という: 𝑉∘′≐𝑉∘−Γ∘⁢∙∙⁢𝑉∙⁢𝛿⁢𝑥∙ ただし、 ∘′ がついた量は 𝒙+𝛿⁢𝒙 での値、 ∘ は 𝒙 での値である。

ベクトルの平行移動は、内積を保つ。即ち、任意のベクトル 𝑉∘,𝑈∘ に対し、以下が成り立つ 𝑉∙′⁢𝑈∙′⁢𝑔∙′∙′≐𝑉∙⁢𝑈∙⁢𝑔∙∙(7)

ミンコフスキー座標系の場合は Γ∘⁢∘∘=0 なので、平行移動しても成分は変化しない。

証明

式(7)の左辺は 𝑉∙′⁢𝑈∙′⁢𝑔∙′∙′≐(𝑉𝛼−𝑉∙⁢Γ𝛼⁢∙∙⁢𝛿⁢𝑥∙)⁢(𝑈𝛽−𝑈∙⁢Γ𝛽⁢∙∙⁢𝛿⁢𝑥∙)⁢(𝑔𝛼⁢𝛽+𝑔𝛼⁢𝛽,∙⁡𝛿⁢𝑥∙)≐𝑉∙⁢𝑈∙⁢𝑔∙∙+𝐾∙⁢𝛿⁢𝑥∙𝐾∘≡(−𝑉∙⁢Γ𝛼⁢∙∘⁢𝑈𝛽−𝑉𝛼⁢𝑈∙⁢Γ𝛽⁢∙∘)⁢𝑔𝛼⁢𝛽+𝑉𝛼⁢𝑈𝛽⁢𝑔𝛼⁢𝛽,∘=−(𝑉∙⁢𝑈∙+𝑈∙⁢𝑉∙)⁢Γ∙∙∘+𝑉∙⁢𝑈∙⁢𝑔∙∙,∘=0 最後の式がゼロになるのは、クリストッフェル記号を代入すれば分かる。例えば、 𝑉∙⁢𝑈∙⁢Γ∙∙∘ であれば、以下のようになる: Γ𝜇⁢𝜈⁢𝜎=𝑔𝜇∙⁡Γ∙⁢𝜈⁢𝜎=12⁢(𝑔𝜇⁢𝜈,𝜎+𝑔𝜇⁢𝜎,𝜈−𝑔𝜈⁢𝜎,𝜇)∴𝑉∙⁢𝑈∙⁢Γ∙∙∘=12⁢(𝑉∙⁢𝑈∙⁢𝑔∙∙,∘+𝑉∙⁢𝑈∙⁢𝑔∙∘,∙−𝑈∙⁢𝑉∙⁢𝑔∙∘,∙)

3.2.2自由落下する点の周辺は局所慣性系

前節では、任意の1点の周りで局所慣性座標系が取れることを見た。アインシュタインの等価原理が成り立つのであれば、自由落下する点の周辺で、局所慣性座標系が取れなければならない。この性質が、任意の計量テンソルのもとで成り立つことを示す。

【3.2-注2】アインシュタインの等価原理が成り立つ

アインシュタインの等価原理は、任意の計量テンソルのもとで成り立つ。即ち、測地線上の任意の点で、 Γ∘⁢∘∘=0(8) となるような局所座標系が存在する。

証明

(未)